アセンションへの道程 〜ある外科医のスピリチュアル〜

アセンションを目指したある1外科勤務医のスピリチュアルおよびその周辺事項への探求をご紹介します

米国における脳死全肝移植で見た生命の平等性

 猪瀬東京都知事が辞任しましたが、徳州会の献金や選挙違反については、まだまだいろんな話が出て来そうです。徳田虎雄氏の著書で「生命(いのち)だけは平等だ」と言うものがあり、全国の徳州会系の病院にはこの文を載せたポスターが貼られているようです。

徳田さん著書

 本当の意味での生命(いのち)の平等さが徳州会系の病院で実現されたのかどうかは知りませんが、先日の記事で米国生活の話に触れ、生命の平等性に関して一つ思い出したことがあります。肝移植の現場での話です。


◇ ドナーが誰か知らされない脳死者からの臓器移植

 脳死者より、身体の上の方から角膜、肺、心臓、肝臓、膵臓、小腸、腎臓を摘出して、それぞれの臓器を必要とする患者がいる病院に搬送して移植する、それが脳死ドナー(donor、臓器提供者)からの臓器移植であります。主に肝臓や腎臓で行われる生体移植が親子、兄弟、夫婦間のように、ドナーと、その臓器を受けるレシピエント(recipient)が協議の上、治療を希望されるのに対して、脳死ドナーからの臓器移植では、臓器を受けるレシピエントはドナーが誰であるかは知らされません。
 脳死者が出たところで、その家族より臓器提供に合意が得られればその患者をドナーとした移植医療が始まり、上で挙げた各臓器をどの病院のどの待機患者に移植するかの決定は、血液型やHLA(Human Leukocyte Antigen、ヒト白血球抗原)のタイプ、体型、ドナーの発生地、タイミングなどの要素に基づいて医療サイドに委ねられることになります。


◇ ある心停止後ドナーからの臓器摘出手術

 1997年5月のある夜、米国留学中の私は大学のER(Emergency Room、救急救命室)の入り口にいました。ポケベルで呼び出されたグァーバーと言う米国人フェローと待ち合わせです。夜の11時前、私が到着してほどなくグァーバーも現れ、既に停まっていたフォード社製のミニバンに乗り込みました。別の黒人の運転、夜中の2時間ほどのドライブで着いたところは隣の州のある病院でした。電話連絡を受けていた我々は車が停車するなり走って院内に駆け込みました。その先にはオペ室(手術室)、脳死ドナーがICU(Intensive Care Unit、集中治療部)より入室したものの、先ほど心停止を来したとのことでした。脳死ドナーからの臓器摘出手術です。
 患者は血液型A型、42歳と若い女性でしたが、身長165cm、90kgと肥満体で、頭部外傷で2日前に救急搬送され、脳死(蘇生不能)が確認されておりました。循環動態(血圧、脈拍など)が不安定で昇圧剤が多量に投与されておりました(ドーパミン量にして28γ)。我々が到着する30分ほど前に心停止を来たし、心臓マッサージをされながらオペ室に搬入、我々が到着、手洗いしている間も心臓マッサージは続いています。脳死者であっても人工呼吸器で血液の酸素化が行われていて、心臓が動いておれば身体中の臓器は生きており、摘出して臓器移植に利用できますが、心臓が停まってしまうと、臓器の細胞は酸素を与えられず急速に傷ついていきます。グァーバーと私は型の如く開腹、大動脈にチューブを挿入して保存液を注入、腹腔内に破砕した氷と冷水を入れて、腹部臓器を冷却および還流しました。
 手術そのものは問題なく、肝臓と腎臓が別々に摘出、保存液の入った洗面器に移されましたが、問題が2つありました。まず、循環動態が極めて不安定で、血圧低下が続いた後の、心停止から臓器への冷却還流までに34分が経過しておりました。こういうのを心停止後ドナーと言います。いま1つの問題は、患者は肥満体であり、肝臓は大きく、辺縁が丸まっており、脂肪肝であることは明白でありました。30分を超える心停止後で脂肪肝、年齢が若いと言う以外は、良いグラフト(移植片;移植する臓器のこと)とは言えない状況でありました。


◇ 肝移植を受けたのは29歳男性

 大学に戻る車内にて、ICUにいた劇症肝炎の患者が、確か血液型A型で同じなので、この摘出した肝臓はその患者に移植されるのだろう、とグァーバーと話しておりました。しかし、そうはなりませんでした。確かに劇症肝炎から肝不全に陥った血液型A型の患者はおり、肝移植の優先順位が上位にランキングされておりましたが、我々が摘出して持ち帰った肝臓は別の患者に移植されることとなりました。劇症肝炎の患者には、その後に発生したドナーからの肝臓が移植されました。
 グァーバーと私で持ち帰った肝臓を移植されることとなった患者は、29歳、男性、C型肝炎肝硬変で、下記の如く検査データ上は異常値が目立ちますが、全身状態は良く、肝移植の待機となっており、病院より連絡を受けて至急、入院して来ました。もちろん歩いての来院です。

【検査成績】
 Alb 2.2 T-Bil 5.2 AST 69 ALT 60 NH3 31 BUN 14 Cr 0.7 Plt 51000


◇ 血流再開に困難を極めた術中所見

 肝移植手術は我々が行ったドナー手術の翌日朝より開始され、まずは肝硬変に陥った肝臓を全摘し、昼過ぎに肝グラフト(移植片)が患者の術野に移動、血管吻合が行われて、13:33血流が再開されました。通常だと、速やかにグラフトに血液が行き渡り、あっという間に肝臓は赤褐色の本来の色調に戻るのですが、この日はそうは行きませんでした。血圧が低下して、出血が顕著となり、移植肝の色調にはムラがあって、いかにも血流の再開に障害を来した状態、紛れも無く心停止後ドナーで、脂肪肝であったことが、原因していると思われました。手術は13時間にも及び出血量は1万ccを越えました。

手術
臓器移植の手術が行われている手術室

 少し語弊の無いよう補足いたしますが、心停止後ドナーであったことも、肝移植片が脂肪肝気味であることも、肝移植手術を行うスタッフは全て知ったうえで了承したものでありました。つまり、肝移植片として使用可能と判断され、このグラフト(移植片)を受けた患者は手術に耐え得ると考えられたわけです。ただ、上述の如く、ドナーのことは患者に知らされないので、循環動態が不良で臓器摘出前に心停止を来したことや、脂肪肝の可能性は、医療スタッフのみが知るところでありました。


◇ 術後14日目で再移植

 術後経過は極めて不良でありました。下図の如く、黄疸の指標である血液中の総ビリルビン(T-Bil)濃度は増加の一途を辿り、下がることはなく、術後14日目で32.0 mg/dlを記録、同日、49歳男性の脳死ドナーからの肝移植片を受ける手術が行われ、グァーバーと私で摘出、持ち帰った肝臓は破棄されることとなりました。尚、本症例における移植肝不全は、移植直後より全く臓器が機能しないPrimary Graft Non-Function(PGNF)ではなく、Preservation Injury(PI、保存障害)と評価されました。

T-Bil.jpg
術後の総ビリルビン(T-Bil)値


◇ レシピエントが差し替えられた可能性

 私は、上述の如く米国で臨床に従事する前は実験室(ラボ)で動物実験をやっておりました。もちろん肝移植関連の研究ですが、そのラボのボスが日本のある大学の教授として招聘されて帰国したため、ラボは消滅してしまったのでありました。心停止後ドナーからの肝移植がなされ、術後の不良な経過から再移植となった翌月、何かの用事で日本からラボのボスが渡米して来ました。早速、ご挨拶に伺い、そのついでに心停止後ドナーからの肝移植の経験、残念な結果に終わったことを伝えたところ、それはドナーの状態が報告されたところで、ICUの劇症肝炎の患者から、C型肝炎肝硬変の若い男性、自宅待機の患者にレシピエント(移植臓器を受ける患者)が差し替えられたのだろうと言われました。
 そのラボのボスは動物実験をやっていましたが、臨床医としても実力者であり、その彼が言うのは以下の通りです。30分を超える心停止後のドナーから摘出された肝臓が移植後に障害を起こすことは想像に難くなく、そのように不良なグラフトを移植に使用するのであれば、全身状態が悪いICUにいる劇症肝炎の患者は避けて、自宅待機の若くて状態の良い患者に使用すべきであるとのことです。言い換えれば、状態の悪い患者に良いグラフトを移植してあげ、状態の良い患者は悪いグラフトを受けると言う操作が加わっているとのこと、、、。

 全身状態不良の患者 → より良い状態のグラフトを移植
 全身状態良好の患者 → 不良なグラフトを移植



◇ 移植医療で示された生命の平等性

 歩いて来院した患者に対して、ドナーに関する情報は告げずに、状態が不良と思われるグラフトを移植してしまう、その事に、どうにもやりきれない気持ちでおりましたところ、ボスは言いました、16年前のことですが、「それが移植医療における真の平等だよ」と、、、。

 移植医療における(生命の)真の平等

 患者のレシピエントとしての登録順序、全身状態の良し悪しのみならず、ドナーの状態、グラフトの良否が移植手術を受ける順番に考慮されるとのこと、すなわち、不足する脳死ドナーを有効利用してより多くの肝不全患者を救い、なによりも全ての肝不全患者に対して均等な術後成績を提供するために、移植センターとして、公共機関として、そして社会として、厳しい決断を下すことが実践されていたのです。これが米国の、ある移植センターで示す一つの「生命の平等性」なんだろうと思います。現状、日本の移植医療においてまだここまでの厳しい精神は伴っていないと思いますし、あるいは異なる考え方があって、日本では実現しないものかも知れません。
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