アセンションへの道程 〜ある外科医のスピリチュアル〜

アセンションを目指したある1外科勤務医のヘミシンク体験とスピリチュアルおよびその周辺事項への探求をご紹介します

がん告知のあるべき姿 〜ある、がんセンターに紹介した末期胆嚢がん症例から〜


 最近、がんセンターに関わる不快な出来事があって、最近のことですので詳細は申し上げませんが、以前にもあった似たような出来事をご紹介して、当ブログにて過去にも取り上げた「がんの告知」について考えたいと思います。


◇ 60歳代 男性 末期胆嚢がん症例

 場所と時期については特定いたしません。関東圏には県立および国立のがんセンターが複数個ありますので、ここでの「がんセンター」とはその中の1つと言うことです。ある日の外来に以下の患者が受診されました。

1.患者プロフィール

60歳代 男性

初診時問診および所見

 主 訴:腹部膨満感
 現病歴:約1月前より腹部膨満を自覚しており、この数日で増強してきており、食事摂取も困難となったため来院した。体重の増減については不明。便通は良好。疼痛なし。
 既往歴:特記事項なし
 家族歴:特記事項なし
 現 症:眼瞼結膜に貧血なし、眼球結膜に横断なし。腹部全体は均一に膨満し、触診にて波動が認められることから腹水貯留が疑われた。腹満感はあるものの圧痛点は見られなかった。

検査データ

 末梢血:正常範囲内
 生化学:血漿蛋白正常、軽度の肝機能障害、ALP異常高値、電解質・腎機能正常、炎症反応なし、CA19-9(腫瘍マーカー)異常高値

画像診断

 超音波:腹部エコーでは大量の腹水貯留と肝内に大小複数の低エコーを示す腫瘍性病変が認められた。肝内胆管の拡張なし。胆嚢壁のびまん性肥厚が認められ、ドップラーエコーで豊富な血流が考えられた。胆嚢結石はなし。肝十二指腸間膜にリンパ節腫大を示唆する低エコー腫瘤が散見された。膵、脾、腎に異常所見なし。
 腹CT:腹腔内に大量の腹水貯留が認められた。肝両葉に転移性腫瘍を疑う大小多数の腫瘍性病変が認められた。肝内胆管の拡張なし。胆嚢は萎縮して全体に壁肥厚が見られ、強く造影された。肝十二指腸間膜にリンパ節腫大を示唆する腫瘤性病変が散見された。大網および腸間膜に細かい結節性病変が無数に認められた。膵、脾、腎に異常所見なし。
 GIF:胃内視鏡では食道裂孔ヘルニア、慢性萎縮性胃炎の所見のみ。
 TCF:大腸内視鏡では小ポリープが数個見られるのみ。

腹水細胞診

 エコーガイド下に行った腹水穿刺にてclass V(悪性), adenocaricinoma(腺がん)を強く疑う。

2.本人家族への説明

 上の臨床所見からは、がん性腹膜炎状態は確定で、病理診断には至らぬものの、画像からは多発性肝転移を伴う胆嚢がんであり、すでにStage IVbの末期状態であることは明白でありました。一連の検査が終了したところで、本人、家族(奥さん)を前にして、画像を供覧しながら、胆嚢腫瘍(悪性)が強く疑われ、その腫瘍細胞が肝内に複数個転移しており、また腹腔内に拡がっており(腹膜播種)、それに伴う多量の腹水貯留があります、とご説明申し上げました。
 黙って聞いていた患者は、「そうですか。その胆嚢腫瘍(悪性)とはがんと言う意味ですか?」と質問され、「そうです」とお答えしました。「ふ〜ん、そうか!」と、顔色一つ変えないこの、温厚そうな60歳代前半の中年男性に、この人なら一緒にがんと戦って行けそうかな?、との感覚を持ちました。「で、何か治療法はあるんですかね?。あるいはあとどれくらいもつものかね?」との質問に、「手術の適応はありません。胆嚢の腫瘍に対する化学療法はありますが、今、腹水貯留が著明で、食事摂取もできない状態では難しいです。まずは、腹水を抜いて、利尿剤で腹水貯留を予防しましょう」、症状が出てわずか10日ほど、まだ2度目の面会ですので、予後については「まだ、治療が始まったばかりの、今の段階でその後のことを考えるのは早いですよ」と申しました。

 手術適応のない進行胆嚢がん
 まずは腹水コントロール、次いで化学療法の方針を説明
 生命予後については「まだ考えるのは早いですよ」と


 患者本人とのやりとりは至極、淡々としており、十分な意思疎通が図れておりました。恐らくは、迅速で行った諸検査の間に、良くない病気であることを悟ったのか、初日の採血結果はお渡ししておりますので、その異常な腫瘍マーカーの値に対してネットで調べたのだろうと思われました。しかしながら、同行した奥さんは、そんな病態とは思っておらず、みるみる顔色が変わり、ついには取り乱して、「本当ですか?、もっと良く調べて下さい」と詰め寄って来ました。「やあ、先生の言う通りだと思うよ」と患者本人の言葉に、「いえ!、信じられないわ!」と奥さん、「これ止めなさい」、などと夫婦間のやりとりの後、ついには奥さんより「がんセンターにお願いします」とのことでした。

3.がんセンターへの紹介

 こうした場合、患者、家族の希望があるのに、それに抗い紹介状を書かないでいることはできません。それに、無駄とは知りつつも、本人はともかく特に奥さんを納得させることが治療の最初の段階であることは明白でありました。「分かりました、紹介状を書きましょう」と申し上げましたが、一つだけ、良心的対応をしてあげました。それは、がんセンターの、「セカンドオピニオン外来」ではなく、普通の「肝胆膵外科外来」への紹介としたことです。「セカンドオピニオン」と付くだけで、保険の効かない万とする受信料が加算され、それは自費となります。私の中では診断と治療法に迷いはありませんので、患者に余計な負担を与えることがない道を選びました。画像をCD-Rに複製して、紹介状は患者と奥さんの前で作成、文面の概要は以下の通りです。

 *****

診断:胆嚢がん疑い、多発性肝転移疑い、がん性腹膜炎による腹水貯留状態

 採血結果、画像より、上記診断に至りました。本症例に対し、腹水ドレナージ、利尿剤によるコントロールの後、ジェムザール+CDDPまたはTS1による化学療法を考えておりますが、貴科的診断および新しいレジメン、あるいは先進治療などありましたら、併せてご教示いただければ幸いです。

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4.がんセンターからの返事と患者への対応

 可能な限り最短でがんセンターの外来の予約を取り受診していただきました。あっさりと返事が郵送されて来て、文面は以下の通りでありました。

 *****

 ご紹介ありがとうございました。ご本人とご家族に、病態は貴院からの紹介状の内容に相違ないこと、治療法についても異論ないことを説明させていただきましたが、腹水ドレナージなど入院加療が必要なものに対しては当院では対応できないことをお話しさせていただきました。以上です。

 *****


 まあ、こんなもんだろうと思っていましたが、予定の外来に受診された患者とその奥さんには、驚くほど、見る影もありませんでした。一番、驚いたのは温厚そうに見えた患者自身がすごくご立腹で、「あの若造が!」って鬼の形相、「すました顔して言いやがって!」とかなり怒っておりました。
 落ち着いて話を聞いてみたところ、がんセンターの肝胆膵外科外来に受診した患者と奥さんに対して、40歳代くらいの男性医師が対応、私からの紹介状を読んで、ちらっとCTの写真に目をやって、顔色一つ変えずに淡々と口を開きました。「この紹介状の内容はご存知ですか?、全くこの通りだと思いますが、だいたい保って3ヶ月ですね。当院には特別な治療はありませんが、こちらに書かれている化学療法に効果があるかどうかはやってみなければ解りません。緩和ケアか化学療法か、どちらかを選択することになります。よく相談して来て下さい」、とのことでした。すごく事務的で横柄な態度だったとのことです。

 だいたい保って3ヶ月
 緩和ケアと化学療法のどちらかの選択
 事務的で横柄な態度


 患者と奥さんは、がんセンターの医師の言葉に激しい絶望感に陥ったと同時に、初めて会って数分であっさりと生命予後を告げ、緩和ケアと、効果が不確かな化学療法の選択を迫る、がんセンターの医師のやり方に激しい憤りを感じているのは明らかでありました。
 「先生、なんとかよろしくお願いいたします」、奥さんからです。「私からも頼みます。先生、まあ、見捨てないで下さいよ」、こちらは患者さんからです。早速、入院として、腹腔内に管を留置、腹水を少しずつ抜くようにしました。

5.その後

 その後については、ほぼ予想通りの経過でした。利尿剤を強力に使っても腹水貯留は治ることを知らず、腹腔内の管からは1日に2-3リッターの排液がありました。腹部膨満は改善しましたが、食欲は全く戻らず、心窩部に痛みを伴うようになりましたので、麻薬の治療が開始されました。患者はそれほど死の恐怖を露わにすることはありませんでしたが、逆に生きる希望は全くない状態で、言うなれば心を無にしているような、そんな状態でした。

 心を無にした?入院生活

 ほとんど1日を傾眠傾向で過ごして、栄養状態がみるみる不良となり患者に対して、もちろん化学療法はあり得ない選択でありました。時々は外泊で少しでも自宅での生活を支援しましたが、初診から2ヶ月ちょっと、血圧低下と昏睡が訪れ、奥さんに看取られて永眠されました。苦痛が軽度であったのが幸いでした。

 こうした経過の中で、あの、がんセンターの医師からの言葉がどれほどの意味があったのか?、逆に、あれが無ければ、私はもっと元気になる可能性や、奇跡と言うものをお話して激励できたと思いました。


◇ 国立がん研究センター「がん告知マニュアル」と実際

 実は、上で申し上げたようなケースを4、5件は経験しております。がんセンターが悪いわけではありません。たまたま、応対して医師の資質の問題だと思います。がんセンターをかばうわけではありませんが、一応、以下の如くマニュアルが存在することをご紹介いたします。

 *****

がん告知マニュアル

目 次

Ⅰ.はじめに
Ⅱ.告知における一般的な留意点
 1.基本的姿勢
 2.家族への対応
 3.来院の状況に応じた告知
 4.患者が不満に感じている点
 5.告知技術の学習
Ⅲ.告知後の精神的な反応とその支援
 1.ストレス反応を示しやすい要因
 2.告知に対する精神的反応
 3.不安と抑うつ
 4.精神的支援と精神科医の参加
Ⅳ.おわりに
Ⅴ.参考文献

 国立がんセンター病院では、がん患者すべてにがんの病名の告知を行っており、本マニュアルは、国立がんセ ンター病院で医療従事者が利用しているものである。

Ⅰ.はじめに

 がん告知に関して、現在は、特にがん専門病院では「告げるか、告げないか」という議論をする段階ではもはやなく、「如何に事実を伝え、その後どのように患者に対応し援助していくか」という告知の質を考えていく時期にきているといえる。しかし、「事実をありのままに話す」という名目のもとに、「ただ機械的に病名を告げる」ことへの 批判も一方で高まってきている。こうした現実を踏まえ、告知を行っていく際の基本的な心構えについて、特に告知を受けた患者の精神面の反応や問題点に着目し、その対応も考慮にいれたマニュアルを作成した。本マニュアルが今後、国立がんセンター病院で働く医療者にとって、告知を行っていく際の一助となり、さらには自らの告知のスタイルを築いていく上での参考となれば幸いである。

Ⅱ.告知における一般的な留意点
 
1.基本的姿勢

1)本人に伝えることを原則とする。

2)初診から治療開始までできるだけ同じ医師が担当し、人間関係や信頼関係が形成されていく中で告知をする姿勢が大切である。これにより、診断や治療の選択肢が複数ある場合に患者が冷静に判断できる、本来のインフォームド・コンセントが可能となる。状況により途中で担当医が交代することもあり得るが、この場 合でも担当医間の連絡を密に取り合い、告知に関する部分で患者との信頼関係を崩すことがないように留意する。

3)説明をする場所にも配慮が必要であり、患者が十分に感情を表出でき、プライバシーが保てる空間が望ましい。電話や立ち話で告知を行うようなことはしない。電話で告げられた患者の 55%が、告知に対して否定的な感情を示したという報告もある(Lind SE et al, 1989)。粗雑な方法で告知された患者や家族は、その時の医師の思いやりのなさを決して忘れることはない、といわれている。

4)初対面のときから一貫して真実を述べることを心がけ、わかる範囲の情報をその都度伝えていく。未確認情 報でがんと決めつけず、「疑い」や「可能性」から出発し、確診を得た時点で正確に伝える。

5)正直に正確に説明することは必要であるが、患者の状態も考慮せず、ただ一方的に事実だけを話し、あと は患者側でうまく対処していくように、といった姿勢は決してとるべきではない。

6)時に患者は、「あなたは進行したがんであり、私としては何もできない。これといった治療法はない」などと突 き放されたように言われることがある。このような時に患者が抱く感情は失望、怒り、諦め、疎外感である。医 師は患者に対して、希望も絶望も与えることがある立場にいることをよく認識しておくことが大切である。

7)外来での告知も日常的に行われるが、時間をかけて説明し、その後の配慮を十分に行う必要がある。不安 が強い患者については、担当医が精神科医に相談する必要も生じうる。また時には、すべての外来が終 了した後に、改めて別に時間をとって再度十分に話し合ったり、当日の夜に患者の自宅へ電話する、など して患者を励ます等の配慮が有効な場合もある。

8)患者は医師に対して遠慮があり、場合によっては恐れを抱くこともある。このためその場では感情を表現で きなかったり、医師の言うことには従うべきだと考え質問できず、疑問を残してしまうことがある。しか し看 護婦に対しては自分の気持ちを正直に話したり、疑問点を尋ねたりすることがよくあることから、看護婦を通 して患者の本当の気持ちや訴えを聞くことは医師にとって大切である。医師と看護婦の協力体制は、がん 告知の場面でも極めて重要である。

9)あせって一度の説明で全部の内容を話してしまおうと思わずに、必要があれば段階的に、何度も面接を行う。

10)常に患者の立場に立ってものを考えること、判断を押し付けないことが重要である。

2.家族への対応

1)「家族には先に知らせない」のが原則である。患者本人に告知を希望しない家族が一般的な根拠とするのは、「患者は気が小さいから自殺をするかもしれない」という考えであるが、この危険は通常考えられているよりもはるかに低い(Oken D, 1961)。ただし、自殺の可能性は常に考慮に入れておかなければならない。

2)例えば紹介で来院した際、他院で家族のみに告知が行われており、その家族が告知に強く反対する場合には、時間をかけながら繰り返し家族を説得していく。なおこのような場合に、紹介医の対応について、「ま だこんな古い対応をしているのか」などと非難するような発言をすると、患者と紹介医との信頼関係を崩すことになるので注意が必要である。

3)がん診療における家族の意味は極めて大きいので、がんかどうかの結果が明確になった時点で、家族にも一緒に説明を聞いてもらうようにする。患者を最優先するという立場に立った上で、家族に患者の状況をできるだけ正確に知ってもらうことは極めて重要である。

4)時には家族は患者自身以上に動揺し、説明を正確に記憶あるいは理解していないようなことも多い。従って、「家族は患者ではないから少々のことは言っても大丈夫」と安易に決めつけず、必要があれば家族に対する支援も行っていく。この場合も、担当医は精神科医に相談することが有効な場合も多い。

3.来院の状況に応じた告知

A. 精密検査(確定診断)前

1)検診で異常を指摘された場合
a. 「がんではない」と言われたいという願望と、「がんではないだろうか」という不安とが交錯している複雑な心境であることをまず念頭に入れる。
b. 検診の結果をわかりやすく説明するとともに、次に精密検査として何を行うか、その検査の意義とそれによってどこまで診断が進むかを説明する。
c. 精密検査で診断のつく可能性のある病名について述べるが、この時にがんであることもあり得る、ということも説明しておく。あえて「がん」という言葉を出すほうがよい。

2)症状がある場合
a. 特に、不安を長く抱きながらも我慢してきた人や、恐怖のために受診を避けてきた患者は、緊張感のために説明を十分に理解できていないと考え、より丁寧に説明していくことが必要である。
b. 症状から考えられる病態、病名について、どのような可能性があるかを、がんを含めて説明する。
c. 診断をつけるためにどのような検査があり、どういう手順で診断を進めていくかを説明する。この際、対症療法で対応可能な痛み、発熱、咳嗽などの症状の緩和については、診断をつけることと並行して積極的に行っていく。

B.精密検査の結果(確定診断)を伝える場合

a. 検査が終わって診断が下されるまでの間、患者の不安は頂点に達していることを忘れてはならない。初診から精密検査を経て、確定診断に至るまでの間で最もストレスが高くなるのは、診断が告げられる直前であるという報告もある(Gustafsson O et al, 1995)。
b. 組織検査でがん細胞が確認された場合には、異型細胞などという曖昧な表現はせず、「先日の組織検査で明らかながん細胞が確認されましたので、○○がんということになります」と明確に話す方がよい。
c. 診断が確定した時に状況も考えずに、「大至急入院しなさい。さもないと大変なことになってしまいます」と、いたずらに患者の不安を助長させるようなことを言うのは避けるほうがよい。

4.患者が不満に感じている点

 吉澤(1994)が、1992 年 7 月〜1993 年 2 月に国立がんセンター中央病院で術前患者を対象に行った、告知に関する聞き取り調査の中では、、、

 ・説明が専門的すぎる
 ・もっとわかりやすくかみ砕いて説明してほしい
 ・一般論でなく、自分はどうなのかをきちんと教えてほしい
 ・そこまで言わなくてもいいのでは、と思った
 ・もう少し闘病の励みになるような希望や保証のある、親身になった説明がほしい

 、、、という指摘がなされていた。

5.告知技術の学習

 患者にがん告知を行うためには、少なくとも告げ方と告げた後に患者を支えていく技術が必要である。このような技術を学ぶことなく患者にがんと伝えることは、糸結び、メスやハサミの使い方、術後管理を知らない医師が手術の執刀医になるのと同じである、とまでいわれている。この技術の習得のために、、、

 ・先輩医師が行う告知の現場に必ず何度かは立ち合う。
 ・新任の医師・レジデント・看護婦を対象に、がん告知に関する講習会の実施を計画中である

 ※定期的な実施を計画しているが、特に着任後最初に開かれる講習会になるべく参加していただきたい。この場合、教育用ビデオを用いたり、模擬インフォームド・コンセントを行ったりすることも考えている。

 ・講演会を企画する。また講習会などの案内を流す

Ⅲ.告知後の精神的な反応とその支援

1.ストレス反応を示しやすい要因

 診断とその内容の告知を受けた後に、患者がストレス反応を起こしやすい指標(危険因子)として、、、

 ・診断時に多くの身体症状を有している
 ・家族内に、夫婦間の問題などを抱えている
 ・周囲からの援助が期待できない
 ・医師が援助的ではないと感じている
 ・精神科的な既往(特にうつ病)がある
 ・心配しやすい性格傾向がある
 ・悲観的に物事を考える性格である

 、、、といった点が指摘されており(Weisman AD, 1976)、患者の経過をみていく上で参考になるのではないかと思われる。

2.告知に対する精神的反応

がんを告知されたあとに患者が示す通常の反応として、Holland JC ら(1990)は、次のような段階モデルを考えだしたが、他にもほぼ同様の報告がなされている。

1)第1相;初期反応期/1週間以内
 まず、告知された内容を信じようとしないか、一時的に否認することで特徴づけられる。患者は後なってその時のことを、「頭が真っ白になって、まるで自分自身に起こっていることではないかのようだった」と述べることがある。またある人達は「やはりそうだったか」という絶望感を経験する。

2)第2相;苦悩・不安の時期/1〜2週間
 苦悩、不安、抑うつ、不眠、食欲低下、集中力の低下などの症状が交互に何度もやってくる。不安が強く集中力が低下しているために、同じことを繰り返し尋ねてくる時期でもある。

3)第3相;適応の時期/2週間以後1ヵ月〜時には3ヵ月
 現実の問題に直面し、新しい事態に順応するようになる。またそう努める。なお、112 人を調査し、立ち直りに1ヵ月以上要した 11 人のうち 9 人までが早期胃がんの患者であった という報告があることから(笹子, 1992)、ショックの程度や立ち直りに要する時間は病期や予後と必ず しも相関しないことが示唆されている。

3.不安と抑うつ

 上記の経過を経た後でも適応することができず、苦悩が続く患者に最も多い症状は、不安と抑うつである。告知後1ヵ月以上を経過しても、不安や抑うつ症状(不安感、将来への絶望感、イライラ感、恐怖感、不眠、食欲 低下など)がみられる場合には、「がんになってしまったんだから仕方がない。当然の反応だろう」と考えずに、 患者の精神状態を深く配慮し支えていかなければならない。特に国立がんセンターの医師は、診療や研究、 公的委員会出席など多くの業務を抱えており多忙であるが、がん患者を担当する以上、十分な時間を割いて 対処すべき最も重要な課題である。

4.精神的支援と精神科医の参加

1)担当医として自分がしっかりと支えていく覚悟があること、また常に精神的な支援を行う準備があることを、告知をした時点で患者にはっきりと伝える。その上にたって信頼関係を強化していけば、患者は病名や病態を知ったことによって、精神的に大きく不安定な状況に陥ることは少ないと思われる。

2)しかし担当医だけで支えていくのが困難と思われたり、精神科医による治療がより好ましいと判断された場合、また患者の精神状態をどう評価してよいのか悩む場合には、早めに精神科医に連絡し、対応を十分に協議することは有効である。たとえば、、、

 ・精神科疾患の既往がある場合
 ・自殺の危険を感じた場合
 ・不眠が出現し睡眠薬を投与しても、コントロールがうまくいかない場合
 ・それまでなかったような表情や行動の変化が出現してきた場合
 ・患者自らが、気分の落ち込み、不安感、焦燥感をしきりに訴えてくる場合
 ・生命予後を実際より重く認識している場合

、、、などである。

Ⅳ.おわりに

 がん告知はがん診療の第一歩であり、重要な医療行為のひとつである。できるだけ質の高い告知をめざしていくための一助となることを目的に、この小冊子をまとめた。その際、告知を行うにあたり一般的にどのような点に留意すればよいか、告知後の患者の精神的な反応を理解し、それにどのように対応し支援していけばよいかという、2つの大きな側面を中心として考えた。今後は臨床の場において本マニュアルを使用した場合の有用性を評価することが大切であるし、がん告知を行っていく際のより効果的な方策を見い出していくことも必要と考えている。

Ⅴ.参考文献

Gustafsson O, Theorell T, Norming U et al.;Psychological reactions in men screened for prostate cancer. J Br Urol 75: 631-636, 1995
Holland JC, Rowland JH;Handbook of Psychooncology, Oxford Univ Press, New York, 1990, pp273-282 Lind SE, Good MD, Seidel S et al.;Telling the diagnosis of cancer. J Clin Oncol 7: 583-589, 1989
Oken D;What to tell cancer patients. A study of medical attitudes. JAMA 175: 1120-1128, 1961.
笹子三津留;癌の告知̶告知を受けた患者へのアンケート調査結果報告.医学のあゆみ 160: 146-151, 1992
Weisman AD;Early diagnosis of vulnerability in cancer patients. Am J Med Sci 271: 187-196, 1976
吉澤佳子;告知後の患者の心理状況.末舛恵一監修;これからの癌告知をどうするか. インフォームド・コンセントと心のとまどい. pp.72-79, 医薬ジャーナル社, 東京, 1994.
http://www.ncc.go.jp/jp/ncc-cis/pro/ic/020201.html

 *****


 「がんの告知」について多岐に渡って考察を加え、たいへんよくまとまった内容だと思います。「さすがは がんセンター!」と言ったところですが、残念ながら、このマニュアルががんセンターに在籍する医師全員に浸透していないのは事実であります。
 例えば冒頭の「はじめに」の中に、「『事実をありのままに話す』という名目のもとに、『ただ機械的に病名を告げる』ことへの 批判も一方で高まってきている」と指摘されており、まさにここでご紹介した胆嚢がん症例が受けた説明はこうした批判の対象となろうかと存じます。「Ⅱ.告知における一般的な留意点 1.基本的姿勢」の中で「初診から治療開始までできるだけ同じ医師が担当し、人間関係や信頼関係が形成されていく中で告知をする姿勢が大切である」とされておりますが、私の患者に応対した医師は、初めて会って数分であっさりと生命予後にまで言及し、その途中の過程は私の紹介状の通りである、との説明でありました。ここには、人間関係も信頼関係もない、ただ事務的なやりとりでありました。
 マニュアルの「Ⅱ.告知における一般的な留意点 4.患者が不満に感じている点」の中に「そこまで言わなくてもいいのでは、と思った」、「もう少し闘病の励みになるような希望や保証のある、親身になった説明がほしい」とありますが、まさにこれもがんセンターの医師にありがちな対応と言わざるを得ません。これに対して「告知技術の学習」と題して医師教育の必要性を説いていますものの、恐らくは不十分なんだろうと思います。
 「おわりに」の文章の冒頭、「がん告知はがん診療の第一歩であり、重要な医療行為のひとつである」としており、それはまさにその通りです。恐らくは、私の紹介に横柄な態度で応対したあの医師にとっては、がん診療の第一歩との認識はなかったのだろう、ただの雑用に過ぎない時間であったと推察いたします。


◇ 大学病院・がんセンターの功罪

 私は、大学の助手として米国に留学した期間も含めるとトータル12年間を大学病院で過ごしました。がんセンターとの違いは、良性疾患も扱い、肝移植も行っていたと言うくらいで、高度な医療を提供しつつ研究機関、教育機関でもある点では両者は同等であります。この、大学病院もがんセンターも、医者にとって、良いところと悪いところがあります。
 良いところそれは、何と言っても、高度な医療を行うことによる充実感と技術や知識を学ぶ貴重な時間であります。給料が少なかろうと多大な雑用に追われようとも、一般病院では得難いものが大学病院やがんセンターにはあります。悪いところと申しましたのは、「高度な医療」の外側にある(これも立派な)医療に対する興味、関心がなくなる可能性です。複数の合併症症例やかなりの高齢者、手術や化学療法の適応がない終末期の患者は、大学病院やがんセンターでの治療の適応からは外れるからです。


◇ おわりに

 さて、当然の如く、世の中の病に苦しむ人は、大学病院やがんセンターにおける治療の適応がある人ばかりではありません。むしろ、大学病院やがんセンターの対象ではない患者の方が多いくらいです。今回、ご紹介した症例は、紛れもなく後者の範疇にある患者でありますが、行きがかり上、どうしても、がんセンターに一時的にでも紹介せざるを得ませんでした。がんセンターには立派ながん告知のマニュアルがありますが、そこの医師の対応は、いかにも己には興味も関心もない患者に対するものでありました。
 「がん告知のあるべき姿」、それは、5年生存率は95%以上にも及ぶ早期がんと、進行がんですが治療の余地があるケース、そして治療に限界があり、予後が極めて不良である場合と、ケース・バイ・ケースで分けて考えるべきであります。本論に度々出てくるがんセンターの医師のように、医療の大半を担う予定のない人間が、軽々しく予後について語るべきではありません。

 心の通った対応、心を込めた言葉、それこそが「がん告知のあるべき姿」であります。

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