アセンションへの道程 〜ある外科医のスピリチュアル〜

アセンションを目指したある1外科勤務医のヘミシンク体験とスピリチュアルおよびその周辺事項への探求をご紹介します

カテゴリ:医食住薬とアンチエイジ の記事一覧

高尿酸血症 対策


 高尿酸血症から発症する痛風、ゴルフ友達の一人が患って苦労したと聞きました。痛風とは、尿酸(UA, uric acid)が体内に蓄積し、それが結晶(尿酸塩)となって激しい関節炎を伴う病態です。ひとたび発症すると関節痛は激烈で「痛風発作」と呼ばれ、放置すれば体の各所に痛風結節が発生して、腎盂尿管に尿酸結石が発生して、腎臓機能障害も引き起こします。
 ビールの銘柄によってプリン体含有量が違うようだとか、梅干しに含まれるクエン酸に尿酸排泄効果がありますと、当ブログで勉強した内容に加えて、高血圧で安易に処方される利尿剤には尿酸を保持するものがあるようです、などとアドバイスしました。
 ところが、私自身、年末の職場検診で尿酸値が基準値を超えており、それも7.7 mg/dlと、痛風を発症してもおかしくない値でした。ビールの銘柄を気にしているし、加熱した梅干しの摂取を日課にして、自分は大丈夫!と油断しておりました。
 早速、高尿酸血症の是正に向けて緊急のお勉強です。ここでは食生活を中心に、高尿酸血症治療薬に頼らない方法論を考えて参り、発症した痛風の治療については他に譲ります。


◇ 尿酸 uric acid とは?

 まずは基本的なところで尿酸とはなんぞや?、と言うことです。尿酸(C5H4N4O3)は分子量168の有機化合物で膀胱結石の中から発見された物質だそうです。いわゆるカルシウム結石ではない、尿酸結石の研究で、尿中の尿酸が析出して結晶を作ることが明らかになりました。
 その後、尿酸は生物の情報とエネルギーと言う重要な役割を果たす物質の最終産物である事が判明しました。つまり、遺伝子を構成するDNA(デオキシリボ核酸)やエネルギーを担当するATP(アデノシン三リン酸)の、プリン体と言う物質が分解されてできた老廃物が尿酸であります。

 尿酸 = プリン体の代謝産物(老廃物)

 遺伝子やエネルギー物質が代謝された分解産物ですので、そうした食べ物を摂取しても、あるいは体細胞が壊れても発生しますので、人間の体では常に作られて排泄されている物質であります。正常な成人の体では1日に約0.6 gの尿酸が作られるとされます。

尿酸の構造式
尿酸の元素記号


◇ 高尿酸血症から痛風発症のメカニズム

 「尿酸が高い」と言うとすぐに痛風を思い起こすほど、高尿酸血症と痛風は一元的な繋がりを持つ病態であります。まずは、高尿酸血症から痛風発症のメカニズムです。

1.尿酸塩の析出

 血液中に溶け込んでいる尿酸濃度の上限は7 mg/dl前後とされており、この飽和濃度を超えると、痛風発症の最初の段階として、血液中の尿酸が尿酸塩として組織に析出し結晶を作ります。

尿酸結晶の写真
析出した尿酸塩の結晶

2.尿酸塩に対する防御機構

 尿酸塩の結晶は足の関節内面に沈着しやすく、これに対する体の防御機構として好中球(白血球の一種)が反応して局所に炎症が起こります。これが痛風発作として最初の発症となります。

3.痛風結節

 尿酸塩は関節のみならず他の臓器にも析出して結晶の溜まり結節(痛風結節)を作ります。最もできやすいのが皮下で、稀に脊柱管にできて脊髄を圧迫して神経症状を起こすこともあります。

痛風結節 の写真
足の関節にできた尿酸結節

4.尿路結石と痛風腎

 尿酸は尿排泄なので、高尿酸血症は尿酸結石と言うかたちで腎盂、尿管などへ尿路結石を作ります。また、尿酸塩は腎実質に沈着して腎障害を起こすことがあります。これを痛風腎と言い、慢性腎不全に移行する可能性があり、人工透析患者の1%を占めるとされます。

5.肥満

 痛風の原因である高尿酸血症の、さらなる原因の一つに肥満があり、痛風と肥満は密接な関係にあるとされます。脂肪組織の増加はインスリン感受性を低下させ、これは尿酸の排泄に悪影響を及ぼすとされます。また、内臓脂肪に多く含まれる中性脂肪の増加は、遊離脂肪酸の分泌に繋がり、これが肝での、尿酸の先駆物質であるプリン体の代謝を促進します。これも高尿酸血症の原因となります。


◇ 高尿酸血症の原因

 検診あるいは人間ドッグにおける検査データ、血清尿酸値(UA, uric acid)の基準値は、男性 3.8 - 7.5 mg/dl、女性 2.4 - 5.8 mg/dlとされます。ここでは高尿酸血症の原因を多岐に渡りご紹介します。もちろん、原因を除去することが高尿酸血症の是正になりますので、最後の「高尿酸血症 対策」の項では重複した内容となるものもあります。

1.人間には失われた尿酸酸化酵素

 ほとんどの動物では、尿酸は分解されますので体内に蓄積することはありません。ところが、人間とヒト上科霊長類(テナガザル、オラウータン、チンパンジー、ゴリラ)には尿酸を分解する尿酸酸化酵素(尿酸オキシダーゼ, uric oxidese)が欠損しており、尿酸はプリン体の最終産物となっております。この酵素を作る遺伝子は存在しますが、壊れているとのことです。ですから、高尿酸血症および痛風は、人間を含むこれらの動物にしかない病態であります。

2.遺伝的素因・性差

 尿酸排泄に関わる遺伝子が幾つか解明されておりますので、高尿酸血症および痛風に遺伝的素因は言われております。同時に、尿酸排泄に女性ホルモンが関与するため、同ホルモンが豊富な女性は男性よりも尿酸値が低く、痛風の罹患率は男女比98.5:1.5と圧倒的に男性が多いとされます。

3.食生活

 プリン体含有量の多い食品を摂取すればその代謝産物である尿酸が体内に蓄積します。最も尿酸値に影響するのが食生活です。概ね、肉食も海産物も血中尿酸値を増加させ、野菜、乳製品は尿酸を減らすと考えられています。また、痛風の患者さんの60%に肥満があり、肥満度が大きいほど尿酸値は高くなります。高カロリーそのものも血中尿酸値に影響する因子です。後ほど、食品ごとのプリン体含有量をまとめますが、食生活におけるプリン体摂取のコントロールが推奨されるところです。

4.脱水と水分摂取

 食生活に近接したところで、尿酸は尿排泄ですので、水分を摂取することで尿量が増加して尿酸排泄は促されますが、逆に下痢や発汗、水分制限による脱水は利尿を制限して尿酸を保持する形になりますので尿酸値を上げます。

5.運動

 スポーツは体に良い印象がありますが激しい運動や肉体労働は血中尿酸値を上げる原因となります。これは過度の運動により筋肉の新陳代謝が上がり、簡単に言えば、筋肉の細胞が壊される結果、自分の体細胞中のプリン体が遊離するからであります。また運動による発汗は上述のごとく脱水を引き起こし、これは血中尿酸値の上昇に繋がります。

6.薬剤

 薬剤の中には尿酸値を上昇させる副作用を有するものがあります。サイアザイド系降圧利尿薬(フルイトラン など)、ループ利尿薬(ラシックス、フロセミド など)、喘息治療薬のテオフィリン(テオドール など)、結核治療薬のピラジナマイド(ピラジナミド など)、アスピリン(小児用バファリン など)であります。成人病である高血圧の治療薬として利尿剤が処方されていて、高尿酸血症が認められたので、今度はそれに対する治療薬が処方される、医療の歪みがそこに見え隠れします。


◇ 食品別プリン体含有量

 プリン体含有量の多い食品の摂取が高尿酸血症ひいては痛風の原因となることは明白であり、ここでは食品別のプリン体含有量を表にしました。あらゆる単位はmg/100gであり、食品100gあたりのプリン体量(mg)であります。各食品類についてプリン体含有量の多い順に並べております。また、酒類のビールとその周辺飲料については過去のブログ文章を参考にしていただければ幸いです。

01.穀物
穀物のプリン体

02.豆類
豆類のプリン体

03.畜肉
肉類のプリン体

04.畜肉の加工品
肉加工品のプリン体

05.魚
魚のプリン体

06.魚の乾物
魚乾物のプリン体

07.魚卵
魚卵のプリン体

08.魚の加工品
魚加工品

09.軟体類・甲殻類
イカタコ えびのプリン体

10.酒類
酒類のプリン体


◇ 高尿酸血症の対策

 血中尿酸値が上昇する原因を論じて参りましたので、その原因を除去することが高尿酸血症の対策となることは明白であります。ビールや肉食など、プリン体含有量の多い食品の摂取を控え、カロリー制限から肥満を改善し、激しい運動による体細胞の分解を理解し、十分な水分補給と薬剤の副作用に意識をもつことは肝要です。ここでは、原因論から考える高尿酸血症対策ではなく、積極的に血中尿酸値を低下させる方策を勉強しました。

1.尿をアルカリ性にする食生活

 尿酸はアルカリ性の液体に溶けやすいことから、尿酸の尿中排泄を促すため尿をアルカリに傾かせる食生活が推奨されております。アルカリ性食品を摂取することで尿をアルカリに傾ける発想ですが、具体的に、アルカリ性食品として代表的なものは野菜の中でもほうれん草やにんじんといった緑黄色野菜の他、海藻類や大豆食品などがあります。その他、アルカリイオン水、バナジウム天然水と言ったアルカリ性天然水も尿のアルカリ化に効果的とされます。

2.利尿作用のある緑茶・コーヒー・酒

 緑茶やコーヒーには利尿作用がありますので、十分は水分補給と同時にこれらの嗜好品を摂取することは尿酸排泄に有効とされます。同様にアルコールにも利尿作用がありますし、水分補給にも有用です。焼酎やウイスキーのようにプリン体を含有しないアルコールであればむしろ高尿酸血症に有効と考えられます。

3.乳製品で尿酸の吸収阻害

 最近、「プリン体と戦う乳酸菌」と言うキャッチフレーズが目につきます。「明治プロビオヨーグルトPA-3」(下写真)がそれですが、実際にはヨーグルトの乳酸菌は胃酸で分解されてしまうため、その種類についてはあまり意味をなさないとされております。

PA3写真

 しかしながら、乳製品全般に、腸内細菌を整える効果が認められており、乳酸菌が分解された物質が材料となって、腸内で新たな善玉腸内細菌が作られと言われております。ヨーグルト、牛乳、チーズなどの乳製品の摂取は腸内細菌叢の転換から尿酸吸収を阻害する考えられます。

4.その他

 尿酸値を下げる物質として、ビタミンC、梅干しに多く含まれるクエン酸、アミノ酸の一種でサプリメントとして販売されているアセナリンなどが有効とされています。



スポンサーサイト

がんの免疫療法 〜最近の知見から〜


 職場におけるルーチン・ワークとして行っている医療講演のスライドを何年かに1度は更新しており、今回は2年ぶりの大幅改訂といたしました。これに際して、いよいよ世の中の医療に対する関心が高まっているご時世で、立場上、「知りません、専門ではありません」では通らない「がんの免疫療法」について、極めて極めて浅いところを勉強してスライドに盛り込みました。今回はそのご紹介です。一般向け医療講演の内容にて、専門的な知識は別に譲ります、悪しからず。


◇ 従来から考えられていたがんに対する免疫の位置付け

1.以前から知られている腫瘍免疫の概念

 免疫とは細菌、ウイルスなどの生体内に侵入した異物(非自己)を排除する機構であります。がん細胞は正常な自己の細胞の遺伝子が変異して発生するものですが、宿主の免疫機構により非自己と認識され排除されます。これを腫瘍免疫と言います。腫瘍免疫には以下の自然免疫系と獲得免疫系の両方が関与しているとされます。ちなみに俗に言うリンパ球とは、ナチュラルキラー細胞と胸腺(Thymus)由来のT細胞、骨髄由来のB細胞のことです。

 適応免疫系:樹状細胞、ヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞、B細胞
 自然免疫系:ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、顆粒球


がん細胞vsNK細胞

2.常に発生しているがん細胞の発育を免疫系が阻害

 発がんの原因として、刺激性の強い食べ物、食品添加物などの食生活や、喫煙、大気汚染、工場排水、紫外線などの外部環境、発がん物質、遺伝性、ウイルス(BおよびC型肝炎ウイルス、パピローマウイルス など)や細菌感染(ヘリコバクター・ピロリ菌)などが言われておりますが、別の発想として、常にがん細胞は発生しており、免疫系が正常に働いておればこの発育を阻害するとの考え方があります。一説には1人の人体に1日の5000個ものがん細胞が発生しているとも?、実際には、人間の体内でどれくらいの頻度でがん細胞が発生しているのかは不明な点が多いですが、この考え方を裏付ける事実がいくつかあります。

免疫力vsがん細胞

3.免疫力の低下によりがん細胞の発育を阻害できなくなる

 がんの発育を免疫系が阻害していることを裏付ける事柄として、第一は、がんは免疫力が低下する高齢者に発症しやすい点です。ナチュラルキラー細胞に代表される免疫細胞の働きは20歳代がピークで50歳代には約半分となるとされます。別の事例として、人為的、あるいは後天的に免疫力を低下させた状態、免疫抑制剤投与例や放射線の被曝において、効率にがんが発生することが証明されております。

免疫力低下 がん発育

 下図は、もう20年も前のデータですが、米国のある大学における全肝移植術後の、原疾患別の生存曲線であります。“Hepatobiliary cancer”と書かれた白線は術後2年もすると生存率が1割程度まで低下しております。これは、当時、肝胆道系のがんに対して、臓器を入れ替える、すなわち肝移植を行った結果、惨憺たる有様であったことを示しております。普通に外科的切除を行うよりも生存率は不良であり、その原因として、移植臓器に対するの拒絶反応を予防する目的で免疫抑制剤を投与するため、免疫力が低下して早期にがんが再発するためであります。

肝移植の生存曲線
米国、全肝移植後の原疾患別生存曲線

 似たような病態として、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染によって起こる後天性免疫不全症候群(AIDS)で、やはり効率にがんが発生します。これも免疫力低下による発がんであります。


◇ がんにおける免疫寛容

 免疫寛容(immune tolerance)とは、特定抗原に対する特異的免疫反応の欠如あるいは抑制状態のことです。以前から、自分の体の細胞や、経口摂取した食べ物などに対して、それを非自己と認識することなく、免疫反応が起こらない現象が確認されておりました。移植された臓器が年単位の時間を経た後に免疫抑制剤を必要としなくなることがあり、これも免疫寛容とされております。ちなみに、全ての抗原に対する免疫反応の欠如あるいは抑制状態は免疫不全と呼ばれ、免疫寛容とは異なる病的状態であります。

1.抑制性(サプレッサー Suppressor)T細胞の提唱

 免疫寛容は、1971年、T細胞を移入することで引き起こされることが証明され、獲得免疫反応をもつある種のT細胞が、頃合いを見計らって免疫反応を終了させると考えられ、「抑制性(サプレッサー Suppressor)T細胞」の存在が考えられておりました。私事ですが、昭和の時代、1980年代に学生であった私は「免疫学イラストレイテッド」を片手に生化学で免疫の勉強をしましたが、講義でも教科書でもサプレッサーT細胞を学びました。

免疫学イラストレイテッド

 しかしながら、この抑制性T細胞は単なる概念に過ぎず、実態がつかめない、それどころか分子生物学的にありえないものであることが判明し、議論は宙に浮いた状態が続きました。

2.制御性(レギュラトリー regulatory)T細胞の発見

 1980年代になって、T細胞を移入すると免疫寛容が起こること、逆にある種のT細胞のグループ(サブセット)を取り除くと自己免疫疾患の病態が出現することから、やはり、何がしか免疫を制御する機構(細胞)が存在するはずであると研究は続けられ、1995年、ついに京都大学の 坂口 志文 博士らによって、インターロイキン-2受容体α鎖であるCD25分子を発現するT細胞が自己免疫疾患を抑制する機能を有することが明らかにされ、「制御性(レギュラトリー regulatory)T細胞」命名されました。

制御性T細胞のマウスの実験

3.制御性(レギュラトリー regulatory)T細胞によるがんの免疫寛容

 がん組織に対して、上述のCD25分子を特異的に染色したところ、制御性T細胞ががん細胞に浸潤、結合していることが判明しました。

がんにおける制御性T細胞

 さらなる研究の末、現在では、がん細胞が産生するPD-L1と言う物質が制御性T細胞のPD-1受容体と結合することで、免疫寛容を誘発し、免疫系によるがん細胞への攻撃が抑制されていることが解りました。

制御性T細胞によるがんの免疫寛容


◇ がん免疫寛容に対する免疫療法の実際

 ここまで申し上げましたがんの免疫寛容を阻害、あるいはこの機構を利用した新しいがん免疫療法がすでに始まっており、また今後の臨床応用を目指した研究がなされております。

1.オプジーボ(ニボルマブ)によるPD-1抑制効果

 オプジーボ(ニボルマブ Nivolumab)は、京都大学医学部 本庶 佑 博士の研究チームが開発に貢献した、ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体で、2014年9月、小野薬品工業より発売許可され、切除不能な悪性黒色腫(メラノーマ)に認可され、2015年12月には切除不能な進行、再発非小細胞肺癌、腎細胞癌に適応拡大となった分子標的治療薬の一つであります。

オプジーボ製剤

 作用機序は、オプジーボが制御性T細胞のPD-1受容体に結合することで、がん細胞のPD-L1と制御性T細胞の結合を阻止し、免疫寛容を抑制、免疫細胞によるがん細胞攻撃を促すと言うものであります。

オプジーボの機序

 海外で行われた扁平上皮がんを対象とした臨床試験では(下図)、標準治療のタキソテールと比較して死亡リスクが41%低減し、全生存期間(Overall survival, OS)が延長しました。1年生存率はオプジーボ群が42%、タキソテール群が24%、OSの中央値はオプジーボ群が9.5ヶ月、タキソテール群が6.0ヶ月、奏効率はオプジーボ群20%、タキソテール群で9%でありました(Presented By David Spigel at 2015 ASCO Annual Meeting)。

オプジーボの肺扁平上皮がんに対する成績

2.近赤外線による「光免疫療法」

 こちらはまだ実験段階でありますが、動物実験でかなりの効果が証明されております。制御性T細胞と結合するタンパクに、700ナノメーターの近赤外線を照射すると光エネルギーを吸収して化学反応を起こして熱を発する体内色素「IR700」を結合させた物質を担がん動物に投与して、近赤外線を照射したところ、原発巣、転移巣ともにがん組織が消滅したとのことです。このメカニズムとして2つ、まずはオプジーボと同様、制御性T細胞によるがん免疫寛容を阻害することで免疫系によるがんへの攻撃を促すもので、具体的には近赤外線の光エネルギーで制御性T細胞を破壊するとされます。今1つは、すでに制御性T細胞と結合しているがん細胞ごと近赤外線の光エネルギーで破壊する、というのが同治療法の機序となっております。

近赤外線の効果02

近赤外線による破壊01


◇ あとがき

 自然科学は10年もすると大きく変動します。とりわけ、人間の生命に関する分野は、大きなお金が動くと同時に、日進月歩の研究開発が進められております。私は主として外来にて化学療法(抗がん剤治療)の患者を多数抱えて、効果があったなかったと一喜一憂しております。共にがんと闘う患者、言うなれば、同士たちに強く思うこと、心から伝えたいことは、今の治療(化学療法)は万全ではないけれど、免疫療法はじめ、来るべく未来のより有効な治療に向けて時間稼ぎをして行こう!、と言うことであります。

《特集》ビールとその周辺飲料のプリン体含有量


 先週の昼食会で、帝人ファーマの医薬情報担当者(medical representative、MR)より痛風治療薬「フェブリク錠」の製品説明を受けました。体内で尿酸を作る酵素の働きを抑え、血液中の尿酸の量を低下させる薬剤で、痛風、高尿酸血症に適応が通っているとのことでした。

フェブリク錠 PR写真

 その説明スライドの中にビールの銘柄別のプリン体含有量の表があって、製品によって組成が違うのは当然のことと思っておりましたが、それにしてもばらつきが激しいものと、軽く驚きました。今回、日本で手に入るビールとその周辺飲料について、プリン体含有量の表を作りましたので、日本で売られているものに当てはまる若干の注釈をつけてご紹介いたします。


◇ ビール

1.我が国におけるビールの語源と定義

 英語ではビアー(beer)であるビール(bier)はオランダ語であり、江戸時代の享保9年(1724年)にオランダ人が日本に持ち込んだのが語源とされます。ビールの定義は、主に大麦を発芽させた麦芽を、ビール酵母でアルコール発酵させて作られるアルコール飲料とされ、厳密な定義は国によって異なります。日本では酒税法でビールの定義が次のように定められております。

(イ)麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの。(アルコール分が20度未満のもの)
(ロ)麦芽、ホップ、水、及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの。
   (アルコール分が20度未満のもの) 但し、その原料中当該政令で定める物品の
   重量の合計が麦芽の重量の100分の50を超えないものに限る。


 難しい言い回しとなっておりますが、言い代えると、原則、ビールの原料とは麦芽とホップと水であるが、麦芽使用量の半分の量までならトウモロコシ、米、コーンスターチなどを副原料として加えても良い、と言うことのようです。

2.「生=ドラフト」ビール

 日本においては「生ビール」=「ドラフト・ビール」であり、これは製造工程で熱処理をしていないビールを指します。これは、製造から販売までの間の発酵を止めるために、従来の熱処理にて酵母菌を死滅させたのに対して、1967年、サントリーが開発した、プラスチックやセラミック製の膜をつけた「ミクロフィルター(精密濾過装置)」で、酵母菌を除去する方法に基づくものであります。
 非加熱ではなく熱処理したビールは「熱処理ビール」であり、アサヒビールの「アサヒスタウト」、キリンの「クラシックラガー」、サッポロビールの「サッポロラガー」が挙げられ、名称に「ラガー」が付けられることが多いようですが、次に触れる通り、ラガー・ビールとは「下面発酵酵母を使用した、貯蔵工程で熟成させたビール」とされており、熱処理の有無とは無関係であります。
 また、ドラフト(draft, draught)と言うと樽を惹起しがちですが、熱処理をしていなければ瓶でも缶でも生ビールとして扱われます。

3.エール・ビールとラガー・ビール

 ビールの分類として、醸造法と酵母の種類により、「上面発酵」の「エール」と「下面発酵」の「ラガー」に大別されます。「上面発酵」の「エール」の方が醸造が容易とされ、19世紀以前はエールが主流でありました。
 「エール」は、出芽酵母を用いて、常温で短い時間で発酵を行い、盛んに炭酸ガスを出すために、酵母が浮かび上面で層を作るために「上面発酵」と呼ばれます。複雑な香りと深いコクを特徴とし、主なスタイルとしてペールエール、スタウト、アルトビール、ケルシュ、ヴァイツェンなどがあります。
 「ラガー」は、10℃以下の低温で長時間の発酵を行い、酵母は沈殿するため、エールの「上面発酵」に対して「下面発酵」と呼ばれています。冷蔵庫が発明された19世紀以降、瞬く間に世界のビールの主流となりました。すっきりとした味わいで、ピルスナーがその代表です。

ベイスターズラガーとエール
横浜ベイスターズで製造発売しているベイスターズ・エールとベイスターズ・ラガー

3.ビールの銘柄別組成

 日本で発売されているビールの、銘柄別のアルコール分(%)、350 mlあたりのカロリー(kcal)、糖質(g)、プリン体(mg)を、プリン体が多い順に並べた表をご用意いたしました。カロリー、糖質、プリン体については含有量ですので、500 ml缶では350 mlの約1.43倍に相当いたします。

【ビールの銘柄別組成(350 mlあたり)】
ビール データ

 ざっと見て、アルコール分に関しては4.5〜6.5%(平均5.35%)の範囲内に収まっており、それほど大きなばらつきはありませんでした。一方、糖質は9.1〜22.8 g、平均11.6 gで、カロリーは123〜259 kcalと幅があり、平均157.2 kcalでありました。プリン体についても同様で、最も多い「サッポロ 百人のキセキ 魅惑の黄金エール」が49.0 mgであるのに対し、「アサヒ スーパードライ」は約1/3の17.5 mgで、平均は30.6 mgでありました。
 身近な銘柄別に見て参りますと、プリン体は、人気の高いサッポロ「エビスビール」で38.5 mg、サントリー「プレミアムモルツ」は33.3 mgと平均を超えており、サントリー「モルツ」29.4 mg、「サッポロ 生ビール 黒ラベル」が26.3 mgと平均以下、「キリンラガー」が24.2 mgと低く、「アサヒ スーパードライ」類が10 mg代とさらに低く抑えられておりました。

エビスビールPR
サッポロ「エビスビール」(プリン体 38.5 mg/350 ml)

プレミアムモルツ PR
サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」(プリン体 33.3 mg/350 ml)

キリン一番搾り生
キリン「キリン 一番搾り 生ビール」(プリン体 30.8 mg/350 ml)

サッポロ生黒ラベル写真
サッポロ「サッポロ生 黒ラベル」(プリン体 26.3 mg/350 ml)

キリンラガー PR
キリン「キリン ラガービール」(プリン体 24.2 mg/350 ml)

アサヒスーパードライ
アサヒ「アサヒ スーパードライ」(プリン体 17-5-21.0 mg/350 ml)


◇ 発泡酒

1.発泡酒の定義

 日本の酒税法で酒類の一つに定義されており、狭義には、麦芽比率の低い(50%未満)、あるいは麦・水・ホップと定められた副原料以外のものを使用してビールと同等な製法で作られたビール風アルコール飲料とされますが、広義では「炭酸ガスを含んだ酒」という意味があり、具体的には、ビール類似アルコール飲料、いわゆる第三のビールなど、シャンパンなどのスパークリングワイン、発泡日本酒などを指す場合にも用いられる事もあります。ここでは、狭義の「ビール風アルコール飲料」のみを対象といたします。

2.発泡酒の銘柄別組成

 ビールと同様に、発泡酒について、日本で発売されているものの、銘柄別アルコール分(%)、350 mlあたりのカロリー(kcal)、糖質(g)、プリン体(mg)を、プリン体が多い順に並べた表を提示します。

【発泡酒の銘柄別組成(350 mlあたり)】
発泡酒 データ

 発泡酒の組成として、アルコール分はビールと同様に銘柄による差異は少なく、平均すると4.57%でビール(5.35%)よりも1割5分ほど軽くなっております。糖質は、ビールと異なり0〜2.8 gと低いものが散見され、カロリーも低く抑えられておりますが、それを除くと9.1〜19.5 gとビールとほぼ同等な糖質量とカロリーであります。プリン体の少なさは顕著であり、最も含有量の多い、キリン「淡麗 極上〈生〉」でも15.4 mgと、ビールで最もプリン体の少ないアサヒ「スーパードライ」(17.5〜21.0 mg)より少ない値であります。プリン体も糖質と同様、アサヒ「スタイルフリー(プリン体ゼロ)」など、含有量0.0 mgの銘柄もあります。

発泡酒 写真


◇ 第三のビール

1.第三のビールの定義

 ビール、発泡酒とは別の原料、製法で作られた、ビール風味の発泡アルコール飲料の名称でありますが、「第三の」と言う用語はビール、発泡酒に続くと意味で作られた言葉であり、厳密にはビールではないので正しくありませんが定着しております。メーカーではビールとの誤認を避けるため「新ジャンル」と言う言葉を使っております。

2.第三のビールの銘柄別組成

【第三のビールの銘柄別組成(350 mlあたり)】
新ジャンルビール データ

 第三のビールの場合、材料、製法が多岐に渡るため、アルコール分、カロリー、糖質、プリン体の含有量は銘柄によって幅があります。例えば「キリン のどごしオールライト」はアルコール分 2.5〜3.5%、カロリー 63 kcal、糖質0、プリン体0と極めて軽い仕様となっておりますが、「サッポロ 麦とホップ〈黒〉」における糖質は 14.0 g、プリン体 35.0 mgと、ビールの平均値を超える含有量となっています。

第三のビール写真


◇ ビールテイスト飲料

1.ビールテイスト飲料の定義

 ノンアルコール飲料の一種で、ビール風味の発泡性炭酸飲料のことです。ノンアルコールビール、ビアテイスト飲料、ビール風味飲料、ノンアルコールビールテイスト飲料などとも呼ばれます。

2.ビールテイスト飲料の銘柄別組成

【ビールテイスト飲料の銘柄別組成(350 mlあたり)】
ビールテイスト データ

 全銘柄でアルコール分は0.0%であり、「アサヒ ドライフリー」、サントリー「オールフリー」はカロリー、糖質、プリン体も0となっております。アルコールが0な分、概ねカロリーが低めで、プリン体も最高で14.0 mgと低含有量であります。

ノンアルコールビール写真


◇ あとがき

 昨今の健康ブームから飲食物中の栄養成分やカロリーが話題として取り上げられやすくなっており、糖質やプリン体も重要な位置付けとなっております。あまり知られていないことかも知れませんが、焼酎とウイスキーには糖質もプリン体もほとんど含まれてはいず、日本酒では糖質はビールとほぼ同等、プリン体はビールの5分の1程度であります。ワインは、プリン体はほとんど問題にはなりませんが、糖質は白ワインでビールの半分くらい、赤ではビールの3分の1くらいの含有量です。こうしていくつかのアルコールを列挙しますと、ビールが最も糖質とプリン体が多く含まれ、健康によろしくないと思われます。それでいて、「生中」などと言って、ジョッキで何杯も、大量に飲まれるのも、他とは異なる性質のアルコール飲料であります。
 今回、ビールとその周辺飲料の組成を勉強しました。酒税法で定義されるところのビールでも、プリン体については、その含有量が、多いものから少ないものまで、倍以上の開きがありました。自分の中で、好みが同じような位置付けの銘柄があるとしたら、プリン体が少ないものを選択する余地があると思います。また、発泡酒は、多くの銘柄で明らかにプリン体含有量が少なく、糖質も制限されておりましたので、ビールに代わる健康的なアルコール飲料でありますが、第三のビール(新ジャンル)と呼ばれるものの中には、ビールと同等かビールの平均を超えるプリン体を含有するものが含まれることが判りました。
 飲食が健康に及ぼす影響が多大であることは言うまでもありません。ビールとその周辺飲料の銘柄選びも、十分に健康対策になると考えられました。

睡眠薬 小辞典


 ある日の外来、胆道癌術後に外来化学療法をやっている患者から、現在、内服中の睡眠薬ではあまりよく眠れないとの訴えがありました。具体的には、夜の10時過ぎにレンドルミンを服用してきたものの、寝つきが今ひとつで、しかも明け方に目が覚めて、翌日には薬の作用が残っているような頭が重い感じがするとのことでした。
 中年以降の患者からのこうした訴えは少なくないのですが、果たして現在の内服薬よりも強力なものを処方するか、その逆かは難しいところです。まさか、抗癌剤治療をやっている受け持ちの患者を、不眠と言う理由だけで精神科なりに紹介するのは気が引けますので、「まず1週間ずつ薬を変えて変化を見てみましょう」とお話して、マイスリーに処方を変えてみました。その根拠は極めて薄く、短時間作用薬から超短時間に変えることで、切れ味鋭く速やかに入眠いただき、速い血中半減期で翌日の頭重感を避けることに主眼をおきました。
 1週間したところで再来に来た患者、「あれはすごく良かったです!」と明るい表情でありました。明け方の目覚めはまだあるものの、それはそれほど苦痛にはならず、何より入眠が速やかで翌日に残らないことを喜んでいました。ホッと胸をなでおろし、「この手は使えるな!」と実感しましたが、外科医が出す睡眠薬なんてそんなものです。

 そうしたことがあって、せっかくの機会なので、睡眠薬について勉強し、ここにまとめておこうかと思いました。まずは薬剤の組成と作用機序による分類をご紹介し、次いで、ベンゾジアゼピン作動性睡眠薬および非ベンゾジアゼピン系睡眠薬について、最高血中濃度到達時間(T max、時間)、血中消失半減期(T 1/2、時間)に基づき作用時間毎に詳しく解説して参ります。


◇ 睡眠薬の分類

1.バルビツール(Barbiturate)酸系睡眠薬

 バルビツール(Barbiturate)酸系睡眠薬は、1950年代に使われ始めた最古の睡眠薬とされますが、現在では注射薬の「フェノバール」として病院で鎮静目的に使用されるくらいで、睡眠薬としてはほとんど使用されておりません。バルビツールは、中枢神経系における神経伝達物質の中で抑制アミノ酸であるγアミノ酪酸(GABA)が結合するGABA受容体に結合することにより神経遮断を引き起こすとされています。効果は強いのですが、呼吸抑制や重篤な不整脈などの副作用が認められ、また常用することで効果が薄くなる「耐性」、常用により服用しないではいられず、離脱症状も伴う「依存性」が見られます。飲み薬としては、「ベゲタミン」、「ラボナ」、「イソミタール」、「バルビタール」(いずれも商品名)がそれですが、極力、処方すべきではないとされております。

220px-イソミタール


2.ベンゾジアゼピン作動性睡眠薬

 ベンゾジアゼピン(benzodiazepine)作動性睡眠薬は、1960年代より登場し、バルビツールに取って代わり、現在の主流である睡眠薬、抗不安薬です。バルビツールと同様、中枢神経のGABA受容体に結合することにより神経遮断を引き起こしますが、薬剤によって作用時間が異なり、短時間型、中間型、長時間型の作用に分類されております。短時間と中間型作用のベンゾジアゼピンは不眠症の治療に望まし9、長時間型は、不安の治療のために推奨されております。耐性、依存性、連用による離脱症状が指摘されており、長期の持続投与では慎重を要すとされます。
 作用時間が短い順に、「ハルシオン」、「デパス」、「レンドルミン」、「リスミー」、「エパミール」、「ロラメット」、「ロヒプノール」、「サイレース」、「ユールジン」、「ベンザリン」、「ネルボン」、「ドラール」、「ダルメート」、「ソメリン」が商品化されております。


3.非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

 非ベンゾジアゼピン(nonbenzodiazepine)系睡眠薬は、ベンゾジアゼピン様(benzodiazepine-like)薬とも呼ばれ、ベンゾジアゼピン系に似ていないか全く別の化学構造にもかかわらず、薬理学的にベンゾジアゼピン系に類似した作用を有する薬剤です。すなわち、GABAA受容体の正のアロステリック調節因子であり、ベンゾジアゼピン系薬と同様、ベンゾジアゼピン部位の受容体複合体に結合し活性化することによって作用を発揮します。ふらつきや筋弛緩作用が少なく、耐性や依存性についてもベンゾジアゼピン系薬よりも軽度であり、安全性が高いとされます。
 「マイスリー」、「アモバン」、「ルネスタ」がこの範疇であり、いずれも超短時間作用型に分類され、最高血中濃度到達時間は0.7-1.5時間程度で、血中消失半減期は2-5時間とされます。


4.メラトニン受容体作動薬 ラメルテオン:ロゼレム(武田)

 動物の脳は夜になると、視床下部と言う部位からメラトニン(melatonin)と言うホルモンが分泌され、これが視交叉上核にあるメラトニン受容体に作用することで自然な眠気を感じ、眠りにつきやすい体制が作られます。このメカニズムを利用したのがメラトニン受容体作動薬です。他の睡眠薬は、薬の力で強制的に眠らせるものですが、メラトニン受容体作動薬は、自然に近い機序で眠りにつかせることができるのが最大の特徴です。自然な眠気を後押ししてくれる薬剤なので、 大きな副作用はなく、耐性や依存性もない、安全性が高い睡眠薬ですが、その分、作用も強くはありません。

【効能・効果】
 不眠症における入眠困難の改善

【最高血中濃度到達時間 T max】
 0.75 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 0.94 h

ロゼレム


5.オレキシン受容体拮抗薬 スポレキサント:ベルソムラ(MSD)

 オレキシン(orexin)は、1998年に発見された神経ペプチドで、ヒポクレチン (hypocretin) とも呼ばれます。視床下部外側野に存在する神経細胞が産生しているオレキシンは、食欲や報酬系に関わるほか、睡眠や覚醒を制御することが知られており、オレキシンをつくる神経細胞が消滅すると、ナルコレプシーという睡眠障害になります。オレキシン受容体拮抗薬はオレキシンのはたらきをブロックすることで脳の覚醒レベルを落とし、眠りに導く薬剤にです。ベンゾジアゼピン系と比べると効果はやや劣りますが、耐性、依存性はほとんどなく、日中の眠気の持ち越しが少ないという利点があります。

【効能・効果】
 不眠症

【最高血中濃度到達時間 T max】
 1.5 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 10 h

ベルソムラ


◇ 超短時間作用型睡眠薬

1.ゾルビデム酒石酸塩:マイスリー(アステラス・アベンティス)

【効能・効果】
 不眠症(統合失調症および鬱病に伴う不眠症は除く)

【最高血中濃度到達時間 T max】
 0.7-0.9 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 2 h

マイスリー


2.トリアゾラム:ハルシオン(ファイザー)

【効能・効果】
 不眠症、麻酔前投薬

【最高血中濃度到達時間 T max】
 1.2 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 2-4 h

ハルシオン


3.ゾビクロン:アモバン(アベンティス、日医工)

【効能・効果】
 不眠症、麻酔前投薬

【最高血中濃度到達時間 T max】
 0.75-1.17 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 4 h

アモバン


4.エスゾピクロン:ルネスタ(エーザイ)

【効能・効果】
 不眠症

【最高血中濃度到達時間 T max】
 1-1.5 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 5 h

ルネスタ


◇ 短時間作用型睡眠薬

1.エチゾラム:デパス(田辺三菱、吉富)

【効能・効果】
 1)神経症における不安、緊張、抑うつ、神経衰弱症状、睡眠障害
 2)鬱病における不安、緊張、睡眠障害
 3)心身症における身体症候ならびに不安、緊張、抑うつ、睡眠障害
 4)統合失調症における睡眠障害
 5)次の疾患における不安、緊張、抑うつおよび筋緊張;頸椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛

【最高血中濃度到達時間 T max】
 3.3 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 6 h

デパス


2.ブロチゾラム:レンドルミン(日本ベーリンガー、インゲルハイム)

【効能・効果】
 不眠症、麻酔前投薬

【最高血中濃度到達時間 T max】
 1-1.5 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 7 h

レンドルミン


3.リルマザホン塩酸塩:リスミー(塩野義)

【効能・効果】
 不眠症、麻酔前投薬

【最高血中濃度到達時間 T max】
 3 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 10 h

リスミー


4.ロルメタゼパム:エパミール(バイエル)、ロラメット(あすか製薬、武田)

【効能・効果】
 不眠症

【最高血中濃度到達時間 T max】
 1-2 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 10 h

エパミール

ロラメット


◇ 中間作用型睡眠薬

1.フルニトラゼパム:ロヒプノール(中外)、サイレース(エーザイ)

【効能・効果】
 不眠症、麻酔前投薬

【最高血中濃度到達時間 T max】
 1-2 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 24 h

ロヒプノール

サイレース


2.エスタゾラム:ユーロジン(武田)

【効能・効果】
 不眠症、麻酔前投薬

【最高血中濃度到達時間 T max】
 5 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 24 h

ユーロジン


3.ニトラゼパム:ベンザリン(塩野義)、ネルボン(第一三共)

【効能・効果】
 1)不眠症
 2)麻酔前投薬
 3)異型小発作群;点頭てんかん、ミオクロヌス発作、失立発作 等
 4)焦点性発作;焦点性痙攣発作、精神運動発作、自律神経発作 等

【最高血中濃度到達時間 T max】
 1.6-2 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 28 h

ベンザリン

ネルボン


◇ 長時間作用型睡眠薬

1.クアゼパム:ドラール(田辺三菱、久光、吉富)

【効能・効果】
 不眠症、麻酔前投薬

【最高血中濃度到達時間 T max】
 3.42 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 36 h

ドラール


2.フルラゼパム塩酸塩:ダルメート(共和)

【効能・効果】
 不眠症、麻酔前投薬

【最高血中濃度到達時間 T max】
 1 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 65 h

ダルメート


3.ハロキサゾラム:ソメリン(第一三共)

【効能・効果】
 不眠症

【最高血中濃度到達時間 T max】
 4 h

【血中消失半減期 T 1/2】
 85 h

ソメリン


◇ 各種睡眠薬の形状・作用時間 一覧

睡眠薬一覧


◇ あとがき

 文献、ネットから睡眠薬を列挙させていただきました。当たり前のことですが、薬剤によって、作用の効果発現までの時間、血中半減期にかなりの幅があることが分かります。患者の体質や生活習慣により効果が不定であり、薬剤の選定には試行錯誤が必要であることは言うまでもありませんが、大原則は、「眠れないから睡眠薬!」と安易な処方から依存してしまうのではなく、まずは薬に頼ることなく症状改善を目指すこと、作用の軽い薬剤から開始することでありますね。

医療に生かされる


 あるコミュニティに参加した時に「日本の平均寿命が世界一である、それはなぜだと思いますか?」と言う質問がコメンテーターから出て、場内のある人が「胃瘻や点滴で医療によって寝たきりの人を生かしているから」と返答し、「はい!、その通りですね!」と、そうした方向に結論が向かう会合でありました。この手の題材として、昨年4月の本ブログの投稿で、「『平均寿命』に見えるもの、『健康寿命』から教えられること」と題して、ネットから平均寿命について勉強させていただきました。

 2015/04/04 「平均寿命」に見えるもの、「健康寿命」から教えられること

 この中で、日本の女性の場合、「不健康期間」は世界で唯一10年を超えて最長であるものの、「健康寿命」も世界一であることをご紹介しました。いわゆる「寝たきり」の「不健康期間」の延長のみが平均寿命の延長に繋がっているものではない、と言うものです。
 しかしながら、平均寿命延長の原因論としては不適切としても、「胃瘻や点滴で現代医療が寝たきりの人を生かしている」と言うコメントは間違ってはいません。良い悪いに言及するものではありませんが、そうした側面が医療にはあって、携わる人間の不足や医療費などの社会的側面、患者の人間の尊厳と言った部分でしばしば議論されるところです。
 ここでは、遠い昔の、療養所病院で見た患者をご紹介して、現代も続いている「医療に生かされる」と言う現状について私見を申し上げたいと存じます。なお、個人情報に配慮して、時期と場所は特定せず、若干の脚色、フィクションを加えた表現といたします。


◇ 胃瘻からの経管栄養で手足を抑制された女性患者

 大学院の頃ですのでもう20年以上前、ある「○○療養所○○病院」と言う、慢性期の療養型、障害者向けの病院に、休日の日当直のアルバイトに行きました。医局でのんびりしていると、病棟からの電話で、胃瘻から入れているエレンタール(経管栄養剤)の流入が緩慢で詰まりがちなので見て欲しいとのことでした。そんなの水道水でもフラッシュすればいいのでは?、などと思いながら階段を上がって病室へ行くと、あまり日常では見たことがない光景に出会いました。
 6人部屋で、カーテンで隔てられることなく、女性のお年寄りがベッドに仰向けになっており、腰が曲がって、顎を突き出して、うつろな目を頭側の壁に向けて無表情で寝ておりました。下に枕が当てがわれた膝は屈曲しており、両手両足は、手首足首のところで縛られてベッドに固定されております。着衣の胸の間からチューブが出ていて経管栄養のボトルに連結、栄養剤が自然落下で注入されており、そのスピードがいつもより遅いとのこと、、、。

 *****

【経管栄養/胃瘻】

 食事摂取ができない患者に対して静脈内(点滴)ではなく、消化管に栄養剤を注入する方法を経管栄養(Tube feeding)と言います。その投与経路として、鼻から胃内に留置したチューブを経鼻胃管(Nasogastric, NG, tube)、内視鏡的に腹壁を貫通して胃内にチューブを留置する処置を胃瘻(Percutaneous endoscopic gastrostomy, PEG)と言います。

 *****


 カテーテル・チップ(太い注射器)に微温湯をもらってチューブからフラッシュしてみると、最初は抵抗がありましたが、スッと速やかな注入が可能となり、「やっぱりカスかなんかが詰まり気味だったんですね」と申し上げました。ついでに「どういう方なんですか?」と尋ねたところ「89歳、老人性痴呆で、もうかなり長いですが、家族はずっと来ていません」との返事が返って来ました。今はあまり使われなくなった言葉「老人性痴呆」ですが、重度の(アルツハイマー型?)認知症だったのだろうと思います。「(手足の)抑制は必要なんですか?」と聞いたら、「大人しくしているようで、今まで何回か胃瘻チューブを抜かれちゃったんですよ」とのことでした。
 医者になってまだ数年、急性期の病院で1年半の研修をした後、大学病院にいる身でしたので、こうした老年医療に携わることはなく、ほとんど初めて、医療の、ある側面を観た気がしました。時々瞬きをしながら、つり上がった目で何かを見つめている、何を考えているのか?、あるいは何も考えていないのか?、ベッドに手足を縛り付けられた老婆の病室を後にしながら、何となく暗い気持ちになったのが思い出されます。


◇ ほとんど意識はないのに経口摂取している

 同じ日の夕刻、処方が切れている患者がいるのでお願いしますとの連絡を受け病棟に向かいました。階段を上がってすぐの病室で、看護師が女性の患者さんに食事を食べさせているところに遭遇しました。こちらも90前後と思われるご老人で、「自分では食べられないのですか?」と尋ねたら、「そうですね、脳梗塞で麻痺があって、それに意志の疎通は全くありません」とのことでした。麻痺があるので手足の抑制は不要のようでした。
 「よく噛んでね、少しずつ飲み込んでね」との声かけに聞こえているのかいないのか?、虚ろな目をして、本能的に、口に運ばれるお粥をただもぐもぐと咀嚼して飲み込む繰り返し、声を発することも、笑顔を見せることもありません。顔の表情からはほとんど精神活動はしていない、ただ目の前の、言葉は悪いですが「餌(エサ)」を食べる、動物のような姿がそこにありました。
 口から食べられているのだから、人間的な生活と言えば言えなくもないのかな?、と思われましたが、あまりに無表情で、ただ口に運ばれたものを飲み込んで、とても食べ物を味わう様子ではない、生命を維持するためだけの動物的行為のようで、後味の悪いものを見てしまったような気持ちにさせられました。こちらの患者さまも、ご家族は久しく来院していないとのことでした。


◇ 中心静脈カテーテルからの高カロリー輸液で高熱を発した100歳男性

 別の日の日曜日、またも目を疑うような「人間」の姿を目の当たりにしました。中心静脈カテーテルから高カロリー輸液を行っている脳出血後、100歳男性の患者さんが、前日の土曜日午後から39℃台の発熱があるとのこと、、、。なんでも、かつては胃瘻を増設して経管栄養にしていたそうですが、しばしば食道の方に逆流してくるため、気管に入って気管支炎から肺炎を起こしかねないとのことで、点滴による管理となったようです。

 *****

【高カロリー輸液/中心静脈カテーテル】

 高カロリー輸液(Intravenous hyperalimentation, IVH または Total parenteral nutritio, TPN)とは、経口摂取不能の患者に対して、生命を維持するために必要な栄養分を点滴で補充する方法で、投与する輸液が高濃度となるため末梢の静脈は利用できず、そのためのルートとして心臓に近い大静脈にカテーテルを留置する、それを中心静脈(Central venous、CV)カテーテルと言います。

 *****


 まずは病棟の看護師詰め所に行って、当然のごとく電子カルテのない時代ですので、温度板と言う紙の板に色鉛筆で記載された熱型を見て、スパイク・フィーバーを確認し、中心静脈カテーテルからの感染を疑いつつ患者さんの診察に向かいました。
 北側に面した6人部屋の右側、真ん中のベッドにその患者さんはいました。カーテンを開けたところ、思わず息をのみました。全身、骨と皮のミイラのように縮んだ体が小さく丸まって、ベッドの半分にも満たない片隅に横たわっておりました。もちろん意識があるようには見えず、両腕は胸の前に「×(バツ)」の字を描いて組んでおり、左右の脚も付け根から屈曲して交差させています。咄嗟には人間とは思えない、微動だにしない物体を前にして、思わず「呼吸しているの?、いつもこうなの?」と尋ねたら、呼吸状態は問題なく、手と脚は拘縮して動かない、もちろん、脳内出血を発症して以来、急性期の病院から紹介、転院を通じて、現在に至るまで意識はないとのことでありました。もう100歳ですので、配偶者は他界しており、入院時の連絡先であった甥(おい)と言う人もどこぞの施設に入所しており、代理人と言う人が患者さんの年金から医療費を支払っているとのことでした。
 尿カテーテルの留置尿はスパイク・フィーバーを起こすほどには濁ってはいず、呼吸状態は安定して痰がらみもありません。中心静脈カテーテルが左脚の付け根、大腿静脈より挿入留置されており、同部位の場合、股間に近いので、しばしばその刺入部からの感染が起こります。丸まって拘縮した下肢の付け根、抜くのも大変そうな、どうやって挿入したのか分かりません、中心静脈カテーテルを抜去するのを主治医の先生に連絡して了解を得ました。抜いたカテーテルの先端を培養に出し、血液培養とカンジタ(真菌)のチェックを行って、末梢からの維持輸液と抗生剤の点滴をオーダーしてその日は終わりました。


◇「医療に生かされる」人々に接して

 上で申し上げてような患者さんが、そのアルバイトに行った病院の入院患者のどれくらいの割合を占めるのか?、一般の病院ではどうなのか?、詳しいことは知りませんが、その後の医者生活で、同じような患者さんを様々な病院で数え切れないほどに見かけましたし、この20年以上、ほとんど医療側の対応は変わっていないと断言できます。
 こうした、寝たきりのご老人に対する、昭和の後期から平成に至るまでの医療について、初めて観た時には驚きましたし、暗い気持ちにもなりました。これで良いのであろうか?、疑問と批判も持ちました。でも、そうではない、「仕方がない」と言う気持ちもございます。

 冒頭で申しあげたコミュニティでは、「胃瘻や点滴で現代医療が寝たきりの人を生かしている」とする現代における本邦の医療に極めて批判的な話で終始していました。高い平均寿命のカラクリを(シタリ顔で)説いて、「医療経済学」、医療費の無駄遣いを指摘、「人間の尊厳」やら「尊厳死」にまで言及しておりました。それでいて、具体的にはどうするべきなのか?、何が理想なのか?、には議論が及ばない、そもそも、現実に起こっていること、実際の医療の現場とはかけ離れたところで会話がなされていた、と言うのが実感でありました。

 上の患者さんたちのカルテの表紙には、“DNR”と大きく赤字で書いてありました。“DNR, Do not resuscitation”とは「蘇生術は行わない」を示す略語であり、死に至るような急変時において、心臓マッサージは行わず、人工呼吸器によるサポートも行わないと言う、家族からの承諾書をもらっている、との意味です。最初の、胃瘻の患者さんは、当時から7年前の、息子さんによる承諾書のサインがありましたし、3人目の脳内出血後の全身が丸まって拘縮している患者に至っては13年も前に、「蘇生術は行わない」との承諾書に、他界した奥さんの直筆の署名がありました。
 この“DNR”の承諾書に関しては、20数年前の療養所病院と現在とで大きな違いはありません。プリントされた活字の紙に家族が署名する、驚くほどこの四半世紀の間に変わりはありませんでした。寝たきりのご老人に対して(これは末期がん患者にも適応されますが)、急変時には「蘇生術は行わない」と言うのは「医療経済学」にも「人間の尊厳」にも妥当な考え方でありますが、「生命維持に必要な栄養を与えない」とする承諾書はありません。ちょっとしたトラブル、例えば胃瘻チューブが詰まりかけているとか、カテーテル・フィーバーに対する対処は行いません、とする承諾書も存在しませんし、患者家族との間でそんな話に及ぶことは皆無であります。
 ほとんど意識がないけれど不穏になって胃瘻チューブを抜いてしまう患者さんを抑制して、同じく意識は極めて希薄ながら生き永らえる本能だけの患者さんの口に食べ物を運び、さらに昏睡状態の患者さんに高カロリーの点滴を投与して、これらは「医療に生かされる」人々でありますが、「生命維持に必要な栄養を与えない」とすることは、飢餓状態から「死なせる」と言うことであり、死に至る手前のちょっとしたトラブルに対処しないことも、それは、やはり「死なせる」と言う意味であります。誰が「死なせる」のでしょうか?、家族でしょうか?、医療側でしょうか?、それこそ「人間の尊厳」であります。人の死を左右する権利が人にはあるのでしょうか? 患者さんがお元気だった頃に見せた笑顔、自分にかけてくれた言葉、身を持って伝えた生き方があって、その記憶があるから、家族の人は寝たきりとなった患者さんを「死なせる」ことはできません。

 では一方で、ほとんど意識がないと思われる患者さんの気持ちはどうでしょうか? 元気であった頃に、寝たきりになってからの「医療に生かされる」状態を希望されたでしょうか? これに対しては否定的な気持ちになります。「医療に生かされる」状態になってまで生き永らえることを心から希望する人はいないでしょう。
 私は上で申しあげた患者さんたち、手足を抑制しなければ胃瘻チューブを抜いてしまう老婆は、胃瘻チューブを抜くことで「医療に生かされる」のを終わりにしたいと思っていたのかも知れませんし、拘縮して丸く固まった100歳のご老人は中心静脈カテーテルからの感染で、いよいよ「医療に生かされる」、栄養のルートが抜去されて、「蘇生術は行わない」と署名しながらも先に他界した妻のもとへと旅立つチャンスを得たのかも知れないと思わされます。

 簡単にどちらが正しいとか、どうあるべき!、と言えるものではありません。

 寝たきりとなって「医療に生かされる」患者さんがいることは、医療における暗い側面ではありますが、それを無くする方策があるのなら、教えて欲しいと言うのが本音であります。少なくとも、「医療経済学」やら、端から見た薄っぺらな「人間の尊厳」で考えるべきものではなく、もっと人間の死生観に立脚した議論が必要と考える次第です。


加熱梅干しの優れたアンチエイジング効果


 梅干しがダイエットに効く、整腸作用がある、糖代謝を助ける、解毒作用、等々、梅干しの健康食品としての有用性が昔から言われていて、先日、5月10日放送の日テレ「解決!ナイナイアンサー」でご紹介され、改めてその認知度が上がったところであります。多くのサイトで紹介されている梅干しの効果を、当ブログでも一度、まとめておこうと考えました。まずは梅干しの概要をご説明し、ついで梅干しに含まれる成分別にその作用をご紹介、レシピなんかにも触れてまいります。

梅干し写真


◇ 梅干しの概要

 梅干し(うめぼし)とは、ウメの果実を塩漬けした後に日干しにしたものであり、塩漬けのみで日干しを行っていないものは梅漬けと言います。

1.歴史

 梅は中国が原産であります。本来、梅干しは梅酢を作った後の副産物であり、中国では紀元前200年頃より、黒焼きにして腹痛の治癒、虫下し、解熱、腸内の消毒の効用を目的に、食用よりもむしろ漢方薬として用いられておりました。奈良時代くらいまでには日本に伝わったとされ、平安時代の村上天皇が梅干しとこんぶ茶で病を治したと伝えられております。
 戦国時代になると梅干しは保存食としてだけではなく、傷の消毒や戦場での食中毒、伝染病の予防に、陣中食として、なくてはならないものとなりました。梅干しは戦略物資の一つとなり、武将たちは梅の植林を奨励、これは現在でも梅の名所や梅干しの産地として残っています。上杉謙信は酒の肴に梅干しをよく摂っていたと言われます。
 江戸時代になると、梅干しの作り方が現在とほぼ同じであることが「本朝食鑑」(1697年)に記載されています。「熟しかけの梅を取って洗い、塩数升をまぶして二、三日漬け、梅汁ができるのを待って日にさらす。日暮れになれば元の塩汁につけ、翌朝取り出しまた日に干す。数日このようにすれば梅は乾き汁気はなくなり、皺がよって赤みを帯びるので陶磁の壷の中に保存する。生紫蘇の葉で包んだものは赤くなり珍重される。」とあります。
 近代の大戦においては、長期の保存がきき、故郷を偲ぶ味として愛され、前線の兵士は梅干しを携行糧食として好んで携行しました。日中戦争から太平洋戦争において、興亜奉公日や大詔奉戴日に食べることが推奨されました。

2.梅干しの作り方

 梅の実は6月中旬頃、赤紫蘇は6月下旬ごろ出回りますので、その時期が梅干し作りの旬となります。以下に材料と作り方を箇条書きといたします。

【材料】

 梅の実
 塩:梅の15~20%(18%以上ならカビが生えにくい)
 ホワイトリカー(または焼酎):適量
 赤紫蘇:梅の重量の15~30%
 赤紫蘇に使用する塩:赤紫蘇の10~20%

【工程1:塩漬け】

 01)黄色く完熟した梅を用意する。青梅での代用も可能だが、固めの梅干しになる。
 02)流水で梅の実を丁寧に洗う。実を傷つけないよう注意すること。
 03)たっぷりの水に梅の実を入れて、2〜8時間ほどあく抜きをする。
   ※長く漬けすぎると風味が落ちるので注意。よく黄熟した梅ならこの行程を省いてもよい。
 04)ざるにあげ、ふきんで水気を丁寧に拭く。
 05)梅の実についているへたを竹串で丁寧に取り除く。その際、梅の実を傷つけないこと。
 06)黒い斑点があるものや傷ついているものはこの時に取り除いておく。
 07)ボウルに梅の実を入れ、ホワイトリカーをふりかけてなじませる(カビ防止のため)。
 08)清潔な容器の底に塩を敷き梅の実を並べ、その上に塩をまぶし、これを交互に行う。
 09)梅と塩を全部入れ終えたら、落し蓋をして重しを乗せる。
 10)軽く封をして、ほこりなどが入らないようにしておき、暗くて涼しい場所に置く。

【工程2:紫蘇漬け】

 11)赤紫蘇から茎を取り除き、水をかえながらきれいに洗う。
 12)ざるにあげて水気を切る。
 13)赤紫蘇の葉をボウルに入れ、用意した塩の半分量を入れて混ぜ合わせる。
 14)しんなりしてきたら、両手できつく絞ってあく(黒い汁)を出す。
 15)残った塩をもう一度投入して、あくを絞り出すことを繰り返す。
 16)梅の容器の白梅酢(梅を漬け込んだ時にできる白い液体)を赤紫蘇に回しかけてほぐす。
 17)しそ漬けを絞って梅の実の上面に平らに並べ、赤梅酢(赤く染まった白梅酢)も入れる。
 18)ふたと重しをのせて、ほこりが入らないようにして、土用干しまで寝かせておく。

【工程3:土用干し】

 19)7月20日前後、晴天が続く日を選び、梅と赤紫蘇をざるにあけて3日間屋外で干す。
 20)3日目に赤梅酢を赤梅酢の入った容器ごと干しておく。
 21)土用干し後、保存容器に入れ、赤紫蘇を赤梅酢に軽く浸してから梅の上に載せて保存する。
 22)2週間ほどで食べられるが、長期間寝かせることで、まろやかな味になっていく。

※紫蘇なしの方法を白梅干しと言い、上記、【工程2:紫蘇漬け】を省いて塩漬けから土用干しを行います。

3.梅の仁

 梅干しの種の仁(中身)を俗に「天神様」と言い、この部分を好んで食べる人もいます。この俗称は菅原道真の飛梅伝説に由来します。

梅の仁

 しかし、ウメの実には元々青酸配糖体であるアミグダリンという成分が含まれており、これが胃腸などで酵素によって加水分解されると猛毒であるシアン化水素(青酸)を生成します。これは特に仁の部分に多く、多量に食べると青酸中毒に陥り、最悪の場合は死に至る可能性があります。このことから、「梅は食うとも核(さね)食うな、中に天神寝てござる」という格言も存在します。ただし、漬けることでアミグダリンはほぼ消失し、食べても人体にはほとんど影響がないとされています。


◇ クエン酸(Citric acid)

 梅干しの酸味の成分がクエン酸(Citric acid)であり、柑橘類にも含まれます。食品として様々な効能があり、日常生活のあらゆる場面で活躍してくれます。健康や美容目的として食材、ドリンクなどに使われ、洗顔、入浴剤、汚れ落としとして掃除・洗濯などにも用いられており、その汎用性の高さから注目を浴びております。

クエン酸 化学記号

1.クエン酸の疲労快復効果

 クエン酸の効果で、最も代表的な「疲労回復」は以下の3つのメカニズムによるものです。

1)乳酸分解作用

 運動後やストレスなどで蓄積されていく疲労物質である「乳酸」、これを炭酸ガスに分解して尿として排出する作用がクエン酸にあります。また、乳酸は筋肉痛の原因ともなるので、筋肉痛予防としても効果的です。

2)乳酸産生抑制作用

 生物には糖質や脂質をエネルギーとして変換する「クエン酸回路」というものがあります。ここでクエン酸が不足していると、糖質や脂質が十分エネルギーに変換されず、乳酸として蓄積します。クエン酸を十分量摂取することで乳酸の産生を抑制できるのです。

3)新陳代謝の改善

 次に述べます血液サラサラから血流改善効果は体の新陳代謝を改善します。新陳代謝の促進はそのまま疲労快復に繋がります。

2.クエン酸の血流改善効果

 血液が酸性に傾いていると「血液がドロドロ」と言う状態となり、これは動脈硬化、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞、腎障害を引き起こす原因となります。クエン酸は体内でアルカリ性として作用し、血液の酸塩基平衡、pH値を高めて弱アルカリ性の「サラサラな血液」へと変えます。「サラサラな血液」は臓器血流、微小循環を改善し、新陳代謝の促進、集中力向上、美肌効果、冷え性の改善などに繋がります。

3.クエン酸のミネラル吸収促進(キレート作用)

 クエン酸には、ミネラルの吸収を促進する「キレート作用」と呼ばれるものあります。ミネラルは人体が健康・美容を維持するのに非常に重要とされるものであり、現代人が不足しがちとされる栄養素です。このキレート作用の効果を具体的に述べると以下の2つが代表的です。

1)アンチエイジング効果
 老化の原因は細胞の「酸化」であります。クエン酸のキレート作用により、摂取した金属ミネラルが酸化される前にこれを包み込み除去してくれるので、細胞の酸化防止、ひいては老化防止に繋がるのです。また、クエン酸には細胞を酸化する「活性酸素」を除去する作用もあります。

2)発がん予防
 上記の「活性酸素」は、遺伝子を損傷して発がんの原因になるので、これの除去はがんの予防につながります。また、「乳酸の産生抑制作用」で述べた「クエン酸回路」の不全も発がんの一因となるので、クエン酸の摂取によってクエン酸回路を健全に保つこともがん予防につながります。

4.クエン酸の尿酸排泄作用(痛風予防)

 クエン酸は血液中の尿酸を排泄させ、尿酸値を下げる効果があり、痛風を予防します。


◇ ムメフラール(Mumefural)

 ムメフラール(Mumefural)は、1999年、農林水産省食品総合研究所の 菊池 佑二 上席研究官らが発見した成分で、生梅に含まれる糖質の一種、5-ヒドロキシメチルフルフラールとクエン酸が結合して生成される物質、青梅の果汁を煮詰める梅肉エキスの製造過程で生成し、生梅や梅干しには含まれていない成分とされます。ムメフラールは、そのままの梅干しには含まれていませんが、加熱することで先述の反応が起こり、梅干し中に発現、様々なアンチエイジング効果を生み出すとされます。

ムメフラール 化学式

1.ムメフラールの血流改善効果

 クエン酸が血液をアルカリ性にすることによって血液サラサラ効果を生み出しているのに対し、ムメフラールは赤血球に弾力を持たせることで、形を柔軟に変化させ、血液の流れをより速くすることができ、酸素や栄養分を身体の隅々まで早く届けるとされます。クエン酸同様、この血流改善効果が様々な有効性を伴っております。

2.疲労回復とアンチエイジング

 血流改善効果は体内の様々な臓器において新陳代謝を促し、老廃物を除去して、疲労回復や若返りを引き起こします。


◇ バニリン(Vanillin)

 「アイスクリームのバニラでダイエット」と言う言葉を聞いたことはありませんでしょうか? 糖質や乳脂肪分が多くてカロリーを過剰に摂取してしまうアイスクリームを、現時点でダイエットやアンチエイジングとして取り上げるつもりはございませんが、確かに「バニラ・ダイエット」と言う言葉は存在します。これは、バニラ・アイスクリームの香り付けとして使用されるバニラ・ビーンズ(Vanila beans)に含まれるバニリン(Vanillin)と言う物質が体脂肪組織に働きかけ、分解の方向に向かわせることが知られております(下は上段左がアイスクリーム、右がバニラの花、下段はバニリン化学記号)。

アイスクリームとバニラの花

バニリン 化学式

 このバニリンは、摂取された後、小腸で吸収されて脂肪細胞を刺激し、脂肪が燃焼して、細胞自体が小さくなることで体重が減少させると言われます。この物質が梅干しには豊富に含まれており、しかも、同じく含有されているバニリン・グルコシド(Vanillin glucoside)は熱を加えるとバニリンに変化し、梅干し中のバニリンが過熱により20%増量することが解っております。
 バニリンの作用が脂肪燃焼でありますので、内臓脂肪、皮下脂肪などによるメタボの軽減、血中コレステロールの低下、臓器の血流、微小循環の改善を伴う、血液サラサラ効果、動脈硬化の軽減など、アンチエイジング効果は抜群であります。


◇ カテキン酸(Catechin acid)

 梅には他の植物と同様に色素の成分であるフラボノイド(Flavonoid)系梅ポリフェノール(Polyphenol)としてお茶で有名なカテキン酸(Catechin acid)が含まれており、殺菌作用、活生酸素産生抑制作用があります。

カテキン 化学式


◇ 梅リグナン(Lignan)類

 カテキンとは別に、梅には梅固有の非フラボノイド系ポリフェノールが発見されております。フェニルプロパノイド(C6-C3)化合物2つが結合した植物ポリフェノールの1種です。以下に挙げる4つが知られており、総称して梅リグナン(Lignan)類と呼ばれております。それぞれについて有効性をご紹介します。

1.シリンガレシノール(Syringaresinol)

 胃十二指腸潰瘍、慢性萎縮性胃炎、胃がんの主要因であるヘリコバクターピロリ菌の特徴は、運動能力があることで、胃の中を泳いで胃粘膜に感染します。反対に運動能力がなければ感染しません。梅リグナンの一種シリンガレシノール(Syringaresinol)は、活発だったヘリコバクターピロリ菌の動きをぴたりと抑えつけ、死滅させる機能を持っています。

シリンガレシノール化学式

2.ピノレジノール(Pinoresino)

 活性酸素は癌や生活習慣病を引き起こす原因といわれていますが、梅干しに含まれる梅リグナン、ピノレジノール(Pinoresino)には酸化反応を抑制する作用があり、細胞や組織が酸化するのを防ぎます。

ピノレジノール化学式

3.エポキシリオニレシノール(Epoxylioniresinol)

 新型インフルエンザと同じH1N1型のインフルエンザウイルスを感染させたイヌ由来の培養細胞に、梅干しから抽出した成分を加える実験を繰り返し行った結果、約7時間後にウイルスの増殖が約90%抑制されました。世界ではじめて発見したその有効成分はエポキシリオニレシノール(Epoxylioniresinol)と命名されました。

エポキシリオニレシノール化学式

4.リオニレシノール(Lyoniresinol)

 リオニレシノール(Lyoniresinol)と言う梅リグナンも知られており、上述ピノレジノールと同様、酸化反応を抑制する作用から細胞や組織が酸化するのを防ぎます。

リオニレシノール化学式


◇ 加熱梅干しのレシピ

 ご紹介してまいりました通り、梅干しには熱を加えることで発生するムメフラールや、含有量が増加するバニリンがありますので、加熱した梅干しがアンチエイジング効果が高いと考えられます。また、加熱して梅干し内に出現、あるいは増加した物質は冷えてもその含有に変わりはないとされます。そのため、まとめて加熱して冷蔵庫保存で食べても良いとされます。ここでは、単純なレシピをいくつか紹介いたします。

1.単純加熱法

 単純に梅干しを温める方法です。

1)皿に乗せて電子レンジ 500W、30〜50秒
2)アルミホイル包みでオーブン・トースター10〜20分
3)フライパンや焼き網で転がしながら焼く

焼き梅干し写真

2.焼き梅干しとなめこのとろっとあんかけ揚げ出し豆腐

 揚げ出し豆腐、タレ付きになめこと焼き梅干しを和えたものです。なめこを加えることであんかけ風にとろみが加わります。

揚げ出し豆腐と焼き梅干し

3.焼き梅干し入り豚生姜焼き

 梅干しの爽やかさと生姜の風味がベストマッチとされます。普通に生姜焼きを作って、焼き梅干しをほぐして加えるだけです。

梅干し入り生姜焼き

4.梅干し入り紫蘇焼酎(鍛高譚)お湯割り

 梅干しにはやはり紫蘇の香りがぴったりとマッチします。紫蘇で作った焼酎に鍛高譚(たんたかたん)と言うのがあり、これをお湯で割って梅干しを入れてみます。お湯で温ったまりますので、電子レンジ等での加熱は不要と思われます。

タンタカタンで梅焼酎お湯割


死にゆく患者の家族にしてあげられること


 友人と外科医になってまもない頃の話しをしていて、ふと忘れていた、偶然にも、患者家族の心に働きかけていたある行為を思い出しました。

 事故や、今回の熊本地震のような災害で肉親と死に別れることがあると、残された家族にとっては、突然の出来事でなかなか受け入れられない、後々まで尾を引く、ともすると後悔や自責の念にかられる場合もあろうかと存じます。それに比べて、病死、とりわけ悪性腫瘍による死は、発病、手術、化学療法、再発や終末期と言う過程を踏み、患者の弱りゆく姿を見ていますので、ある程度は心の準備ができると言うものです。
 しかしながら、その癌死であっても、家族にとって受け入れられない場合は時としてあります。西洋医学の外側にある様々な「代替統合医療」を希望される場合や、自宅で看取りたいとの希望が叶わぬ場合、私ども医療機関の人間に直接は言ってくることはなくとも、治療を受けた病院に対する不満がある場合もあるでしょうし、がんセンターなどのもっと高次の医療機関で治療を受けさせればよかった、重粒子やサイバーナイフのような先進医療があったはずだ、と言ったは考え方はあろうかと存じます。患者が亡くなり、家族はそのことで後悔したり、医療に疑問を持ったり、そういう感情では誰もが不幸のどん底であり、救われません。
 数え切れないほどの癌で亡くなる患者を診てきて、医学の無力を感じざるを得ないと同時に、亡くなられる患者に対して時として医療は何もしてあげられないことはありますが、残された家族には何かしてあげられることがあるかも知れないと思うようになります。


◇ 大学院を修了した直後

 私が医者となった約30年前は、その昔にあったインターン制度は終わりを告げ、初期研修医制度は始っていず、医局制度の全盛期でありました。大学卒業後、外科の教室に入局と同時に大学院に進学して4年で博士号を修得したところで、医局の命に従いローテードで関連病院に出ました。学位論文が成功したこともあって、症例の多い大きな病院に出させていただきました。

病院 写真0001

 20代後半、それまでの2年間は動物実験と論文書きで、臨床はたまにある外の病院の当直のバイトくらいでしたので、極めて医療、とりわけ外科手技に飢えておりました。なんとしても手術を覚えたい、上手になりたい、少しでも早く一人前になりたい、そういう気持ちが強い時期でありました。そして、そうなるためにどうすればいいかも十分、解っておりました。
 多くの「手に職を持つ」仕事ががそうだと思いますが、技術の向上には、机上での勉強や、少しでも先輩の術を盗み見て技術を学ぶのと同時に、先輩から手とり足とり教えてもらう、患者にデメリットが生じない範囲で手術をやさせていただくと言うことも不可欠であります。では、そうなるためにどうしたらいいか?、簡単なことです。先輩に可愛がられることが何より大事なんです。
 では、先輩に可愛がられるためにはどうしたら良いか? 「尊敬します!」、「ついて行きます!」、「頑張ります!」、「お願いします!」などと、お世辞や意欲、お願いを簡単に言う若者はいますが、そんな表面的な言葉では騙せない、態度で示すのが何よりも説得力があります。酒の付き合いが良いとか、絶対服従と言うのも一つの方法ですが、私は、出来る限り病院にいる、そのついでに受け持ち患者の死はすべてを看取ろうと決めました。

 手術手技を磨くために
  → 先輩に可愛がられるために

  ・出来る限り病院にいる
  ・受け持ち患者の死をすべて看取る


 それ相応な決意であったと思い出されます。


◇「患者の死をすべて看取る」を始めたものの

 私が勤めた病院は、外科は2班に分かれており、各々3,4人のドクターで構成され、患者はそのどちらかの班に振り分けられ、各班毎にグループで診療に当たる体制でありました。当然のごとく私はその班の中では一番若い下っ端でありました。
 外科の病棟の入院患者は、主として消化器の、周術期(手術前後の時期)の患者がほとんどで、胃癌だけで年間約200件に及びました。時には切除不能の進行癌で科学療法を行う人もいました。大学病院やがんセンターのように他院にお願いしませんし、緩和ケア病棟はありませんので、不幸にして再発した症例の終末期の医療も行っておりました。そうした病棟ですので、亡くなる患者のほとんどは癌死でありました。
 平日の日中であれば、患者が心肺停止しますと、手術中や外来に出ている以外の、手が空いている受け持ちのドクターが呼ばれて看取りますが、夜間休日には特別な決まりありませんでした。当直医にお願いする場合や、電話でコールしてもらう場合など様々で、自分が執刀したケースや、若い人など、患者に対する思い入れで左右される部分がありました。

 大学院を終えてローテードの病院に来たばかりの私には、自分が執刀した症例などあるはずもなく、死にゆく症例はすべて知らない患者でありました。でも、グループ診療で受け持ちとなり、しかも一番の下っ端ですので、亡くなる患者を看取る義務はなくとも権利はありました。「患者の死をすべて看取る」と決めた以上は、そろそろ血圧が下がり、尿量が減ってきた患者がいると、夜勤の看護師に「いつでも電話をください」とお願いしておりました。ポケベルも携帯電話のない時代ですので、自宅の枕元に電話機を置いて寝る毎日でありました。
 ところが、いくつかの取りこぼしがあって、「すべて看取る」とまではいかないケースがありました。看護師の方でうっかり当直医をコールしてしまったり、私の方で、熟睡しているなど、電話に出られない場合もありました。朝、ハタと目が覚めて、病院に電話したり急いで出勤すると、「明け方、当直の先生に看取っていただきました」と看護師から平然とした返事、、、。

 自宅待機では幾らかの取りこぼしがあり

 特に誰が悪いわけでもない普通の日常がそこにありましたが、研究生活で臨床から遠ざかっていて、手術手技に飢えていた私はそれでは我慢がなりませんでした。


◇ 看取りを予期して病院泊まり込みを開始

 「こんなことではいけない!」、「普通のことをしていてはいけない!」などと思った私は、癌の末期の患者がいよいよ最期か?、となると病院泊まり込みを図るようになりました。自分の机がある小さな医局とソファーがあって仮眠をとる全体医局の電話番号を伝えて、「病院に泊まっていますから」と看護師に伝えて待機しました。あらためて申し上げますが、あくまでも先輩に可愛がってもらって手術手技を向上させるのが目的でありました。逆を言えば、そういう目的が叶わぬのであれば、「病院泊まり込み」なんて絶対にしなかったと断言できます。

 あくまでも先輩に可愛がってもらって手術手技を向上させるのが目的

 さて、「病院泊まり込み」は非常に効果的で、当直医は必ずしも外科のドクターではありませんでしたし、非常勤の場合もありましたので、終末期の患者以外の件でも、私の受け持ちではない患者の件でも電話で相談をされ、よく診察にも行きました。日常だけでは得られない経験はありましたし、多くの看護師から頼りにされ信頼に繋がり、ちょっとした良い噂にもなって、外科医5年目の自分には快く感じられました。もちろん、先輩に可愛がってもらい手術症例が与えられる、と言う目的も、徐々にではありますが、叶いつつありました。
 
 看護師から頼りにされ信頼に繋がり、手術症例にも恵まれ

 ところが、ここでも問題が生じました。単純に言えば「己の身がもたない」と言う現実です。先輩から手術症例を与えていただき、日中はほとんど毎日が手術であり、その夜は看取りの患者のための「病院泊まり込み」では、毎日、心身ともにボロボロでありました。このあたり、少し込み入った話になりますが、手術と言うものは、助手と執刀ではその消耗度が随分と違いまして、例えば、胃切除術の助手が何日続いてもそれほど大変ではないのですが、胃切除術の執刀(オペレーター)が3日も続き、しかも1日に2件の日もあったりすると、心身ともに疲労は限界を超えました。もちろん、手術が上手ではないので時間もかかりましたし、自分が執刀した症例こそ自身がなくて心配にもなりました。

 手術の執刀と「病院泊まり込み」で己の身がもたない

 そんな日々を送っていますと、当然のごとく、心に浮かんで来るのは、患者が逝かない夜はなるべくなら自宅へ帰りたいと言う気持ちでありました。これまた臨床医としての未熟さ故なのですが、末期癌には違いなくとも、その患者が今日逝くのか明日なのか、その次なのか、その判定ができないために、今日も明日もその次も「病院泊まり込み」が必要となっておりました。どうにかならないものかと思案したりもしました。

 患者が逝かない夜はなるべくなら自宅へ帰りたい

 そうした日々を送っていた私が取った行動は、至極、当然の行為でありました。看取ると決めた患者を診に行くのです。夜の0時に診察して、2時にも診て、あまり違いが無いようなら帰宅しても大丈夫かと判定しました。自信がなければ4時の診察でも考えましたし、そのまま6時に診てもう朝を迎える事もしばしばでした。もちろん、患者が生き延びれば翌日も「深夜の2時、4時、6時診察」となりました。


◇「深夜の2時、4時、6時診察」が始まって

 この「深夜の2時、4時、6時診察」は素晴らしい経験でありました。あまり言葉は良くありませんが、末期の患者が死にゆく状態の変化を刻々と観ることで、臨床医としての客観的な眼を養うことができました。全く失敗なく、0時と2時で違いが無ければ帰宅できるようになりました。その翌日の0時と2時の状態から、この明け方に間違いなく逝かれるであろう、などと言う予測ができるようになりました。

 0時と2時で違いが無ければ帰宅できるように
 明け方に間違いなく逝かれるであろうと言う予測が可能に


 手術手技を習得したいし、そのためには受け持ち患者の死をすべて看取る、と決めて、でも自分の身も大切にしなければならない、苦肉の策ではありましたが、思うように機能して、継続することができました。


◇ 患者家族の心をつかむ

 「手術手技向上」などと、邪(よこしま)な思惑で始まった「患者の死をすべて看取る」であり、「病院泊まり込み」、ひいては「深夜の2時、4時、6時診察」でありましたが、それを始めた早い段階から患者家族の心境が痛いほど伝わって来ました。

 *****

 深夜2時、末期癌の患者が待つ個室に小さなノックをして扉を開きますと、床にざこ寝状態の家族が、ある者は光に目を歪め、ある者はむくと起き上がり、「なぜこんな時間に?」と怪訝そうな目を私に向けてきて、患者の脈を取り、体温を感じ、胸の音を聴取する一挙手一投足に注目が集まります。0時の段階と2時とでいくらか違いがあるかどうかを、ナースステーションのモニターのみならず自らの五感で感じる作業でありますが、何も言葉を残さずに一礼して去って行く私の行為は、家族にとっては、もう死期が近いことを無言に伝える儀式でもありました。
 4時の診察、2時の時よりも起き上がって目を向ける家族が増えています。「先生が来たよ!」と寝ている家族を起こす声も聞こえます。2時と同じように患者の脈を取り、体温を感じ、胸の音を聴取して、皆に一礼して部屋を出る私に「どうでしょう?」と尋ねてくる家族はいません。深夜のこの時間に私が診察に来ること事態が患者の死が近いこと、おそらくはこの明け方であろうことを無言のままに伝えておりました。
 5時半、看護師からの電話を受けて、ナースステーションのモニターはフラット、ゆっくりと病室に向かう私の手には対光反射を見るペンライト、首には聴診器がかけてあり、死亡時刻を確認するための腕時計もして参ります。看護師とともに部屋に入った私を見た家族の表情は、驚くようでも、激しい悲しみに包まれるようでもない、「ついにこの時が来た」、患者の死を受け入れている患者家族がそこにいました。悲しみと、涙はありますが、不満や疑念、後悔の念などは取り去られた、安らかな感情が流れておりました。

 *****


 後日、このような最期を迎えた多くの患者の家族から言われたこと、それは、、、

 「深夜の最期まで看取っていただきありがとうございました」
 「こんな良い先生に看取ってもらってうちの人は幸せです」
 「あの世で感謝していると思います」
 「この病院にお願いして本当に良かったと思っています」


、、、と言う言葉がほとんどでありました。患者の家族は、もしかしたら、あの一晩で気持ちの整理がついて、患者の死を受け入れ、それを美化する形での納得の心境に達したようでした。私は、医学の限界を知りつつ、「深夜の2時、4時、6時診察」が始まった理由も知っていましたが、ただただ、「そうですね!」と申し上げて、患者家族の心をつかんだ実感と、そのままの状態であるように肯定的な相づちを打つのみでありました。


◇ あとがき

 正直に、本当に、手術手技を学びたい、先輩に可愛がられたい、その一心で始めた「患者の死をすべて看取る」から「深夜の2時、4時、6時診察」でありましたが、患者家族には、肉親の死を現実のものとして受け止める、そのきっかけを与えるものとなりました。そうしなければ大きく変わっていたかと言うとそうでもないと思いますが、死にゆく患者には何もしてあげられないのに、「うちの人は幸せです」、「あの世で感謝していると思います」と、家族は自らを慰める発想に行き着きます。そのことで、肉親の死による悲しみが和らぐような、「死にゆく患者の家族にしてあげられること」があったように思いました。

 多数の手術症例に恵まれ、多くの手術手技を習得した私がその病院を去る時が来た、その前日まで「深夜の2時、4時、6時診察」が続けられたことは言うまでもありません。もう、その時の目的は別のところにありました。


 *****

 今、あの時の「受け持ち患者の死をすべて看取る」も、「看取りを予期して病院泊まり」も、もちろん「深夜の2時、4時、6時診察」も、個人的には原則的にはやっていません。もう肉体的には困難ですし、臨床初期研修医制度を経たドクターが増えて来て、私の育った環境とは違う若者が私の下に複数いるのが現状です。あの「深夜の2時、4時、6時診察」、心身ともに辛かったですが、そうした医療で「死にゆく患者の家族にしてあげられること」が可能であるならば、若者にある一定期間、経験させたいと思う次第です。




食物繊維でアンチエイジング


 昨年11月、アンチエイジング食材として「焼き海苔」を取り上げ、その中、優れた栄養素に「食物繊維」を挙げました。この食物繊維とは、人の消化酵素によって消化されない、食物に含まれている難消化性成分の総称であり、野菜などの植物、海苔、昆布などの海藻、菌類性食物の細胞壁を構成する成分で、化学的には炭水化物のうちの多糖類であることが多いです。今回、久々、アンチエイジング記事として、この「食物繊維」をクローズアップ、その摂取法、有効性など、勉強したいと思います。


◇ 食物繊維の概要

 人間の消化管は、自力ではデンプンやグリコーゲン以外の多くの多糖類を消化できませんので、食物繊維の定義は、人間の腸管では消化吸収されない、役に立たないものとされていました。ところが、大腸内の腸内細菌が嫌気発酵することによって、一部が酪酸やプロピオン酸のような短鎖脂肪酸に変換されてエネルギー源として吸収されることが判明してきました。また、食物繊維の大半がセルロースであり、人間のセルロース利用能力は意外に高く、粉末にしたセルロースであれば腸内細菌を介してほぼ100%分解利用されるとも言われております。こうした有用性から、5大栄養素(糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル)に続く第6の栄養素とされつつあり、日本人の食事摂取基準で摂取する目標量が設定されております(男性19g/日、女性17g/日)。

 本来は消化管で消化吸収されない役に立たないものとされていた
 腸内細菌の嫌気発酵によりエネルギー源として吸収されることが判明
 第6の栄養素にされつつあり、男性19g/日、女性17g/日の摂取基準


 食物繊維は、大腸内で腸内細菌によりヒトが吸収できる分解物に転換されることから、食後長時間を経てから体内にエネルギーとして吸収される特徴を持ち、エネルギー吸収の平準化に寄与しているとされます。大腸の機能は食物繊維の存在を前提としたものであり、これの不足は大腸の機能不全につながることになります。食物繊維を非デンプン性多糖類(non‐starch polysaccharide, NSP)と呼ぶこともあります。

 食後長時間を経て吸収されるためエネルギー吸収の平準化に寄与


◇ 食物繊維の種類(水溶性と不溶性)およびその作用と摂取方法

 食物繊維は、水に溶ける水溶性と水に溶けない不溶性に分類されます。それぞれについて物質名とよく含まれる食品をご紹介します。

1.水溶性食物繊維(soluble dietary fiber, SDF)

 水溶性食物繊維は水分保持力が強く、水に溶けるとドロドロのゲル状に変化します。この粘性が、ダイエットに効果を発揮します。炭水化物(糖質)の消化、吸収を緩やかにし、血糖値の急上昇を防ぐ効果、コレステロールなどの余分な脂質を吸着し排出するなど、体への吸収を抑制する作用があります。また、腸の粘膜を守る効果、善玉菌を増やす効果もあるため、整腸作用があります。

 ・ペクチン:果物、野菜に含まれる
 ・グルコマンナン:こんにゃくの原料、固形化したこんにゃくは不溶性
 ・βグルカン:植物、きのこ、菌類、細菌など幅広く分布
 ・イヌリン:ごぼうやきくいもなどキク科植物の根茎に含まれる
 ・アガロース:海藻のうち紅藻の細胞壁の主要構成要素、寒天の主成分
 ・アルギン酸ナトリウム:海藻のうち褐藻の細胞壁の主要構成要素、コンブ
 ・カラギーナン:やはずつのまた や すぎのりなどの紅藻類含まれる多糖
 ・フコイダン:海藻、もずくのぬめり成分
 ・ポルフィラン:海藻
 ・ラミナラン:海藻、もずく、がごめこんぶ
 ・グアー豆酵素分解物:増粘安定剤(食品添加物)として用いられる
 ・難消化性デキストリン:果物
 ・ポリデキストロース:化学的に合成された人工の水溶性食物繊維

2.不溶性食物繊維(insoluble dietary fiber, IDF)

 不溶性食物繊維は水に溶けない食物繊維で、胃や腸で水分を吸収し大きく膨らみます。これにより、便のかさ増しや、腸を刺激して蠕動(ぜんどう)運動を活発にし、便通を促進します。体にとって有毒な、ダイオキシンなどの物質を排泄するデトックス効果もあります。

 ・セルロース、ヘミセルロース、リグニン:植物の細胞壁の主要構成要素
 ・キチン、キトサン:甲殻類の殻や菌類の細胞壁などの主成分

3.水溶性と不溶性の両方の特性を併せもつもの

 ・レジスタントスターチ

4.水溶性と不溶性のバランスは1:2が理想


◇ 食物繊維の有効性

 上の食物繊維の種類の項で、その作用を軽く説明しましたが、改めて食物繊維の有効性を詳述いたします。食物繊維の効用として、肥満予防、脂質異常症予防、便秘予防、糖尿病予防、脂質代謝を調節して動脈硬化の予防、大腸癌の予防、その他腸内細菌によるビタミンB群の合成、食品中の毒性物質の排除促進等が確認されております。

1.肥満予防

 水溶性食物繊維は胃で膨潤することで食塊を大きくし、粘性を上げ、胃内の滞留時間を延ばして満腹感を与え、不溶性食物繊維は食物の咀嚼回数を増加させ唾液や胃液の分泌を促し、食塊を大きくします。いずれも過食を予防する効果があり総じて摂取カロリーを減少せしめます。

2.コレステロール上昇抑止

 水溶性食物繊維は食物コレステロールの吸収抑制、コレステロールの異化、代謝、排泄の促進、胆汁酸の回腸からの再吸収阻害による代謝、排泄の促進に寄与しているとされます。

3.血糖値上昇抑制

 水溶性食物繊維は粘度の高い溶液をつくり、胃から小腸への食物の移行を緩やかにします。その結果、栄養分、グルコースの吸収速度を緩慢にして血糖値の上昇を抑えます。熟した果物などに含まれている難消化性デキストリンは、食後の血糖値の急激な上昇の抑制作用が報告されています。ペクチンを食餌とともに摂取すると、血糖上昇が抑制され、インスリンの分泌も抑制されました。グルコマンナンはコンニャクに多く含まれる水溶性食物繊維であり、グルコマンナンとグルコースを同時に摂取した場合、グルコマンナンには血糖値上昇抑制効果が証明されました。

4.排便促進と毒素排泄効果

 不溶性食物繊維は結腸や直腸で便容積を増大させ、排便を促進します。また、ダイオキシン類を吸着して排泄する効果もあるため、体内からの排出速度を2~4倍に高めることで、ダイオキシン類の健康に対する影響が防げると示唆されています。

5.善玉菌優位の腸内環境獲得

 腸内細菌のうち、「悪玉菌」とされる大腸菌やうウェルシュ菌がたんぱく質を栄養分にするのに対して、「善玉金」と言われるビフィズス菌など乳酸菌やエンテロコッカスは、水溶性食物繊維およびオリゴ糖(玉ねぎ・ごぼう・バナナ・キャベツ など)を栄養分としております。水溶性食物繊維とオリゴ糖を摂取する生活は腸内環境を善玉菌優位する効果があり、これは老化や発がん、生活習慣病の予防につながると考えられております。


◇ 代表的な食品の食物繊維含有量

 食品種別の食物繊維含有量を100gあたり何gで示します。

穀類の食物繊維含有量

芋類木の実の食物繊維含有量

豆類の食物繊維含有量

きのこ海藻の食物繊維含有量

野菜の食物繊維含有量

飲物、調味料、菓子の食物繊維含有量

漬物、果物の食物繊維含有量

 こうして見てみますと、日常、摂取しやすいものとして、100gあたりの含有量で、最も効率の良いのは海藻類で、それに続いて干し椎茸、青汁、豆類の順のようです。トータルの分量を食べやすい食品としてナッツ類、とうもろこし、アボガドも優秀な食品と思われます。これに対して、野菜、果物、芋類、キノコ類は、食物繊維を摂取する、と言う意味では、それほど優位な食品ではないことが解りました。

「ある女子高生の事故死が東北大病院を変えた」とする記事から


 救命救急医療の現場を垣間見る、本日の、ある記事を見つけましたので、供覧、ご紹介し、私見を申したいと存じます。それは1999年6月23日の出来事から、、、。

救急救命の碑の記事

 *****

女子高生の死 反省胸に

救命救急の碑(2004年)

 東北大病院の正門前にそびえる高さ約3メートルの救命救急の碑。元病院長の山田章吾(67)は碑を建てるきっかけになった16年前の事故を一日たりとも忘れたことはない。

 1999年6月23日午後6時35分頃、病院正門前の歩道で自転車に乗っていた宮城一女高(現・宮城一高)2年の女子生徒(当時16歳)がバランスを崩して車道に倒れ、後ろからきた市バスにひかれた。「痛いよ」。苦渋の表情を浮かべていた。
 居合わせた誰もが、目の前にある東北最大の医療機関に搬送されると思った。ところが、女子生徒を乗せた救急車が向かったのは、約3キロ離れた別の病院だった。当時、東北大病院に救急部はあったが、現在の高度救命救急センターのように常時患者を受け入れていなかった。診療は夜間や休日に限られていた。
 研究第一主義を掲げ、不測の患者に対応する救急医療は研究の妨げになる。そんな意識が大学側にあったのかもしれない。女子生徒は約3時間後、息を引き取った。

 「行ってきます」。朝、いつものように元気に家を出た娘がベッドで人工呼吸を受けていた。女子生徒の母(59)は搬送先の病院に駆けつけた瞬間、腰から崩れ落ちた。娘の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
 新体操部の練習が終わり帰宅すると、リビングで片方の足を持ち上げて、クルクルと回った。「見て見て」。愛くるしい姿を父(61)は今も忘れられない。
 「目の前の大病院に運んでくれれば、娘は助かったのではないか」。そんな思いが、母の頭を行ったり来たりした。夫とともに精神科に通い、安定剤をのんだ。

 どん底にあった家族を救ってくれたのは、事故現場に供えられた花だった。

女子生徒が亡くなった現場の花
女子生徒が亡くなった現場には今も花が供えられている(8日)

 事故から4年後の2003年、両親は東北大病院に呼ばれた。病院長室で「助けてあげられず、申し訳ありませんでした」と頭を下げたのは、その前年に病院長に就任していた山田だった。山田を含めた3人の目から涙があふれ出た。
 山田が病院長になって最優先課題としたのは救急医療の充実だった。専門はがんの放射線治療で門外漢だったが、事故現場に絶えることなく手向けられる花を見て、碑を建てることに決めた。
 04年4月の除幕式で、山田は「救急医療に対する東北大病院の決意を示すものだ」と述べた。「目の前で倒れた人に手を差し伸べることができなかった。ここで医療に携わる者は、その反省をずっと胸にとどめてほしい」と願いを込めた。

救命救急の碑の前に立つ山田さん
救命救急の碑の前に立つ山田さん。「患者を第一に考える医療を続けてほしい」と後輩たちに注文した(8日、仙台市で)

 06年、院内に開設された高度救命救急センターには、東日本大震災の際、80人を超える患者がヘリで搬送されるなど、多くの命を救った。女子生徒が生きた年月と同じ16年が過ぎ、母は言う。「そのきっかけを作ったのは娘だった。今はこう自らを納得させているんです。娘は、このために生まれてくれたんだなって」             

 高度救命救急センター:救急患者を24時間体制で診療する。通常の救急救命センターでは治療が難しい、広範囲のやけどや指の切断、急性薬物中毒など重症患者にも対応する。専任医師は約30人。専用ベッドが20床以上あり、屋上にヘリポートを備える。

 *****


 私は東北大学ではありませんが、1999年当時は、米国留学から大学病院に帰って来て間もない頃で、確かに日本の、とりわけ地方の大学病院で救命救急医療は激しく遅れておりました。私の大学も救急部はありましたが、そこの専任の医師は1人のみで、各科から交代で当直医を出しており、救急部の当直と言えば、まったく何も来ない「寝当直」でありました。救急部があることを知ってか知らずか?、救急隊は大学病院にはまったく目もくれない、と言う状況でした。それこそ、私のいた大学病院も、目の前で事故に遭われた患者が搬送されることは無かったと思います。
 記事の中に「研究第一主義を掲げ、不測の患者に対応する救急医療は研究の妨げになる」との文章がありますが、研究とかその妨げとか言う以前に、救急医療を専門とする医師が大学にはほとんどいなかったと言うのが本当のところです。救急をやる体制でもなかったと言うのも否めません。例えば緊急のCTを撮る場合にいちいち放射線科に頼診券でコンサルトを立てなければいけないとか、緊急内視鏡をするにしても光学診療部所属の医師、看護師でなければ内視鏡に触ることはできないなどと、大凡、緊急でなにかをするには向かない煩雑なシステムが大学にはありました。
 現在は、ほとんどの大学病院が救命救急医療に力を入れておりますし、そうした分野に身を投ずる医師が増加しております。事故や銃に伴う外傷が少ない本邦においても、遅まきながら、救命救急医療に対する学問が確立されつつあると思います。この傾向は東北大病院に限ったものではない、全国的な流れとなっております。

 1つ大きな問題をご紹介しますと、救命救急部を兼ね備えた大学病院や大病院以外の、中規模の病院で救急をうたっている施設が少なくありません。救急車をタクシー代わりに使う軽症なケースもありますが、多くの救急車はそのまま入院につながりますので、病院の収益になります。それゆえ、設備が整っていず、心臓血管外科や脳外科、救命救急などの専門医がいないにも関わらず、救急車は全例、受けるように厳しくしている病院があります。
 毎月、「救急車受け入れ率」と言うのが算出されて、限りなく100%に近づくよう心がけて、それでいて、その内情は受けた患者に適切な診療はできずに他所へ紹介したり、ひどい時は受け入れだけして、手に負えないからそのまま転送となったりします。そういうのを「救急隊のたらい回し」などと言って、現在でも大きな問題となっております。これもお恥ずかしい、医療の歪みであります。

「焼き海苔」食生活でアンチエイジング!


 冒頭、今から27年前、1988年、榊原郁恵さんの、エースコックのカップ麺、「浅草駅前のりらーめん」のCM動画をご紹介します。この「浅草駅前のりらーめん」が今なお残っているのかは不明ですが、CMの最後で榊原さんが「のりで健康!」って言ったのが妙に心に残っておりました。

 「海苔で健康!」榊原郁恵さんの「浅草駅前のりらーめん」のCM YouTube

浅草駅前のりらーめん CM01
「常識を・・・」

浅草駅前のりらーめんCM02
「破りました!」

浅草駅前のりらーめんCM03
「エースコックの浅草駅前のりらーめん!」

浅草駅前のりらーめんCM04
「のりで健康!」

 海苔が健康に良いことは、なんとなく想像されるところですが、今、健康食品として海苔が密かに注目されております。今回のアンチエイジングは「焼き海苔」を取り上げました。もちろん、がんの予防としても有力な食材であります。まずは、一気に優れた栄養源としての「焼き海苔」をご紹介して参ります。


◇ 焼き海苔 の優れた栄養素

 海苔は「高濃度栄養食品」といえるほどビタミンやミネラルなどの成分が凝縮されています。焼き海苔 1枚(21 x 19 cm)の重さは約3 gですが、意外なほど大切な栄養素が含まれています。「焼き海苔」に含まれる豊富な栄養素は以下の通りです;ビタミンA(カロテン), B1, B2, C, E、U、エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic acid、EPA)、ミネラル類(クロム、カリウム、カルシウム、鉄分)、食物繊維、コリン、葉酸。これらについて、少しずつ解説して参ります。

1.ビタミンA(カロテン)

 焼き海苔には人参の約3倍のカロテンが含まれており、人体においては肝臓や脂肪組織においてレチナールに変換されてビタミンAのかたちをとります。焼き海苔1枚で卵1個以上のビタミンAが含まれるともされます。ビタミンAの作用は全身に及び、皮膚や目の角膜、口腔や胃腸などを覆う上皮組織の分化に働き、粘膜を健康に保ちます。近年、カロテンには活性酸素から体を守り、発がんを予防する効能のあることが解明されてきました。悪玉コレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化の予防にも役立つとされます。

2.ビタミンB1, B2

 焼き海苔 約3枚には豚肉肩ロース(薄切り肉約1枚分/30g)にあたるビタミンB1、B2が含まれています。この量は、成人女性が1日に必要なビタミンB1、B2の必要量に相当します。ビタミンB1は精神を安定させ、神経系や筋肉、心臓の機能を正常化させる働きがあり、ビタミンB2には成長を助け、目の疲労を軽減させ、健康な爪、髪、皮膚にする働きがあります。また、ビタミンB1、B2は、糖質を効率よくエネルギーにかえてくれるので、食欲がない時や疲れやすい時に摂ると、疲労回復に役立ちます。

3.ビタミンC

 焼き海苔のビタミンC含有量は一般の野菜や果物に匹敵し、焼き海苔1帖(10枚)にはみかん1個の1.5倍のビタミンCが含まれており、また、焼き海苔のビタミンC含有量は、100 gあたりで換算するとレモンの約2倍とされます。一般に、ビタミンCは熱に弱いため調理すると栄養素が破壊されてしまいますが、海苔に含まれているビタミンCは熱に強く、焼いても栄養素が壊れないのが特徴です。
 ビタミンCには抗酸化作用がありビタミンAと同様に、悪玉コレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化の予防にも役立つとされます。また、ビタミンC特有の作用として、メラニンの生成を抑えてシミを防ぐ効果と、できてしまったシミを薄くするダブルの美白効果があります。ビタミンCは、このダブル美白効果が認められている数少ない成分と言われています。

4.ビタミンE

 アーモンドに多く含まれアンチエイジングに効くとされるビタミンEは焼き海苔にも豊富に含まれ、ビタミンA, Cとともに抗酸化作用を有します。

5.ビタミンU(S-メチルメチオニン)

 聞きなれない物質ですし、厳密には「ビタミン」の範疇に含まれない物質です。キャベツの絞り汁より発見され、胃酸の分泌を抑制することから胃潰瘍治療薬「キャベジン」と言う医薬品にもなった物質が、新鮮な海苔にはキャベツの70倍も含まれており、干し海苔であっても豊富とされます。

6.エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic acid、EPA)

 エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic acid、EPA)は、脂肪酸の一種で、海草のほか青背の魚に多く含まれていて、のりの全脂肪酸の50%以上がEPAです。EPAは、血液中の血小板の凝集を抑えて、血管内に血栓ができるのを防ぐ働きを持っています。つまり、血液をサラサラにすることで、血栓が詰まって起こる心筋梗塞や脳卒中などの発作を防いでくれます。また、悪玉コレステロールを減らしたり、肥満の原因である中性脂肪を減少させる効果もあるといわれるので、生活習慣病予防に効果的です。

7.ミネラル(クロム、カリウム、カルシウム、鉄分)

 焼き海苔には多くのミネラルが含まれます。その中でもアンチエイジングとして極めて有用なのはクロムと言う物質です。クロムは1970年代に、糖尿病予防に重要な働きをするものとして、アメリカで脚光を浴びるようになった成分で、血糖値を安定きせる作用があります。血中の血糖値が高くなると、膵臓からインスリンが分泌されて血糖値が下がりますが、このとき、体内にクロムが存在すると、インスリンの作用が増強されます。また、クロムには、食後に高まった血液中の糖分を、エネルギー代謝の方向へ向かわせる作用もあります。そのうえ、クロムは悪玉(LDL)コレステロールを減らし、善玉(HDL)コレステロールをふやして、中性脂肪を下げることもわかっています。
 その他のミネラルとして、血圧を下げインスリンの機能にも必要なカリウム、動脈硬化を予防して骨粗鬆症の治療にもなるカルシウム、そして貧血予防となる鉄分が豊富に含まれます。

8.食物繊維

 海苔の約3分の1は食物繊維です。なんと、その含有量はほうれん草の約2倍、ごぼうの7倍とされます。近くも含まれています。食物繊維は野菜に多く含まれますが、海苔の食物繊維は野菜に含まれる食物繊維と違い柔軟で、胃壁や腸壁を傷つけることなく穏やかな整腸作用を行ないます。またこの種の食物繊維は細菌による腸内でのビタミン合成にも役立っているともいわれています。さらに、腸内の有害なアミンや有害金属の除去にも有効で、総じて美容や発がん予防にも効果を発揮します。

9.コリン(Choline)

 コリン(Choline)は、循環器系と脳の機能、および細胞膜の構成と補修に不可欠な水溶性の栄養素であります。神経細胞間の情報伝達に不可欠物質で、このコリンを豊富に含む海苔を常食することで、体内のコリン含有量が多くなり、記憶力が向上するとされます。


◇ 発がん予防?、発がん促進?、海苔の豊富に含まれる「葉酸」についての議論

 最近のテレビ番組(10月20日 テレビ朝日「たけしのみんなの家庭の医学」)の中で、「葉酸」が多量に含まれる海苔に大腸がん発生の予防効果が紹介されておりました。
 「食の欧米化」が大腸がん発生に関与していることは言われております。男女ともに死亡原因の第1位は悪性新生物であり、がんの部位別統計では、男性の死因は、1位は肺がん、2位胃がん、3位が大腸がんであるのに対し、女性はがんの死因第1位が大腸がんであります。故 坂口 良子 さん(享年57歳)の命を奪ったのも大腸がんでありました。

坂口良子 写真

 「食の欧米化」と言うと、魚よりも豚や牛の肉食を考えがちですし、乳脂肪分の多い食生活や、米飯よりもパン食を頭に浮かべやすいですが、海苔の摂取が減ったとの見方もあろうかと思います。
 ここでは、海苔に豊富に含まれる「葉酸」について、そのがん発生への関与を、他の栄養素とは独立して取り上げます。

1.葉酸の発がん予防効果

 葉酸欠乏症は、細胞内のS-アデノシルメチオニンを減少させ、それはDNAにおけるシトシンのメチル化を抑制し、プロト癌遺伝子を活性化し、悪性転換を誘導、DNA先駆物質の不均衡を引き起こして、DNAへのウラシルを誤認させ、染色体損傷を促進、これらのすべてのメカニズムは前立腺がん発生リスクを増大させることが証明されております。
 この研究結果に基づいた臨床検討で、適切なレベルの葉酸摂取は食道癌、胃癌、卵巣癌のリスクの低下に寄与していることが示され、大腸に関してはポリープの発生を抑制し、大腸がんについては発生率を3割減らすことが示されております。

2.葉酸の発がん促進効果

 ところが、葉酸のサプリメント投与の追跡調査から、がんの発生率を高める結果が得られております。葉酸サプリメント摂取は、欧州における520,000人の男性に対する14年間の調査で、大腸がん発生を67%増加させたとの研究報告があります。同様に、男性における葉酸サプリメントの摂取は前立腺癌のリスクを2倍にするとの報告もあります。さらには、既にがんに罹患していていたり、前がん症状の状態では、葉酸にはがんおよび発がんの防止効果はなく、むしろ、症状の悪化につながることも証明されております。

 以上から、葉酸は、がんの形成において2つの役割を果たしており、低濃度の葉酸の摂取は初期段階のがんの防止をするが、高濃度の葉酸の摂取はがんの形成の促進をします。

 高濃度の葉酸ががんを増加させる理由は、ヌクレオチド合成において葉酸が必要であるように、増殖型の新生細胞は葉酸を必要とし葉酸受容体ががん細胞中で増加するためとされます。

3.焼き海苔による適切な葉酸摂取

 大腸がん予防に効果的な葉酸摂取量は1日400 μgとされます。日本人の平均葉酸摂取量は1日平均280 μgと言われており、残りの120 μgを海苔で補うとすると、一般的な焼き海苔なら2枚(6 g)とされます。


◇ 焼き海苔レシピ

 さて、最後に焼き海苔を美味しく上手に摂取するレシピを考えましたのでご紹介します。極めて単純なものから、思わぬ発想もあると自負しております。

1.お刺身に巻いて食べる

 海苔と言えば、なんと言っても海の幸ですので、普通にお刺身を焼き海苔で巻いて、ワサビ醤油で食べる食べ方です。

お刺身と焼き海苔

 まずは左上のネギトロ、右上は平目、鯛、まぐろ、イカのお刺身盛り合わせです。これを3切の半分の焼き海苔で巻いて、ワサビ醤油で食べます。

焼き海苔に鯛

 上の写真は鯛を焼き海苔に載せたところです。

2.ウニやイクラ

 こちらも簡単です、ちょっとお値段が張りますが、、、。ウニとイクラです。

焼き海苔とうにいくら

焼き海苔といくら

3.プルコギを焼き海苔で

 韓国のプルコギをニラと炒めて焼き海苔で巻いて食べると言うものです。ごま油を使用しました。韓国海苔でも分かる通り、韓国の食べ物って海苔に合うんですよね。ごま油で炒めたプルコギを焼き海苔で巻いて食べると、思わぬ懐かしい風味を味わえます。

焼き海苔にプルコギ

焼き海苔にプルコギ2

4.きざみ焼き海苔とアボガド和え

 こちらは今回の目玉商品です。きざんだ焼き海苔にアボガドを和えます。味付けはいろいろと工夫できますが、今回はごまをふりかけ、チョレギサラダのドレッシングにしました。下写真の如くかき混ぜて食べるのですが、驚くべき美味でありました。

きざみ焼き海苔にアボガド

きざみ焼き海苔にアボガド2


「けっきょく、お酒のツマミでしょ!?」、ハイ!、その通りです(笑)



現代医療の歪み 医原性被曝の実際


 現代の医療について否定的な見解を述べる方が現れてきて、もしかしたら、その先駆的な人物は慶応大学医学部放射線科の 近藤 誠 博士 かも知れません。そしてまた、そうした流れに抵抗する著書も見られます。

医療否定とその否定本2冊

 こうした現代医療を否定する考え方について、現実に臨床医であり、しかも、最も否定の対象となるがん治療に携わる者として、極めて慎重な言動が求められると自負しております。場合によっては、自らがこれまで行って来た診療を否定せざるを得ないこともありますし、今現在、行っていることについて方向転換を余儀なくされることもあるでしょう。一緒に仕事をしている同僚に対して、その診療内容を否定することも求められるかも知れません。ここでは、コンピューター断層写真(Computed Tomography, 以下CT)その他による医原性被曝の弊害を取り上げます。


◇ ある病院、医療ビジネスのためのCT?

 これまで同様、臨床の現場について、場所と時期は特定いたしませんし、フィクションも含まれることを申し上げておきます。ある病院で、入れたばかりのCTをやたらと使いたがっておりました。当然と言えば当然で、購入費用が何千万ですから、早く元を取りたいところでしょう。

CTの写真

 実は私も、別の機会にCTの撮影を受けたことはありますが、確かその時の窓口での支払いが2万弱であったと記憶しています。外来再診料を差し引くとCTだけで1万数千円の費用であり、3割自己負担で計算すると、CT検査1回で病院に入る保険診療は4〜5万円と言うところでしょうか? デジタル化で、フィルムに焼きつけることはないので、出費は電気代くらいで、4〜5万円は丸々病院の収益になります。ウン千万の機械であろうとも、「チリも積もれば…」で1000 〜 2000回も撮影すれば、元を取れると言うところでしょうか。

 1回のCT撮影で病院の収益は4〜5万円くらい?

 さて、先述の病院に話を戻して、、、。とにかくCTを取りまくります。食道癌、胃がん、大腸がん、肝臓がん、患者は治療と検査・診断と、どちらか分からないまま、ただ従うだけで、半年間に10数回の胸腹部CTを撮られたりしていました。


◇ 自然および人工的放射線被曝と国および世界の基準

 医原性放射線被曝をご説明する前に、日常生活における自然および人工的放射線被曝とそれに伴う国および世界の基準を調べました。今後のすべての単位はSv(シーベルト)で示します。
 当然のごとく日常生活において我々は僅かばかりでありますが、放射線を浴びております。この自然被曝が最も強いところはブラジルのガラバリと言うところで、年間に10 mSv(ミリシーベルト)に及ぶとのことでした。世界の平均が2.4 mSvで日本は1.4 mSvの被曝線量とのことです。
 自然の放射線と異なり、原子力発電所の技術者やレントゲン技師のように、放射線に従事する者は人工的な放射線に暴露されております。これに対しては50 mSvを年間の被曝線量の限度と基準を設けており、5年間では100 mSvが限度とされます。また、この100 mSvと言う値は、原発事故のような事態で、放射線従事者が1回の緊急作業で許容される被曝線量とされております。ただし、福島第1原発に限り、この1回の緊急作業における被曝線量は250 mSvまで引き上げられております。

自然および人工的被曝線量と世界基準


◇ 放射線検査による医原性被曝線量

 放射線検査による医原性の被曝線量を表にしました。あくまでもこれらの数字は目安であって、病院や機械によって幅があります。CTは全例、単純+造影での被曝線量となっておりますが、ダイナミックCTであったり、造影早期と後期と二相での撮影では被曝線量は増加します。また、従来のヘリカルCTに比べて現代普及しつつあるマルチスライスCTは、一般的に被曝線量が多いとされております。その他、連続撮影、例えば胸腹部や腹部骨盤のような場合は、胸部と腹部、腹部と骨盤部と分けて撮影するよりも被曝線量は少ないとされます。

医原性放射線被曝 表

 医者になって四半世紀を超えておりますが、これまでX線検査での被曝を勉強したことはなく、恥ずかしくも、少し驚きがあります。


◇ 放射線被曝の人体への影響

 最後に放射線の人体への影響をまとめました。表ん被曝線量の数字はしきい値と言って、その値以上になると障害が発生する危険性がある、そういう値であります。現在までのところ100 mSv以下での人体への影響は確認されていないとのことです。

放射線被曝線量別の人体への障害 表


◇ おわりに

 ある患者に病気、病態があって、それに対する現代医療が完備されていますが、病気、病態に対する治療や検査に、医療ビジネスの観念が加わると、そこには患者自身は不在となってしまいます。下手すると、患者にとっては大きなデメリットにも繋がり兼ねない、そんな、本末転倒な医療が現実にあります。医原性被曝はまさに現代医療の歪みの一つであります。

 「身近な病院でやたらとCTを撮る病院がありましたらご用心!」、と言うことですね。


快眠でアンチエイジング


 アンチエイジング関連として「禁煙および受動喫煙の排除」に続いて、快適な睡眠(快眠)を考えてみました。睡眠は人間にとって必要不可欠なものであり、1日8時間睡眠とすると、人生の1/3は眠っている事になります。忙しくて睡眠時間が短くとも深い睡眠が得られている人がいれば、時間はあっても不眠症気味で浅い眠りに悩まされている人もいるでしょう。睡眠において、、、

 ◯ 布団に入ったら、すぐにぐっすりと眠りたい
 ◯ 深くて心地よい眠りを味わいたい
 ◯ そして、スッキリ健やかに目覚めたい


 、、、と考える人は多いと思います。現代人の5人に2人は睡眠に関わる問題を抱えているとされます。ここでは、「睡眠力を上げる」方法論を、いろんなサイトから引用してみます。ちなみに、様々な動物が睡眠のパターンがあるようですし、赤ん坊と子供と大人でも違いがあります。ここでは人間の成人のみに絞って睡眠を考えます。


◇ 睡眠の定義

 睡眠(すいみん、sleep)とは、眠ること、すなわち、周期的に繰り返す、意識を喪失する生理的な状態のことであります。身体の動きが止まり、外的刺激に対する反応が低下して意識も失われていますが、簡単に目覚める状態でもあります。


◇ 睡眠の2つのメカニズム

 成人の睡眠は大きく2つのメカニズムで形作られているとされます。その第1は、起きている間の疲労蓄積からくる「睡眠欲求」、第2は体内時計から発信される「覚醒力」であります。

1.睡眠欲求

 睡眠欲求は起きている時間が長いほど強くなります。徹夜などで長時間起きていると、普段寝つきが悪い人でもすぐに眠っていまい、しかも深い眠りになることが多いと言われています。一度、眠ると、この睡眠欲求は減少します。さらに(その人にとって)十分な時間たっぷりと眠ると睡眠欲求は消失すると言われています。

2.覚醒力

 「覚醒力」とは体内時計から発信され、1日の決まった時刻に増大し、睡眠欲求に勝ることで人を目覚めさせます。普段の就床時刻の数時間前に最も覚醒力は強くなり、その後、メラトニンという物質が分泌される頃(就床時刻の1~2時間前)、急速に低下します。このために、私たちは食後の団欒の時など、すっきり目覚めていると思っていても、普段寝ている時刻あたりで急な眠気を感じるようになるのです。


◇ 睡眠のパターン

 20世紀に入り、人間の睡眠は脳波と眼球運動のパターンで分類されるようになりました。成人は、睡眠中にStage I, II, III, IV~REMの間を反復し、その周期は90分程度とされます。入眠やStage I〜IVとREM睡眠間の移行を司る特別なニューロン群が存在するとされます。快眠とは、生理的な睡眠のパターンを壊さない睡眠と言えると思います。以下、各Stageについて説明いたします。

1.Stage I

 傾眠状態です。脳波上、覚醒時にみられたα波が減少し、低振幅の電位がみられます。なお、Stage I〜IVをまとめてnon REM睡眠と呼びます。

2.Stage II

 脳波上、睡眠紡錘 (sleep spindle) と言う波形が出現してきます。

3.Stage III

 低周波のδ波が20 – 50%に増加して来ます。

4.Stage IV

 δ波が50%以上となります。

5.REM(Rapid eye movement)睡眠

 急速眼球運動 (Rapid Eye Movement) の見られる睡眠であります。身体的には骨格筋が弛緩状態にあり、急速眼球運動の他は身体はほとんど動かず、言うなれば身体を休めている状態です。脳波はθ(シータ)波が優勢で覚醒時と同様の振幅を示し、外見的には寝ているのに、脳は覚醒状態にあって、エネルギー消費率も覚醒時とほぼ同等であるため、逆説睡眠とも呼ばれます。この期間に覚醒した場合、夢の内容を覚えていることが多いとされます。人間では、6 - 8時間の睡眠のうち、1時間半 - 2時間をREM睡眠が占めます。

 Non REM睡眠とREM睡眠はおおまかに言うと以下のように大別されます。

 脳の眠り = non REM睡眠(stage I〜IV)
 体の眠り = REM睡眠


Hypnogrammの一例 図
Hypnogrammの1例


◇ 睡眠と体温

 夜は体温が低くなります。その原因の1つは、昼間と異なり、ほとんど体を活動させないことですが、それ以外にも、睡眠自体が体温を低下させていると考えられます。睡眠により体温は約1℃ほど下がります。夜間に、まったく眠らないでいても夜は体温が少しは下がりますが、眠ったほうがさらに体温は低くなります。睡眠に入ると、体温の基準値が下げられることにより、代謝が低下し、体内で生み出される熱の量(熱産生)が少なくなるため、睡眠自体が体温を下げているのだと考えられます。Non REM睡眠(深い睡眠)や、とくに眠りが深い「徐波睡眠」では、体温の低下が大きくなります。


◇ 睡眠中のホルモン活動

 睡眠により様々なホルモンが活動することが知られています。質の良い睡眠を取ることによりホルモンの働きで身体のメインテナンスを活性化することができます。つまり、快眠はアンチエイジングに大きく関与しているわけです。

1.Non REM睡眠中の成長ホルモン

 睡眠中の体内ではさまざまなホルモンが活動して、体のメンテナンスをしてくれます。まずは、深い眠りであるnon REM睡眠中に分泌されるのは成長ホルモンです。これは壊れたり、古くなったりした細胞を再生する働きがあります。お酒を飲んで代謝に使われた肝臓の細胞も再生するなど、あらゆる体の新陳代謝を活発にするのです。

2.REM睡眠中のコルチゾール

 一方、コルチゾールというホルモンは、浅い眠りであるREM睡眠中に分泌され、寝ている間のエネルギー供給のために、脂肪を燃やす働きがあります。だから睡眠不足が続くと肥満になりやすいのです。コルチゾールのもうひとつの働きは、肝臓にあるグリコーゲンを分解してブドウ糖にして、血糖値をあげることです。朝起きて、すぐに活動できるのも、このコルチゾールのおかげなのです。

3.睡眠不足とホルモン

 睡眠時間が短いと、食欲を抑制するレプチンというホルモンが出にくくなったり、朝のインスリン分泌が悪くなって糖尿病をはじめとした生活習慣病のリスクが高くなります。さらに睡眠中に呼吸が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群のリスクも高まると言われています。

睡眠による生体の変化
起床/睡眠による体温とホルモン分泌


◇ 加齢による睡眠時間の減少と適正な睡眠時間

 よく加齢に伴い睡眠時間が短くなると言われておりますが、これには、以下のごとく、直接(生理的)原因と関節的な原因が考えられております。

1.加齢に伴う睡眠時間減少の直接(生理的)原因

 1)日中の消費するエネルギーが少なくなり、必要とされる睡眠量が減る 
 2)加齢に伴い1日の最高体温が低下、睡眠時間で体温を下げるための時間が短くなる
 3)睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌が減り、入眠しにくくなる

2.加齢に伴う睡眠時間減少の間接的原因

 1)頻尿で中途覚醒をする
 2)関節痛など痛みを伴う持病がある
 3)昼寝のしすぎ
 4)寝室の環境が悪い
 5)眠りに影響する薬を服用している

 1に挙げた消費エネルギーや体温、ホルモンなど直接(生理的)原因はある程度は仕方のないことですが、2の間接的原因は様々な工夫をする余地があろうかと存じます。

3.年齢による適正な睡眠時間

 さて、睡眠は長く眠れば良い、という訳ではなく、ある程度年齢によって必要な睡眠時間は決まっています。概ね、年齢による適正な睡眠時間は以下の通りとされております。

 00 〜 03歳 : 16時間
 03 〜 12歳 : 10時間
 13 〜 18歳 : 10時間
 19 〜 55歳 : 08時間
 65歳 〜  : 06時間



◇ 睡眠障害による問題

 ここでは、睡眠時間の過不足および断続的睡眠による問題を取り上げて参ります。睡眠時間は多くても少なくても良くないとされておりますし、連続した睡眠が身体に良いことは言うまでもないことです。

1.睡眠過多の問題

 本来必要な睡眠時間以上の眠ると、眠りが段々と浅くなっていきます。そのため睡眠のリズムが狂い、結果、眠りの質が下がるため、眠気がつきまとうようになります。米国カリフォルニア大サンディエゴ校、及び米対がん協会の発表によりますと、睡眠時間が長い人は、心臓発作になる確率が2倍、死亡率は3.5倍ほど上昇にするそうです。
 以上から、とかく睡眠不足が話題となりがちですが、必要以上の睡眠時間を取ることは、かえって快眠とは言えない状態を作り出し、健康に悪影響を及ぼすようです。

2.睡眠不足の問題

 子どもが育つには、成長ホルモンが必要です。この成長ホルモンは、深い眠りときに、脳の下垂体から大量に分泌されるので、ぐっすり眠る子供はよく育つは理にかなっているのです。逆に、子供の睡眠不足は成長を阻害することになるわけです。
 ホルモンの項で触れました通り、睡眠は体のメンテナンスに深く関与しております。睡眠不足は身体に不調を来すことは言うまでもなく、例えれば、人は何も食べずに生きていられるのは2週間が限界とされる一方、睡眠を取らない場合はもっと短く約10日間で死に至ると言われています。
 また、睡眠が不足すると、食欲を増進させる働きを持つペプチドホルモンに「グレリン」が増加する傾向にあるため、睡眠不足の人は過食にもなり、太りやすいと言われています。

3.断続的睡眠の問題

 正しい睡眠は、人間の脳に対して記憶を整理する作用があることが知られています。生理的なパターンを壊した、断続的な睡眠が記憶に悪影響を及ぼすことが判明しました。米スタンフォード大学の研究チームによると断続的な睡眠は、覚醒時の判断力を低下させるだけではなく、記憶力にも悪い影響を与えると報告しています。


◇ 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome, SAS)

 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome, SAS)をご紹介します。原因は睡眠の問題ではなく、多くは気道閉塞および中枢性の障害ではありますが、睡眠中の頻回の覚醒、睡眠不足、日中の集中力低下を伴うため、ここでは睡眠障害の1つとして扱います。

1.概念

 睡眠時に呼吸停止または低呼吸になる病態です。具体的には以下で診断、定義されます。

 ・無呼吸(Apnea):10秒以上の呼吸停止
 ・低呼吸(Hypopnea):正常呼吸の50%以下が10秒以上持続
 →無呼吸/低呼吸が毎時5回以上を睡眠時無呼吸症候群と定義


2.原因

 ・閉塞性:睡眠中の筋弛緩により舌根部や軟口蓋が下がりための気道閉塞
 ・中枢性:脳血管障害・重症心不全などによる呼吸中枢の障害

3.症状

 睡眠時無呼吸症候群には以下の症状を伴います;就寝中の意識覚醒の短い反復、およびそれによる脳の不眠、昼間の耐えがたい眠気、抑うつ、頻回の中途覚醒、集中力の低下、(家族などが気づく)睡眠時の呼吸の停止、(家族などが気づく)大きな鼾(いびき)など、(家族などが気づく)夜間頻尿、起床時の頭痛、インポテンツ(女性の場合は月経不順)、のどの渇く、こむら返り、などです。
 家族などの同居者がいない場合、この病気の発見は遅れやすく、特に自覚症状が弱い場合は誰にも発見されないため、その状態が徐々に悪化して深刻な問題となることもあります。よくある深刻な問題の例は、自動車の運転中の強い眠気による人身事故であります。そうした事故をきっかけに病態が判明することもしばしばです。また、同居者がいてもこの病気に関する情報を持っていなければ、単に「いびきをかきやすい性質」としか認識されず、治療開始が遅れることもありえます。睡眠時無呼吸症候群に特有のいびきは、通常の一定リズムではなく、しばらく無音のあと著しく大きく音を発するという傾向です。

4.治療

 ・カロリー制限による上気道周辺の脂肪組織の減量
 ・睡眠中における持続陽圧呼吸療法
 ・スリープスプリント(マウスピース)による下顎の固定、気道狭窄の予防
 ・外科的治療


◇ 快眠のための工夫

 いよいよ、本投稿の最も大切な部分です。いろんな人が快眠のための工夫を提案しております。この部分に関しては、新しい情報を得次第、随時、更新して参ります。

1.寝る前に体温を上げる!

 人間は、上でも申し上げた通り、日中活動している間は体温が高く、夜、睡眠中には体温が下がります。この体温低下の幅が大きいほど、寝つきが良く、深く眠ることができ、中途覚醒もありません。つまり、眠りに就く前に体温を上げておくと、脳は体温を下げようと指令を出すため、深い睡眠を得られます。体温を下げるためには体中の血液を冷やす必要がありますが、この役割は手足が行います。手足の表面に熱い血液が流れてきて、汗をかくことにより、体から気化熱を奪って血液を冷やし、体温を下げるのです。ちなみに冷え性の人は体温が高くても手足が冷たく、手足からの放熱ができず体温を下げにくいので、夏でも手袋や靴下をはくことで、放熱を促し、体温を下げやすくなります。以下に寝る前に体温を上げる工夫を列挙しました。

【寝る前に体温を上げる工夫】
 ・夕食には暖かい食べ物を!
 ・寝る2時間くらい前の適度な運動
 ・就寝直前の暖かい飲み物
 ・入浴の工夫(38~40℃のぬるめのお湯にゆっくりと10~20分、入浴剤も!)

鍋 写真

ストレッチ 写真

お湯割り 梅入り

2.副交感神経優位にスイッチ:入浴、音楽(波の音)、アロマなど

 自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は日中の活動時に働いており、副交感神経はリラックス時や睡眠中に優位となります。体温の項でも挙げましたが、寝る前の入浴は体温を上げるだけでなく、リラックスすることにより副交感神経を優位にして、体を休息モードにスイッチしてくれます。

入浴シーン 写真

 心地よい眠りを得るには、リラックスした感情をつくるのが一番です。1/f の揺らぎで脳内をα波で満たしてくれる、穏やかな音楽や自然界の波の音を聴いて、心身ともにリラックスを図り、眠りの質を上げると良いでしょう。

波 写真

 ラベンダー、カモミール、ローズ、マジョラムなどのアロマセラピーは、リラクゼーション効果があり睡眠を促します。

アロマ 写真

3.起床の工夫:早起きと朝日

 不眠対策として就寝にばかり気持ちが行きがちですが、起床についても工夫する余地はあります。睡眠を誘発するホルモンであるメラトニンは光を浴びたおよそ14時間後に分泌されますが、この分泌を確実に起こすために、しっかりとカーテンを開けて朝日を浴びる起床は一つの工夫になろうかと存じます。確実な入眠のために、その前の起床で朝日を浴びた確実な目覚めを経験することです。

窓越しの朝日

最大のアンチエイジング、禁煙と受動喫煙の排除


 アンチエイジングを実践する目的にいくつかの食事法や食品を取り挙げて参りました。でも、これこそがアンチエイジングの最たるもの!、と思えることにまだ触れていませんでした。「禁煙」と「受動喫煙の排除」、言葉にすれば簡単ですが、最近の禁煙ブームにより、だいぶ禁煙による効果が統計学的に明らかになってきました。大切に思うヒトに禁煙してもらいたい!、今回のアンチエイジングのテーマは「禁煙」です。


◇ タバコの煙に含まれる有害物質

 タバコそのものと煙に含まれる有毒物質をまとめました、まずは、タバコの煙の種類をご説明します。

1.タバコの煙の種類;主流煙/副流煙、気相/粒子相

 タバコの煙の種類についてご説明いたします。まず、タバコの煙には主流煙と副流煙があります。主流煙とは喫煙者が煙草自体を通して直接吸い込む煙で基本的に酸性であります。一方、副流煙は煙草の点火部から立ち上る煙で、有害成分の量は主流煙より多く、アルカリ性で目や鼻の粘膜を刺激します。自分の意に反して煙草の煙を吸わされる受動喫煙は有毒物質がより多い副流煙に暴露されることになるため、非常に問題とされています。

主流煙と副流煙の図

 喫  煙 = 主流煙
 受動喫煙 = 副流煙(主流煙より有毒物質が多い)


 タバコの煙には気相と粒子相があります。気相はフィルターを通過してしまう気体成分で一酸化炭素、窒素酸化物などです。粒子相はフィルターで捕捉できる程度の大きさの粒子成分で、ニコチン、タール、ヒ素などです。

2.タバコの煙に含まれる有害物質

 タバコの煙には現在分かっているだけで、4000種類以上の化学物質が含まれていることが判明しています。そのうち有害であることが分かっているものだけでも200種類をこえています。以下に、主な有害物質の含有量は主流煙と副流煙ごとに表にいたしました。

タバコ1本から発する煙に含まれる有害物質
タバコに含まれる有毒物質一覧

3.ニコチン

 たばこの煙の粒子相に含まれているニコチンは精神作用をもつ物質で、また「毒物及び劇物取締法」に明記されている毒物でもあります。ニコチンの作用は脳(中枢神経系)のほかに、胃の収縮カを低下させ、吐き気や嘔吐を起こしたりします。また心・血管系には急性作用があり、血圧上昇、末梢血管の収縮、心収縮力の増加などがみられます。
 ニコチンは有害物が入らないように設けられた血液脳関門を容易に通り抜けることができ、脳内の報酬系(脳に快楽をもたらす部位)に作用することがわかっています。このことがタバコへの依存性につながるものと考えられています。
 ニコチンの毒性は青酸に匹敵するといわれており、中毒量は1-4 mg、致死量は30-60 mgです。1本のたばこには10-20 mgのニコチンが含有されており、個人差もありますが、喫煙一本あたり3-4 mgが吸収されます。急性ニコチン中毒のほとんどが、乳幼児のたばこの誤食により起こっています。乳幼児の場合、致死量は10-20 mgですから、1本のたばこを誤って食べてしまうと死亡する可能性があります。

 ちなみに、禁煙のためのグッズとして有名な「ニコレット(ガム)」にはニコチンが含有されており、これ噛むことによりニコチンを摂取してタバコの代用とするものです。これですとニコチン以外の有害物質の摂取を避けることはできますが、ニコチンによる依存性を軽減することなく、またニコチンの心・血管系などへの副作用は残ることとなります。

4.タール

 喫煙時に生ずる夕一ルは有機物を熱分解した際に生まれるものですが、その中にはベンツピレンなど数多くの発がん物質が含まれています。すでにわかっている発がん物質の多くはDNAを直接障害するものです。夕一ルはとくに呼吸器系の疾患やがんと関係が深いと考えられています。

5.一酸化炭素

 たぱこの煙の気相に含まれている一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンと結合するとカルポキシヘモグロビンになります。へモグロビンは身体のすみずみに酸素を運ぷ仕事をしていますが、一酸化炭素とヘモグロビンの結合は酸素の240倍と強力なため、一酸化炭素が体内に入るとヘモグロビンの酸素運搬能力を低下させ、全身的な酸素欠乏を引き起こします。1本のたぱこの喫煙でカルポキシヘモグロビンはl-2 %増加するといわれています。その分、酸素欠乏を招いているわけです。たぱこの煙の一酸化炭素により、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、慢性呼吸器疾患、さらに妊娠時の胎兄への影響などが心配されます。


◇ タバコの煙の身体へ及ぼす影響

01.寿命

 身体への様々な悪影響を総合して、寿命への影響を見ますと、喫煙は10年近く寿命を短縮することが判明しております。もう少し具体的に、、、

 35歳の人が70歳まで生き確率は・・・
  タバコを吸わない人 81%
  タバコを吸う人   58%


喫煙の生存曲線に及ぼす影響
喫煙が生存曲線に与える影響

タバコの害図01
非喫煙者を1.0とした喫煙者(男性・女性)死亡率

02.慢性閉塞性換気障害(COPD)と喘息

 慢性閉塞性換気障害(Chronic Obstructive Pulmonary Disease, COPD)は、タバコが引き起こす代表的な疾患と言えます。気管支が閉塞を来すことにより、咳や痰が気になり、階段を上るだでて息切れします。肺気腫から自然気胸を起こすこともあります。似たような病態として喘息がありますが、こちら喫煙により発作を誘発します。慢性閉塞性換気障害と肺気腫、喘息、いずれの病態も喫煙を続ける限り病態は悪化の一途を辿ります。

03.動脈硬化

 動脈硬化とは動脈の壁が厚くなり、血液が通りにくくなったり、全く通れなくなったりする状態です。心筋梗塞や脳卒中など、命に関わる病気の原因となります。タバコを吸っていると、悪玉(LDL)コレステロールが血管にたまりやすくなるだけでなく、動脈硬化を防いでいる善玉(HDL)コレステロールが減少します。そのため、動脈硬化が発生・悪化しやすくなるのです。

04.高血圧

 タバコの煙には動脈を収縮させ、また心拍を増加させる効果があるため、血圧は上昇します。それに加えて上述のごとく動脈硬化の起こしますので、短期、長期の両方の作用から喫煙は高血圧を引き起こします。

05.心筋梗塞、脳卒中、閉塞性動脈硬化症、動脈瘤(破裂)

 上述の如く、喫煙は動脈硬化と高血圧を引き起こします。これらは、動脈の硬化、閉塞により心筋梗塞や脳梗塞、閉塞性動脈硬化症を引き起こします。英国人男性を対象とした調査では、タバコを吸う高血圧の方は吸わない高血圧の方に比べて脳卒中のリスクが3.8倍に高まったと報告されています。

閉塞性動脈硬化症の足
閉塞性動脈硬化症の足

 また、硬化した動脈に対して高血圧は血管壁の損傷(=動脈瘤)から破綻、すなわち動脈瘤破裂、脳出血を引き起こします。当然の如く、いずれも生命の危機を招く病態です。

腹部大動脈瘤破裂
腹部大動脈瘤破裂症例のCT

06.ストレス

 禁煙をためらう理由として多くの方が、「禁煙するとストレスがたまる」ことを挙げます。しかし、タバコを吸う方は、ニコチン切れにイライラしたり、吸える場所を探したり、火の始末が気になったりと、余計なストレス源を抱えていることになります。禁煙はタバコの誘惑からの自由であり、実際に禁煙を始めることによりストレスは増えず、むしろ軽減することが国内外で報告されています。

喫煙/禁煙とストレス
禁煙・喫煙の継続に見たストレスの変化

07.うつ病

 タバコを吸う方は、うつ病のリスクが高まることが明らかにあっております。海外の調査で、タバコを吸う方のうつ病のリスクは、吸わない方の2.9倍に高まることが報告されています。また、東京近郊の労働者約2,800人を対象とした調査でも、タバコを吸う方では吸わない方の1.65倍、うつ症状が生じやすいという結果が得られました。

タバコとうつ病
タバコとうつ病

08.糖尿病

 タバコを吸っていると糖尿病になりやすいことが分かっています。日本人を対象とした調査では、1日20本の喫煙を25年間続けた場合、糖尿病になるリスクは吸わない方の1.6倍に高まると報告されています。

09.メタボリック・シンドローム

 メタボリック・シンドロームは内臓脂肪型肥満に加え、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つがある状態です。メタボリック・シンドロームになると動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる病気が起きやすくなります。タバコを吸う方のメタボリック・シンドロームのリスクは、吸わない方の1.37-3.4倍に高まるという報告があります。

喫煙・メタボリックシンドローム
メタボリック・シンドロームのリスク(非喫煙者のリスクを1とした場合)

10.胃十二指腸潰瘍

 喫煙は胃酸の分泌を促し、食欲を低下させますので、空の胃十二指腸に攻撃因子(胃酸)が増える結果、胃十二指腸潰瘍を誘発します。

11.妊娠・出産への影響

 喫煙による悪影響として、赤ちゃんの低体重、胎盤の異常や流産、早産などがあり、妊娠中の禁煙は必須と言えます。さらに、タバコを吸っていると不妊のリスクも高まります。

12.皮膚症状

 ビタミンCは皮膚のシミの原因であるメラニンを抑えてくれます。しかし、タバコを吸うことでビタミンCが減少し、メラニンが増えていくのです。また、タバコに含まれている「ニコチン」が新陳代謝を衰えさせて、メラニンを外に出す事ができず、そのまま付着してシミを作ってしまいます。
 また、タバコを吸うとニコチンの影響によって血管が収縮するため、血液の循環が悪くなります。血液中の流れが悪くなると、食事から取った栄養が肌へ行き渡りにくくなります。いくら美肌のために栄養たっぷりの食事を取っても、肌に行き渡らないのでは意味がありません。栄養が行き渡らなくなれば、新陳代謝が乱れやすくなります。その結果、肌がくすんだりしみができやすくなったりするのです。

13.がん

 最後になりましたが、「がん」こそが、発ガン物質を多量に含む「タバコ」によって引き起こされる最も恐ろしい疾病と言えるでしょう。喫煙は、さまざまながんの原因の中で、予防可能な最大の原因です。日本の研究では、がんの死亡のうち、男性で40%、女性で5%は喫煙が原因だと考えられています。特に肺がんは喫煙との関連が強く、肺がんの死亡のうち、男性で70%、女性で20%は喫煙が原因だと考えられています。肺のみならず、タバコの煙やその溶解物が及ぶ臓器として、口腔内、咽頭、喉頭、食道、胃にもタバコの発がん性が発揮されますが、驚くべきは、タバコの煙や溶解物が及ばない、吸収されて暴露、代謝、排泄に関わる、膵臓、肝臓、子宮、膀胱もタバコによるがんの発生率の増加が見られます。

肺がん Xp
肺がんのXp写真

 日本テレビのドラマ「太陽にほえろ」でブレークした故 松田 優作 氏はヘビー・スモーカーでありました。彼は40歳の若さで膀胱がんで他界ました。喫煙との関連は言うまでもないところです。

松田優作 喫煙 写真


◇ 禁煙のための最強兵器!「チャンピックス」

1.「チャンピックス」概要

 さて、禁煙のための最強兵器をご存知でしょうか?、それは、バレニクリン (Varenicline) と言って、世界初のニコチン受容体パーシャル・アゴニスト(部分活性剤)であります。従前の禁煙補助剤であるニコチンガム、ブプロピオン、ニコチン・アンタゴニスト(拮抗剤)などとは異なる薬理作用を有します。米国では「チャンティックス」と言う名称で、2006年5月に販売を承認、同年8月に発売を開始しました。日本での商品名は「チャンピックス」で、2008年1月に製造販売承認を取得、同4月に保険適用、ファイザー製薬が販売しております。

チャンピックス写真

2.薬理作用と使用経験

 α4β2ニコチン受容体の部分作動薬作用があり、つまりニコチンを摂取したのと同じ状況を作り出します。上でも申し上げましたが、実際にニコチンそのものを摂取してタバコを吸いたくなくさせる「ニコレット」とは異なり、ニコチン類似物質と言えるでしょう。使用経験として、最初の1錠目から軽い吐き気を自覚しますし、その1錠目よりタバコを吸った後の感覚を得ます。さらに、ニコチン受容体には拮抗的にも働くため、もしタバコを吸ってもドーパミンの放出が抑制されるため、喫煙による満足感が得られなくなりますし、かえって吐き気が増す感覚を得ます。

チャンピックスの作用機序

チャンピックス(バレニクリン)の作用機序

 若干の吐き気を我慢しさえすれば、朝夕の薬を飲むと、すでに喫煙をした後の感覚になり、しかもそこでタバコを吸っても満足感は得られず、吐き気が増す、そんな生活を繰り返した3ヶ月で、徐々にタバコの本数が減少し、ついに全く必要なくなりました。薬の方は、禁煙後も服用を続けて、こちらも1日1錠に減らしたり減量していって、それでも喫煙の欲求がないことを確認して、禁煙から約1ヶ月で内服を停止し得ました。
 禁煙後約3年になりますが、全くタバコには興味がなく、吸いたいと思わず、かえって他人のタバコの煙に嫌な感覚になりました。


◇ 短期の時系列で見る身体に起こる禁煙の効果

 禁煙の短期の効果を時系列で示します。

1.禁煙開始後20分

 血圧・脈拍・体温が正常になります。20-30分後は喫煙によって収縮していた血管が元に戻り、ようやく手足の血行がよくなってくる頃です。ところが、体はニコチンを求め始め、人によってはもうイライラするなどの症状がでてくる場合もあります。

2.禁煙8時間

 呼吸器系の改善がみられ、血液中の一酸化酸素濃度が正常化し始め、酸素濃度は正常に上がります。しかし、喫煙したいという思いから、禁煙の効果を感じるのは難しい時期かと思います。

3.禁煙から24時間

 心臓発作の危険性が減少し、肺胞の浄化が始まるとされます。血液中の一酸化炭素濃度は完全に正常化します。しかし、禁煙24時間ぐらいが最も持続できない時間帯でもあります。

4.禁煙2日以内

 末梢神経が正常化して、味覚、嗅覚が改善、ご飯やお酒がおいしくなり始めます。

5.禁煙より2〜3日目

 ニコチンが体内から検出されなくなります。

6.禁煙から3日

 気管支が緩み、呼吸が楽になり、肺活量も増加します。ランニングなどの軽い運動をしてみれば、禁煙の効果、健康体をはっきり実感できます。

7.禁煙から2〜3週

 循環器機能が良くなり、歩くのが楽になる。肺の機能は30%も良くなります。体全体の血液の流れが改善し、お肌にハリとツヤが戻ってきます。

8.禁煙から1〜9ヶ月

 咳、痰、疲労感、倦怠感、息切れが減ります。肺胞細胞が修復、浄化され、細菌感染の頻度が減弱するとされます。


◇ 禁煙の長期的効果

 現代は、喫煙に対する風当たりが厳しい時代となっており、禁煙に成功する人が増加しております。その結果、以前には得られなかった、禁煙の長期的効果が統計で示されるようになって来ました。こうした傾向は、今後も多岐にわたって報告されるものと思われます。

1.禁煙から5年以内

 肺がんでの死亡リスクが半分に減ります。

2.禁煙から10年

 肺がんその他の死亡リスクが非喫煙者と同程度になります。喉頭がんに関しては喫煙者の60%にまで低下します。心筋梗塞および脳卒中の発生頻度も非喫煙者と同等にまで低下します。

3.禁煙から20年

 口腔がんのリスクが非喫煙者とほぼ同等になります。

4.禁煙開始年齢により取り戻す寿命

禁煙で取り戻せる寿命 図


ただのダイエット・サプリ(食品)ではない ラクトフェリンでアンチエイジング!


 いわゆる、「ダイエット・サプリ(食品)」と言うものがあって、歴史の古い順に、1)低カロリーで満腹感を生み出す食品:ハイマンナン、糖質制限食など、2)脂肪を燃焼する作用:ナイシトールやメタバリアなど、3)カロリーの吸収阻害作用:フォースコリーやカロリミットなど、が挙げられます。最近、注目を浴びつつあるダイエット・サプリに「ラクトフェリン」と言う物質がありますが、これに関しては他のサプリ(食品)とは異なる様々な作用があって、単なるダイエット・サプリ(食品)ではない、アンチエイジングに役立つものではないか?、と思われ、ちょっとまとめてみました。


◇ ラクトフェリンの概要

 ラクトフェリン lactoferrin(別名:ラクトトランスフェリン lactotransferrin)は哺乳類が出生して最初に口にする栄養と言えます。なぜなら、この物質は母乳、取り分け出産直後に分泌される初乳に多く含まれ、新生児を感染症から守る働きがあるとされ、抗病原菌効果、免疫賦活効果、抗腫瘍効果、脂質代謝改善、創傷治癒など、多くの薬理作用を有する物質であります。人間の初乳には牛の初乳の約10倍のラクトフェリンが含まれるとされ、その量は1リッターあたり6-8g、母乳中の10-30%を占めるとされます。また、初乳を過ぎた、出産後約3週の母乳ではラクトフェリンの含有量は1/3程度まで減少します。
 母乳の他、涙・汗・唾液などの外分泌液中に含まれる鉄結合性の糖タンパク質であり、1939年、デンマークの科学者により、牛乳中に含まれる「赤色タンパク質 (レッド・プロテイン)」として初めて発見、報告されました。その後、1960年にヒトとウシの乳より精製され、アミノ酸配列が決定されました。ウシの場合689アミノ酸、ヒトの場合692アミノ酸で構成され、Nローブ・Cローブと呼ばれる球状のドメインが一本のポリペプチドで連結された構造を持ち、各ローブは1個の鉄イオンと強力に結合しています。

lactoferrin01_img01.jpg

 
◇ ラクトフェリンを含む食品とその消化・吸収

 ラクトフェリンは母乳に多く含まれますが、そのほかにはチーズやヨーグルト、スキムミルク、脱脂粉乳、牛乳などの乳製品に多く含まれます。しかし、ラクトフェリンは熱に弱いという性質があり、食品を殺菌する際に加熱することで壊れてしまいます。そのため、市販のチーズや加熱処理を施した牛乳にはほとんどラクトフェリンが含まれない状態となってしまうのです。チーズの中でも、ゴーダチーズやチェダーチーズなどといったナチュラルチーズは熱殺菌をしないため、他のチーズに比べるとラクトフェリンが含まれています。そうは言っても、100gあたりわずか0.3g程度なので、決して多く含まれているとは言えません。
 食べ物から摂取したラクトフェリンは、アミノ酸や小さなペプチドに分解されますが、その一部はペプチドやラクトフェリンのままで腸に達します。腸に達したラクトフェリンやその消化ペプチドは腸管免疫系に作用して全身に効果をもたらします。ただ、ラクトフェリンは胃酸や酵素に弱いという特徴があり、そのため、食べ物から摂ったとしてもその多くは胃の中にある胃酸やたんぱく質分解酵素、ペプシンによって分解されてしまいます。初乳を飲む新生児の場合は、胃酸や消化酵素の分泌が少ないので小腸まで届くものと考えられております。
 乳製品など一般の食品には含有量が少なく、熱処理で壊されてしまい、また、胃酸と消化酵素によって分解されてしまうラクトフェリンですが、最近ではその活性を保持したまま、取り出す製造方法が研究され、様々な食品に付加することが可能となり、胃では分解されずに腸まで達する製剤が開発されております。


◇ 抗菌活性

 ラクトフェリンは、強力な抗菌活性を持つことが知られており、上述の通り、初乳に多く含まれることで、免疫グロブリン(IgA)やラクトペルオキシダーゼなどと共に、免疫系が未熟な新生児を外敵から防御していると考えられております。抗菌活性の機序は以下の通りです。

1.細菌からの鉄分の剥奪

 グラム陽性、グラム陰性に関係なく多くの細菌は、生育に鉄が必要であります。トランスフェリンと同様、ラクトフェリンは細菌より鉄を奪い去ることで、細菌の増殖を抑制します。ラクトフェリンの鉄飽和度が高まるに従って抗菌活性は低下することも証明されております。

2.細菌の細胞膜脆弱化

 ラクトフェリンはグラム陰性菌の細胞膜の主要な構成成分であるリポポリサッカライド(LPS)と結合することで、細胞膜構造を脆弱化し、抗菌活性を示すとされます。

3.バイオフィルム形成阻害

 ラクトフェリンは緑膿菌によるバイオフィルムの形成を阻害します。

4.ラクトフェリシンの抗菌活性

 ラクトフェリンをペプシンで分解した部分ペプチドであるラクトフェリシンは、細菌の細胞壁に傷害を与えることで、ラクトフェリンよりも10倍以上強力な抗菌活性を示すとされます。


◇ 抗ウイルス作用

 ラクトフェリンはC型肝炎ウイルス(HCV)のエンべロープに結合することで、標的細胞への浸入を阻害するとされます。また、ウシラクトフェリンをC型肝炎の患者に経口投与すると、血中のHCV濃度が低下することが報告されています。さらに、ラクトフェリンはHCVの他、B型肝炎ウイルス(HBV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)の複製を阻害することが明らかになっております。また、ラクトフェリンは消化管細胞の表面に結合することで、ノロウイルスやロタウイルスの細胞への感染を防ぎ、発症した場合でも症状を緩和する報告があります。


◇ 原虫に対する効果

 トリパノソーマの生育に対して、ラクトフェリンおよびラクトフェリシンは抑制的に働くことが指摘されております。


◇ 善玉腸内細菌増殖から腸内環境調整作用

 一般細菌に対する抗菌作用とは裏腹に、乳酸菌やビフィズス菌などの腸内細菌は生育の鉄要求性が低いため、これらの菌に対してラクトフェリンは抗菌活性を示さず、むしろ増殖を促進するとされます。幼児にラクトフェリンを投与すると、糞便中のビフィズス菌の検出頻度が上昇することから、ラクトフェリンは腸内フローラの改善に有効であり、体内の有害物質や老廃物をスムーズに体外に排泄する効果も言われています。


◇ 抗酸化作用

 過酸化水素からヒドロキシラジカルが生産される反応は鉄により触媒されます。ラクトフェリンは生体内で過剰になった遊離の鉄イオンを取り除くことで、ヒドロキシラジカルの産生を抑制すると考えられます。ラクトフェリンを経口あるいは腹腔内に投与したマウスにX線を全身照射すると、ラクトフェリンを投与しないマウスと比較して生存率が上昇しますが、これはラクトフェリンが鉄補足によりラジカルの産生を抑制したためと考えられています。


◇ 免疫賦活作用

 ラクトフェリンは、白血球の一種である好中球の分泌顆粒にも含まれ、炎症反応や細菌の感染に反応して血液中に放出されます。また、経口投与されたラクトフェリンが、腸間膜リンパ節およびパイエル板で免疫細胞に作用する可能性が指摘されています。ナチュラルキラー(NK)細胞の細胞障害作用や、マクロファージの貪食作用はラクトフェリンにより活性化されます。また、ラクトフェリンはB細胞やT細胞の増殖を促進する作用もあります。これらの免疫系の細胞に対するラクトフェリンの機能は、抗菌活性と同様に生体防御に寄与していると考えられます。ラクトフェリンは細菌由来の炎症物質であるリポポリサッカライド(LPS)と強力に結合することにより、LPSのマクロファージへの結合を阻害し、炎症性サイトカインであるTNF-αやIL-6の産生を抑制する抗炎症作用を持ちます。


◇ 抗腫瘍効果

 化学物質投与によるラットの大腸癌モデル、肺癌モデルやマウスの大腸癌転移モデルにおいて、ウシラクトフェリンの経口投与は、発がんや腫瘍の転移を抑制する効果が報告されています。ラクトフェリンは腫瘍細胞にアポトーシスを誘導するほか、血管新生を阻害し栄養と酸素を遮断することで腫瘍組織の拡大を防ぐとされ、免疫賦活作用に伴う抗腫瘍効果が期待されます。


◇ 脂質代謝改善効果

 脂肪前駆細胞から成熟脂肪細胞への分化の過程で、ラクトフェリンを培養液に添加すると脂肪滴陽性細胞の数が減少します。マウスにラクトフェリンを経口投与すると、血液中の中性脂肪と遊離脂肪酸が減少し、肝臓中の中性脂肪とコレステロールが減少します。臨床試験の結果、ラクトフェリンの投与により体重の減少と腹部内臓脂肪の減少が確認されています。


◇ 骨誘導活性

 ラクトフェリンは、骨芽細胞の増殖や分化を促進するとともに、破骨細胞による骨吸収を抑制することで骨形成を促進します。骨粗鬆症のモデルラットにラクトフェリンを経口投与すると骨密度が上昇するとされます。これが骨芽細胞や破骨細胞に対するラクトフェリンの直接的な作用によるものかは不明であります。


◇ 歯周病治療

 ラクトフェリンは唾液に含まれており、口腔内の病原微生物や歯周病菌に対して抗菌活性を持ちます。ウシラクトフェリンの摂取により、歯周ポケット内の歯周病菌数が減少し、歯周病の症状が改善され、さらに、ラクトフェリンは歯周病菌から分泌されるLPSを中和し、TNF-αの産生を抑制することで、歯周組織の炎症や歯周組織の破壊を防ぐとされます。


◇ 創傷治癒促進効果

 ラクトフェリンは真皮を構成する線維芽細胞や表皮を構成する角化細胞(ケラチノサイト)の細胞遊走を促進します。さらにラクトフェリンは線維芽細胞によるコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進するとされ、皮膚疾患モデルマウスへのラクトフェリンの局所投与により、創傷の治癒が促進され褥瘡が予防されると報告されています。


◇ ラクトフェリンの副作用/危険性

 昔から「母乳で育てると強い子になる!」と言われているように、母乳には多くの栄養素と免疫力を高める成分が含まれています。その一つがラクトフェリンです。このように、抵抗力のない赤ちゃんが飲んで健康に育つために必要不可欠とされている母乳に含まれるラクトフェリンには副作用はほとんどないとされています。アメリカでは2001年にGenerally Recognized As Safe(GRAS)として安全性が認められており、これはアメリカの添加物の中で特に安全性が認められたものに与えられるものです。通常の添加物と比較するとGRASがつくことによりアメリカの連邦食品医薬品局(FDA)のお墨付きである証拠となります。
 副作用も少なく、安全性の高いラクトフェリですが、過剰に摂取すると腸の働きは活発になり過ぎてお腹がゆるくなる可能性はあります。また、ラクトフェリンの原材料は乳製品ですので、乳製品に対してアレルギーがある人は特に注意が必要となります。


◇ ラクトフェリン・サプリ ランキング

 これほどまでに広い作用を持つ物質ですのが、「ラクトフェリンを含む食品とその消化・吸収」で述べた通り、食品の含有が少なく、熱や胃酸、酵素に弱い性質から、普通の食生活で摂取するのは困難な物質であります。これに対して、最近ではその活性を保持したまま、取り出す製造方法が研究され、様々な食品に付加することが可能となり、胃では分解されずに腸まで達する製剤が開発されております。私はライオンや森永とは何の関係もありませんが、サプリメントのランキングをお示しいたします。

ラクトフェリンランキング題名
ラクトフェリントップ5
ラクトフェリントップ5説明



アンチエイジング anti-aging 入門


 これまで、新しい食生活や、いくつかの健康食品、最近ではポリフェノールを取り上げて参りましたが、ここでアンチエイジング(anti-aging)についてまとめておきたいと思います。

◇ アンチエイジングの概要

 アンチエイジング(anti-aging)は、学問としては抗老化医学(life extension)と呼ばれ、老化を防ぐ、積極的予防医学の一種とされます。人間の本来の姿、本来の寿命、至適な状態に心身ともに持ってゆく事を目的とし、医学のみならず周辺科学を含む集学的学問であります。具体的には老化の原因を除去することと、健康寿命を延長せしめるのがアンチエイジングであります。

 アンチエイジング
 : 人間の本来の姿、本来の寿命、至適な状態に心身ともに持ってゆく
  = 老化の原因の除去、健康寿命の延長
  → 老化の予防


【アンチエイジングに関連する学問/事象】
 ほぼ全ての一般診療科目、運動生理学、美容外科(皮膚科)、栄養学、東洋医学、
 代替補完医学、気功、風水、瞑想、音楽・芸術、エステ、アロマ、ハーブ


◇ 老化(aging)の概念

 まずは老化そのものについてご説明いたします。老化(aging)とは、時間の経過とともに生物の個体に起こる変化の中で、成長とは反対の、特に生物が死に至るまで間で起こる機能低下やその過程を指します。多くの生物に、たとえ環境条件などを整えたとしても、この機能低下は避けられず、誕生以来一定期間以内に死に至る「寿命」が存在します。当然の如く、アンチエイジングは老化の予防でありますので、この老化の原因を除去することはアンチエイジングの大半を担うものであります。

1.テロメラーゼ活性と老化のない生物

 老化のない「不死化」に関与する酵素にテロメラーゼ(telomerase)が知られています。これは、真核生物の染色体の末端部にある構造であるテロメア(telomere)配列の鋳型となるRNAと逆転写酵素、その他の制御サブユニットからなる複合体とされます。通常、一般に細胞分裂ごとにテロメアの短縮が進み、やがてヘイフリック限界と呼ばれる細胞分裂の停止が起きるとされます。テロメラーゼは、テロメアの延長、すなわち細胞分裂の継続に関与するとされ、ヒトでは生殖細胞、幹細胞、がん細胞などでの活性が認められます。海綿動物や扁形動物の体細胞、あるいは植物や菌などの細胞では、このテロメラーゼが高い活性を示しており、ガン化を伴わない通常細胞における「不死」でとされます。

MurasakikaimenM.jpg
海綿動物の一種、ムラサキイソカイメン

胃がん標本
前庭部小弯の進行胃がん
 :がん細胞はテロメアーゼ活性が高くテロメアを延長することで「不死化」されているが、そのがんの進行は個体を死に至らしめる

2.ヒトにおける老化

 ヒトを含む哺乳類の老化では加齢とともに胸腺の萎縮の他、様々な変化、機能低下が見られます。いわゆる老人病には、骨粗鬆症、認知症、動脈硬化性疾患などがあり、また、肥満も痩せすぎも寿命短縮のリスク要因となり、喫煙、糖尿病、高血圧は老化を促進します。スポーツ習慣や適量の飲酒は老化を遅らせるとされます。


◇ アンチエイジングの対象となっていない老化の原因

 ここでは老化の原因として、現時点においてアンチエイジングの観点からは予防できないものをご紹介いたします。いずれも遺伝子に関連するものであるため、将来的に、遺伝子治療などの解明、臨床応用が発達した際には、新しい未来が開ける分野かと考えます。

1.プログラム説

 それぞれの細胞には、分裂できる限界がはじめから設定されており、その回数を迎えて分裂ができなくなることにより老化が発生するという説であります。分裂できる限界数は、種によってまちまちであるが、概ねその種の寿命と比例していることから現在有力な説のひとつです。上でも紹介した、テロメアは細胞分裂の度に短くなることから、このプログラム説の機構を行う部分であると考えられております。

Telomere_scheme.png

 この説における解決法としては現在、テロメラーゼが有力であります。がん細胞においては、テロメラーゼが高活性化することにより細胞が不死化することから、幹細胞のテロメラーゼの活性をコントロールすることで不老不死の実現が可能なのではないか、ヒトの老化を回避して寿命を延長し得るのではないか、との考え方があります。しかしながら、テロメラーゼの活性化には、細胞老化防止の可能性と、正常細胞のガン化の一因となり個体寿命の短縮化をもたらす可能性があることの両面が指摘されており、アンチエイジングへの応用についての評価は定まっていません。

2.エラー説

 細胞分裂の際に少しずつ発生する突然変異が、徐々に蓄積されていき、最終的に破綻するのではないかという説であります。日本人に多い病気で、成人期以降に発症するウェルナー症候群をはじめとする早老症ではヘリカーゼというDNA修復に関与すると推測される遺伝子に異常が認められたから考えられました。

ウェルナー症候群患者
ウェルナー症候群の患者

 DNA分子の損傷は1日1細胞あたり最大50万回程度発生することが知られており、DNA修復速度の細胞の加齢に伴う低下や、環境要因のよるDNA分子の損傷増大によりDNA修復がDNA損傷の発生に追いつかなくなると以下の現象が起こるとされます。

 ・老化(細胞老化):不可逆な休眠状態に陥る
 ・アポトーシス(プログラム細胞死):細胞の自殺
 ・がん化


 人体においては、ほとんどの細胞が細胞老化の状態に達するが、修復できないDNAの損傷が蓄積した細胞ではアポトーシスが起こります。この場合、アポトーシスは体内の細胞がDNAの損傷によりがん化し、体全体が生命の危険にさらされるのを防ぐための「切り札」としての機能と考えられております。この説における解決法としては、前述のDNA修復遺伝子を活性化させるなどして、修復速度が突然変異の蓄積速度を上回る状態にすることが考えられております。


◇ 抗糖化ケア(= 糖質制限)によるアンチエイジング

 老化と体内で発生する糖化が密接な関係にあることから、急激な血糖値の変動を抑制することでアンチエイジングに繋げる考え方があります。

1.糖尿病患者の寿命短縮現象から

 1971年から1980年のデータで糖尿病患者と日本人一般の平均寿命を比べると男性で約10年、女性では約15年の寿命の短縮が認められました。このメカニズムとして高血糖が生体のタンパク質に対して非酵素的な糖化反応を発生させ、タンパク質本来の機能を損うことが指摘されております。

2.臓器別 糖化の実際

1)水晶体:白内障
  ・コラーゲンや水晶体蛋白クリスタリンなど寿命の長いタンパク質への糖化の影響

2)血管壁:動脈硬化
  ・血管壁にて糖化された老廃物が沈着

3)皮膚:しわ、老人斑
  ・コラーゲンの糖化による肌の張りと弾力性を失わせ老化した皮膚へと変質
  ・糖化およびメイラード反応に伴う色素の形成

4)骨:骨粗鬆症
  ・骨に含まれるコラーゲンの糖化による骨の質(骨強度)を劣化

5)脳:アルツハイマー病
  ・脳内のアミノ酸が糖化された結果蓄積された老廃物が原因との説

6)末梢神経:末梢神経障害
  ・神経組織のミエリン蛋白、ニューロフィラメントなどの糖化による障害

7)その他
  ・臓器を問わず、糖化反応により生じたフリーラジカル等により酸化ストレスも増大
  ・糖化が原因で発生した動脈硬化は全身の臓器への微小循環を悪化する

3.抗糖化ケアの実際

 糖化を予防する主として食生活は「抗糖化ケア」と呼ばれており、その要点は、急激な血糖値の上昇を起こさない工夫とされます。炭水化物が消化吸収されて糖に変化して血糖が上昇する速さを相対的に示す数値をグリセミック・インデックス(指数、GI)と言います。「抗糖化ケア」はこのGI値が低い食事を摂取することが推奨されます。

 GI値 = 食品50g摂取後の血糖上昇曲線の面積
      / ブドウ糖100g摂取後の血糖上昇曲線の面積 x 100


 低GI食品(< 55):ほとんどの果物、野菜、豆類、全粒穀物、ナッツ、低糖食品
 中GI食品(56-69):全粒粉製品、さつまいも、バスマティ
 高GI食品(> 70):じゃがいも、スイカ、白パン、白米、コーンフレーク、砂糖


 例えば、果糖のほうが他の糖類よりも血糖値の上昇が少ない性質を捉えて、果物から先に食べる工夫をするだけでも、血糖値の急激な上昇を抑えることが可能になり、体の糖化の抑制が期待出来ます。また、以下の健康茶はコラーゲンの糖化に対して強い抑制効果を持つことが知られています。

【コラーゲンの糖化に対して強い抑制効果を持つ健康茶】
 ドクダミ茶、菊茶(黄山貢菊茶)、シソ葉茶、柿の葉茶、グアバ茶、ハマ茶

ぐわば茶、柿茶


◇ 抗酸化によるアンチエイジング

 本年4月23日の「ポリフェノール 糖質、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルに次ぐ6番目の栄養素として注目!」と題した投稿の繰り返しになりますが、生体内に発生する活性酸素種やフリーラジカルによって引き起こされる各種疾病や老化現象を予防する考え方です。

1.生体内酸化ストレスと疾病

 生体内では、紫外線、放射線、大気汚染、喫煙、食品添加物などにより、活性酸素種やフリーラジカルなど、常に組織の酸化損傷を起こす物質が発生しております。これに対して、スーパーオキサイド・ディスムターゼ、グルタチオン・ペルオキシダーゼ、グルタチオン・リダクターゼ、カタラーゼ、酵素活性を支える微小ミネラルならびにビタミン群など、抗酸化物質も存在しており、両者のバランスの崩れから酸化に傾く状態が「酸化ストレス」と呼ばれます。酸化ストレス状態が続くと、細胞内ミトコンドリアDNA、細胞膜、核DNA、タンパクの変性損傷を誘発し、発がん、神経疾患、動脈硬化、白内障などの成人病や生活習慣病、老化を誘発するとされます。

酸化抗酸化のバランスと疾病の図

2.生体内酸化ストレスに対する防御機構

 もう少し、抗酸化物質の生体内酸化ストレスに対する防御機構を具体的にご説明します。細胞内外の各種酸化ストレスによって活性酸素・フリーラジカルを発生して、標的分子として脂質・タンパク質・酵素・核酸への直接損傷に反応し、各細胞の生体膜また各臓器の組織を損傷させ生活習慣病・発がん・老化につながる過程で、各種生体内抗酸化物はそれぞれのステップにおいて予防的に機能すると言うものです。

抗酸化物質の抗酸化作用

3.酸化を起こす現象や物質からの回避

 まずは、紫外線、放射線、大気汚染、喫煙、食品添加物などが生体内に酸化を引き起こすのですから、そうした現象や物質には暴露されない工夫が第一に必要です。直射日光を浴びない、放射性物質への注意、各種汚染物質、受動喫煙を含むタバコからの回避、そしてなにより食生活への配慮が重要です。

4.抗酸化物質の摂取

 様々な工夫から、酸化を起こす現象や物質からの回避をしていても、どうしても、日常生活において、酸化を起こす現象や物質からの暴露は避けられません。抗酸化物質を摂取する習慣でアンチエイジングとする例を列挙いたします。

1)ビタミンC
  :レモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツ、カムカム、柿、アセロラ、パセリ、
  キウイフルーツ、トマト、グァバ、パパイヤ、ブロッコリー、芽キャベツ、イチゴ、
  ブラックベリー、カリフラワー、ほうれん草、マスクメロン、ブルーベリー、サツマイモ
  ※加熱により酸化
  
レモンとキウイ

2)ビタミンE
  :ひまわり油、コーン油、オリーブ・オイル、キャノーラ油、大豆油、アーモンド、
  ラッカセイ、キャビア、いくら、たらこ、青魚、マヨネーズ

アーモンドとオリーブオイル

3)コエンザイムQ10(CoQ10、ユビキノン)
  :いわし、さば、豚肉、牛肉、レバー、もつ、かつお、まぐろ、イカ、ピーナッツ、
  大豆、ブロッコリー、ほうれん草、ゴマ油、大豆油、ナタネ油
  ※加熱調理に強い

4)α-リポ酸(チオクト酸 Thioctic acid)
  :牛・豚の肝臓、心臓、腎臓、ほうれん草、トマト、ブロッコリー
  ※含有量は少ない

5)カロテ(チ)ノイド
  :にんじん、ほうれんそう(β-カロテン、α-カロテン)、かぼちや(ゼアキサンチン)、
  トマト、スイカ(リコピン)、エビ、カニ(アスタキサンチン)、卵黄(ゼアキサンチン)
  ※加熱調理に強い

にんじんとほうれん草

6)グルタチオン
  :カキ、いわし、豚バラ肉、牛レバー、精白米、ブロッコリー、アスパラガス、
  ビール酵母、トマト、ほうれん草
  ※加熱により分解

7)アセチルシステイン

8)ポリフェノール
  :緑茶(カテキン)、ワイン、ベリー(アントシアニン)、番茶(タンニン)、蕎麦(ルチン)、
  大豆(イソフラボン)、コーヒー(クロロゲン酸)、ゴマ(セサミン)、ウコン(クルクミン)、
  カカオ(カカオ・ポリフェノール)
  ※詳しくは過去の投稿を参照ください↓。
   ポリフェノール 糖質、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルに次ぐ6番目の栄養素として注目!


◇ ファスティングによるアンチエイジング

 今、密かに(?)、ある一定期間、食事の摂取を止める「断食 = ファスティング」のアンチエイジング効果が言われております。その有効性を列挙いたしますが、昨年の8月11日「科学?/非科学? ファスティング(断食)の美容・アンチエージング・疾病における有効性を検証」、および9月7日「解明されつつあるサーチュイン遺伝子のアンチエイジング効果」と題して記事でご紹介しました。詳しくは下記のページを参照ください。

  科学?/非科学? ファスティング(断食)の美容・アンチエージング・疾病における有効性を検証

  解明されつつあるサーチュイン遺伝子のアンチエイジング効果

1.内臓諸器官の休息

 食事摂取により慢性的に消化と吸収、代謝、排泄を行っている胃腸や肝臓、腎臓はともすると疲弊してしまい、その機能低下は様々な病態を引き起こします。胃腸の障害は、消化吸収障害のみならず「リーキー・ガット症候群 Leaky Gut Syndrome(LGS、腸管壁浸漏症候群)」や、次で述べます宿便の原因となります。肝臓、腎臓の疲弊は、当然の如く慢性肝障害→脂肪肝、慢性腎機能障害へと進行します。摂取カロリーを減らすことのみならず、ある一定時間、内臓に負荷をかけないことによる休息が、該当臓器の再生に繋がるとの言う発想です。

2.宿便の排泄

 宿便とは、腸内に長く滞留している糞便のことで、「滞留便(たいりゅうべん)」とも呼ばれます。老廃物が腸管内に長時間滞留すると、牛乳が腐敗菌で腐るように、老廃物が悪玉菌で腐敗し、毒素と悪臭(排ガス)を産生し、毒素は腸管壁から吸収されて血流に入り、身体の隅々まで送られます。ファスティングによって食べ物の消化・吸収の負担が軽減された消化管は排泄に専念できるようになり、その結果、溜まっていた宿便を排泄できると言われています。宿便の排泄がアンチエイジングに繋がるので、ファスティングが有効であるとの考え方です。

3.自己融解作用

 ファスティングにより栄養の供給が遮断あるいは減少すると体細胞は栄養分となるものを体内から探して、それを融解して栄養として利用すると言うものです。その最も顕著な組織として血管壁に沈着した脂肪分が指摘されています。血液中のコレステロールや中性脂肪は元より、動脈硬化の正体である血管壁に形成されたアテローム(コレステロールの塊)も自己融解を起こすとされます。動脈硬化が改善すると、臓器への微小循環が改善されますので、生体の各種臓器が若返り、それが全身のアンチエイジングに繋がると言う発想です。

4.眠っている本来の力を蘇らせる

 過食の時代を生きる我々は体内に過剰なエネルギーを溜め込んでおります。ファスティングは体内の余分な栄養を取り除き、身体に対して飢餓状態と言うストレスをかけます。本来の人間は農耕も家畜も行わない旧石器時代の人類と同じ遺伝子であると考えられております。体内に過剰なエネルギーを溜め込んでいることは本来の姿ではなく、ファスティングで飢餓状態のストレスをかけることで眠っている本来の力を蘇らせると主張するむきがあります。

5.内面的な効果

 ファスティングを実践している人の言葉です。「何より実感できるのは、まず味覚の変化でしょう。普段から外食が多い方は特に、濃い味付けや化学調味料などによって、味覚が麻痺しているもの。現代に多い糖尿病や高血圧、肥満なども味覚の狂いと深く関わっていることは自明の理です。たった数日であっても固形物を摂らない期間をつくることで、味覚はリセットされ、素材そのものの味を感じることができるようになっているのです。」
 また、今まで当たり前のように食べていた食事を、数日ぶりに口にする回復食のお粥のあまりの美味しさに中には涙を流す人もいると、、、。それは美味しさに対しての感動だけではなく、食べられる有難さや感謝の気持ちも合わさってのことかも知れません。ファスティング後は、体のリセット、デトックスは勿論のこと、心の変化を実感する人も少なくないと言われております。

6.サーチュイン(Sirtuin)遺伝子活性化による老化抑制作用

 サーチュイン(Sirtuin)遺伝子は、長寿遺伝子または長生き遺伝子、抗老化遺伝子とも呼ばれ、その活性化により生物の寿命が延びるとされます。サーチュイン遺伝子の活性化により合成されるタンパク質、サーチュイン(Sirtuin)はヒストン脱アセチル化酵素であるため、ヒストンとDNAの結合に作用し、遺伝的な調節を行うことで寿命を延ばすと考えられています。
 サーチュイン遺伝子を活性化にする代表的な方法は、「カロリー制限」であります。カロリー制限がなぜサーチュイン遺伝子の活性化を引き起こすのか、機序は明らかになっていませんが、軽い飢餓状態を作り出し、細胞にちょっとしたストレスを与えると、それまで眠っていたサーチュイン遺伝子が“目覚め”、老化に対抗する働きをすると考えられております。


◇ リラクセーション(relaxation)によるアンチエイジング

 現代はストレスフルな時代であり、持続する過度の緊張感、仕事が夜にまで及ぶ不規則な生活、睡眠不足、暴飲暴食などによる、胃腸障害や精神症状を来たす人は増加しております。見かけ上の平均寿命の延長はあったとしても、社会全体としては健康寿命に合致していない印象です。勉学や仕事において緊張感は必要であり、言うまでもなく、通常の生活においてストレスは不可避なものと考えます。しかしながら、日常生活のどこかに「リラクセーション(relaxation):緊張を緩めて精神的平衡を取り戻す」、そんな時間を持つことで心身の若返り、アンチエイジングが可能になると考える次第です。ここでは医療講演に使っているスライドでご説明いたします。

1.免疫力の向上

 心身のリラクセーションにより自律神経の活性化が交感神経よりも副交感神経優位になると、ナチュラル・キラー(NK)細胞の活性化など免疫力の向上が起こるとされます。これはがんをはじめとする各種疾病の予防に繋がります。

リラクセーションスライド1

2.血管拡張作用

 副交感神経優位は血管平滑筋に対する弛緩作用があり、その結果、血管の拡張は血圧を低下して動脈硬化を予防し、臓器血流量の増加は臓器の若返りを惹起いたします。

リラクセーションスライド2

3.心の若返り

 心身のリラクセーションは精神(頭)の休息に繋がり、内なる叡智、意欲の余地を生み出します。これは心の若返りであります。

リラクセーションスライド3

4.リラクセーションの方法論

 リラクセーションをどのように生み出すかは個人で異なると思います。ここでは、各方法についての説明は別の機会に譲るとして、リラクセーションを生み出す手段を列挙いたします。

 1)十分な睡眠
 2)ぬるい湯(39〜40度)で15分以上の入浴
 3)瞑想
 4)笑い
 5)音楽鑑賞
 6)パワー・スポット

 等々でしょうか?

がん告知のあるべき姿 〜ある、がんセンターに紹介した末期胆嚢がん症例から〜


 最近、がんセンターに関わる不快な出来事があって、最近のことですので詳細は申し上げませんが、以前にもあった似たような出来事をご紹介して、当ブログにて過去にも取り上げた「がんの告知」について考えたいと思います。


◇ 60歳代 男性 末期胆嚢がん症例

 場所と時期については特定いたしません。関東圏には県立および国立のがんセンターが複数個ありますので、ここでの「がんセンター」とはその中の1つと言うことです。ある日の外来に以下の患者が受診されました。

1.患者プロフィール

60歳代 男性

初診時問診および所見

 主 訴:腹部膨満感
 現病歴:約1月前より腹部膨満を自覚しており、この数日で増強してきており、食事摂取も困難となったため来院した。体重の増減については不明。便通は良好。疼痛なし。
 既往歴:特記事項なし
 家族歴:特記事項なし
 現 症:眼瞼結膜に貧血なし、眼球結膜に横断なし。腹部全体は均一に膨満し、触診にて波動が認められることから腹水貯留が疑われた。腹満感はあるものの圧痛点は見られなかった。

検査データ

 末梢血:正常範囲内
 生化学:血漿蛋白正常、軽度の肝機能障害、ALP異常高値、電解質・腎機能正常、炎症反応なし、CA19-9(腫瘍マーカー)異常高値

画像診断

 超音波:腹部エコーでは大量の腹水貯留と肝内に大小複数の低エコーを示す腫瘍性病変が認められた。肝内胆管の拡張なし。胆嚢壁のびまん性肥厚が認められ、ドップラーエコーで豊富な血流が考えられた。胆嚢結石はなし。肝十二指腸間膜にリンパ節腫大を示唆する低エコー腫瘤が散見された。膵、脾、腎に異常所見なし。
 腹CT:腹腔内に大量の腹水貯留が認められた。肝両葉に転移性腫瘍を疑う大小多数の腫瘍性病変が認められた。肝内胆管の拡張なし。胆嚢は萎縮して全体に壁肥厚が見られ、強く造影された。肝十二指腸間膜にリンパ節腫大を示唆する腫瘤性病変が散見された。大網および腸間膜に細かい結節性病変が無数に認められた。膵、脾、腎に異常所見なし。
 GIF:胃内視鏡では食道裂孔ヘルニア、慢性萎縮性胃炎の所見のみ。
 TCF:大腸内視鏡では小ポリープが数個見られるのみ。

腹水細胞診

 エコーガイド下に行った腹水穿刺にてclass V(悪性), adenocaricinoma(腺がん)を強く疑う。

2.本人家族への説明

 上の臨床所見からは、がん性腹膜炎状態は確定で、病理診断には至らぬものの、画像からは多発性肝転移を伴う胆嚢がんであり、すでにStage IVbの末期状態であることは明白でありました。一連の検査が終了したところで、本人、家族(奥さん)を前にして、画像を供覧しながら、胆嚢腫瘍(悪性)が強く疑われ、その腫瘍細胞が肝内に複数個転移しており、また腹腔内に拡がっており(腹膜播種)、それに伴う多量の腹水貯留があります、とご説明申し上げました。
 黙って聞いていた患者は、「そうですか。その胆嚢腫瘍(悪性)とはがんと言う意味ですか?」と質問され、「そうです」とお答えしました。「ふ〜ん、そうか!」と、顔色一つ変えないこの、温厚そうな60歳代前半の中年男性に、この人なら一緒にがんと戦って行けそうかな?、との感覚を持ちました。「で、何か治療法はあるんですかね?。あるいはあとどれくらいもつものかね?」との質問に、「手術の適応はありません。胆嚢の腫瘍に対する化学療法はありますが、今、腹水貯留が著明で、食事摂取もできない状態では難しいです。まずは、腹水を抜いて、利尿剤で腹水貯留を予防しましょう」、症状が出てわずか10日ほど、まだ2度目の面会ですので、予後については「まだ、治療が始まったばかりの、今の段階でその後のことを考えるのは早いですよ」と申しました。

 手術適応のない進行胆嚢がん
 まずは腹水コントロール、次いで化学療法の方針を説明
 生命予後については「まだ考えるのは早いですよ」と


 患者本人とのやりとりは至極、淡々としており、十分な意思疎通が図れておりました。恐らくは、迅速で行った諸検査の間に、良くない病気であることを悟ったのか、初日の採血結果はお渡ししておりますので、その異常な腫瘍マーカーの値に対してネットで調べたのだろうと思われました。しかしながら、同行した奥さんは、そんな病態とは思っておらず、みるみる顔色が変わり、ついには取り乱して、「本当ですか?、もっと良く調べて下さい」と詰め寄って来ました。「やあ、先生の言う通りだと思うよ」と患者本人の言葉に、「いえ!、信じられないわ!」と奥さん、「これ止めなさい」、などと夫婦間のやりとりの後、ついには奥さんより「がんセンターにお願いします」とのことでした。

3.がんセンターへの紹介

 こうした場合、患者、家族の希望があるのに、それに抗い紹介状を書かないでいることはできません。それに、無駄とは知りつつも、本人はともかく特に奥さんを納得させることが治療の最初の段階であることは明白でありました。「分かりました、紹介状を書きましょう」と申し上げましたが、一つだけ、良心的対応をしてあげました。それは、がんセンターの、「セカンドオピニオン外来」ではなく、普通の「肝胆膵外科外来」への紹介としたことです。「セカンドオピニオン」と付くだけで、保険の効かない万とする受信料が加算され、それは自費となります。私の中では診断と治療法に迷いはありませんので、患者に余計な負担を与えることがない道を選びました。画像をCD-Rに複製して、紹介状は患者と奥さんの前で作成、文面の概要は以下の通りです。

 *****

診断:胆嚢がん疑い、多発性肝転移疑い、がん性腹膜炎による腹水貯留状態

 採血結果、画像より、上記診断に至りました。本症例に対し、腹水ドレナージ、利尿剤によるコントロールの後、ジェムザール+CDDPまたはTS1による化学療法を考えておりますが、貴科的診断および新しいレジメン、あるいは先進治療などありましたら、併せてご教示いただければ幸いです。

 *****


4.がんセンターからの返事と患者への対応

 可能な限り最短でがんセンターの外来の予約を取り受診していただきました。あっさりと返事が郵送されて来て、文面は以下の通りでありました。

 *****

 ご紹介ありがとうございました。ご本人とご家族に、病態は貴院からの紹介状の内容に相違ないこと、治療法についても異論ないことを説明させていただきましたが、腹水ドレナージなど入院加療が必要なものに対しては当院では対応できないことをお話しさせていただきました。以上です。

 *****


 まあ、こんなもんだろうと思っていましたが、予定の外来に受診された患者とその奥さんには、驚くほど、見る影もありませんでした。一番、驚いたのは温厚そうに見えた患者自身がすごくご立腹で、「あの若造が!」って鬼の形相、「すました顔して言いやがって!」とかなり怒っておりました。
 落ち着いて話を聞いてみたところ、がんセンターの肝胆膵外科外来に受診した患者と奥さんに対して、40歳代くらいの男性医師が対応、私からの紹介状を読んで、ちらっとCTの写真に目をやって、顔色一つ変えずに淡々と口を開きました。「この紹介状の内容はご存知ですか?、全くこの通りだと思いますが、だいたい保って3ヶ月ですね。当院には特別な治療はありませんが、こちらに書かれている化学療法に効果があるかどうかはやってみなければ解りません。緩和ケアか化学療法か、どちらかを選択することになります。よく相談して来て下さい」、とのことでした。すごく事務的で横柄な態度だったとのことです。

 だいたい保って3ヶ月
 緩和ケアと化学療法のどちらかの選択
 事務的で横柄な態度


 患者と奥さんは、がんセンターの医師の言葉に激しい絶望感に陥ったと同時に、初めて会って数分であっさりと生命予後を告げ、緩和ケアと、効果が不確かな化学療法の選択を迫る、がんセンターの医師のやり方に激しい憤りを感じているのは明らかでありました。
 「先生、なんとかよろしくお願いいたします」、奥さんからです。「私からも頼みます。先生、まあ、見捨てないで下さいよ」、こちらは患者さんからです。早速、入院として、腹腔内に管を留置、腹水を少しずつ抜くようにしました。

5.その後

 その後については、ほぼ予想通りの経過でした。利尿剤を強力に使っても腹水貯留は治ることを知らず、腹腔内の管からは1日に2-3リッターの排液がありました。腹部膨満は改善しましたが、食欲は全く戻らず、心窩部に痛みを伴うようになりましたので、麻薬の治療が開始されました。患者はそれほど死の恐怖を露わにすることはありませんでしたが、逆に生きる希望は全くない状態で、言うなれば心を無にしているような、そんな状態でした。

 心を無にした?入院生活

 ほとんど1日を傾眠傾向で過ごして、栄養状態がみるみる不良となり患者に対して、もちろん化学療法はあり得ない選択でありました。時々は外泊で少しでも自宅での生活を支援しましたが、初診から2ヶ月ちょっと、血圧低下と昏睡が訪れ、奥さんに看取られて永眠されました。苦痛が軽度であったのが幸いでした。

 こうした経過の中で、あの、がんセンターの医師からの言葉がどれほどの意味があったのか?、逆に、あれが無ければ、私はもっと元気になる可能性や、奇跡と言うものをお話して激励できたと思いました。


◇ 国立がん研究センター「がん告知マニュアル」と実際

 実は、上で申し上げたようなケースを4、5件は経験しております。がんセンターが悪いわけではありません。たまたま、応対して医師の資質の問題だと思います。がんセンターをかばうわけではありませんが、一応、以下の如くマニュアルが存在することをご紹介いたします。

 *****

がん告知マニュアル

目 次

Ⅰ.はじめに
Ⅱ.告知における一般的な留意点
 1.基本的姿勢
 2.家族への対応
 3.来院の状況に応じた告知
 4.患者が不満に感じている点
 5.告知技術の学習
Ⅲ.告知後の精神的な反応とその支援
 1.ストレス反応を示しやすい要因
 2.告知に対する精神的反応
 3.不安と抑うつ
 4.精神的支援と精神科医の参加
Ⅳ.おわりに
Ⅴ.参考文献

 国立がんセンター病院では、がん患者すべてにがんの病名の告知を行っており、本マニュアルは、国立がんセ ンター病院で医療従事者が利用しているものである。

Ⅰ.はじめに

 がん告知に関して、現在は、特にがん専門病院では「告げるか、告げないか」という議論をする段階ではもはやなく、「如何に事実を伝え、その後どのように患者に対応し援助していくか」という告知の質を考えていく時期にきているといえる。しかし、「事実をありのままに話す」という名目のもとに、「ただ機械的に病名を告げる」ことへの 批判も一方で高まってきている。こうした現実を踏まえ、告知を行っていく際の基本的な心構えについて、特に告知を受けた患者の精神面の反応や問題点に着目し、その対応も考慮にいれたマニュアルを作成した。本マニュアルが今後、国立がんセンター病院で働く医療者にとって、告知を行っていく際の一助となり、さらには自らの告知のスタイルを築いていく上での参考となれば幸いである。

Ⅱ.告知における一般的な留意点
 
1.基本的姿勢

1)本人に伝えることを原則とする。

2)初診から治療開始までできるだけ同じ医師が担当し、人間関係や信頼関係が形成されていく中で告知をする姿勢が大切である。これにより、診断や治療の選択肢が複数ある場合に患者が冷静に判断できる、本来のインフォームド・コンセントが可能となる。状況により途中で担当医が交代することもあり得るが、この場 合でも担当医間の連絡を密に取り合い、告知に関する部分で患者との信頼関係を崩すことがないように留意する。

3)説明をする場所にも配慮が必要であり、患者が十分に感情を表出でき、プライバシーが保てる空間が望ましい。電話や立ち話で告知を行うようなことはしない。電話で告げられた患者の 55%が、告知に対して否定的な感情を示したという報告もある(Lind SE et al, 1989)。粗雑な方法で告知された患者や家族は、その時の医師の思いやりのなさを決して忘れることはない、といわれている。

4)初対面のときから一貫して真実を述べることを心がけ、わかる範囲の情報をその都度伝えていく。未確認情 報でがんと決めつけず、「疑い」や「可能性」から出発し、確診を得た時点で正確に伝える。

5)正直に正確に説明することは必要であるが、患者の状態も考慮せず、ただ一方的に事実だけを話し、あと は患者側でうまく対処していくように、といった姿勢は決してとるべきではない。

6)時に患者は、「あなたは進行したがんであり、私としては何もできない。これといった治療法はない」などと突 き放されたように言われることがある。このような時に患者が抱く感情は失望、怒り、諦め、疎外感である。医 師は患者に対して、希望も絶望も与えることがある立場にいることをよく認識しておくことが大切である。

7)外来での告知も日常的に行われるが、時間をかけて説明し、その後の配慮を十分に行う必要がある。不安 が強い患者については、担当医が精神科医に相談する必要も生じうる。また時には、すべての外来が終 了した後に、改めて別に時間をとって再度十分に話し合ったり、当日の夜に患者の自宅へ電話する、など して患者を励ます等の配慮が有効な場合もある。

8)患者は医師に対して遠慮があり、場合によっては恐れを抱くこともある。このためその場では感情を表現で きなかったり、医師の言うことには従うべきだと考え質問できず、疑問を残してしまうことがある。しか し看 護婦に対しては自分の気持ちを正直に話したり、疑問点を尋ねたりすることがよくあることから、看護婦を通 して患者の本当の気持ちや訴えを聞くことは医師にとって大切である。医師と看護婦の協力体制は、がん 告知の場面でも極めて重要である。

9)あせって一度の説明で全部の内容を話してしまおうと思わずに、必要があれば段階的に、何度も面接を行う。

10)常に患者の立場に立ってものを考えること、判断を押し付けないことが重要である。

2.家族への対応

1)「家族には先に知らせない」のが原則である。患者本人に告知を希望しない家族が一般的な根拠とするのは、「患者は気が小さいから自殺をするかもしれない」という考えであるが、この危険は通常考えられているよりもはるかに低い(Oken D, 1961)。ただし、自殺の可能性は常に考慮に入れておかなければならない。

2)例えば紹介で来院した際、他院で家族のみに告知が行われており、その家族が告知に強く反対する場合には、時間をかけながら繰り返し家族を説得していく。なおこのような場合に、紹介医の対応について、「ま だこんな古い対応をしているのか」などと非難するような発言をすると、患者と紹介医との信頼関係を崩すことになるので注意が必要である。

3)がん診療における家族の意味は極めて大きいので、がんかどうかの結果が明確になった時点で、家族にも一緒に説明を聞いてもらうようにする。患者を最優先するという立場に立った上で、家族に患者の状況をできるだけ正確に知ってもらうことは極めて重要である。

4)時には家族は患者自身以上に動揺し、説明を正確に記憶あるいは理解していないようなことも多い。従って、「家族は患者ではないから少々のことは言っても大丈夫」と安易に決めつけず、必要があれば家族に対する支援も行っていく。この場合も、担当医は精神科医に相談することが有効な場合も多い。

3.来院の状況に応じた告知

A. 精密検査(確定診断)前

1)検診で異常を指摘された場合
a. 「がんではない」と言われたいという願望と、「がんではないだろうか」という不安とが交錯している複雑な心境であることをまず念頭に入れる。
b. 検診の結果をわかりやすく説明するとともに、次に精密検査として何を行うか、その検査の意義とそれによってどこまで診断が進むかを説明する。
c. 精密検査で診断のつく可能性のある病名について述べるが、この時にがんであることもあり得る、ということも説明しておく。あえて「がん」という言葉を出すほうがよい。

2)症状がある場合
a. 特に、不安を長く抱きながらも我慢してきた人や、恐怖のために受診を避けてきた患者は、緊張感のために説明を十分に理解できていないと考え、より丁寧に説明していくことが必要である。
b. 症状から考えられる病態、病名について、どのような可能性があるかを、がんを含めて説明する。
c. 診断をつけるためにどのような検査があり、どういう手順で診断を進めていくかを説明する。この際、対症療法で対応可能な痛み、発熱、咳嗽などの症状の緩和については、診断をつけることと並行して積極的に行っていく。

B.精密検査の結果(確定診断)を伝える場合

a. 検査が終わって診断が下されるまでの間、患者の不安は頂点に達していることを忘れてはならない。初診から精密検査を経て、確定診断に至るまでの間で最もストレスが高くなるのは、診断が告げられる直前であるという報告もある(Gustafsson O et al, 1995)。
b. 組織検査でがん細胞が確認された場合には、異型細胞などという曖昧な表現はせず、「先日の組織検査で明らかながん細胞が確認されましたので、○○がんということになります」と明確に話す方がよい。
c. 診断が確定した時に状況も考えずに、「大至急入院しなさい。さもないと大変なことになってしまいます」と、いたずらに患者の不安を助長させるようなことを言うのは避けるほうがよい。

4.患者が不満に感じている点

 吉澤(1994)が、1992 年 7 月〜1993 年 2 月に国立がんセンター中央病院で術前患者を対象に行った、告知に関する聞き取り調査の中では、、、

 ・説明が専門的すぎる
 ・もっとわかりやすくかみ砕いて説明してほしい
 ・一般論でなく、自分はどうなのかをきちんと教えてほしい
 ・そこまで言わなくてもいいのでは、と思った
 ・もう少し闘病の励みになるような希望や保証のある、親身になった説明がほしい

 、、、という指摘がなされていた。

5.告知技術の学習

 患者にがん告知を行うためには、少なくとも告げ方と告げた後に患者を支えていく技術が必要である。このような技術を学ぶことなく患者にがんと伝えることは、糸結び、メスやハサミの使い方、術後管理を知らない医師が手術の執刀医になるのと同じである、とまでいわれている。この技術の習得のために、、、

 ・先輩医師が行う告知の現場に必ず何度かは立ち合う。
 ・新任の医師・レジデント・看護婦を対象に、がん告知に関する講習会の実施を計画中である

 ※定期的な実施を計画しているが、特に着任後最初に開かれる講習会になるべく参加していただきたい。この場合、教育用ビデオを用いたり、模擬インフォームド・コンセントを行ったりすることも考えている。

 ・講演会を企画する。また講習会などの案内を流す

Ⅲ.告知後の精神的な反応とその支援

1.ストレス反応を示しやすい要因

 診断とその内容の告知を受けた後に、患者がストレス反応を起こしやすい指標(危険因子)として、、、

 ・診断時に多くの身体症状を有している
 ・家族内に、夫婦間の問題などを抱えている
 ・周囲からの援助が期待できない
 ・医師が援助的ではないと感じている
 ・精神科的な既往(特にうつ病)がある
 ・心配しやすい性格傾向がある
 ・悲観的に物事を考える性格である

 、、、といった点が指摘されており(Weisman AD, 1976)、患者の経過をみていく上で参考になるのではないかと思われる。

2.告知に対する精神的反応

がんを告知されたあとに患者が示す通常の反応として、Holland JC ら(1990)は、次のような段階モデルを考えだしたが、他にもほぼ同様の報告がなされている。

1)第1相;初期反応期/1週間以内
 まず、告知された内容を信じようとしないか、一時的に否認することで特徴づけられる。患者は後なってその時のことを、「頭が真っ白になって、まるで自分自身に起こっていることではないかのようだった」と述べることがある。またある人達は「やはりそうだったか」という絶望感を経験する。

2)第2相;苦悩・不安の時期/1〜2週間
 苦悩、不安、抑うつ、不眠、食欲低下、集中力の低下などの症状が交互に何度もやってくる。不安が強く集中力が低下しているために、同じことを繰り返し尋ねてくる時期でもある。

3)第3相;適応の時期/2週間以後1ヵ月〜時には3ヵ月
 現実の問題に直面し、新しい事態に順応するようになる。またそう努める。なお、112 人を調査し、立ち直りに1ヵ月以上要した 11 人のうち 9 人までが早期胃がんの患者であった という報告があることから(笹子, 1992)、ショックの程度や立ち直りに要する時間は病期や予後と必ず しも相関しないことが示唆されている。

3.不安と抑うつ

 上記の経過を経た後でも適応することができず、苦悩が続く患者に最も多い症状は、不安と抑うつである。告知後1ヵ月以上を経過しても、不安や抑うつ症状(不安感、将来への絶望感、イライラ感、恐怖感、不眠、食欲 低下など)がみられる場合には、「がんになってしまったんだから仕方がない。当然の反応だろう」と考えずに、 患者の精神状態を深く配慮し支えていかなければならない。特に国立がんセンターの医師は、診療や研究、 公的委員会出席など多くの業務を抱えており多忙であるが、がん患者を担当する以上、十分な時間を割いて 対処すべき最も重要な課題である。

4.精神的支援と精神科医の参加

1)担当医として自分がしっかりと支えていく覚悟があること、また常に精神的な支援を行う準備があることを、告知をした時点で患者にはっきりと伝える。その上にたって信頼関係を強化していけば、患者は病名や病態を知ったことによって、精神的に大きく不安定な状況に陥ることは少ないと思われる。

2)しかし担当医だけで支えていくのが困難と思われたり、精神科医による治療がより好ましいと判断された場合、また患者の精神状態をどう評価してよいのか悩む場合には、早めに精神科医に連絡し、対応を十分に協議することは有効である。たとえば、、、

 ・精神科疾患の既往がある場合
 ・自殺の危険を感じた場合
 ・不眠が出現し睡眠薬を投与しても、コントロールがうまくいかない場合
 ・それまでなかったような表情や行動の変化が出現してきた場合
 ・患者自らが、気分の落ち込み、不安感、焦燥感をしきりに訴えてくる場合
 ・生命予後を実際より重く認識している場合

、、、などである。

Ⅳ.おわりに

 がん告知はがん診療の第一歩であり、重要な医療行為のひとつである。できるだけ質の高い告知をめざしていくための一助となることを目的に、この小冊子をまとめた。その際、告知を行うにあたり一般的にどのような点に留意すればよいか、告知後の患者の精神的な反応を理解し、それにどのように対応し支援していけばよいかという、2つの大きな側面を中心として考えた。今後は臨床の場において本マニュアルを使用した場合の有用性を評価することが大切であるし、がん告知を行っていく際のより効果的な方策を見い出していくことも必要と考えている。

Ⅴ.参考文献

Gustafsson O, Theorell T, Norming U et al.;Psychological reactions in men screened for prostate cancer. J Br Urol 75: 631-636, 1995
Holland JC, Rowland JH;Handbook of Psychooncology, Oxford Univ Press, New York, 1990, pp273-282 Lind SE, Good MD, Seidel S et al.;Telling the diagnosis of cancer. J Clin Oncol 7: 583-589, 1989
Oken D;What to tell cancer patients. A study of medical attitudes. JAMA 175: 1120-1128, 1961.
笹子三津留;癌の告知̶告知を受けた患者へのアンケート調査結果報告.医学のあゆみ 160: 146-151, 1992
Weisman AD;Early diagnosis of vulnerability in cancer patients. Am J Med Sci 271: 187-196, 1976
吉澤佳子;告知後の患者の心理状況.末舛恵一監修;これからの癌告知をどうするか. インフォームド・コンセントと心のとまどい. pp.72-79, 医薬ジャーナル社, 東京, 1994.
http://www.ncc.go.jp/jp/ncc-cis/pro/ic/020201.html

 *****


 「がんの告知」について多岐に渡って考察を加え、たいへんよくまとまった内容だと思います。「さすがは がんセンター!」と言ったところですが、残念ながら、このマニュアルががんセンターに在籍する医師全員に浸透していないのは事実であります。
 例えば冒頭の「はじめに」の中に、「『事実をありのままに話す』という名目のもとに、『ただ機械的に病名を告げる』ことへの 批判も一方で高まってきている」と指摘されており、まさにここでご紹介した胆嚢がん症例が受けた説明はこうした批判の対象となろうかと存じます。「Ⅱ.告知における一般的な留意点 1.基本的姿勢」の中で「初診から治療開始までできるだけ同じ医師が担当し、人間関係や信頼関係が形成されていく中で告知をする姿勢が大切である」とされておりますが、私の患者に応対した医師は、初めて会って数分であっさりと生命予後にまで言及し、その途中の過程は私の紹介状の通りである、との説明でありました。ここには、人間関係も信頼関係もない、ただ事務的なやりとりでありました。
 マニュアルの「Ⅱ.告知における一般的な留意点 4.患者が不満に感じている点」の中に「そこまで言わなくてもいいのでは、と思った」、「もう少し闘病の励みになるような希望や保証のある、親身になった説明がほしい」とありますが、まさにこれもがんセンターの医師にありがちな対応と言わざるを得ません。これに対して「告知技術の学習」と題して医師教育の必要性を説いていますものの、恐らくは不十分なんだろうと思います。
 「おわりに」の文章の冒頭、「がん告知はがん診療の第一歩であり、重要な医療行為のひとつである」としており、それはまさにその通りです。恐らくは、私の紹介に横柄な態度で応対したあの医師にとっては、がん診療の第一歩との認識はなかったのだろう、ただの雑用に過ぎない時間であったと推察いたします。


◇ 大学病院・がんセンターの功罪

 私は、大学の助手として米国に留学した期間も含めるとトータル12年間を大学病院で過ごしました。がんセンターとの違いは、良性疾患も扱い、肝移植も行っていたと言うくらいで、高度な医療を提供しつつ研究機関、教育機関でもある点では両者は同等であります。この、大学病院もがんセンターも、医者にとって、良いところと悪いところがあります。
 良いところそれは、何と言っても、高度な医療を行うことによる充実感と技術や知識を学ぶ貴重な時間であります。給料が少なかろうと多大な雑用に追われようとも、一般病院では得難いものが大学病院やがんセンターにはあります。悪いところと申しましたのは、「高度な医療」の外側にある(これも立派な)医療に対する興味、関心がなくなる可能性です。複数の合併症症例やかなりの高齢者、手術や化学療法の適応がない終末期の患者は、大学病院やがんセンターでの治療の適応からは外れるからです。


◇ おわりに

 さて、当然の如く、世の中の病に苦しむ人は、大学病院やがんセンターにおける治療の適応がある人ばかりではありません。むしろ、大学病院やがんセンターの対象ではない患者の方が多いくらいです。今回、ご紹介した症例は、紛れもなく後者の範疇にある患者でありますが、行きがかり上、どうしても、がんセンターに一時的にでも紹介せざるを得ませんでした。がんセンターには立派ながん告知のマニュアルがありますが、そこの医師の対応は、いかにも己には興味も関心もない患者に対するものでありました。
 「がん告知のあるべき姿」、それは、5年生存率は95%以上にも及ぶ早期がんと、進行がんですが治療の余地があるケース、そして治療に限界があり、予後が極めて不良である場合と、ケース・バイ・ケースで分けて考えるべきであります。本論に度々出てくるがんセンターの医師のように、医療の大半を担う予定のない人間が、軽々しく予後について語るべきではありません。

 心の通った対応、心を込めた言葉、それこそが「がん告知のあるべき姿」であります。

ポリフェノール 糖質、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルに次ぐ6番目の栄養素として注目!


 ちょっと軽い話、久しぶりに、アンチエイジングに有用な健康食品として、ポリフェノールについて勉強しました。できれば、サプリメントなんかに頼らず、日常の食生活に取り入れる工夫をしたいものです。

◇ 概要

 ポリフェノール(Polyphenol)とは、ポリ(Poly)=「多数の」フェノールという意味で、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)を持つ植物成分の総称です。

フェノール 分子構造
フェノールの構造式

 ほとんどの植物に含まれ、その数は5,000種以上に及び、光合成によってできる植物の色素や苦味の成分であり、植物細胞の生成、活性化などを助ける働きを持つとされます。古くから香料や色素として食品、化粧品として利用されて来ました。


◇ 世界初のポリフェノール有効性を唱えた仮説と「フレンチ・パラドックス」

 ポリフェノールの有効性が言われ始めたのは実はつい最近のことのようです。1992年、フランスのボルドー大学の科学者、セルジュ・レヌー博士は、フランス、ベルギー、スイスに住む人々は、他の西欧諸国の人々よりもチーズやバターといった乳脂肪、肉類、フォアグラなどの動物性脂肪を大量に摂取しているにもかかわらず、心臓病の死亡率が低いとし、その原因として、同地域に住む成人が日常的に飲んでいる赤ワインに注目しました。「人間を始めとする動物が、赤ワインに豊富に含まれる『ポリフェノール』を摂取すると、動脈硬化や脳梗塞を防ぐ抗酸化作用、ホルモン促進作用が向上する」と発表しました。
 これに対して、「フランスで心筋梗塞が少ないのはワインの飲みすぎで肝硬変関連疾患で死ぬ人が多いので相対的に心疾患で死ぬ人が少ない」とか、「フランス人の心疾患罹患率がアメリカ人の1/3なのは、ワインの効果ではなく、単にフランス人の食事摂取量がアメリカ人より少ないからだ」と言った意見が飛び交いました。こうした議論は世界保険機構(WHO)などによって「フレンチ・パラドックス」と呼ばれ1990年代諸島、世界的に広まりました。
 1991年11月、上述のレヌー博士は米国CBSネットワークのニュース番組 “60 Minutes” に出演して自説を展開し、その後、米国だけでなく、白ワインの方が消費量が多かった日本でも、赤ワインブーム、健康ブームを巻き起こすきっかけとなりました。


◇ 生体内酸化ストレスとそれに対する防御作用

 健康食品としてのポリフェノールの有効性、アンチエイジング効果を考えるには、第一に「生体内酸化ストレス」とそれに対する防御作用を理解する必要があります。まずはこちらからご説明いたします。

1.生体内酸化ストレスと疾病

 生体内では、紫外線、放射線、大気汚染、喫煙、食品添加物などにより、活性酸素種やフリーラジカルなど、常に組織の酸化損傷を起こす物質が発生しております。これに対して、スーパーオキサイド・ディスムターゼ、グルタチオン・ペルオキシダーゼ、グルタチオン・リダクターゼ、カタラーゼ、酵素活性を支える微小ミネラルならびにビタミン群など、抗酸化物質も存在しており、両者のバランスの崩れから酸化に傾く状態が「酸化ストレス」と呼ばれます。酸化ストレス状態が続くと、細胞内ミトコンドリアDNA、細胞膜、核DNA、タンパクの変性損傷を誘発し、発がん、神経疾患、動脈硬化、白内障などの成人病や生活習慣病、老化を誘発するとされます。

酸化抗酸化のバランスと疾病の図
生体内における酸化と抗酸化のバランスの図
(SOD:superoxide dismutase、GSH-Px:glutathione peroxidase)

 活性酸素種、フリーラジカルや過酸化脂質と各種抗酸化物質とのバランスが大切であって、抗酸化物質が強いほど疾病の発生が減少し、老化が抑制されると考えられます。酸化ストレスに対する防御機構として抗酸化ストレス状態を亢進してこの防御システムをできるだけ有効に維持することが、各種疾病や老化予防の鍵となります。

2.生体内酸化ストレスに対する防御機構

 もう少し、抗酸化物質の生体内酸化ストレスに対する防御機構を具体的にご説明します。細胞内外の各種酸化ストレスによって活性酸素・フリーラジカルを発生して、標的分子として脂質・タンパク質・酵素・核酸への直接損傷に反応し、各細胞の生体膜また各臓器の組織を損傷させ生活習慣病・発がん・老化につながる過程で、各種生体内抗酸化物はそれぞれのステップにおいて予防的に機能すると言うものです。

抗酸化物質の抗酸化作用
生体内酸化ストレスに対する防御機構
(GST:glutathioneS-transferase、GSH:glutathione、NAC:N-acetyl cysteine)

 ステップ1の予防型としてスーパーオキサイド・ディスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオン・ぺルオキシダーゼ、グルタチオン・トランスフェラーゼ、金属安定化タンパクなどがあります。ステップ2ではビタミンC、E、CoQ10、αリポ酸、カロテノイド、グルタチオン、N-アセチルシステイン、そしてポリフェノールなどの抗酸化物質が挙げられます。ステップ3では修復再生型としてホスホリパーゼ、プロテアーゼ、DNA修復酵素、トランスフェラーゼ、必須脂肪酸などの修復・再生剤があります。


◇ ポリフェノールの有効性

1.抗酸化物質としてのポリフェノール

 若年者であれば、上記の生体内酸化ストレスに対する防御機構における、スーパーオキサイド・ディスムターゼなどのステップ1の物質活性が保たれておりますが、老化とともにこうした酵素活性が低下してくるために成人病や老化が起こると考えられております。これに対してステップ2の抗酸化物質である各種ビタミンなどは経口摂取で得られる物質であります。

【ステップ2抗酸化物質】
 ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(αトコフェノール)、CoQ10、カロテノイド、
 グルタチオン、N-アセチルシステイン、αリポ酸、ポリフェノール

 上述の如く、生体内酸化ストレスに対する防御機構の中で、ポリフェノールはステップ2の抗酸化物質となりますが、ビタミンCが生体の水溶性部分、ビタミンEは脂溶性部分にのみ効果があるのに対し、ポリフェノールは細胞間の水溶性部分、脂溶性部分、細胞膜においても抗酸化作用を発揮するとされます。

2.ポリフェノールの具体的な有効性

 上述の抗酸化作用に基づき、ポリフェノールには発がん、脳神経疾患(パーキンソン病、アルツハイマー病)、動脈硬化、糖尿病、白内障、皮膚の変性(しわ、シミなど)、炎症性腸疾患、膠原病など、成人病、老化、変性などの病態を予防、改善するとされます。また、脂肪の吸収を抑制するため、内臓脂肪の減少、コレステロールの低下作用があります。機序は不明ながら、抗アレルギー作用もあると報告されております。

3.ポリフェノールの体内動態

 ポリフェノールは水に溶けやすい性質があるため、摂取後30分ほどで体内にて機能しますが、生体内に蓄積される物質ではないので、その抗酸化効果は30分ほとど消滅してしまうとされます。従って、有効性を得るためには慢性的、習慣的な摂取が必要とされます。


◇ 各種ポリフェノール:フラボノイド(flavonoid)

 フラボノイド(flavonoid)とは、天然に存在する有機化合物群で、クマル酸CoAとマロニルCoAが重合してできるカルコンから派生する植物二次代謝物の総称、ポリフェノールの代表例で、以下の物質が挙げられます。

1.カテキン(catechin)

 緑茶、ワイン、りんご、ブルーベリーに多く含まれます。血圧上昇抑制作用、血中コレステロール調節作用、血糖値調節作用、抗酸化作用、老化抑制作用、抗突然変異、抗癌、抗菌、抗う蝕、抗アレルギー作用など多様な生理活性が報告されております。

2.アントシアニン(anthocyanin)

 赤ブドウの実皮、ムラサキイモ、プルーン、アサイー、ラズベリー、ブルーベリー、マキベリー、紫キャベツ、ナス、黒ごま、赤たまねぎ、赤しそなどの赤紫色をした植物体に多く含まれている色素成分です。肝機能の向上を助け、疲れ目の解消などにも効果的とされます。

3.タンニン(tannin)

 番茶、中国茶、紅茶、赤ワイン、柿、バナナなどに含まれる渋味成分で、カテキン同様、殺菌効果があるとされます。

4.ルチン(rutin)

 ソバ、アスパラガス、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、クランベリーなどに含まれ、微小循環改善作用、抗炎症作用、血圧降下作用などが言われています。また、in vitroの実験で、ルチンは血管内皮細胞増殖因子 (VEGF) を阻害することが示され、血管新生阻害剤として働くとされ、ある種のがんの増殖および転移を制御できる可能性を示しています。

そば 写真

5.イソフラボン(isoflavone)

 大豆や大豆加工商品(豆腐、納豆、味噌など)、葛、葛粉などに多く含まれます。豆腐のように加工度の高い食品でも含有するイソフラボン量は維持され、発酵食品である味噌ではイソフラボンのレベルが増加しているとされます。女性ホルモンであるエストロゲン様の活性を持つため、乳がんや子宮体がんなどのリスクを増すとも減らすとも考えられています。大豆イソフラボンは、更年期障害や2型糖尿病の改善に効果があるといわれ、また骨粗鬆症に対しては特定保健用食品として「骨の健康維持に役立つ」という表示が許可されたものがあります。

豆腐図


◇ 各種ポリフェノール:フェノール酸(phenol acid)

 フラボノイドが色素からできているのに対し、色素以外でできた成分をフェノール酸系と言います。

1.クロロゲン酸(chlorogenic acid)

 コーヒー豆中に 5〜10%近く含まれ、含有量はカフェイン(1〜2%) よりも多く、カフェインとともにコーヒー抽出液冷却時に認められる白濁の原因とされます。また、抽出時間が長すぎた時に顕われる雑味の原因とされます。ポリフェノールとしての抗酸化作用に加えて、クロロゲン酸にはマルトースをグルコースに分解する酵素であるα-グルコシダーゼの阻害活性、ラットで食後の血糖上昇の抑制作用が認められ、糖尿病発症のリスク低減が言われています。

2.エラグ酸(ellagic acid)

 ブラックベリー、ラズベリー、イチゴ、クランベリー、クルミ、ペカン、ザクロ、クコやその他の植物性食品を含む数多くの野菜や果物で見つかっている天然フェノール系の抗酸化物質です。エラグ酸が抗癌性と抗酸化性を有しているのではないかとの観点から、エラグ酸の摂取による健康上の効能の可能性について予備調査に拍車がかかっています。美白効果があり、化粧品に多用され、また、数多くのin vitroと小動物での実験で抗癌性と抗酸化性が証明されております。

3.リグナン(lignin)

 ゴマに多く含まれる。セサミンもこの一種であります。エストロゲン様作用を示したり抗酸化物質として働き、免疫力強化、抗酸化、コレステロールの抑制、高血圧の予防、脂肪酸代謝の改善、抗腫瘍、肝機能の改善の効果があります。

4.クルクミン(curcuman)

 カレーのスパイスであるウコン(ターメリック)に多く含まれます。エイコサノイド合成の阻害による抗炎症作用、抗酸化作用としてフリーラジカル捕捉能を持ち、脂質の過酸化や活性酸素種によるDNA傷害の予防、抗腫瘍効果などが言われています。また、2004年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) の研究チームはアルツハイマー病モデルマウスを用いて実験を行い、クルクミンが脳におけるβアミロイドの蓄積を抑制し、アミロイド斑を減少させることを証明、アルツハイマー病の予防効果も言われております。

ターメリック 写真


◇ ポリフェノールを豊富に含む食品

 各種ポリフェノールで含有する食品を紹介しましたが、逆に食品の側から、ソバ(ルチン)、豆類(イソフラボン)、ウコン(クルクミン)以外の、複数のポリフェノールを豊富に含む食品を挙げて解説します。

1.お茶

 お茶には、緑茶(不発酵茶)、ウーロン茶(半発酵茶)、紅茶(完全発酵茶)などの種類に分けられます。茶に含まれるポリフェノールは成分には苦みの成分であるタンニンとカテキンが特徴的です。無色のカテキンですが酸素や熱が加わると、重合してタンニンという褐色に変化します。それによって、お茶特有の苦く渋い物質に変わります。ツバキ科の茶である、カメリア・シネンシスという特有の成分を指します。
 茶カテキンは8種類ほどの物質の総称で、植物ではお茶しか生成しないといわれるエピガロカテキンガレート(EGCG)はこの中に部類され、非常に機能性が高いポリフェノールです。
 茶ポリフェノールに期待できる効果は、コレステロール吸収阻害と脂質酸化抑制作用からダイエット、抗腫瘍作用、虫歯予防の効果、抗アレルギー作用、消臭作用が挙げられます。近年では、高濃度茶カテキン飲料が売り出されコルステロールが気になる現代社会に住む人たちは気軽にダイエットができるとあり人気商品になりました。
 カテキンは胃癌のリスクを抑えますが、それは非喫煙者に限ったことで、喫煙者は効果が打ち消されるだけでなく、逆にリスクが上がったという報告もあります。

お茶 写真

2.赤ワイン

 赤ワインの中にポリフェノールは非常に多種多様あり、シンプルフェノール・アントシアニン・タンニン・フラボノイド・カテキンと多くのポリフェノールが揃っています。赤ワインは製造の過程で、原料となるブドウの、果肉はもちろん、果皮や茎の一部、それに一番ポリフェノールを多く含む種も一緒に発酵にかけます。その後、長期の間、木の樽で熟成させ、その長期熟成の間にポリフェノールが溶け出し、結合や反応を繰り返し別のポリフェノールが作りだされます。
 日常的に赤ワインを飲むことによって、脳内の過酸化物質を抑えることによって、痴呆症予防、血小板が固まるのを抑えることによって血流をよくし心臓病予防などがあります。しかし、同じ赤ワインでも製造工程によってポリフェノールの含有量は違ってきます。比較的多いのは、「フルボディー」のワインであり、味わいが濃く、重みのあるしっかりしたのが特徴です。

グラスの中で赤ワイン

3.カシス、ブルーベリー

 ブルーベリーはアントシアニンというポリフェノールが多く含まれており、カシスにはブルーベリーと同様なアントシアニンであるカシスポリフェノールが豊富です。
 アントシアニン含有量で言うと、カシスの方がブルーベリーなどより多く、それぞれ新鮮な果実100 g中、ブルーベリーは100 mgに対しカシスは約550 mgにもなります。他にも、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、ビタミンC、ビタミンE、β-カロチン、カルシウムなどが、バランスよく含まれておりアントシアニンの効果を高めてくれます。
 肝機能改善や、眼精疲労や目のくまに効くといわれています。カシスポリフェノールを摂取後、目の下の血流を改善しくまの黒さが90分後に約5%改善されたとの研究結果があります。カシスポリフェノールは末梢の血流を良くしてくれるため、目の周りだけでなく顔全体の血流も向上、しかも肩こりや冷え性に効果が期待できます。

カシス 写真
カシス

ブルーベリー写真
ブルーベリー

4.カカオ、チョコレート、ココア

 カカオには赤ワインの3倍のポリフェノール、カカオ・ポリフェノール(エピカテキンなどのフラボノイド)が含まれていると言われています。カカオの原産地、南米ではカカオを薬として使っていたそうですが、カカオを使った主な食べ物はやはり、チョコレートです。チョコレートはミネラル類を豊富に含む栄養バランスのとれた食品で、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛も含まれます。心臓病がマグネシウム不足によって危険を増すことが知られていますが、カルシウムとマグネシウムのバランスがよいので、積極的に摂取したい食べ物です。
 カカオ・ポリフェノールは動脈の繊維にコレステロールがたまることによって発症する動脈硬化やDNAに突然変異の突然変異によって発症する癌予防も有名です。他には、抗酸化作用により血液中の悪玉コレステロール値を下げ活性酸素を除去することによってアンチエイジング、アレルギーやリウマチなどだけではなく、自律神経系の調節作用に優れ精神的な心理的ストレス、集中力や注意力や記憶力などの向上にも役立ちます。

 ココアの原料はカカオで、英語ではどちらもcocoaで同じ単語で表現されます。豆の状態か、パウダーの状態かで我々日本人は分けて使いわけます。豆からパウダー、いわゆる一般的に飲まれるココア飲料にするには、カカオ豆の外皮と胚芽を除去し、胚乳を発酵、乾燥、焙煎、磨砕したものです。液体のものはココアリカーと呼ばれますが、冷却後、固体化したものがカカオマスになります。それに、牛乳をいれて飲むミルクココアや、お湯と砂糖を入れて飲むホットココアがあります。ちなみに、温かいココアはホット・チョコレートと呼ばれることからもわかるように、チョコレートも同じカカオを原料に作られます。ココアにも多くのフラボノイドを含んでおります。特にカテキンを含んでいるため循環器を健康にしてくれます。他に、急激な一酸化窒素循環の上昇、微小循環系の増大と循環器を介した血管拡張が期待できます。

ココア 写真

5.コーヒー

 お茶の水女子大大学院の近藤和雄教授が発表されるまで、コーヒーポリフェノールはさほど知られていませんでした。そのコーヒーの中にはクロロゲン酸が豊富に含まれており、100 mlあたり、コーヒーは200 mg、赤ワインが平均230 mg、緑茶は115 mg前後となっております。アルコールが入っていない分、赤ワインより、摂取しやすく気軽にとれるのも特徴です。
 コーヒーのポリフェノールはカフェインよりも多く、コーヒーの香りのもとだけでなく、苦味や褐色となっています。体内に摂取することによっての期待できる効果は抗酸化作用によって動脈硬化、がんや糖尿病の予防があります。その他にも、カフェインも含まれているので、眠気防止、利尿作用、中枢神経に作用し呼吸機能や運動機能を高めるなどの薬理作用が期待できます。
 さらに、体内に取り込むのは液体としてだけでなく、アロマと呼ばれるコーヒーの香りの成分を嗅覚から取り込むことによって、300種以上含まれている抗酸化作用のある物質がDNAの酸化や心臓の老化を妨げるといわれています。


◇「死ぬことを忘れた人々が住む」イカリア(Ikaria)島で飲まれる「ギリシャ式コーヒー」

 先日、ご紹介した世界の平均寿命の中でギリシャや81歳とまあまあの位置につけておりましたが、そのギリシャの、エーゲ海に浮かぶ離島、イカリア島と言う島は「死ぬことを忘れた人々が住む」とされる長寿の島だそうです。その秘密は、心臓に良い地中海料理のみならず、島民たちが毎日必ず飲む1杯のコーヒーにあるそうです。

イカリア島 地図

イカリア島 風景

1.イカリア島住民への研究結果

 アテネ大学(University of Athens)医学部の研究チームは、島に住む高齢者たちの心臓血管の健康状態と、彼らが毎日飲むギリシャ式コーヒーの関連を発表しました。ギリシャ式コーヒーは、ひいたコーヒー豆を水に入れ、沸騰させて作ります(後述)。
 方法:研究では、イカリア島で生まれ育った65歳以上の島民673人から男女それぞれ71人ずつを無作為に選び、医療機関で血圧を計測したり糖尿病やその他の病気について検査したほか、内皮機能についても調べました。内皮は血管が並ぶ細胞層で、喫煙などの生活習慣や加齢の影響を反映するそうです。また、調査対象者には健康状態や生活習慣、コーヒーの飲み方などに関するアンケートも実施、コーヒーについては、対象者が「飲む」と答えた全種類について影響を比較しています。
 結果:対象者の87%以上がギリシャ式コーヒーを毎日飲んでおり、内皮機能は主にギリシャコーヒーを飲む人のほうが、その他の種類のコーヒーを飲んでいる人たちより良好でした。高血圧の人だけを比較した場合にも、やはりギリシャ式コーヒーの摂取と内皮機能の改善に関連がみられました。
 考察:コーヒーの適度な摂取が冠動脈性心疾患のリスクを減らし、内皮の健康状態に幾つかの点で好影響を及ぼすことは、これまでの研究で知られています。今回の研究を主導したゲラシモス・シアソス(Gerasimos Siasos)博士は、「沸騰させて作るギリシャ式コーヒーには、ポリフェノールと抗酸化物質が多く含まれる一方、カフェインの量は比較的少ないため、他の種類のコーヒーよりも効果が高いようだ」と説明しています。

 その他の統計で、90歳まで生きる高齢者は欧州では人口のわずか0.1%だが、イカリア島では1%に達するそうです。その上、イカリア島の高齢者たちは健康を維持しながら長生きする傾向があるとのことです。

2.ギリシャ式コーヒーの作り方

 ギリシャ式のコーヒーはコーヒーの粉を鍋で煮ます。煮ることによってコーヒーの成分が液体に溶け出すためでしょうか、ギリシャ式コーヒーは普通のコーヒーよりもポリフェノールと抗酸化物質が豊富に含まれ、さらにカフェインの量が少ないのだそうです。マニュアルでは鍋で煮出すのですが、適当な鍋も火力も無い職場で作るのに一工夫してみました。

1)コーヒー豆の量
   写真の如く通常のコーヒー1杯(200 ml)で使用するのの半分くらいの豆でいいです。

豆の量 図

2)豆の挽き方
   エスプレッソコーヒーと同等に最も細かく挽いてレンジサーバーに入れました。

3)砂糖
   煮る前に砂糖を入れるそうです。

レンジサーバーへ入れて 図

4)電子レンジ
   水を200 ml入れて電子レンジは500Wで2分が適当でした。

電子レンジ 図

5)出来上がり
   表面に泡が出ていると丁度良いとのことです。

出来上がり 図1

出来上がり 図2

 ギリシャ式コーヒー、豆の量は半分でも、通常のコーヒーに比べて渋味が強く、また香り高いです。挽いた粉ごとコーヒーカップで飲むのですが、全部飲むのは抵抗があります。水から煮る方法ですとカフェインが抜けてしまうそうで、そう言えば、覚醒作用は不十分のように感じます。また、若干、便秘するとのことですが、その通りでした。


◇ おわりに

 実に多くのネットのページでポリフェノールが扱われておりますが、「健康に良い!」と断言しているページがあれば、実際には有意な研究結果は出ていないことを述べているページもあります。当然の如く、サプリメントを扱う会社やコーヒーの販売業者などは声高にポリフェノールの有効性を訴えており、こうしたものにはどうしてもビジネスが付いて回りますので、眉唾のようなところもございます。しかし、だからと言って否定するものではありません。なによりも、昔から良いものと思われて来た反面、研究の歴史はまだまだ浅いと言うのが正しいところです。いきなり高価なサプリメントなんかで始めるのではなく、ギリシャ式コーヒーもその一つですが、日常の食生活にポリフェノールを意識した食材を用意しても良いと思います。

「平均寿命」に見えるもの、「健康寿命」から教えられること

 「在宅療養」に対する国の考え方を考察し、「介護保険」について解説いたしました中で、「平均寿命」に触れました。「一昨年、2013年までの日本における平均寿命が、男性80.21歳(世界第4位)、女性86.61歳(世界第1位)で、男女合わせて84歳超えは唯一日本だけの第1位であります」と言う文章ですが、この「平均寿命」について今回は勉強しました。引き続き「医・食品・アンチエイジ」のカテゴリーとしての投稿です。


◇「平均寿命」の定義

 「平均寿命」は毎年、厚生労働省や世界保険機構(WHO)より、県別や国別など、様々な条件に基づくデータとして発表されておりますが、最初にはっきりさせておかなければならないことはその定義であります。

1.「平均死亡年齢」ではなく「0歳の人間の平均余命」

 ある年に亡くなられた人の死亡年齢の平均をとったものと思われがちですが、それは「平均死亡年齢」であって、「平均寿命」とは違います。「平均寿命」はその年に生まれた「0歳の人間の平均余命」、「何歳で寿命を迎えるか?」と言う概念であります。その算出方法は人口統計の中の「生命表(life table)」に基づいており、ある単位対象(性別、県や国)における各年齢別の推計人口と死亡率から求められます。

平均寿命の図

 上図の如く、各年齢をX軸、その年齢における生存数をY軸とするグラフにおいて、ある年齢でX軸に対する垂線を引くと、垂線の左上側と右下側に図形ができます。平均寿命というのは、この2つの図形の面積が等しくなる年齢に相当します。ある年齢以下で死亡している合計人数と、その年齢以上で生存している合計人数が等しい、そう言った年齢が「平均寿命」と定義されるわけです。

2.「平均寿命」-「現在の年齢」≠「余命」

 よく中年の患者に「健康を取り戻して少なくとも平均寿命までは生きましょうよ!」って言うことがあります、それに対して「私は今60歳で、男性の平均寿命が80歳を超えたからあと20年ですね!」との返事、これは間違いです。「平均寿命」は、あくまでも「発表されたその年に誕生した人」の「平均余命」のことです。

3.「平均寿命」まで生きるのは50%ではない

 死亡年齢が正規分布しており、亡くなられた人の年齢の平均値であるなら、その年齢より上が50%、下が50%と言うことになりますが、「平均寿命」はそう言う計算方法ではありませんので、「平均寿命」まで生きるのは50%ではありません。現代の日本では、平均寿命まで生きる確率は50%より大きくなっています。


◇ 日本の「平均寿命」の推移

 日本における年別の「平均寿命」をグラフにしたページを見つけましたので、そのグラフを供覧して、若干の解説を加えます。当然の如く本邦において「平均寿命」は延長し続けております。

1.1891〜2013年

 「平均寿命」、最も古いデータは1891-89年(明治24-32年)であり、この期間の「平均寿命」は男性42.8歳、女性44.3歳でありました。明治時代後半から大正時代にかけての「平均寿命」はほぼ横ばいで、1921-1925年(大正10-14年)の「平均寿命」は男性42.1歳、女性43.2歳でありました。昭和に入って「平均寿命」は延長を見せ始め、太平洋戦争で多くの戦死者を出しながら、終戦2年後の1947年には男性50.1歳、女性54.0歳となりました。

平均寿命1891-2013

2.1947〜2013年

 戦後における「平均寿命」の推移に着目しますと、上で述べた如く、終戦2年後の1947年(昭和22年)に男性50.1歳、女性54.0歳であり、その後も延長を継続し、1960年には男性が65歳を超え(65.3歳)、女性も70歳を超え(70.2歳)、以後もグラフは上昇を続けております。

平均寿命1947-2013

3.1990〜2013年

 最近の約25年、1990年〜2013年(平成2〜25年)の各年毎の「平均寿命」を記録したグラフを以下に示します。1990年(平成2年)は男性75.9歳、女性81.9歳でありましたが、2000年(平成12年)は男性77.7歳、女性84.6歳と、10年間で男性1.8歳、女性は2.7歳の延長が見られ、2013年(平成25年)には男性80.2歳、女性86.6歳と、この13年間でさらに男性2.5歳、女性では2.0歳の延長が見られております。

平均寿命1990-2013

 こうして本邦における「平均寿命」の推移を見てまいりますと、記録が残っている近年以降では、昭和の時代になって急速に向上し始めて、戦後の更なる上昇、現代においても継続して延長し続けていることが見て取れます。いろんな要素はあろうかと存じますが、予防接種の普及、検診、衛生観念、健康意識、医療の進歩と充実が挙げられようかと存じます。


◇ 都道府県「平均寿命」ランキング

 以下、2013年の日本の都道府県「平均寿命」ランキングを男女別に示します。

【男 性:平均 79.6歳】 【女 性:平均 86.4歳】        
 01位 長 野 80.9歳   01位 長 野 87.2歳
 02位 滋 賀 80.6歳   02位 島 根 87.1歳
 03位 福 井 80.5歳   03位 沖 縄 87.0歳
 04位 熊 本 80.3歳   04位 熊 本 87.0歳
 05位 神奈川 80.3歳   05位 新 潟 87.0歳

 06位 京 都 80.2歳   06位 広 島 86.9歳
 07位 奈 良 80.1歳   07位 福 井 86.9歳
 08位 大 分 80.1歳   08位 岡 山 86.9歳
 09位 山 形 80.0歳   09位 大 分 86.9歳
 10位 静 岡 80.0歳   10位 富 山 86.8歳

 11位 岐 阜 79.9歳   11位 石 川 86.8歳
 12位 広 島 79.9歳   12位 滋 賀 86.7歳
 13位 千 葉 79.9歳   13位 山 梨 86.7歳
 14位 東 京 79.8歳   14位 京 都 86.7歳
 15位 岡 山 79.8歳   15位 神奈川 86.6歳

 16位 香 川 79.7歳   16位 宮 崎 86.6歳
 17位 愛 知 79.7歳   17位 奈 良 86.6歳
 18位 石 川 79.7歳   18位 佐 賀 86.6歳
 19位 富 山 79.7歳   19位 愛 媛 86.5歳
 20位 宮 崎 79.7歳   20位 福 岡 86.5歳

 21位 三 重 79.7歳   21位 高 知 86.5歳
 22位 宮 城 79.7歳   22位 東 京 86.4歳
 23位 埼 玉 79.6歳   23位 宮 城 86.4歳
 24位 兵 庫 79.6歳   24位 香 川 86.3歳
 25位 山 梨 79.5歳   25位 北海道 86.3歳

 26位 島 根 79.5歳   26位 長 崎 86.3歳
 27位 新 潟 79.5歳   27位 鹿児島 86.3歳
 28位 徳 島 79.4歳   28位 山 形 86.3歳
 29位 群 馬 79.4歳   29位 岐 阜 86.3歳
 30位 沖 縄 79.4歳   30位 三 重 86.3歳

 31位 福 岡 79.3歳   31位 愛 知 86.2歳
 32位 佐 賀 79.3歳   32位 静 岡 86.2歳
 33位 鹿児島 79.2歳   33位 徳 島 86.2歳
 34位 北海道 79.2歳   34位 千 葉 86.2歳
 35位 愛 媛 79.1歳   35位 兵 庫 86.1歳

 36位 茨 城 79.1歳   36位 鳥 取 86.1歳
 37位 和歌山 79.1歳   37位 山 口 86.1歳
 38位 栃 木 79.1歳   38位 福 島 86.1歳
 39位 山 口 79.0歳   39位 秋 田 85.9歳
 40位 鳥 取 79.0歳   40位 大 阪 85.9歳

 41位 大 阪 79.0歳   41位 群 馬 85.9歳
 42位 高 知 78.9歳   42位 埼 玉 85.9歳
 43位 長 崎 78.9歳   43位 岩 手 85.9歳
 44位 福 島 78.8歳   44位 茨 城 85.8歳
 45位 岩 手 78.5歳   45位 和歌山 85.7歳

 46位 秋 田 78.2歳   46位 栃 木 85.7歳
 47位 青 森 77.3歳   47位 青 森 85.3歳

 「平均寿命」ランキング、男女ともに首位なのが長野県の男性80.9歳、女性87.2歳でありました。同じように、男女ともに上位にランキングされている都道府県があって、福井県の男性3位(80.5歳)と女性7位(86.7歳)、熊本県は男女ともに4位(80.3歳、87.0歳)でありました。

 長野県、福井県、熊本県は男女ともに上位

 沖縄県が長寿との印象がありましたが、確かに女性は3位(87.0歳)であるものの、男性は30位(79.4歳)と平均以下でありました。同様に「平均寿命」ランキングで男女に乖離が見られる都道府県は、新潟県の女性5位(87.0歳)と男性27位(79.5歳)であります。

 沖縄県、新潟県は女性と男性に乖離がある

 男女ともに下位にランキングされている都道府県は、秋田県の男性46位(78.2歳)と女性39位(85.9歳)、岩手県の男性45位(78.5歳)と女性43位(85.9歳)、福島県の男性44位(77.8歳)と女性38位(86.1歳)、そして男女ともに最下位であったのが青森県(77.3歳、85.3歳)でありました。

 青森県、秋田県、福島県は男女ともに下位

 ただし、首位の長野県と最下位の青森県の「平均寿命」の差は、男性3.6歳、女性1.9歳と、それほど大きな違いはありませんでした。このことは、本邦における、医療や衛生、健康への関心などと言った、「平均寿命」を左右すると思われる因子に地域差、格差は乏しく、全国的にほぼ均一なレベルにあると考えられました。


◇ 国別「平均寿命」ランキング

 2014年の世界保険機構(WHO)の報告に基づいて、以下に男女合わせた「平均寿命」ランキングを数値が大きい順に国名を列挙いたします。数値は小数点以下は四捨五入しております。

 世界 平均値 70歳、中央値 74歳

 001位 84歳 日本
 002位 83歳 アンドラ、オーストラリア、イタリア、シンガポール、スイス
 008位 82歳 カナダ、キプロス、フランス、アイスランド、イスラエル、ルクセンブルグ、
        モナコ、ニュージーランド、ノルウェー、スペイン、スェーデン
 019位 81歳 オーストリア、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、マルタ、
        オランダ、ポルトガル、韓国、イギリス
 029位 80歳 ベルギー、チリ、デンマーク、レバノン、スロベニア

 034位 79歳 コロンビア、コスタリカ、キューバ、ナウル、カタール、アメリカ
 040位 78歳 バルバドス、クロアチア、チェコ、クェート
 044位 77歳 バーレーン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モルディブ、ペルー、ブルネイ、
        エストニア、パナマ、ドミニカ共和国、ポーランド、スリナム、ウルグアイ
 055位 76歳 アルゼンチン、クック諸島、メキシコ、モンテネグロ、オマーン、ベトナム、
        スロバキア、マケドニア旧ユーゴサウラビア、チェニジア、ベネズエラ、
        アラブ首長国連邦、サウジアラビア、
 067位 75歳 アンティグア・バーブーダ、バハマ、ベリーズ、中国、ドミニカ、タイ、
        ハンガリー、リビア、パラグアイ、セントルシア、セルビア、スリランカ、
        エクアドル、トルコ

 081位 74歳 アルバニア、ブラジル、ブルガリア、カーボベルデ、グルジア、イラン、
        ホンジュラス、ジャマイカ、ヨルダン、ラトビア、リトアニア、マレーシア、
        モーリシャス、ニウエ、ルーマニア、セントクリストファー・ネイビス、
        セントビンセント・グレナディーン、セーシェル
 099位 73歳 グレナダ、ニカラグア、パラオ、サモア
 103位 72歳 アルジェリア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、カンボジア、バヌアツ、
        エルサルバドル、ガアテマラ
 110位 71歳 アルメニア、エジプト、インドネシア、モロッコ、モルドバ、ウクライナ、
        トンガ
 117位 70歳 バングラデシュ、北朝鮮、イラク、マーシャル諸島、トリニダート・トバコ

 122位 69歳 フィジー、キルギス、ミクロネシア、フィリピン、ロシア、ソロモン諸島、
        ウズベキスタン
 129位 68歳 ブータン、ボリビア、カザフスタン、ネパール、シリア、タジキスタン、
        ツバル
 136位 67歳 モンゴル、ナミビア、サントメ・プリンシペ
 139位 66歳 インド、キリバス、ラオス、ミャンマー、東チモール
 144位 65歳 パキスタン、ルワンダ

 146位 64歳 エチオピア、マダガスカル、セネガル、イエメン
 150位 63歳 エリトリア、ガボン、ガイアナ、モーリタニア、スーダン、トルクメニスタン
 156位 62歳 ボツワナ、コモロ、ガーナ、ハイチ、リベリア、パプアニューギニア
 162位 61歳 ジプチ、ガンビア、ケニア、タンザニア
 166位 60歳 アフガニスタン

 167位 59歳 ペナン、コンゴ、マラウイ、ニジェール、南アフリカ
 172位 58歳 ブルキナファソ、ギニア、トーゴ、ジンバブエ
 176位 57歳 マリ、ウガンダ、ザンビア
 179位 56歳 ブルンジ、カメルーン
 181位 55歳 赤道ギニア、南スーダン

 183位 54歳 ギニアビサウ、ナイジェリア、スワジランド
 186位 53歳 コートジボワール、モザンビーク、ソマリア
 189位 52歳 コンゴ民主共和国
 190位 51歳 アンゴラ、中央アフリカ共和国、チャド
 193位 50歳 レソト

 194位 46歳 シエラレオネ

世界の平均寿命 図
世界の国別平均寿命

 「平均寿命」国別のランキングを出すと一目瞭然、日本が世界でもっとも長寿であること(2013年、男性80.2歳は5位、女性86.6歳は1位)、地域、国家による格差が激しく、先進諸国間でも、日本の都道府県別の差異に比較すると、その数字には開きが見られました。

 日本の都道府県別よりも激しい地域差がある世界

 具体的には、上位33位まで「平均寿命」80歳以上には、西欧、北欧から23ヶ国、東アジアから日本、韓国、シンガポール、オセアニアから2国が含まれ、比較的、裕福で政情が安定している国家と言う印象を受けました。米国の「平均寿命」は79歳で日本のそれよりも5歳も低く、日本国内の1位、長野県と最下位、青森県以上に差が開いておりました。これは医療制度やそのレベルよりも、鉄砲などの犯罪やホームレスの存在など、社会的要素が寄与している可能性が考えられました。
 一方、「平均年齢」80-70歳は中南米、アラビア諸国、アジア諸国が占め、70歳以下になるとアジアの一部とアフリカ諸国が大きく占めておりました。政情不安に加えて栄養、衛生、医療など多くの要素が「平均寿命」を下げていることが伺われます。


◇ 本邦における「健康寿命」

 「平均寿命」が世界一であり、都道府県における格差は、国別の格差に比べたらそれほどでもない、日本はある程度、均一な国家でありことが解りましたが、ここで「健康寿命」と言う概念を加えてさらなる検証を行いたいと考えます。その概念は、いたって単純で、、、

 「健康寿命」:健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間

 、、、と言うことで2000年に世界保険機構(WHO)が提唱したものです。要は、日常的に介護などのお世話にならず、自立した健康な生活ができる期間のことです。

健康寿命と平均寿命の差

 さて、この「健康寿命」、平成22年の統計で、本邦の男性は70.4歳、女性は73.6歳となっており、男女の「平均寿命」との差を示したのが上の図であります。「平均寿命」から「健康寿命」の差の部分は「不健康な期間」を示し、本邦の男性は9.1年、女性葉12.7年に及びました。


◇ 国別「平均寿命」-「健康寿命」=「不健康期間」

 本邦における「平均寿命」から「健康寿命」の差の部分、「不健康期間」は男性は9.1年、女性葉12.7年であり、この期間が短いとするか長いと考えるか、またその良否を考えるため、国別のデータを入手いたしました。以下の通りです。

 日本(男性) 平均寿命 79.6歳 健康寿命 70.4歳 不健康期間 9.1年
 日本(女性) 平均寿命 86.3歳 健康寿命 73.6歳 不健康期間 12.7年
 フランス   平均寿命 79.7歳 健康寿命 72.0歳 不健康期間 7.7年
 イタリア   平均寿命 79.7歳 健康寿命 72.7歳 不健康期間 7.0年
 スペイン   平均寿命 79.6歳 健康寿命 72.6歳 不健康期間 7.0年
 ノルウェー  平均寿命 79.1歳 健康寿命 72.0歳 不健康期間 7.1年
 ドイツ    平均寿命 78.7歳 健康寿命 71.8歳 不健康期間 6.9年
 イギリス   平均寿命 78.2歳 健康寿命 70.6歳 不健康期間 7.6年
 アメリカ   平均寿命 77.3歳 健康寿命 69.3歳 不健康期間 8.0年
 キューバ   平均寿命 77.1歳 健康寿命 68.3歳 不健康期間 8.8年
 中国     平均寿命 71.1歳 健康寿命 64.1歳 不健康期間 7.0年

 上に列挙した国別の「平均寿命」-「健康寿命」=「不健康期間」を見ますと、日本の女性は「健康寿命」においても、73.6歳は世界一でありますが、「平均寿命」はさらに長いために、「不健康期間(寝たきりの状態)」が12.7年と世界で唯一10年を超えてダントツトップとなっております。一方、日本の男性は女性とは少し違っていて、「不健康期間」は9.1年と世界ではトップクラスに長いのですが、「健康寿命」については日本の女性とは異なり、先進国の中では短いようです。70.4歳はイギリスより下位でアメリカより上位と言う程度です。しかし、こちらも女性と同様、「平均寿命」は上位でありますので、「不健康期間(寝たきりの状態)」は世界トップクラスにまで延長しております。


◇ まとめ:「平均寿命」に見えるもの、「健康寿命」から教えられること

1.現代のシエラレオネ以下から世界一へ

 本邦における「平均寿命」は、 明治維新から24年を経過して近代化文明としての第一歩を踏み出した時代には40歳台前半と、これは現代のシエラレオネよりも低い値でありました。それが、昭和以降は年を追うごとに延長しており、これは素直に賞賛に値すると考えます。戦後の日本は、厚生労働省や文部科学省による医療制度の確立、公衆衛生や医学の進歩、に加えて国家として「平和主義」、「戦争放棄」を掲げて、紛争や戦争に巻き込まれることも加担することもなく来れました。犯罪やテロ行為はしばしば見られますが、その頻度は他の国々とは比べものにならないほど少ないものであります。こうした要素が「平均寿命」の押し上げに繋がっております。いろいろと、医療制度や政治に関する批判は絶えないところでありますが、「平均寿命」に見えるものとして、国家の方向性、社会の創造に大きな間違いはなかったと思います。

2.「不健康期間(寝たきりの状態)」まで世界一

 よくこの点を指摘して、「日本は寝たきり患者を長生きさせるから長寿国なんだ!」とする意見を聞きますが、それは「平均寿命」を伸ばしてきた小さな要素に過ぎません。例えば日本の女性の場合、上述の如く「不健康期間」は世界で唯一10年を超えて最長ですが、「健康寿命」も世界一なわけです。
 延長する「不健康期間(寝たきりの状態)」に対して、「自分だったらそんなにまでして生きていたくない」、「家族に介護で面倒をかけたくない」と言う発想もあって、例えば、車椅子生活、寝たきり、食事は胃瘻や中心静脈栄養、そういったものに対する批判的意見をよく聞きます。しかしながら、そうした状態でも生命を維持することを希望する本人であり、家族がいることを忘れてはなりません。ほとんどの場合は医療サイドからの強要ではなく、本人、家族の意思に基づくものであります。麻痺があって歩けなくとも、経口摂取が不可能であっても、文化的な感情を持って、家族との意思疎通が可能であり、小さな幸せを共有できるケースは少なくありません。

 寝たきりであっても人格を無視できないケースはある

 それに加えて、近年のリハビリテーションの進歩や再生医療分野の発見は、こうした「不健康期間(寝たきりの状態)」から健康体への再生が可能となる時代を予見いたします。

 リハビリや再生医療の進歩の可能性

 「不健康期間(寝たきりの状態)」が長い日本は、「不健康期間(寝たきりの状態)」の患者が世界一多いわけですから、そうした患者への治療経験の集積から新たな進歩も期待できるわけです。

3.「健康寿命」を伸ばす努力は言うまでもないこと

 最後に当たり前のことを申します。日本は上述の如く、「平均寿命」を延長する途上にあります。この国で生活していれば、90歳、100歳、あるいはそれ以上、と言う長寿が期待されます。でも、長い「不健康期間(寝たきりの状態)」で晩年を過ごすことは避けたいところです。健康で長寿、これこそが理想であり、それは必ずしも不可能でも困難でもない、と考える次第です。

「在宅療養」推進の国と実際の医療の現場、認知度が低い?「介護保険」


 以下に示しますのはある方からいただいて現在は私も利用しております医療講演の1スライドです。これは平成18年(2006年)の第164回 通常国会(自民党政権)において医療制度改革関連法が成立し、平成24年3月末で13万床の介護保険適応療養病床を廃止、平成18 年時点で25万床ある医療保険適用療養病床(回復期リハビリテーション病棟 を除く)を15万床に削減する、合計23万床の病床数削減計画です。

病床数削減計画スライド図

 その3年後の平成21年(2009年)、自民党から民主党に政権交代が起こり、この法案は廃止となったため、平成24年の病床数削減は見送られました。しかし現在はまた自民党政権に戻っております。そして、実際のところは、上記法案を計画したのはどちらの政権でも変わりのない厚生労働省であります。今日は堅苦しいですが、身近の大切な問題として「在宅療養」関連の話題です。


◇ ある市の取り組み

 関東圏のある市において、東京大学、厚生労働省、市、市医師会が協力して「在宅療養」を推進しているようです。詳しくは存じ上げませんが、簡単に言うと、以下に記す通り、訪問診療の形態や患者に関する情報共有、多職種の連携などについて新しいシステムを導入するもののようです。

1.「在宅療養」推進のための新しいシステム

 1)訪問診療を行うドクターを主治医/副主治医制とする
 2)患者に関する情報共有にiPad端末を用いる
 3)以下の多職種による在宅の患者家族のサポートを強化
    ・在宅療養支援診療所
    ・訪問看護ステーション
    ・薬局
    ・訪問介護
    ・訪問リハビリ
    ・介護サービス施設
    ・バックアップ病院

在宅における情報共有システム
  
 「在宅療養」を希望される患者家族にとってはたいへん安心できるシステムのように思えますし、実際、この市における在宅医療の症例が増加していると聞き及びます。しかし、いくつかの問題が起こってきているようです。

2.主治医/副主治医制の問題点

 主治医が不在の際に副主治医として待機する、その拘束に対する診療報酬が不透明であり、また専門分野の違いや経験年数などから、主治医と副主治医の患者に対する診療に食い違いが生じることがしばしばであると聞きます。最近では全例に主治医/副主治医制としてはいず、副主治医をおかない、希望しない在宅専門医も多いようです。

3.iPadを情報共有におけるトラブル

 iPadなどの端末を用いた在宅医療は、インターネット回線でリアルタイムに患者の状態を多職種が共有する非常に便利なシステムであり、言うなれば町全体が病院で、電子カルテを持ち歩いているようなものかと推察します。
 しかし、個人情報として、自宅の住所、間取りや、家族の在宅あるいは不在時間などがネット上で見られること、褥瘡など患部の状態を伝えるのにiPadで写真を撮って配信することなど、個人情報の保護の観点からは問題が残ります。実際、iPadを使った情報共有いん承認を得られなかった患者家族がいると聞いております。

4.「在宅療養」を推進して踊る文章の数々

 上述の市ではどうか知りませんが、在宅支援診療所や地域医療の拠点と言ったところに訪問しますと、在宅を推進する、以下のような書物やポスターを見かけます。ご紹介するのは実際のものではなく、このような文章であと言うものです。

 「病院から自宅へ帰ろう!」(仮題)
 「明るい在宅療養」(仮題)
 「自宅で死ぬと言うこと」(仮題)
 などなど、、、
 

◇ ある「退院時共同指導」の現場にて

 病院での入院から在宅療養へ移行する患者には様々な状況がありますが、総じて外来通院が不可能な症例であり、脳梗塞や四肢麻痺のように慢性的かつ長期に及ぶことが想定される場合と、進行がんのように期間が限られ、終末期への対応が予定される場合があります。病院の医師、看護師、医療福祉士などから在宅療養を担当する訪問医師、訪問看護師、ケアマネージャーなどに、病状の説明や将来、起こり得ること、自宅の状況などを説明するカンファレンスを「退院時共同指導」と言います。私はこのカンファレンスにおいて、たいへん苦々しい思いをしたことがあります。場所と時間は特定いたしませんし、(記憶が定かでない部分で)事実と異なる若干のフィクションを加えております。

1.患者とその背景

 患者は30歳台後半の男性で大腸がん術後の転移性脳腫瘍でありました。開頭手術を受けるも多発性再発し、放射線治療の甲斐なく意識はほとんどなく、呼吸停止を待つばかりです。奥様が30歳前後で、子供が5歳半と2歳になったばかりです。奥様としては、とても子供達の面倒を見ながら夫の介護は困難と思っておりましたが、患者の両親ときに母親と姉が強く在宅を勧めます。「うちの子は自宅で最後を迎えさせてあげたい!」、とそんな感じです。

2.何回にも及ぶ家族との面談

 私は主治医として病院でこのまま看取る選択肢をお知らせしました。もちろん、蘇生術はなしで、いよいよとなったら自由に家族が出入りできるよう、減免の個室をご用意しますと申しました。奥さんはすがるような目で私を見ていましたが、患者のお母さんは鬼の形相、嫁に対して「あなた、あの子を自宅で看るつもりはないの!?」と詰め寄ります。小姑であるお姉さんも「本人も自宅療養を希望しているはずだわ」と同調して、お父さんは嫁に対して「お前の主人だろう、なんとかやってみてくれ!」と、奥さんにとっては多勢に無勢、在宅の方向で話が進みつつあります。
 別の機会に奥さんだけに「大丈夫ですか?」と尋ねたら、「子供が小さくて、私一人では無理です」と泣いており、患者のご両親にご相談したら、「これはうちの問題です!」と突っぱねられ、しかも、奥さんに対して厳しい指導が入った模様でした。
 最終的なご相談においては、患者の奥さんは堪忍して「大丈夫ですか?」の質問に「頑張ります」と蚊の鳴くような返事が返って来ました。家族間で合意を得た申し出に対して主治医と言えども抵抗はできません。在宅へ移行する運びとなりました。

3.「退院時共同指導」にて

 出席者は、病院側が主治医(私)、その日の受け持ち看護師、病棟師長、リハビリ担当者、介入した医療相談員、地域連携室1人、在宅担当者として、訪問診療を行う医師とそのクリニックの看護師、訪問看護ステーションから2人、ケアマネージャー、介護福祉士の総勢12名が、狭いカンファレンスルームにて患者の奥さんただ1人を取り囲み、患者の肉親は不在でありました。多職種のサポーターに囲まれて患者の奥さんは心強かったでしょうか? 私はそうは思いませんでした。見ようによっては、もうすぐ未亡人となる不幸な一人の女性の見世物のようでした。
 型の如く患者の現病歴と現在の病態をご説明申し上げ、受け持ち看護師からも現在の看護の状態、リハビリ担当者からも日常動作についての説明があって、これを受けて在宅担当者側からいくつかの質問を受けました。「最後は自宅で看取るつもりでいますか?」との質問に奥さんから「実家の義両親がそれを望んでおります」と、、、。患者がまだ40歳に満たないので介護保険は利用できず、幼児2人を育てながら患者の介護ができるのか?、同席したみんなが同情的で、「奥さん、本当に大丈夫ですか?」って質問が出たところで奥さんは「だって仕方ないんです」と答えました。泣いているようでした。
 この光景を見て、つくづく在宅医療は必ずしも明るい話ばかりではない、誰かの犠牲の下に成り立っているのであると実感しました。「病院で個室を用意してあげるから、自由に出入りすればいいですよ!」、って申し上げたのですが、それは叶わず、無力感すら感じました。

 誰かの犠牲の下に成り立つ「在宅療養(医療)」

 患者がどうなったかは、予想される通りですが、この出来事があって、どうしても在宅医療に対して懐疑的にならざるを得ないでおりました。


◇ どこまで知られているのか?「介護保険」

 医師は患者および家族から「介護保険の主治医意見書」への記入を求められることがしばしばあり、特にご老人を患者として持つ医師であれば、記入したことがない、と言うことはほとんど無いと思います。しかしながら、この記入方法を教わることはほとんどありません。そして、その書類がどういうルートでいわゆる「介護保険」に反映されるのか、その結果、患者および家族がどんな扶助を受けられるのかを知っている医師はごくわずかだと思います。医師の方がそんなんだから、患者やその家族に説明することも、保険の利用を勧めることもほとんど皆無であるのが現代の日本の医療の現状です。
 それでは行政はどうか?、消費税の増税や障害者自立支援などと、国民に負担を強いる事柄については盛んに報道しますが、「介護保険」の対象が誰か、これによって受けられる扶助はなにかを報道しません。知らせたくないかのようにも感じられ、介護保険料ばかり徴収しておいて、怠慢のそしりは免れないと思います。以下、私の医療講演のスライドを供覧しながら説明いたします。

1.「介護保険」の対象者

介護保険の対象者スライド

 スライドの如く、65歳以上で介護サービスの認定を受けた第1号被保険者と、40歳から65歳までの特定疾患により介護や支援が必要と認定された第2号被保険者が対象者であります。第2号被保険者の「特定疾患」は以下の16疾患であります。

第2号被保険者の特定疾患

 私は、四半世紀を超える外科医生活の中で40歳から65歳までの「がんの末期」の患者を数え切れないほど診て参りました。しかし、「介護保険」を患者家族にお勧めするようになったのはごく最近のことです。お恥ずかしながら知りませんでした。今は、必ず患者家族に説明するのみならず、上述の「主治医意見書」をかなりはっきりと書くことを覚えました。患者の目には触れることがないこの書類に、しっかりと患者が「終末期状態」であり、「緩和ケア」を受けていることを明記しますと、要介護3以上は確実にとれます。

2.要介護状態の区分とそれに応じた介護給付

 「介護保険の主治医意見書」に基づいて「介護保険」の認定が得られることを申しましたが、当然の如く介護状態には区分があります。要支援1, 2と要介護は1から5まであります。以下、要介護状態の区分とそれに応じた介護給付に関するスライドを提示します。末期がんの患者であれば、ちゃんと申請して意見書をしっかり書けば、要介護3, 4は必ず取れます。

要介護状態区分スライド

介護給付スライド


3.「介護保険」で利用可能なサービス

 「介護保険」で利用可能なサービス、これも一般人はおろか医療従事者であってもそれほどは知られていないことだと思います。ただお金をもらえるわけではもちろんありませんが、上手に工夫すればいろいろなサービスがあります。在宅で受けられるもの、施設利用に関するもの、その他について以下のスライドをご供覧下さい。

在宅で受けられるサービススライド

施設利用サービス スライド

サービス その他

4.このシステムの最大の問題点

 先にも申しました。問題点、こうしたシステムがありながら利用されないケースが実に多いことです。私はこれまで、40歳から65歳のがんの末期の患者家族より「介護保険」の話が出たことは一度もありません。私の方から申し上げて、「そんなのが受けられるんですか?」とびっくりされることがほとんどです。

問題点スライド


◇ 高齢者が長期入院「療養病床」患者を削減の方針

 突然、「在宅療養」や「介護保険」の話題を持ち出して大急ぎ説明いたしました。内容に間違いや勘違いがあるかも知れません、ご容赦いただければ幸いです。なぜ、唐突にこの話題を持って来たかと申せば、冒頭にご紹介した平成18年、前回の自民党政権で決まった「療養病床の削減」が再び現実性を帯びて来たからです。本日の読売新聞です。

療養病床削減記事 図

 *****

高齢者が長期入院「療養病床」患者を削減の方針

 団塊世代が全員75歳以上になる2025年に向け、在宅重視の医療体制づくりを進める厚生労働省は、寝たきりの高齢者らが長期に療養している「療養病床」の入院患者を減らす方針を固めた。

 入院患者の割合が全国最多の県を全国標準レベルに減らすなど、地域ごとに具体的な削減目標を設定する。
 厚労省のまとめでは、人口10万人当たりの療養病床の入院患者数(11年)が最も多いのは、高知県の614人で、山口、熊本、鹿児島県と続き、西日本で多い傾向がある。最も少ないのは長野県の122人で、高知県はその約5倍になる。

都道府県別療養病床表

 入院患者の多い県は、療養病床の数自体が多い。病院が経営上の理由から、既存のベッドを入院患者で埋めようとしているとの指摘もある。多い県は1人当たりの医療費も高額化する傾向があり、厚労省は是正に乗り出すことを決めた。
 具体的には、2025年をめどとし、全国最多の高知県は、全国中央値に当たる鳥取県(人口10万人当たり213人)程度まで6割以上減らすことを目標とする。高知以外の都道府県も、全国最少の長野県との差を一定の割合で縮めるよう具体的な削減目標を割り当てられる。

 *****



◇ おわりに

 一昨年、2013年までの日本における平均寿命が、男性80.21歳(世界第4位)、女性86.61歳(世界第1位)で、男女合わせて84歳超えは唯一日本だけの第1位でありますから、日本の医療制度はある程度は世界のトップレベルと言えますし、国が負担する医療費が莫大であることは理解します。でも、その医療費削減を目的とした療養病床の削減には準備が不十分ではないか?、と考えます。
 国が推進する「在宅療養」を支えるシステムがどこまで進んでいるのか?、弱者が「介護保険」を簡単に利用できる国家の姿勢がどこまであるのか?、いずれも疑問であります。かつて、民主党 菅 直人 内閣総理大臣が「介護で雇用を創出、景気回復を!」と言っておりましたが、「バカも休み休み!!」って話です。財源が乏しいから「介護保険」のPRに消極的なのは明らかであり、需要と供給のバランス、収支バランスがプラスマイナス0(ゼロ)であるならば、療養病床の削減だって必要ありません。少子高齢化で労働人口が減って、税収が減少することが予想される、要するに赤字部門なわけです。そこに雇用の創出も景気回復も難しいのは明らかです。
 しかしながら、一方で「国家の財政」、「国の借金」などと言う言葉に、どこまでも日本国民は弱いのだろう?と考えてしまいます。官僚の天下りとそれに払われる退職金と新たな給与、米軍に支払われる莫大なお金、無駄な公共事業、稼働していない原発にかかるコストなど、多くの無駄遣いはそのままで、消費税増税には「賛成」、「仕方ない」と言った肯定派が過半数と聞きます。療養病床の削減も「致し方なかろう!」となってしまうのか?、今でさえ介護疲れから殺人にも及ぶケースが報道されていて、「医療難民」、「介護難民」が溢れる時代が近づきつつあります。

【代替・統合療法】ヤクルト ガゼイ菌シロタ株 の免疫賦活作用!?、胃癌肝転移が消えた1例


◇ はじめに

 昨年7月、「代替・統合療法 日本がんコンベンション」なるものに参加しましたが、参加者の真剣な眼差し、癌治療に対する切実な気持ちに触れ、心を動かされました。ほとんど現代医療のみを行っている私ですが、目の前の末期癌の患者が死にゆくのを数え切れないほど見てきて、また数は少ないですが、再発の可能性が極めて高い、あるいははっきり癌の遺残がある人が完治したり長生きする症例にも出会います。こうした時、いずれの場合でも現代医学の限界、保険診療の外側に必ず何か癌と対峙するものがあると思う次第です。

代替え医療コンベンション20のポスター

 本ブログには「医・食品・アンチエイジ」のカテゴリを作っております。その中で、【代替・統合療法】と題して、この現代医学として認可はされていないものの、癌に対して有効と思われるものを取り上げて参りたいと存じます。まず最初、以前もとりあげたヤクルトの自験例を再掲させていただきます。

 ある40代の患者が進行胃癌に多発性肝転移を伴っており、私は自らの治療でこの肝転移が消失したのを経験いたしました。胃癌の肝転移は極めて予後不良であり、「初回診断から平均生存期間は?」、などと言う言い方をしたりもします。現在、大腸癌に対する科学療法の進歩は目覚ましく、大腸癌からの肝肺転移巣が、FOLFOXやFOLFIRI、それらに分子標的薬(アバスチンなど)を被せて治療した結果、腫瘍の縮小や消失と言ったことはよく聞かれます。しかし、胃癌の場合は違います。極めて治療に難渋することは今も昔も同じです。

 大腸癌と異なり胃癌の肝転移は極めて予後不良


◇ 46歳男性 噴門部胃癌 多発性肝転移 症例

1.主訴・術前診断

 20年以上前の話です。食道のつかえ感、食事摂取困難で来院した46歳男性、精査の結果、多発性肝転移を伴う噴門部胃癌(低分化腺癌)でありました。

胃癌肝転移症例

2.治療方針

 食事摂取が困難であること、体力的には十分予備力があることを考慮して、手術を先行することと致しました。胃全摘術を施行し、さらにリンパ節を2群まで切除(郭清)してターゲットを肝転移巣だけとして、術後経過は至って良好でありました。術後2週間目より化学療法を開始しました。

3.術後化学療法

 術後化学療法の説明を行いましたが、以前、当ブログで触れました「がんの告知について」はそれをしない時代です。病状の説明として、胃の潰瘍性病変の一部に悪性が疑われ、肝に影があるのでそれに対する治療として、メトトレキセート(MTX)—ファイブエフユー(5FU)交代療法(ロイコボリン レスキュー含む)を選択し、治療薬の名称は伏せて点滴のタイミングやスケジュールを説明しました。またついでに、免疫力を高める食品としてヤクルトを紹介しました。

 胃癌多発性肝転移症例に対して
 ・胃全摘術 D2郭清
 ・MTX-5FU交代療法
 ・ヤクルト


4.経過

 患者は、自分より20近く若い私の話を全く素直に聞いてくれて、MTX-5FU交代療法は順調に施行されました。ヤクルトは1日に5、6本も飲んでいたようです。

5.肝転移巣が消失!?

 手術前と化学療法 MTX-5FU交代療法開始3ヶ月後のMRIを供覧します。明らかに肝転移巣は消滅しました。

胃癌の肝転移が消失 MRI

 私は、当時、心から驚きましたし、20年経った今でも不思議に思っております。上述の如く、胃癌の肝転移が消えるなんてことはとてつもない希有な出来事であります。当然の如く、私はあちこちの学会で報告しました。もちろん題名は以下の通りですが、聴衆は狐につままれたような表情でした。

 「MTX-5FU交代療法で胃癌多発性肝転移が消失した1例」


◇ 胃癌の肝転移

 まず、「胃癌の肝転移は極めて予後不良」と申しましたが、どれくらい予後不良なのか?、1990年代当時の日本消化器外科学会誌に論文を見つけましたので供覧します。

胃癌肝転移の成績 論文

胃癌肝転移成績グラフ 図

 グラフを見ますと、多発性に肝転移があったH2、H3症例は胃切除ができた場合でも6ヶ月生存が50%程度であり、胃切除不能例ではほとんどの症例が半年以内に死亡しております。


◇ MTX-5FU交代療法

 MTX-5FU交代療法の有効性に少し触れます。MTX-5FU交代療法と5FU単独投与を比較した多施設共同の第III相試験(第3段階目の治療研究)の論文がありました。1989年、私が上述の患者の治療にあたった4,5年前のものです。

MTX-5FU交代療法 論文

 *****

【目的】

 胃癌に対するMTX+5-FU対5-FU単独の第III相試験

【研究デザイン】

 ランダム化比較試験、第III相試験、
 進行・再発胃癌に対するMTX・5-FU交代療法群 (MF群) と5-FU単独群 (F群) とのRCT

【セッティング】

 多施設共同

【対象者】

 青年・中高年・老人、進行胃癌
 登録症例133例、MF:70、F:63
 適格例 119例 (61/58)、完全例 100例 (56/53)
 統計学的考察なし

【エンドポイント(アウトカム)】

 主 要:奏効率
 副 次:有害事象、生存期間

【主な結果】

 薬剤投与:MF;MTX 100mg/m2 + 1時間後5-FU 600mg 15分静注、
       F ;5FU 600mg/m2
 奏効率 :PRはMF 10 例(17.9%)でF 1例 (1.9%)に対し有意に多かった(P<0.01)
 有害事象:MFで食欲不振、吐気、下痢、口内炎、白血球減少、GPT上昇が多かった
 生存期間:MF 7.9M、F 7.3Mで有意差なし

【結論】

 MFは胃癌の化学療法として有用である

 *****


 確かに、本論文によりますとMTX-5FU交代療法は奏効率が5FU単独投与よりも高い結果となっておりますが、副作用も強く、生存期間に優位性は見られませんでした。そして、20年経った現在、MTX-5FU交代療法はもはや、積極的に胃癌に対して用いられるプロトコールにはなっておりません。今となっては、MTX-5FU交代療法が多発性肝転移を伴う胃癌に対して効果が高いと思っている医学者はいないと思います。行われている施設はありません。実は胃癌に対する適応も外れております。ようするに無効と言うことです。それでは、あの肝転移消失はなんだったのでしょうか?

 現代においてはMTX-5FU交代療法は過去の治療法
 あの肝転移消失はなんだったのだろうか?



◇ ヤクルト ガゼイ菌シロタ株 の免疫力増強効果

 私は、あの胃癌からの肝転移巣が消滅したのはMTX-5FU交代療法が奏功したのではなく、ヤクルトに含まれるガゼイ菌シロタ株による免疫力増強効果によるものだったと考えております。ヤクルトは、30年も前に進行膀胱癌に罹患したヤクルトおばさんが身近にあるヤクルトを飲み続けて5年の無再発生存を得たことから、豊島病院泌尿器科の 故 浅野 美智雄 博士らの研究で、ヤクルトに含まれるガゼイ菌シロタ株の免疫力増強作用が証明されております(下図)。では、それがどういうメカニズムか?までは研究がされておりません。

ヤクルトのぼうこう癌再発予防の図

シロタ株の免疫力賦活作用図


◇ おわりに

 ヤクルト本社はこの乳酸菌飲料を医薬品として販売する予定は無さそうで、それは会社経営としてその方が有利だからなのかも知れません。こう言った発酵食品が免疫賦活作用を持つ可能性は大いにあると思われます。これも立派な癌に対する代替療法であると考える次第です。

エボラ出血熱、感染対策が後手に回った理由は?

 エボラ出血熱関連のニュースが連日報道されております。今回の感染流行は昨年12月頃から、ギニアをはじめとする西アフリカにて始まり、本年10月15日までのWHOまとめでは、感染疑い例も含め8,997名が感染し、4,493名(49.9%)が死亡したとされます。過去の流行においては多くても300人弱の死亡者でありましたが、今回はその15倍以上にまで膨れ上がる状況です。

2014年エボラ出血熱地図

 一昨日の記事からは米国ニューヨーク在住の医師(33歳)が、「国境なき医師団」の一員として渡航した西アフリカのギニアから10月17日に帰国、21日より疲労感を自覚するも、友人たちとボウリングに出掛け、地下鉄、タクシーにも乗車したところ、23日より高熱が出現、陽性と判定され隔離されたとのことです。世界有数の巨大都市に、エボラ感染の恐れが拡大したことにより、国際社会にも大きな衝撃が走っております。

 遅まきながら、この病気について知識をまとめ、このような感染拡大に至った原因と展望を考えてみます。


◇ エボラ出血熱

1.エボラ出血熱の概要とその病原体

 エボラ出血熱(Ebola hemorrhagic fever, EHF)またはエボラウイルス病(Ebola virus disease, EVD)は、エボラウイルスを病原体とする感染症で、死亡率が50-80%にも及び、人類が罹患するウイルス感染症の中で最も危険なものの1つと言われております。
 エボラウイルスはフィロウイルス科エボラウイルス属と呼ばれ、大きさが80-800 nmの細長いRNAウイルスであり、ひも状、U字型、ぜんまい型など形は決まっておらず多種多様とされます。

エボラウイルス画像

 なお、「エボラ」の名は、コンゴ民主共和国で発病者が出た地域に流れるエボラ川から命名されました。

2.感染経路

 英科学誌「ネイチャー」(2005年)によると、ガボンのフランスビル国際医学研究センターなどのチームの調査で、オオコウモリ科のウマヅラコウモリ、フランケオナシケンショウコウモリ、コクビワフルーツコウモリ等が、エボラウイルスの自然宿主とされ、現地の食用コウモリからの感染が研究論文で発表されています。

 自然宿主はコウモリが有力

 また、感染したカニクイザル、ゴリラ、チンパンジーと豚が発見されており、これらはヒトと同じ終末宿主と考えられます。サル(チンパンジー)から人への感染例も報告されており、中央アフリカではサルの燻製を食する習慣があるためと考えられております。

 同じ終末宿主であるサルからも感染

エボラウイルスの感染経路

 人同士の感染は、患者の体液、すなわち血液、分泌物、排泄物や唾液などの飛沫が感染源となり、死亡した患者からも感染します。 エボラウイルスの感染力は強いものの、基本的に空気感染をせず、感染者の体液や血液に触れなければ感染しないと考えられています。これまでに見られた感染拡大も、死亡した患者の会葬の際や医療器具の不足(注射器や手袋など)により、患者の血液や体液に触れたことによりもたらされたとされております。患者の隔離に関する措置が十分に行われていれば、感染することはないとされます。

 患者の体液の飛沫から接触感染
 基本的に空気感染はない


 アフリカでのエボラ出血熱の流行を調査すると、ヒトからヒトへの感染の拡大は、貧しい医療衛生環境での注射器、注射針の使い回しや家族内での濃厚な接触が原因とされます。また、防護服を着た医療従事者への感染が確認されており、防護服脱衣の際などの厳重注意が呼びかかえられております。

 医療衛生環境の重要性
 防護服を着た医療従事者への感染も確認


 その他、マラリア原虫を媒介するハマダラカが、吸血したての人の新鮮血を媒介しているという説もあります。

3.症状

 潜伏期間は通常7日程度(最短2日、最長3週間以上)とされ、WHOおよびCDCの発表によると、潜伏期間中には感染力はなく発病後に感染力が発現するとされます。発病は突発的で、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、食欲不振などから、嘔吐、下痢、腹痛などを呈し、進行すると口腔、歯肉、結膜、鼻腔、皮膚、消化管など全身に出血が起こります。致死率は50-90%と非常に高いです。

4.治療法

 エボラ出血熱ウイルスに対するワクチン、抗ウイルス薬、ならびにエボラ出血熱感染症に対して有効な医薬品などは確立されていません。また脱水に対する点滴や、鎮痛剤およびビタミン剤の投与、播種性血管内凝固症候群(DIC)に対するプロテアー・インヒビターの投与が対症療法として行われております。
 一方、1995年にコンゴでの流行の際、回復した元患者の血清を8人の患者に輸血し、そのうちの7人が回復をしており、その後も動物実験などで確認されつつあります。2014年9月、WHOは「回復した患者の血液や血清を有効な治療方法」と認定し、「早急に試すように」との勧告を出し、2014年には感染した米国人医師らに血清の投与や輸血などが行われております。
 また、富士フィルム・ホールディングスの傘下企業富山化学工業が開発したインフルエンザ治療薬「アビガン錠(ファビピラビル)」はウイルスのRNAポリメラーゼの阻害薬で、疫病のマウスモデルにおいてエボラウイルスを排除する効果が確認されております。本年の流行において同薬剤の投与でフランス人とスペイン人の女性患者が治癒しました。

5.過去の流行

 1976年6月末、スーダン南部ヌザラの綿工場に勤める倉庫番の男性が出血熱様症状を示し、次いでほかの部署の男性2人も同様の症状で倒れました。これが初めてエボラ出血熱と認識された流行の幕開けでした。この3人の患者を源として家族内、病院内感染を通してエボラ出血熱の流行が拡大し、計284人がエボラ出血熱を発症して151人(53.2%)が死亡しました。
 その流行とは別に、同年8月末にコンゴ民主共和国(旧ザイール)北部のヤンブクで1人の男性(教会学校の助手)が出血熱の症状を示しました。その患者が収容されたヤンブク教会病院での治療・看護を通じて大規模な流行が発生しました。計318人の同様の患者が発生し、280人(88.1%)が死亡しましたが、これもエボラウイルスによる出血熱であることが確認されました。
 その後、スーダン、コンゴ民主共和国、象牙海岸で散発的なエボラ出血熱の流行が確認されていましたが、1995年にコンゴ民主共和国中央部バンドゥンドゥン州キクウィトの総合病院を中心として、エボラ出血熱の大規模な流行が発生しました。その流行では計315人が発症して244人(77.5%)が死亡しました。
 今世紀に入ってからは、2008年のコンゴ民主共和国での流行で32人が感染し14人(43.8%)が死亡、2011年から2012年にかけてウガンダで流行し、32人が感染し22人(68.8%)の死亡が報告されております。

 今回の流行は西アフリカが中心であり、過去の例と併せて、以下の地域にエボラ出血熱が分布していることが解ります。

 ・中央アフリカ:スーダン、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、
         ガボン、ウガンダ
 ・西アフリカ :コートジボワール、ギニア、リベリア、
         シエラレオネ、ナイジェリア


エボラ出血熱の流行が見られた地域


◇ ヒーラーがエボラ流行に関与?

 少し前ですが、8月には以下の記事が出ました。エボラ感染が拡大しているシエラレオネで、エボラ出血熱を治癒する能力を持つヒーラーによりその感染症が流行した、との報道です。

シエラレオネのヒーラーの記事

 *****

シエラレオネ、エボラ流行は一人の「ヒーラーから」 医療当局者

【8月21日 AFP】シエラレオネでのエボラウイルス感染拡大は、エボラ出血熱を治癒する特殊な能力を持つと主張していたある一人の「ヒーラー(治療師)」によってもたらされた。

 同国東部ケネマ(Kenema)地区の医療当局者がAFPに語った。

 ケネマ地区の医療当局責任者、モハメド・バンディ(Mohamed Vandi)氏はAFPの取材に対し、ギニアからエボラウイルスが持ち込まれた原因は、東部国境沿いのソコマ(Sokoma)村のヒーラーだったと述べる。
 バンディ氏は「このヒーラーの女性は、特別な治癒能力を持っていると主張していた。そのため隣国ギニアからエボラウイルスの感染者たちが彼女の治療を受けようとシエラレオネに入ってきた」と話した。また「本人は(エボラに)感染して死亡した。そして彼女の葬儀に集まった近隣の町の女性たちが感染した」とも付け加えている。
 バンディ氏によると、国内での感染はこの女性たちから連鎖反応的に広がったという。そして6月17日、エボラウイルスがケネマに到達し、以降の大流行につながった。

 今年初めにギニア南部での感染が確認されたエボラ出血熱は、まずリベリアへと広がり、5月にはシエラレオネでも確認された。

 *****


 国家に経済力が無いために、衛生面などの福祉を充実することができず、また医療の体制も整っていない地域では、ヒーラーに頼らざるを得ないのが現状で、今回のエボラ出血熱でもこうした話は出てまいりました。当然の如くヒーラーは肌に接触して治療をすることが多いため、不特定多数の患者に触れ、もしも健常人に対してもヒーリングを施すことがあったのならば、ヒーラー自身が感染源となり得ます。


◇ 過去の感染症を省みて

 ここで、過去に世界中から恐れられた感染症がどうなったのか?、天然痘と後天性免疫不全諸侯群についてごく簡単にまとめてみました。

1.天然痘

 天然痘(Variola)は、天然痘ウイルスを病原体とする感染症、非常に強い感染力を持ち、全身に膿疱を生じ、仮に治癒しても瘢痕を残すことから、太古の昔より世界中で不治の病、悪魔の病気と恐れられておりました。感染力の高さ、40%前後と考えられる高い致死率のため、時に国や民族が滅ぶ遠因となった事すらありました。

天然痘の図
天然痘の被害を伝えるアステカの絵(左)と天然痘罹患少女(右)

 天然痘の発源地はインド、アフリカとも言われますが、最も古い天然痘の記録は紀元前1350年のヒッタイトとエジプトの戦争の頃とされます。また、天然痘で死亡したと確認されている最古の例は紀元前1100年代に没したエジプト王朝のラムセス5世とされます。
 イスラム圏においては、アル・ラーズィー(865-925年)の著書「天然痘と麻疹の書」(Kitab fi al-jadari wa-al-hasbah) において麻疹と天然痘の違いについて説明されています。

 エジプト王朝からイスラムへ

 ヨーロッパでは、紀元前430年の「アテナイの疫病」は天然痘であった可能性が示唆されております。また、165年から15年間ローマ帝国を襲った「アントニヌスの疫病(アントニヌスのペスト)」も天然痘とされ、少なくとも350万人が死亡しました。その後、12世紀に十字軍の遠征によって持ち込まれて以来、流行を繰り返しながら次第に定着し、ほとんどの人が罹患するようになったとされます。フランス・ブルボン王朝の、有名なマリー・アントワネットの義父にあたるルイ15世(1710年2月15日-1774年5月10日)は天然痘で亡くなっております。

 ヨーロッパでは広範囲に伝搬

 アメリカでは、コロンブスの上陸以降、白人の植民とともに天然痘もアメリカ州に侵入し、先住民であるインディアンに激甚な被害をもたらしました。ある程度、流行を繰り返したヨーロッパと異なり抵抗がなかった当時のアメリカでは天然痘による死亡率が高かったとされています。

 コロンブス上陸でアメリカ大陸へも進入

 中国では、南北朝時代の斉が495年に北魏と交戦して流入し、流行したとするのが最初の記録であります。頭や顔に発疹ができて全身に広がり、多くの者が死亡し、生き残った者は瘢痕を残すというもので、明らかに天然痘でありました。その後短期間に中国全土で流行し、6世紀前半には朝鮮半島でも流行したとされます。
 日本には、中国、朝鮮半島からの渡来人の移動が活発になった6世紀半ば以降に海を渡ったと考えられております。585年の敏達天皇の崩御も天然痘の可能性が言われ、735年から738年には西日本から畿内にかけて大流行したとされております。ヨーロッパや中国などと同様、日本でも何度も大流行を重ねて江戸時代には定着し、誰もがかかる病気となりました。天皇さえも例外ではなく、東山天皇は天然痘によって崩御している他、孝明天皇の死因も天然痘とされ、明治天皇も幼少時に天然痘に罹患しました。

 中国、朝鮮半島、日本へも拡散

 天然痘が強い免疫性を持つことは、近代医学の成立以前から経験的に知られていました。つまり、天然痘に罹患した既往は終生の免疫を得、再罹患はないと言うものです。西アジア、インド、中国などでは、天然痘患者の膿を健康人に接種し、軽度の発症を起こさせて免疫を得る方法が行なわれていました。
 18世紀半ば以降、牛の病気で、人間にも罹患するも軽症である「牛痘」にかかった者は天然痘に罹患しないことが判明しました。その事実に注目、研究したエドワード・ジェンナー (Edward Jenner) が1798年、天然痘ワクチンを開発し、それ以降は急速に流行が消失していきました。

 免疫性の知識から「種痘」の開発、そして根絶へ

 天然痘は人間に感染する感染症で人類が根絶できた唯一の例とされます。日本国内における発生は1955年の患者を最後に確認されていず、天然痘の予防接種、いわゆる「種痘」は約40年前の1976年を境に終了しました。
 国際的には、1958年に世界保健機関 (WHO) 総会で「世界天然痘根絶計画」が可決され、根絶計画が始まりました。1970年には西アフリカ全域から根絶され、翌1971年に中央アフリカと南米から根絶されました。1975年、バングラデシュの3歳女児の患者がアジアで最後の記録となり、アフリカのエチオピアとソマリアが流行地域として残りました。
 1977年のソマリア人青年のアリ・マオ・マーランを最後に自然感染の天然痘患者は報告されておらず、3年を経過した1980年5月8日にWHOは根絶宣言を行いました。現在自然界において天然痘ウイルス自体が存在しないとされています。

2.後天性免疫不全症候群

 後天性免疫不全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome, AIDS)は、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus, HIV)が免疫細胞に感染し、免疫細胞を破壊して後天的に免疫不全を起こす免疫不全症です。免疫が低下しますので、カリニ肺炎やカポシ肉腫などの特殊な病態を含む多彩な感染症を発症する病態です。HIV感染症の段階では無症状であり、ウイルスの侵襲で血液中のCD4陽性T細胞がある程度まで減少したところでAIDSとして症状が発現します。「HIV感染症」までの段階で抗ウイルス剤による治療が勧められております。感染様式は血液(血液製剤)、精液(性交)、垂直感染(母子感染)であり、唾液などの体液からの感染はないとされます。

 HIV感染症 → AIDS発症
 血液、精液から感染


 HIVの起源はカメルーンのチンパンジーという説が有力で、そこから人に感染して世界中に広まっていったと考えられています。1981年、米国ロサンゼルスの同性愛男性に発見され症例報告されたのが、正式に認定できる初めてのAIDS患者でありましたが、疑わしき症例は1950年代から報告されており、「やせ病(slimming disease)」という疾患群が中部アフリカ各地で報告されていました。

 カメルーンのチンパンジーが起源?
 1950年代の中部アフリカに「やせ病」?
 初の症例報告は1981年の米国


 1981年の症例報告後、わずか10年程度で感染者は世界中に100万人にまで広がったとされ、現在全世界でのHIV感染者は5千万人に達すると言われています。下図の如くサハラ以南のアフリカで高頻度に感染が見られますが、米国でも国民の0.5-1%、ロシアでは1-2%に罹患しています。ヨーロッパ、カナダ、アジア、オセアニア、南米では0.1-0.5%程度で、日本は0.1%以下となっております。

AIDS発生国 図

 米国では、当初、AIDSが広がり始めた頃、原因不明の死の病に対する恐怖感に加えて、感染者に同性愛男性や麻薬の常習者が多かったことから感染者に対して社会的な偏見が持たれました。その後、病原体としてHIVが同定され、異性間性行為による感染や出産時の母子感染も起こり得ることが知られるようになり、広く一般的な問題として受け止められた経緯があります。

 現在、抗HIV薬は様々なものが開発され、著しい発展を遂げています。基本的に多剤併用療法ですが、完治、治癒に至ることは困難であるため、抗ウイルス薬治療は開始すれば一生継続する必要があります。それでも現在では、HIV感染と診断されても、早期に適切な治療を受ければ通常の寿命を全うすることが十分可能となっています。

 現在は早期診断、早期治療で天寿を全う

 *****

 古来から長期に渡り全世界に伝搬し、数え切れないほどの人類を死に至らしめた天然痘と、20世紀になっての突然の発生、急速に世界中に感染が拡大して多数の死者を出したHIV感染症/AIDSと、ある意味、対照的なウイルス感染症をご紹介しました。対照的と申しましたが共通点もあって、天然痘は世界から完全に撲滅され、HIV感染症は、この数十年でその発症がコントロールされるまでに治療が進みました。


◇ エボラ出血熱の治療法確立の遅れ

 天然痘やHIV感染症/AIDSと、エボラ出血熱の大きな違いは、その感染範囲が世界に広がったかアフリカに限局していたかの違いかと存じます。天然痘はフランスの王室や日本の天皇にまで及びましたし、HIV感染症/AIDSは米国で初の症例報告がなされました。エボラ出血熱は、米国で初のHIV感染症/AIDSが報告された1981年より5年も前の1976年にアフリカで発生しました。細かいところに目を向ければ、HIV感染症/AIDSにしても、1981年に米国で報告される約30年前にアフリカでそれらしい病態が確認されておりました。
 エボラ出血熱に対する対策が遅れたのはアフリカに発生した感染症だったからでしょう。1950年代当初のHIV感染症/AIDSも同じでした。発展途上の大陸に発生した疾病への対応が遅れる先進国の構図と言えるかも知れません。ワクチンや抗ウイルス剤を研究開発しても、アフリカ大陸の諸国では購入できない経済事情もあるでしょう。アフリカの黒人に対する蔑視も否定できないと思います。上でご紹介した通り、ヒーラーに治療を委ねた結果、かえって感染が拡大した地域があることも、アフリカの医療事情が伺われます。

 人の命のお値段が安い民族

 これは、目を背けたいことですが、認めざるを得ない事実かも知れません。「医療ビジネス」と言う言葉を考えさせられる出来事です。


◇ エボラ出血熱、今後の展望

 エボラ出血熱感染の元患者の血清を投与することで、同疾病の患者が回復したことから、免疫抗体、ワクチンや予防接種の確立は近いと考えられますし、富士フィルムのインフルエンザ治療薬「アビガン錠(ファビピラビル)」の抗ウイルス作用が認められております。もうすでに、米国、スペイン、フランスに感染者が出現し、世界中が話題としている感染症に対してその殲滅の日は近いと思います。

 エボラ出血熱 撲滅の日は近い

 しかしながら、防護服を着た医療従事者への感染までも見られるほどに感染力が強いことも事実であります。ワクチンや抗ウイルス剤の以前の段階で、感染予防の衛生観念がアフリカ諸国に欠けている可能性は大いにあります。そして、現在、中国がアフリカを開発、貿易取引の相手として進めています。中国も衛生観念が低い国家であります。中国から朝鮮半島、日本への伝搬は可能性としてあろうかと存じます。

 アフリカ〜中国〜朝鮮半島から日本の可能性

 天然痘治療に世界が一つとなった過去の歴史、HIV感染症/AIDSの治療確立が瞬く間に西洋文明、先進諸国に広がった現代、これを考えるとエボラ出血熱の脅威は限定的です。ただ、一点、中国への感染とそこから日本への伝搬に厳重な注意が必要かと思います。



http://ja.wikipedia.org/wiki/エボラ出血熱
http://ja.wikipedia.org/wiki/天然痘
http://ja.wikipedia.org/wiki/後天性免疫不全症候群

アディポネクチン (Adiponectin)、その脅威のアンチエイジング効果

 今年になってから、食事法や栄養、遺伝子など、健康やアンチエイジングを目指した勉強をして参りました。以下、題名をクリックしていただければそのページに移動します。

マクロビオティックのスピリッツ(01月02日)
科学?/非科学? 今、密かなブーム「糖質制限食」の是非(01月23日)
パレオ(パレオリシック Paleolithic,旧石器時代)ダイエット(07月04日)
健康レシピ:アボガドとクルミ入り麻婆茄子(マーボナス)(07月17日)
もっと健康なレシピ:スモーク・サーモンのアボガドとクルミ添え、亜麻仁油のドレッシング(07月22日)
科学?/非科学? ファスティング(断食)の美容・アンチエージング・疾病における有効性を検証(08月11日)
マグロ ユッケのアボガド和え、亜麻仁油、クルミ添え(08月31日)
解明されつつあるサーチュイン遺伝子のアンチエイジング効果(09月07日)

 当ブログの元々の目的はアセンションでありました。もうお気づきかも知れませんが、アセンションに加えて、己の健康を見直してアンチエイジングを是非とも自ら実現したい、と言う気持ちでおります。私にとってブログは、「勉強おまとめノート」みたいな場でありますが、参考にしていただきお役に立つことがあれば幸いです。

アンチエイジングの画像

 さて、アンチエイジングで検索すると、少なからずヒットしてくる物質があります。「アディポネクチン」、今日はこの聞き慣れない脂肪細胞由来のホルモンを取りあげます。


◇ アディポネクチン概要

 アディポネクチン (Adiponectin) は、主として脂肪細胞から分泌される、ある種のホルモンであります。1996年、大阪大学医学部の松澤裕次教授(現住友病院長、内分泌代謝学)により発見されました。この発見は瞬く間に世界に広がり、世界中の医学界にとって希望の光となっています。血中濃度は一般的なホルモンに比べて桁違いに多く、μg/mlオーダーに達するとされ、その世界が注目する生理作用は以下の通りです。

 ・インスリン受容体を介さない糖取り込み促進
 ・細胞内の脂肪酸減少からインスリン受容体感受性亢進
 ・肝AMPキナーゼを活性化させてインスリン感受性亢進
   →高インスリン血症、糖尿病の改善
 ・脂肪酸の燃焼
 ・血管内皮細胞と単球の接着阻害作用
 ・マクロファージの貪食能の低下作用
 ・血管平滑筋細胞の増殖抑制作用
   →動脈硬化抑制、心筋肥大抑制
 ・抗炎症
 ・肺気腫の改善
 ・抗がん作用


 血中アディポネクチン濃度は内臓脂肪量に逆相関するとされ、肥大しすぎた脂肪細胞からはかえって分泌量が減少します。痩せ過ぎで脂肪細胞が少ない場合でも分泌が不十分となり、適度な脂肪量が良いと言われます。


◇ アディポネクチンの抗メタボリックシンドローム効果に関する論文

 まずは論説のようなかたちの医学論文が見つかりましたので、これを全文、供覧いたします。in vitro(生体の機能や反応を試験管内で行わせる試験や実験)、in vivo(生体の機能や反応を生体内で行わせる試験や実験)の両面から、アディポネクチンの糖代謝への関与、心血管病への有効性が詳しく説明されています。ちょっと長いですが、解りやすい文章だと思います。

 *****

糖尿病と動脈硬化 [II] 脂質代謝とアディポサイトカイン

アディポネクチンと糖尿病・心血管病の分子メカニズム

門脇 孝、山内 敏正、窪田 直人

 生活習慣病・糖尿病の最大の原因は肥満であり,肥大脂肪細胞から過剰に分泌されるTNFα,レジスチン,FFAなどの作用の結果,インスリン抵抗性が惹起される. このようなインスリン抵抗性惹起性の悪玉アディポカインに加え,インスリン感受性増強作用を有する善玉アディポカインの役割が注目されている (Nature Medicine 2001 ; 7 : 941―946). 代表的な善玉アディポカインであるアディポネクチンはAMPK (AMP-activated protein kinase) を骨格筋および肝臓において活性化することにより脂肪酸の燃焼と糖の取り込みを促進しインスリン抵抗性を改善する (Nature Medi- cine 2002 ; 8 : 856―863). アディポネクチン自身の遺伝子多型 (日本人の約40% が有する) や高脂肪食による肥満などの環境因子によりアディポネクチンの欠乏が惹起され,インスリン抵抗性の原因となっている (J Biol Chem 2002 ; 277 : 25863―25866, Diabetes 2002 ; 51 : 536―540).
 また,動脈硬化モデル動物 ApoE欠損マウスとアディポネクチン遺伝子過剰発現マウスとを交配したマウスを作製・解析したところ,アディポネクチンによってマクロ ファージにおける脂質蓄積が抑制され,その結果ApoE欠損マウスの動脈硬化が抑制されること,さらにアディポネクチン欠損マウスで血管の炎症性内膜肥厚が亢進することから,アディポネクチンはインスリン抵抗性改善作用に加えて,動脈硬化抑制作用を持っていると考えられる (JBiolChem 2002;277:25863―25866,JBiol Chem 2003 ; 278 : 2461―2468).
 最近発現クローニングによって2つのサブタイプ (AdipoR1 並びに AdipoR2) のアディポネクチン受容体を単離・同定することに成功した (Nature 2003 ; 423 : 762― 769).骨格筋には主にAdipoR1が,肝臓には主にAdipoR2が発現し,血管やマクロファージにはAdipoR1/AdipoR2の両者が発現している. AdipoR1は骨格筋におけるアディポネクチンの糖の取り込み・脂肪酸燃焼の促進を媒介し,AdipoR2 はアディポネクチンの肝臓における脂肪酸燃焼促進を媒介する. また,肥満モデルマウスではAdipoR1/AdipoR2のダウンレギュレーションとそれに伴うアディポネクチン抵抗性が認められる (J Biol Chem 2004 ; 279 : 30817―30822). したがって,アディポネクチン受容体の作動薬や受容体増加薬は新規の効果的な抗糖尿病薬,抗炎症薬,抗動脈 硬化薬として期待できる.


The Role of Adiponectin in Molecular Mechanisms of Diabetes and Cardiovascular Diseases.

TAKASHI KADOWAKI, Department of Metabolic Diseases, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo.


アディポネクチン論文 門脇氏

Key words
 肥満
 インスリン抵抗性
 アディポカイン
 アディポネクチン受容体



はじめに

 現在,メタボリックシンドローム(代謝症 候群)は,心血管病の最大のリスクファクター ではないかと考えられている. メタボリックシンドロームがどのようにして起こるかにつ いて,現在,理解されているアウトラインを図 1 に示す. 最近の欧米型生活習慣に代表さ れる高脂肪食,運動不足など,エネルギー過剰に陥りやすい生活習慣のもとで肥満が惹起 され,肥満がインスリン抵抗性の原因となり,インスリン抵抗性によって,糖尿病,高脂血 症,高血圧など心血管病のリスクファクターが一個人に集積する. 本稿では,肥満がなぜ インスリン抵抗性を起こすのかということを,脂肪細胞から分泌されるさまざまな生理活性物質アディポカイン,アディポネクチンに関する最近の話題を中心に,メタボリックシンドローム・心血管病の成因や,あるいは新しい治療法などについても展望しながら述べる.

アディポネクチン論文 図1

1.アディポネクチンのインスリン感受性促進作用

 われわれはアディポネクチンが最も重要なインスリン感受性調節アディポカインである と考え,メタボリックシンドローム形成にお ける役割を検討してきた.
 アディポネクチンは,大阪大学の松澤佑次先生のグループを含め世界の4つのグループが独立に発見したホルモンである. アディポネクチンの構造は,補体のC1qと相同であ り,N末端にCollagen-like domain,C末端にGlobular domainを認め,脂肪細胞から分泌を された後,Lodishらの報告によると一部はプロセスされて短いアディポネクチンも生成す る.
 メタボリックシンドロームのモデルマウスであるKKAyマウスは,高脂肪食下で肥満と インスリン抵抗性,高脂血症を起こすマウスである. 非常に興味深いことに,高脂肪食下 で肥満や脂肪細胞肥大が惹起されると,アディポネクチンは脂肪細胞特異的なホルモンでありながら,著明なダウンレギュレーションを受けることがわかった. そこでわれわれは遺伝子組換えでアディポネクチンを作製し,高脂肪食下のKKAyマウスに部分的補給をすると,インスリン抵抗性や高中性脂肪血症が改善したことから,肥満に伴うメタボリックシンドロームの重要な原因として,アディポネクチンのダウンレギュレーションが重要であることを初めて提唱した(図 2)(1).

アディポネクチン論文 図2

 アディポネクチンの作用機序について,われわれは短いフォームのアディポネクチンと 長いフォームのアディポネクチンがそれぞれ骨格筋と肝臓にはたらくことを報告してい (2). アディポネクチンは骨格筋と肝臓において,糖取り込みや脂肪酸の燃焼を起こす鍵 分子である AMP キナーゼを活性化する(図3)(2).

アディポネクチン論文 図3

 AMPキナーゼの活性化は,骨格筋では糖を取り込み,脂肪を燃焼する. また,AMPキナーゼの活性化は,肝臓では糖の新生を抑制し,脂肪を燃焼する. AMPキナーゼの活性化に加え,アディポネクチンの刺激は,より慢性的にはPPARαという脂肪酸燃焼のマスターレギュレーター,転写因子を活性化し,これらの作用が相まって,骨格筋と肝臓で中性脂肪の含量が低下し,IRS-1やIRS-2の機能を活性化することよりインスリン抵抗性を改善する.

2.アディポネクチンとメタボリックシンドローム

 脂肪細胞分化に伴って,アディポネクチンの発現が誘導される(図 4). このように非肥 満の小型脂肪細胞では,インスリン感受性亢進分子のアディポネクチンの発現が非常に多 いが,脂肪細胞が肥大するとアディポネクチンの転写が抑制される. レジスチンやTNFαでは逆のことが起こる. したがって肥満とは, 脂肪細胞のサイズが大きくなるということのみならず,アディポカインの転写がグローバ ルに変化する形質転換であると表現すること ができる(図 4)(3, 4).

アディポネクチン論文 図4

 脂肪細胞分化が障害された脂肪萎縮性メタボリックシンドロームにおいても,逆に脂肪 細胞肥大を伴う肥満においてもアディポネクチンの不足によりメタボリックシンドローム が発症し,それの病態はアディポネクチンの補充により部分的に改善する(1). また,チア ゾリジン誘導体は,脂肪萎縮性メタボリックシンドロームのみならず,肥満に伴うメタボ リックシンドロームの場合にも脂肪細胞分化を促進し,脂肪細胞を小型化させることによ り血中アディポネクチンレベルを上昇させることが知られている. このようにアディポネ クチン欠乏は,メタボリックシンドローム発症の中核的役割を担っている.
 また,肥満に伴って後天的にアディポネクチンの遺伝子の発現が低下するのみならず, ヒトにおいては遺伝子多型によって,体質的にアディポネクチンの分泌が一部既定されて いることがわかっている. われわれが(5)ヒトアディポネクチン遺伝子の SNP 解析をした結果,プロモーター領域の 2 つのSNPと連鎖不平衡関係にあるintron 276というSNPを同定した.
 GかTの組み合わせによりアディポネクチン遺伝子には3つの遺伝子型があるが,G/ G型は生まれつきT/T型にくらべてアディポネクチンの血中レベルが 2/3に低下し,インスリン抵抗性と糖尿病のリスクが亢進することが認められた. さらに,われわれの検討(5)により,日本人の40%はこの G/G型を持っており,このアディポネクチンの遺伝子多型で日本人の2型糖尿病の遺伝子素因の約15%を説明しうることがわかった(図 5). 実際にアディポネクチンの血中レベルが下がることが本当に糖尿病のメタボリックシンドロームのリスクとなることを確認する意味で,アディポネクチン欠損マウスを作製した. アディポネクチン欠損マウスは,インスリン抵抗性,耐糖能障害,高中性脂肪血症(6)と高血 圧(7)などメタボリックシンドロームを呈した(図6). 大変興味深いことに,インスリン抵抗性のみでは通常は高インスリン血症が起こってくるが,アディポネクチン欠損マウスはインスリン分泌がかえって低下し,アディポネクチンはインスリン分泌にも保護的に働く可能性も示唆された.

アディポネクチン論文 図5

アディポネクチン論文 図6

 また,動脈硬化モデル動物ApoE欠損マウスとアディポネクチン遺伝子過剰発現マウス を交配したマウスを作製・解析したところ,アディポネクチンによってApoE欠損マウスの動脈硬化が抑制されること(図7)(8),アディポネクチン欠損マウスで血管の炎症性内膜肥厚が亢進することから(6),アディポネクチンはインスリン抵抗性改善作用に加えて, 血管障害抑制作用をもっていると考えられる(図7).

アディポネクチン論文 図7

 したがって,アディポネクチンが低下すると,実際にメタボリックシンドロームにより 間接的に心血管病リスクが高まるのみならず,直接的にも動脈硬化が促進される可能性も想定される. アディポネクチンの欠乏は,アディポネクチン遺伝子多型など遺伝的な要因と,戦後の急速な生活習慣の欧米化による肥満など後天的要因とが合わさって惹起されると考えられる(図8).

アディポネクチン論文 図8

3.アディポネクチン受容体の構造・機 能・調節

 これらの結果から,アディポネクチンの欠乏は糖尿病・メタボリックシンドロームとそ れに伴う大血管障害の原因となっており,アディポネクチンの作用を増加させる治療は糖 尿病・メタボリックシンドローム・大血管症の根本的な治療法となることが示唆された. アディポネクチンの作用メカニズムを分子レベルで明らかにするためには,アディポネク チン受容体の同定がその第一歩となる. しかしながらこれまで,アディポネクチン受容体 同定の報告はなかったので,試みた.
 FACS (fluorescence-activated cell sorter) を用いてアディポネクチンとの結合を指標に骨格筋のcDNAライブラリーをスクリーニングした. アディポネクチンとの特異的結合を認めた分子の骨格筋細胞・肝臓細胞への発現実験あるいは,small interfering (si) RNAを用いた発現抑制実験などにより,アディポネクチンの細胞表面への結合やアディポネクチン作用への影響を検討した.
 その結果,骨格筋のcDNAライブラリーから7回膜貫通型のアディポネクチン受容体 (AdipoR)1をクローニングすることができた. 興味深いことに,AdipoR1は種を越えて酵母にまで保存されていた. さらに,この酵母ホモログは,グルコース欠乏時の脂肪酸酸化に重要な役割を果たすことが報告されている蛋白であった. 次に,ヒトゲノムデータベースをサーチすることにより,AdipoR1に高い相同性(アミノ酸レベルで66.7%)を示す遺伝子がつだけ存在し,AdipoR2と名付けた. AdipoR1は骨格筋に多く発現が認められたのに対し,AdipoR2は肝臓に多く発現が認められた. AdipoR1とR2は7回膜貫通型の構造を有し,G蛋白質共役型受容体(GPCR)である可能性が考えられたが,N末端側が細胞内,C末端側が細胞外となるtopologyを示したこと,及び既知のGPCRのセカンドメッセージに影響を及ぼさなかったことより,異なった受容体ファミリーに属するものと考えられた(図9). AdipoR1もしくはR2の培養細胞への発現は,globularアディポネクチン及び全長アディポネクチンの特異的結合を増加させ,アディポネクチンによるAMPK,p38 MAPK及びPPARαの活性化を増強し,脂肪酸燃焼及び糖取り込みの促進を増強した. アディポネクチンによるAdipoRを介した脂肪酸燃焼及び糖取込みの促進作用は,優性抑制型AMPKあるいはp38MAPKの特異的阻害剤によって,部分的ではあるが抑制された. これらの結果により,アディポネクチンはAdipoRを介したAMPK及びp38MAPKの活性化によって少なくとも一部,脂肪酸燃焼及び糖取り込みを促進していることが示唆された. 逆に,siRNAを用いて内因性AdipoR1もしくは R2の発現レベルを低下させると,globularアディポネクチン及び全長アディポネクチンの細胞膜表面への特異的結合が減少し,アディポネクチンによるPPARαの活性化や脂肪酸燃焼・糖取り込み促進効果が減弱 した(図 10).

アディポネクチン論文 図9

アディポネクチン論文 図10

 次に,われわれのアディポネクチン受容体の発現調整についての最近のデータを示す. ob/obマウスは肥満のモデルマウスとして最も代表的なものであるが,筋肉や脂肪組織で アディポネクチン受容体AdipoR1,R2の発現量が著明に低下していることがわかった. ob/ob マウスは著明な高インスリン血症を呈するので,インスリンがアディポネクチン受 容体発現量低下に関与するのではないかと考えた.
 そこで,in vitroのマウス骨格筋細胞 (C2 C12) では10^-8 Mのインスリン添加によって, AdipoR1,R2発現量は低下したが,その作用はPI3K阻害薬 (LY29002) によって消失するが,MAPキナーゼ阻害薬 (PD98059) によっては消失しないことも明らかとなった.
 したがって,インスリンによるAdipoR発現量の制御作用としては,インスリンがPI3Kを活性化し,そのことによりAdipoRの発現が抑制されると考えられる. 次にAdipoR遺伝子の上流を検索すると,転写因子Foxo1が結合しうるinsulin responsive elementとよばれる配列をAdipoR1でもR2でも多数同定することができた. PI3KによりAktが活性化しFoxo1のリン酸化を起こすことから,リン酸化されたFoxo1は核内から追い出され,転写がoffになる仮説を考えた. そのことを証明するために,恒常的活性型Foxo1 (ADA) をマウス骨格筋細胞 (C2C12) にtransfectionするとAdipoR1,R2発現量は増加し,ベーサルが上昇し,インスリンによる発現量低下効果もなくなった. つまり,Foxo1がアディポネクチン受容体の転写に関与し,インスリンはFoxo1の不活性化を起こすことがわかった.
 以上,このアディポネクチンの欠乏が肥満や遺伝素因によって起こり,インスリン抵抗 性に行き着くが,そのときに同時に肥満で認められる高インスリン血症は,アディポネク チン受容体のダウンレギュレーションを起こし,アディポネクチン抵抗性,アディポネク チン作用不全を惹起し,インスリン抵抗性を強め,インスリン抵抗性は高インスリン血症 を,よりさらに悪循環をきたすであろうということがわかった(図11). したがって,アディポネクチン欠乏や高インスリン血症に陥る肥満へと進行しないことが非常に重要である.

アディポネクチン論文 図11


おわりに

 アディポネクチンのさまざまな作用について,肝臓,筋肉,血管での作用を述べたが,視床下部や膵β細胞にもアディポネクチン受容体が非常に豊富に存在している. アディポネクチンは視床下部ではエネルギー消費調節に大きな役割を果たし,膵β細胞ではインスリンの分泌を促進する生活習慣病やメタボ リックシンドロームと非常にかかわりの深い分子であることがわかった(図12).

アディポネクチン論文 図12

 今後はアディポネクチン受容体に特異的に結合する低分子化合物のスクリーニングを行 い,抗糖尿病薬,抗炎症薬,抗動脈硬化薬の開発を行っていきたい.
 最近,植物防御ペプチドファミリーPathogenesis related (PR) proteinsの一種PR-5に 属するタバコ由来のオスモチンの立体構造がglobularアディポネクチンと相同であることがわかった. さらに,オスモチンは酵母にアポトーシスを起こすがその受容体は酵母におけるアディポネクチン受容体のホモログであることがわかった. 興味深いことに,植物ペプチドは哺乳類の細胞において,アディポネクチン受容体に結合し,アディポネクチン受 容体を介してAMPキナーゼ活性を上昇させることがわかった(11). これは,アディポネク チン/アディポネクチン受容体が,植物から動物まで進化上保存されている可能性の高いこ とを示している. また,オスモチンを始め植物防御ペプチドファミリーに属する蛋白は 種々の植物 (野菜・果物など) に豊富に多種類存在し,消化・分解されにくい. オスモチン以外にもAdipoR活性化能を有する蛋白の存在する可能性がある. したがって,摂取する植物の種類・量がメタボリックシンドロー ムの分子基盤の一部を形成している可能性がある. また,経口可能なAdipoRアゴニストを開発出来る可能性がある.

文献

1. Yamauchi T, et al : Nat Med 2001 ; 7 : 941.
2. Yamauchi T, et al : Nat Med 2002 ; 8 : 1288.
3. Okuno A, et al : J Clin Invest 1998 ; 101 : 1354.
4. Yamauchi T, et al : J Biol Chem 2001 ; 276 : 41245.
5. Hara K, et al : Diabetes 2002 ; 51 : 536.
6. Kubota N, et al : J Biol Chem 2002 ; 277 : 25863.
7. Ouchi N, et al : Hypertension 2003 ; 42 : 231.
8. Yamauchi T, et al : J Biol Chem 2003 ; 278 : 2461.
9. Yamauchi T, et al : Nature 2003 ; 423 : 762.
10. Tsuchida A, et al : J Biol Chem 2004 ; 279 : 30817.
11. Narasimhan ML, et al : Molecular Cell 2005;17:171.

質疑応答

 座長(岩本) どうもありがとうございまし た. 門脇先生には,初めの春日先生のintroductionにありましたアディポサイトから分泌される多様な生理活性物質のひとつ,特に善玉であるアディポネクチンを中心にお話しいただきました.ご質問,ご討議をお願いいたします.
 佐藤龍次(昭和大) これに関してはまったくの素人なのですが,実際にアディポネクチ ンというのは,現在市販されているキットは大塚や,つい最近は富士レビオなどを小耳に はさんでいるのですが,先生のお話しのキットはこれらの方法ですか.
 門脇 これは第一化学薬品と共同開発したもので,これまでに特に市販はされておりま せん.これまでのものは総アディポネクチンを測るものが主だったと思います.
 佐藤 そうしますと,今回先生のご研究というのは,エラスターゼか何かで分解したも のということですか. ちょっとわからないのが,大塚のキットというのは,ただ熱か何か で測定するのですか.
 門脇 熱変性なしでネイティブなアディポ ネクチンを測る方法も現在臨床治験中だと理解しています.
 佐藤 そうしますと,エラスターゼで分解した方法と,熱で変性させた方法とでは,たとえば年齢によってアディポネクチン値は変化するものなのでしょうか.
 門脇 年齢の影響も多少はあるかもしれませんが,性の影響,gender differenceが非常に強くて,女性で高く,男性で低いのですが,high molecular weightを測るとその差はもっ と顕著で,女性は high molecular weight は非常に高いです.
 私どもがアディポネクチンの切断活性を有する酵素として同定したエラスターゼはneutrophilのエラスターゼです (Waki H, et al : Endocrinology 2005 ; 146 : 790―796). 私どもは,globularアディポネクチンの切断活性をさまざまな臓器や細胞系で見ました が,私どもが検討した中で切断活性を認めたのが好中球にあるエラスターゼで,その意味 づけとしては次のように推測しています. globularアディポネクチンは非常に強い抗炎 症効果を持っています. 炎症があるとそこにneutrophilが集まってきて,globularアディポネクチンが生成をされて炎症の終結に関わるのではないかと考えています.
 佐藤 そうしますと,たとえば女性などでは,やはり閉経後になってきますと,Body Mass Indexも増えてくるわけですから,アディポネクチンは当然低くなるわけですね.
 門脇 それは閉経後に内臓脂肪蓄積が強くなることと関連しているかもしれませんし, 性ホルモンの影響,たとえばエストロゲンが低下したりすることが関係している可能性が あります.
 佐藤 血中からアディポネクチンが漏れ出 てくるというのはどういう部分からでしょうか. やはり脂肪細胞から漏れ出てくるのですか.
 門脇 脂肪細胞だけが分泌をします.
 木村武量(阪大学生) アディポネクチン関連の薬剤と,従来型のインスリン抵抗性改善 薬であるビグアナイド製剤を併用した場合に,相乗効果は期待できるのでしょうか.
 門脇 アディポネクチンは肝臓でのAMP-kinaseを活性化して,筋肉でも活性化するわ けですが,ビグアナイド薬の作用機序は,今のところ肝臓でのAMP-kinaseの活性化作用が主であると考えられていると思います. そうしますと,アディポネクチンの作用の中に包含されてしまう可能性がないわけではないかもしれないと思っています. ただアディポネクチンには食欲を抑制する作用はないのですが,ビグアナイド薬ではその作用機序は不明で,もしかしたら脳内でAMP-kinaseを介している可能性もあります. そういう作用はアディポネクチンの作用と重なっていない可能性があって,その場合には併用すると効果があることになると思います.
 座長 どうもありがとうございました.

 *****



◇ アディポネクチンの慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する有効性

 慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease, COPD)は喫煙や排気ガスなどの大気汚染が原因となり、肺気腫や慢性気管支炎により引き起こされる肺の生活習慣病とされます。2020年には世界における全死因の第3位になることが予想されておりますが、根本的な治療が無いのが現状であります。以下、アディポネクチンがCOPDに有効であることを報告した日本経済新聞2011年1月21日の記事を掲載します。

 *****

 大阪大の研究グループは、ヒトの脂肪細胞で作られる善玉ホルモンが、喫煙などで起こる慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療に有効なことをマウス実験で突き止めたと発表した。「アディポネクチン」と呼ばれるホルモンで、メタボリック(内臓脂肪)症候群や糖尿病を防ぐ効果が知られている。これを増やせればCOPD治療に役立つ可能性がある。阪大の武田吉人助教と中西香織医師らの成果。

 COPDは喫煙や大気汚染が原因で肺気腫や気管支炎になり、息切れやせきやたんが続く。肺の生活習慣病といわれ、国内患者は500万人以上とみられるが、根本的な治療法はない。
 研究チームはアディポネクチンを体内で作れないように遺伝子操作したマウスを調べた。高齢になると肺の組織が壊れ、COPDとよく似た症状が出た。血管を保護する働きを持つアディポネクチンが失われ、肺の構造を保てなくなった。
 生後8週のマウスにアディポネクチンを外から補うと、肺の構造がほぼ正常に戻り、2~3割低下していた呼吸機能もほぼ正常まで回復した。今後、ヒトでも同様の効果があるか調べる。

アディポネクチンは脂肪細胞から分泌され動脈硬化などを防ぐ。肥満や喫煙で分泌量が減ると糖尿病などを発症しやすくなるとされる。成果は米医学誌電子版に掲載された。

 *****



◇ アディポネクチンの抗がん作用

 インスリン自体にがん細胞の増殖を促進する作用があると言われます。また、インスリンはがん細胞の増殖を促進するとされるインスリン様成長因子-1 (IGF-1) の活性を高め、高インスリン血症は、IGF-1の活性を制御しているIGF-1結合蛋白の産生量を減少させ、その結果、IGF-1の活性が高めるとされます。このIGF-1は、70個のアミノ酸からなり、インスリンと似た構造をしていて、がん細胞の増殖や血管新生や転移を促進する作用があります。IGF-1受容体とインスリン受容体も類似しており、IGF-1とインスリンが交差反応することが知られています。高インスリン血症では、インスリンがIGF-1受容体に結合して、IGF-1と同じように細胞の増殖を促進します。
 さらにプレ糖尿病から糖尿病になって血糖が上がると、がん細胞はブドウ糖をエネルギー源として大量に取り込んでいるため、がん細胞の増殖に有利になります。高血糖は活性酸素の産生を高め、血管内皮細胞や基底膜にダメージを与えて、血管透過性を高め、転移を起こしやくするという説もあります。
 大腸がんの患者は健常な人と比べて、血糖値や血中のインスリン濃度が高いという報告があります。高インスリン血症は肝臓における性ホルモン結合グロブリンの産生を抑制するので、フリーのエストロゲンが血中に増えて、乳がん細胞の増殖を促進することも指摘されています。
 このように様々な理由で、高血糖や高インスリン血症は、がん細胞の発生や増殖や再発のリスクを高めることになるのです。

 アディポネクチンに抗がん作用があることが報告されています。人の胃がん細胞を移植したマウスにアディポネクチンを注射すると、がんが著しく縮小したという報告があります。また、アディポネクチンの低い人ほど大腸がん、前立腺がん、子宮体がん、乳がん、胃がんの発生率が高いという報告があります。
 このアディポネクチンのがん予防効果は、インスリン感受性を高めて血中のインスリン濃度を低下させるためと推測されています。つまり、インスリン感受性を高める(=インスリン抵抗性を低下させる)ことはがんの予防に効果が期待できることが指摘されています。また、アディポネクチンはがん細胞の増殖を抑えるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化することも明らかになっています。


◇ アディポネクチン分泌を促す食生活

 アディポネクチンの分泌を促す(食)生活を勉強しました。

1.糖質制限、ファスティング、フィットネス

 「概要」で示しました通り、アディポネクチンは肥大しすぎた脂肪細胞からは分泌量が減少します。一方、痩せ過ぎで脂肪細胞が少ない場合でも分泌が不十分となり、適度な脂肪量が良いと言われます。こうした体型を獲得する方法として、当ブログでも取りあげました糖質制限、ファスティングに加えて脂肪を燃焼するフィットネスが有効と考えられます。糖質制限やファスティングによって、摂取カロリーが制限されたところでフィットネスでカロリー消費、エネルギー源として、体脂肪分を分解する「自己融解現象」が起こります。その結果、肥大した脂肪細胞が減少して、アディポネクチン分泌に理想的な体質を獲得すると言う考え方です。

2.アディポネクチン分泌を促す食品

 アディポネクチンの分泌を促す食品として以下が指摘されております。

 ・マグネシウム
 ・食物繊維
 ・エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid、EPA)
   =サバなど青魚に含まれるフィッシュオイル
 ・大豆タンパク(豆腐)
 ・酵母(ビール酵母など)

豆腐画像001
アディポネクチン分泌には豆腐摂取が1番!

3.アディポネクチン類似物質の摂取

 トマトやジャガイモ、キウイなどに含まれるオスモチンという成分が、アディポネクチンに似た構造をしており、こちらはペプチドタンパクで口から食べても吸収されるため、
肥満者のアディポネクチン不足を補えるのではないかと期待されております。


◇ アディポネクチンの分泌を促進するサプリ

 サーチュイン遺伝子でもそうでしたが、アンチエイジング効果を持つ物質を促すサプリメントはあっと言う間に開発、販売されます。人体に害が無ければ効果は二の次みたいなところを感じますが、いちおう一つばかりHPを掲載します。

アディポネクチンサプリのページ


http://ja.wikipedia.org/wiki/抗老化医学

中国汚染食品特集

 企業の決算発表の季節です。日本マクドナルドホールディングス【2702】は、先日10月7日、取引終了後に2014年12月期の通期業績予想の修正を発表、営業損益は94億円の赤字(前期は115億円の黒字)の見込みとして、上場来初の経常赤字に転落したことが判明しました。同社の株価は(下図)、7月下旬の、チキンナゲットの仕入れ元である中国上海福喜食品が期限切れの鶏肉を使用していたことが発覚した際と、今回とで大きく急落しました。

日本マクドナルド社株価

 今回、中国、上海福喜食品が期限切れの鶏肉を使用していた記事を紹介し、この国の汚染食品を調査しましたので特集を組みました。


◇ マクドナルドとKFCが賞味期限切れの肉を中国から輸入していた記事

マックチキンショック記事写真

 *****

 米ファストフード大手のマクドナルドとケンタッキーフライドチキンで知られるヤム・ブランズは7月21日、肉を仕入れている上海の企業との取引を中止すると発表し、中国の消費者に陳謝した。この上海の企業は、賞味期限切れの鶏肉と牛肉を販売していたとして当局が調査している。
 マクドナルドは中国版の公式ブログで20日、品質に懸念があるとして、イリノイ州の米食材卸大手OSIグループの傘下にある上海福喜食品が提供する肉の使用を中止するようすべての店舗に指示を出したと発表。ヤム・ブランズも20日に、中国全土のケンタッキー・フライドチキンとピザハットが上海福喜食品への肉の注文を中止したと発表した。
 マクドナルドは声明で、「食品安全はマクドナルドにとって最も重要で、安心してわが社の食品を楽しんでもらうために、国の法律や規制、関連する水準を厳しく順守する」と語っている。

18カ月前にも食品スキャンダル

 中国の新華社通信によれば、中国政府は、上海福喜食品が期限切れの肉を販売していると地元メディアが20日に報じたことで、上海福喜食品を営業停止にした。OSIグループの代表者は、メディアに対して、上海福喜食品に調査が入っていることを認めている。
 マクドナルドとヤムは18カ月前にも、中国で起きた食品安全スキャンダルに巻き込まれている。2012年12月、上海の当局は、第三者機関によって10〜11年に行われた調査で、中国最大のファストフード・チェーンであるヤム・ブランズに卸された鶏肉から高濃度の抗生物質が検出されたと発表。マクドナルドも同じ肉を仕入れていた。

 *****


 
◇ 「上海福喜食品」従業員の告発記事

 さらに、記事に出て来た上海福喜食品の工場現役従業員の告発記事がありましたので、こちらも掲載いたします。

上海福喜食品従業員告発記事

 *****

 消費期限が切れた肉や床に落ちた肉を再利用していたことが発覚した中国・上海の食品加工会社「上海福喜食品」の現役従業員が、週刊文春のインタビューに応じた。

 この従業員は10年以上、上海福喜食品に勤務しているベテラン。工場内の様々な現場を見てきたという彼は、こう明かした。

 「床に落ちた肉を拾うのはそもそも工場のルールなんです。機械を回しながら肉を投入するのでどうしても床に落ちてしまう。だから設置された青いプラスチックの容器に拾って入れなさい、と。容器がいっぱいになったら肉を回収し、『菌敵』という細菌殺菌薬を200倍に薄めた溶液で洗浄する。仕上げに度数70%のアルコールでさらに消毒し、再利用するんです」

 彼はさらに恐ろしい実態を明かした。

 「2010年に上海万博が開催された時には、海外や国内から多くの人が上海を訪れ、ファストフード向けの鶏肉が足りなくなりました。すると、どこからか、ものすごい異臭を放つ20トンくらいの腐った手羽先の山が工場に運び込まれてきました。その手羽先に業務用スプレーで菌敵の溶液を吹き付けて消毒してから、利用しました」

「菌敵」の主成分は塩酸ドキシサイクリン。人にも動物にも使われる抗生物質だが、類似成分で催奇形性に関する報告があるため、妊娠期には経口摂取はもちろん、動物への投与作業をするのにさえ注意が必要だ。

 上海福喜食品の親会社であるアメリカの食肉大手「OSIグループ」は、上海福喜食品が出荷した全製品の回収を決定している。

 中国鶏肉の危険性について、週刊文春が約1年前に警鐘を鳴らした特集記事「あなたはそれでもチキンナゲットを食べますか?  マクドナルドの中国産鶏肉が危ない!  奥野修司+本誌取材班」(2013年5月2日・9日ゴールデンウィーク特大号)は、「週刊文春デジタル」にて緊急再録され、7月31日(木)午前5時に公開される。

<週刊文春2014年8月7日号『スクープ速報』より>

上海福喜食品
上海福喜食品工場

 *****



◇ 数々の中国汚染食品

 中国の汚染食品について、調査、検索し、引っかかって来たものを列挙いたします。この項目は新しいものが見つかり次第、随時、更新して参ります。

1.食用として地溝油を使用

 中国国内では、厨房の排水溝などにたまった廃食用油を違法に再加工した「地溝油」が食用として、コスト減を図ろうとするレストランなどで流通しており、「食の安全」が問われる中、大きな社会問題となっております。2011年2月、法整備がなされた後も密造は続いているとのことです。下の写真は摘発され、押収された「地溝油」のタンクです。

摘発した地溝油

2.ビニールで造られた中国産ワカメ

 ワカメの中に黒いビニールが含まれていたと言う記事です。製造の過程で混入したものか、重量を割り増すために意図的に入れたものかは不明です。

ビニール製のワカメ

3.病死した豚の肉を羊肉と称して販売

 福建省州市の冷凍食品販売企業が摘発され、冷凍庫に病死した豚の肉が山のように積まれており、出荷中のトラックに積まれていたものも合わせて計32トンが押収されました。 3人の容疑者が逮捕されましたが、驚くべきことにそのうち2人は村政府に雇われていた職員だったとのこと、、、。 病死した豚を回収し処理する仕事でしたが、これを羊肉と偽って販売しておりました。

病死した豚の肉を羊として販売

4.メラミンで汚染された粉ミルク

 下の写真は2008年、河北省石家荘のメーカー「三鹿集団」製の粉ミルクです。このミルクは有害物質メラミンで汚染されており、飲んだ乳児が腎臓結石になるなどの健康被害を引き起こしました。健康被害は約29万6000人に広がり、6人が死亡したとされます。牛乳を水で薄めたことをごまかすため、にメラミンを混入してたんぱく質含有量を高めたものを原料に使っていたためで、原料を製造していた業者が逮捕され、そのうち2人が死刑になったとのことです。

メラミンを含む「三鹿集団」製の粉ミルク

5.滋養強壮剤として「人肉カプセル」

 中国国内で製造されて韓国に密輸入された「人肉カプセル」と言うものがあったそうです。韓国関税庁が公開しました。カプセルの中身は、死産の赤ん坊の肉を乾燥させて作った粉末で、滋養強壮薬として密かに流通していたのを、2011年7月に韓国メディアの報道で明るみに出ました。韓国当局の検査では、保存状態が劣悪なため腐敗して雑菌が繁殖したり、耐性のあるバクテリアが混入したりしていた例もあったそうです。関税庁は人体に致命的な影響が及ぶ恐れがあるとして、注意を呼び掛けています。

人肉カプセル

6.腐った月餅の餡(あん)だけ消毒して再利用

 月餅は中秋節(旧暦8月15日)に贈答品として利用されますが、ある工場では、なんと1年前の餡を再利用しておりました。腐ってカビだらけになった月餅から餡を抜き、薬品を加えて殺菌、消毒して再び月餅を創りあげていたとのことです。現場には悪臭が立ち込め、調理油の鍋には死んだネズミが浮いていたと言います。中国では、経済成長とともに贈答品としての月餅の需要が急増しており、ひと儲けしようと、悪徳業者が増加していると2012年9月26日付の中国紙「大粤網」が報じています。

腐った月餅の餡だけ消毒して再利用

7.塗るだけで牛肉になる魔法のクリーム

 中国では豚肉が塗るだけで赤い牛肉に変身するという牛肉クリームが市販されています。発表によりますと、牛肉クリームの原材料は「牛肉抽出物、食塩、砂糖、化学調味料、香辛料、デンプン等」で、牛肉への変身所要時間は約90分とのことです。

塗るだけで牛肉になる魔法のクリーム製品

塗るだけで牛肉になる魔法のクリーム

8.ネズミから作られる鳩料理

 中国では鳩を食べる習慣がありますが、ネズミから鳩料理を作る映像がありましたので供覧いたします。

[広告] VPS


9.その他

 その他、検索によりヒットしたものをただ列挙いたします。

・「冷凍ギョーザ」に有機リン系の殺虫剤のメタミドホスとジクロルボス
・「小豆」にジクロルボス
・「ナッツ類(くるみ)」にアフラトキシン
・「セロリ」にクロルピリホス
・「サヤエンドウ」からは殺虫剤のシペルメトリン
・「いんげん」からジクロルボス
・「ウーロン茶」で検出された殺虫剤フィプロニル
・「冷凍焼きアナゴ」から大腸菌
・「きくらげ」、「しいたけ」など乾燥食品に漂白剤(二酸化硫黄)
・「活はまぐり」、「あさり」からは除草剤プロメトリン
・「冷凍あさり(むき身)」から下痢性貝毒
・「焼き鳥・つくね串」から大腸菌
・「中国茶」からDDT
・「漬物」から残留農薬
・理髪店で回収した人毛からアミノ酸を抽出して「人毛醤油」製造
・「アヒルの卵」と「オレンジ」に着色料スーダンレッドを使用
・肥だめから汲み上げた人間の大便から「食用の油」製造
・カドミウムを含んだ「米」が流通
・可塑剤入り「酒類・しょうゆ」
・「キノコ」からホルムアルデヒド
・「フリーズドライキムチ」に入っていた乳化剤、ポリソルベート
・「清涼飲料水」に保存料、安息香酸
・「中国製の冷凍食品」から基準に反する農薬
・「キツネやネズミの肉」を牛や羊の肉と偽って販売する食肉偽装
・「ポップコーン」を白くみせるため漂白剤
・「落花生」の皮を黒く染めるために重金属
・「白菜」の白さが失われないようホルマリン
・「ニラ」に硫酸銅を噴霧して出荷
・廃液セメントを溶かし香料を混ぜて「ミルクティ」を製造
・ホルマリン漬け残飯肉が小学生の大好物である「牛肉棒」
・白ゴマに墨汁に漬けた「黒ゴマ」
・腐った肉塊の詰まった「北京ダック」のパック
・添加剤に浸して染色した「毒饅頭」
・染色された「ケーキ」


◇ 中国からの輸入食品違反事例

 厚生労働省がネット上で公開している「輸入食品違反事例」によると、2013年度、中国からの輸入で以下のような食品が不適格とされております。下表は指摘された輸入食品と混入されていた有害物質であります。

不適格となった輸入食品


◇ おわりに

 文章を作っていて、なんだか気持ちが悪くなりました。はっきり言えること、それは、こんなに簡単に、中国の汚染食品を見つけられるのに、その国から鶏肉を仕入れていたとは!? 冒頭、日本マクドナルドホールディングスの株価の下落を紹介いたしましたが、それは仕入れた肉が不良であったと報道されたからではありません。ローコストとは言え、そういう食文化の国から材料を仕入れていた、食品会社の「食の安全」に対する意識の低さが露呈したと言う、根が深い問題だと思います。

宮崎県産1380円、鹿児島県産1880円

高知県産しょうが1個170円、青森県産にんにく1個341円、岐阜県産しいたけ6個246円

 ララポートにある東急ストアで見つけました。うなぎ、宮崎県産1380円、鹿児島県産1880円、高知県産しょうが1個170円、青森県産にんにく1個341円、岐阜県産しいたけ6個246円です。この他、すごく久しぶりに日本製、秋田県産の山菜を見つけました。

 安くて危険なものよりも高くても安全なものを!

 是非とも、心がけましょう!

「癌の告知」について 第二版

 今日は、「癌の告知」について、昨年の5月3日にも取りあげた内容ですが、文章と図を加えて更新し、第二版としてもう一度、記事にさせていただきます。

 私が初めて癌患者と身近に接したのは小学校1年生、6歳ぐらいのことでした。母親の姉が若くして胃癌に罹り、その病室を訪れる際「ガンという言葉は絶対に口にしてはダメ」と言われて、「ガンバって!」すら言ってはならないと硬く口を閉ざしていたのが想い出されます。今から思えば、叔母は若い女性に多いスキルスから癌性腹膜炎状態だったようで、昭和40年代の当時、本人に病名は知らされていませんでした。
 多くの有名人が癌に罹患し、不幸の転機を聞くことが少なくなく、今も昔も、癌は治療困難な病気であります。もちろん昭和の時代と今とでは、治療法に試行錯誤から改善が図られ、治療成績に向上は見られておりますが、己が癌であることを知ったその瞬間から死を意識せざるを得ないのは昔も今も変わりありません。日本人の人生観や死生観に大きな変化が生じているとは考えづらく、その昔、タブーとされた「癌の告知」について、その是非を検証いたします。


◇ 昭和の医療 渡辺 淳一 氏の小説から

 昭和の代表的な医学系小説家で、春先に他界された、故 渡辺 淳一 氏(1933年 [昭和8年] 10月24日 - 2014年 [平成26年] 4月30日、享年80歳)は昭和49年発刊の「無影燈」の中で、進行胃癌の患者に対する手術で切除不能で終わった際の、主人公である直江医師と若手の小橋医師の会話を以下のように描写しています。

無影灯 写真

 *****

  小橋 患者になんと説明するのですか?
  直江 大きな潰瘍で、できるだけ切除したと言えばいい
  小橋 そんなんで騙せるものですか? 
     良くならないと言って迫ってくるんじゃないですか?」
  直江 癌である以上、騙さなければならない
     患者は迫ってなどこない
     患者は、医者が嘘をついていると知りながら、
     その嘘に一縷の望みを託して、
     嘘のなかに入って行こうとするものだ
     最後の最後に、命尽きる時、
     医者を恨むだろうがそれでいいのだ

 *****


 昭和の時代、乳癌や白血病など他分野はともかく、消化器において癌は不治の病であるとの前提の下、その告知は本人の落胆、精神力の減退、苦しみを惹起する一方、告知しないことにより患者は精神の安定から安らかな生活を送れると信じられておりました。これは、死に直面する者に対する精神的配慮と言えるものだったと思います。こうした傾向は、平成7, 8年頃まで続きましたが、私は平成6年4 月より秋田県の病院に勤務しましたので、その秋田では「癌の告知」は行わない時代でありました。

癌の告知の是非、精神的配慮から

 この発想に基づいて、冒頭で申し上げた、3人の学童期息子/娘をもちながら若くして進行胃癌に罹った私の叔母にも、癌の告知はなされなかったことは想像に難くありません。そして、その叔母が、癌の告知がなされずに、元気に笑顔でいられた時間が少なからずあって、「とても本人には伝えられない」としていた母方の親戚一同の雰囲気が想い出されます。癌を告知しないことにより、患者がその「嘘の中に入ってくる」、故 渡辺 淳一 氏の考え方は決して間違いではないと思います。現在においても、患者家族の方から本人への告知を避けて欲しいとの要望がしばしば聞かれます。それはそれで、あり得る心情だと思います。
 しかしながら、今現在、「癌の告知」が普通に行われているのはなぜでしょうか? いくつか思い当たることを挙げてみます。


◇「癌の告知」の根拠として考えられること

 先に一般的に言われている根拠を述べますと、、、

 ○ 情報化社会のため隠し果(おお)せない
 ○ 合併症、危険性を含む病名、治療概要説明の必要性
 ○ 自分の余命を知って充実した余生を送りたいとする考え方
 ○ 代替・統合医療など、自ら治療法を選択する権利

そんなところでしょうか? それぞれについて若干の考察を加えます。

1.情報化社会のため隠し果(おお)せない

 「医者からもらった薬がわかる本」(法研)の初版が1985年(昭和60年)であり、これまで29版を重ねております。患者が自分が受けている治療の概要を知ると言う今では常識的なことは、この本が大きなきっかけとなったように思います。

医者からもらった薬がわかる本 図

 また、今の時代はブログやFace Book、ツィートなどとSocial Networking Service、SNSが発達しており、インターネットを介して、見ず知らずの人の闘病生活を知ることができます。他者との比較から、自分がどんな病気でどう治療されているかを知ることは至極簡単なことであります。「癌の告知」をせずに隠匿していたのが、あっさり患者にバレてしまう、そういう「情報化社会」の流れと言う考え方です。

2.合併症、危険性を含む病名、治療概要説明の必要性

 現代は契約の時代であります。とりわけ医療の分野では、インフォームド・コンセント(informed consent, IC)と言って、「正しい情報を得た(伝えられた)上での合意」を意味する概念が定着してきて、医療行為(投薬・手術・検査など)や治験などの対象者(患者や被験者)が、治療や臨床試験・治験の内容についてよく説明を受け十分理解した上で、対象者が自らの自由意思に基づいて医療従事者と方針において合意する概念であります。日本では、1997年(平成9年)の医療法改正によって、医療者は適切な説明を行って、医療を受ける者の理解を得るよう努力する義務が初めて明記されました。

手術検査同意書 図

 上で示しましたごく一般的な手術(検査)承諾書においては、病名、麻酔法とその副作用、合併症と、手術(検査)の目的、必要性と、やはり副作用、合併症、さらには手術(検査)後の経過、見通しまで明記して、患者、家族に署名をいただきます。最後の文章に大きな意味があります。

 なお、医学的常識に基づく施術が行われたにもかかわらず、万一発生した不可抗力の事態に対しては、異議申し立てをいたしません。

 つまりこれがインフォームド・コンセントの実際であり、合併症などの「不可抗力」に対する訴訟などを予防して、はっきり、医療サイドを守るためものであります。これも、偽らざる現実であります。しかし、これが医療における「契約」と考えれば至極、当然のことでもあります。
 こうした流れの中で、「癌の告知」をしないことは、あり得ない、と言うのが現状です。上で申し上げた、1997年(平成9年)の医療法改正で初めて明記された「医療者は適切な説明を行って、医療を受ける者の理解を得るよう努力する義務」、このあたりが、正確に「癌の告知」が一般化された時期かと存じます。

 1つ、申し上げたいこととして、この時期(平成9年当時)の前、私たち外科医は、患者に対して「癌の告知」を行うべきか否かをずいぶんと議論して参りました。その現れが故 渡辺 淳一 氏の主張であり、患者によっては「この人には話しても良いのでは!?」って思うケースはしばしばでした。上記流れの医療法改正を機に、難しいことを考える必要がなくなったのは医師の方なのであります。

3.余命を知って充実した余生を送りたいとする考え方

 余命を意識することによって残りの人生を考えることは、今に始まったことではないと思います。現代医療が確立される以前は、むしろそういう時代であったかも知れません。命の儚さ(はかなさ)や、限られた人生に対する心構えなど、、、。

BJ死ぬ直前の芸術作品 図

 上に示したのは、前にも提示したことがあります(昨年7月19日記事「解ってほしい! ヒトがいきること、ヒトがしぬことを」)。故 手塚 治虫 氏の「ブラック・ジャック」、1976年(昭和51年)8月に発刊された第9巻に収録された「絵が死んでいる」と言う作品の1場面、末期癌の画家が絵を完成させるシーンです。故 手塚 治虫 氏は昭和の内科医、故 渡辺 淳一 氏も昭和の時代に整形外科医でありましたけれど、告知や余命に対する考え方が両者に大きな開きがあったとは思いますせんが、それぞれに医師としての考え方があったと思います。
 ここで申し上げたいことは、生きている間に自分がやれること、芸術作品や誰かに何かを伝えたいこと、あるいはやり遂げたい仕事があって、自分が癌であるならそう言ってほしい、予後はどの程度であるのかを知りたい、そう言う考え方がが表面に出て来ているように思います。でも、これはもっと前からあった概念だと思います。

4.代替え医療など、自ら治療法を選択する権利

 「癌の告知」がタブーであった時代には己の治療の概要は不明瞭で、投薬すらも詳しい説明がなされませんでした。癌であることが告げられていないのですから、治療法を選択する余地すらもなかったわけです。
 例えば、癌に効くとされるサプリメントや温泉、玄米などの食事法、免疫力を高める笑いなどの生活習慣、あるいは自己啓発や信仰、お祓いなどなど、数えきれないほどに、現代の西洋医学以外にも癌に対する有効なものがあります。

代替療法・統合療法「日本がんコンベンション」会場風景

 上の写真は今年の7月に出席してきました「第20回 代替・統合療法 日本がんコンベンション」の会場風景です。癌治療にけける、現代医療の限界を指摘するのみならずそれを弊害とする立場の人があまりにも多いのに驚きました。こちらの分野はまた機会があれば勉強の成果をお知らせしたいと思いますが、中には高い説得力があるお話もありました。先日取りあげた「科学?/非科学? ファスティング(断食)の美容・アンチエージング・疾病における有効性を検証」(8月11日)や「解明されつつあるサーチュイン遺伝子のアンチエイジング効果」(9月7日)はこの「代替・統合療法」で仕入れたネタでありました。
 こうした、現代医療、少なくとも保険診療の範囲の外側に、もしかしたら癌に有効な治療法があるかも知れないことを私は否定しません。私だって自らが癌に罹れば、いろんな免疫力を高める工夫をすると思います。

 さて、こうした時代において、「癌の告知」は患者にその治療法を選択する権利を与えるものともなって来ました。手術の後に化学(放射線)療法を行っいる患者から「体に良いと言われてヤクルトを飲んでいます」と言われたり、「秋田の玉川温泉に行きたいのですが良いでしょうか?」と質問されたりします。癌を告げているからこそ、病院で受ける治療以外に、自分でも代替療法を模索されているのです。
 しかし、時には困ることもあります。抗癌剤治療は受けたくない、代替医療一本で行きたと言う患者もたまにはいます。「強化インスリン療法」や「高濃度ビタミンC療法」、「高度活性化NK細胞療法」と言った、有効性が証明されていない、すなわち保険診療として認可されていない治療法が、自由診療で行われており、これらを選択する患者も出現してきており、「癌の告知」の時代に入り、、、

 治療法を選択するのは患者の権利

となって来ているのです。これに対して否定的な意見を述べることはあっても、絶対にダメとは言えません。現代医学が完璧なわけではありませんし、患者の自分の命ですから、その治療法選択は患者の権利なわけです。


◇「癌の非告知」、本当の問題は!

1.嘘で始まり嘘をつき続ける医療

 まずは以下のスライドをご覧下さい。患者に「癌の告知」をしない、すなわち別の病名を告げると言うことは以下のような説明になると言うことであります。

患者に話した嘘の数々 スライド

「胃潰瘍で一部に悪性が疑われますので切除します」
 :これくらいなら許されますでしょうか?
「腸に潰瘍があって血が止まらないから切除しましょう」
 :腸ってどこの腸よ!?、それに潰瘍??
「腸が長すぎて一部に狭いところがありますから切ります」
 :腸が長いって私はウサギ?、狭いってどういうこと?
「胃がただれているから今のうちに切っておきましょう」
 :ただれくらいで切られたら日本人はほとんど胃切除になりますが?
「お腹の中の癒着を取る薬を使いますよ」
 :「癒着」ってすごく神秘的な単語でよく使いました
「術後、元気が出る薬を使います。でも吐き気がして毛が抜けます」
 :「元気?」。「吐き気?」、「脱毛?」
  どっ、どういう意味!? よくそんなこと言ったもんだ!


 これは実際に癌の患者さまに申し上げた言葉であります。もうちょっと上手な嘘をつけよな〜!、と言われるかも知れませんが、私が考えたわけではなく、医局の先輩たちが使っていた言葉を私も使いました。これらは嘘ですよね! 命に関わる疾病に罹患した患者に対してこれらの言葉は「無いな〜!」と思いました。でも、そうしてました。そういう時代でありました。

 お年を召されて苦痛なく平穏な生活を送っているご老人や、学童期の子供にはあえて病名を告げる必要のない場合はあるでしょう。社会的地位や家庭を支える立場にある年代ではどうでしょうか? 
 私は外科医として最初の何年か、無数の消化器癌患者と接して数え切れないほどの「嘘」をついて来ました。癌を潰瘍と偽り、再発を体調不良と説明し、その都度、癌とそれに伴う病態を告知しないことが本当に患者にとって良いことなのか自問自答の日々でありました。まさに、「嘘で始まり嘘をつき続ける医療」でありました。患者のなんとなくよそよそしい態度と、つきそう家族の困ったような暗い表情には常に引っかかるものを感じていました。絶対に間違った医療だと思っておりました。

2.非告知で信頼感の欠落した家族と孤独に陥る患者

 患者に対しては癌ではない、例えば胃潰瘍のように話して、その家族には真実を伝える、そうしたやり方が家庭内のどのような変化を生ずるか、当時は考えてもいませんでした。患者に「癌の告知」をしないことは、「とても本人には伝えられません」と言う家族も同意しておりましたから、、、。
 あらゆる癌患者のいる家庭に、と言うわけではありませんが、多くの場合、患者以外の家族間で「噂話し」が発生します。まさか葬式や遺産相続の話と言うわけではなく、例えば、、、

 「今日、病院に行ったら、お父さん、再発しているみたいなの」
 「あの温泉が効くそうで連れて行きたいけど本人は知らないからね」

 と、そんな話だと思います。そんな家庭環境で、患者が、ともに住む家族間の様子、肉親だったり、苦楽をともにした配偶者の表情に違和感を持たないわけはありません。はっきり、「何か隠しているだろう!」って思うこと、言うことがあったと思います。家族間に秘密があって、患者は家族を疑い、ぎくしゃくして家族間に信頼感が欠落、患者は孤独に陥る、そんな情景が脳裏に浮かびます。

患者に告知しなかった場合スライド

 秋田におりました頃、癌の術後に外来通院していた患者がある時から来れなくなり、ご家族が薬だけをもらいに来るようになって、「本人はどうしてますか?」と尋ねると、「最近、会話していません」、「食事もあまり摂れていません」、「暗い方をぼ〜っと見ているようです」、「夜はあまり眠れていないようです」と、そんな話を聞きました。患者が、自分が癌ではないかという疑いと恐怖から、医者と家族に対する疑念を持ち、誰も信じられない!、1人孤独の日々を送っているのは明白でした。口にはしませんが、明らかに、本人に「癌の告知」をしなかったことに対して、私と患者のご家族との間に後悔の気持ちが生まれておりました。ここでも、果たして癌治療のあり方としてこれで本当に良いのだろうか?、という疑問がつきまといました。


◇「癌の告知」で家族全員で癌と闘う!

 癌は現在、日本人の死亡原因第1位であります。ですから「癌の告知」は患者本人にとって「死の宣告」に近いものであることには今も昔も変わりはありません。もちろん、進行癌の患者に対して「余命何ヶ月」とか「手の施しようがない」と簡単に申し上げるものではありませんが、どのように話しても患者は、多くの場合、動揺と焦燥を隠せません。しかし、患者本人と家族が同席の下、その両者に全く同じ内容で真実を告げ、予後や死亡率と言った悲観的な話ではなく、確固たる治療法、治療計画を説明した時、もちろん患者本人の落胆は否定しませんが、ほとんどの場合、励ます家族と勇気づけられる患者、そして癌治療に心血を注ぐ医療サイドとの間に強い一体感が生まれる実感を得ます。

「癌告知」の家族スライド

 担癌患者に免疫力増強が有効であることが証明されつつあり、患者が癌と闘う同志(家族、医師)を得て、強い意志を持って治療に専念する、こうした形は免疫力を増強させもする、これこそが今なお死亡率の高い癌に対する治療のあるべき姿と考える次第です。

告知による医療患者家族の図


解明されつつあるサーチュイン遺伝子のアンチエイジング効果

 先日、「科学?/非科学? ファスティング(断食)の美容・アンチエージング・疾病における有効性を検証」(8月11日)と題して、古くて新しい食事形態(?)としてファスティング(断食)を取り上げ、その効果として以下を挙げました。

【ファスティングの効果】
 ・内臓諸器官の休息
 ・宿便の排泄と有害物質の解毒作用
 ・自己融解作用
 ・眠っている本来の力を蘇らせる
 ・ファスティングで心も生まれ変わる
 ・サーチュイン遺伝子活性化による老化抑制

 この最後に挙げました「サーチュイン遺伝子活性化による老化抑制」については後日の特集を予定いたしました。サーチュイン(Sirtuin)遺伝子、知るヒトぞ知る、長寿遺伝子、アンチエージング遺伝子についてまとめてみました。はじめに、サーチュイン遺伝子を考えるにあたり、どうしてもおさらいしておきたいのが「老化」のメカニズムであり、まずはそちらから解説いたします。


◇ 老化の概念とその機序

1.老化の概念

 老化(ageing、aging)とは、生物学的に時間経過とともに生物の個体に起こる変化であり、その個体が死に至るまでの間に起こる機能低下や変性とその過程を指します。身近なところで、ヒト(哺乳類)の老化では、加齢とともに胸腺の萎縮の他、様々な変化、機能低下が見られます。老年疾患・老人病には、骨粗鬆症、認知症、動脈硬化性疾患などがあり、多くの動物ではいくら環境条件などを整えてもこのような生理機能の低下が起こり、誕生以来一定期間以内に死に至る寿命が存在します。

2.老化に影響する因子

 ヒトでは肥満も痩せすぎも寿命短縮のリスク要因となります。喫煙、糖尿病、高血圧などは老化を促進し、スポーツ習慣や適量の飲酒は老化を遅らせるとされます。動物個体の老化の原因ははっきりとは解明されていず、以下のような複数の要因が考えられています。ただし、以下に挙げる説は全ての動物にあてはまるわけではなく、例えば海綿動物や扁形動物の体細胞、あるいは植物や菌などの細胞ではテロメラーゼは高い活性を示し、ガン化しない通常の細胞でも「不死」であります。また、光合成を行う緑色植物の細胞は動物細胞よりも遙かに大きな活性酸素ストレスにさらされるが、動物における老化のような現象は認められません。

3.プログラム説

 それぞれの細胞には、分裂できる限界がはじめから設定されており、その回数を迎えて分裂ができなくなることにより老化が発生するという説です。分裂できる限界数は、種によってまちまちですが、概ねその種の寿命と比例していることから現在有力な説のひとつであります。テロメアは細胞分裂の度に短くなりますので、このプログラム説の機構を行う部分であるとされます。

テロメア図
染色体とテロメア(telomere)

 この説における解決法としては現在、テロメラーゼが有力と考えられております。がん細胞においては、テロメラーゼが高活性化することにより細胞が不死化することから、幹細胞のテロメラーゼの活性をコントロールすることで不老不死の実現が可能なのではないか?、と言うものです。

4.エラー説

 細胞分裂の際に少しずつ発生する突然変異が、徐々に蓄積されていき、最終的に破綻するのではないかという説です。ウェルナー症候群をはじめとする早老症ではヘリカーゼというDNA修復に関与すると推測される遺伝子に異常があったことから考えられました。DNA塩基の損傷は1日1細胞あたり最大50万回程度発生することが知られており、DNA修復速度の細胞の加齢に伴う低下や、環境要因のよるDNA分子の損傷増大によりDNA修復がDNA損傷の発生に追いつかなくなると、、、

 ・老化(細胞老化)と呼ばれる不可逆な休眠状態に陥る
 ・アポトーシスと呼ばれる細胞の自殺が起こる
 ・癌化

 、、、のいずれかの運命をたどることになるとされます。人体においては、ほとんどの細胞が細胞老化の状態に達するが、修復できないDNAの損傷が蓄積した細胞ではアポトーシスが起こります。このアポトーシスは、体内の細胞がDNAの損傷により癌化し、体全体が生命の危険にさらされるのを防ぐための「切り札」として機能していると言われます。

5.活性酸素説

 代謝に伴い発生する活性酸素により身体がダメージを受け、老化が発生するという説です。代謝率の高い(つまり活性酸素の発生量の多い)生物ほど寿命が短くなる傾向にあることから考えられました。この活性酸素がテロメアの短縮に影響しているという説もあります。この説における解決法としては、ビタミンCなどの抗酸化作用の強い食品を摂取することや、活性酸素を減少させるスーパーオキシドディスムターゼという遺伝子を導入するなどがあります。

6.摂取カロリー説

 ファスティングでも触れました、低カロリーの摂食は多くの動物の平均寿命と最長寿命を延ばすと言われています。カロリー過多の食生活が老化に関与しているとの説であります。

7.糖化反応説

 糖尿病患者は、日本人一般の平均寿命を比べると男性で約10年、女性では約15年の寿命の短縮が認められます。このメカニズムとして高血糖が生体のタンパク質を非酵素的に糖化反応を発生させ、タンパク質本来の機能を損うことによって障害が考えられます。この糖化による影響は、コラーゲンや水晶体蛋白クリスタリンなど寿命の長いタンパク質ほど大きな影響を受けます。例えば白内障は老化によって引き起こされるが、血糖が高い状況ではこの老化現象がより高度に進行することになります。同様のメカニズムにより動脈硬化も進行します。また、糖化反応により生じたフリーラジカル等により酸化ストレスも増大させると言われます。


◇ サーチュイン(長寿)遺伝子の発見

 サーチュイン(Sirtuin)遺伝子は、長寿遺伝子または長生き遺伝子、抗老化遺伝子とも呼ばれ、その活性化により生物の寿命が延びるとされます。サーチュイン遺伝子の活性化により合成されるタンパク質、サーチュイン(Sirtuin)はヒストン脱アセチル化酵素であるため、ヒストンとDNAの結合に作用し、遺伝的な調節を行うことで寿命を延ばすと考えられています。この様なサーチュインの作用メカニズムはマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテのグループが1999年に見出しました。酵母のSir2遺伝子がヒストン脱アセチル化酵素であることを見出し、この酵素の作用が代謝や遺伝子サイレンシング、加齢に関与していることを示唆しました。サーチュイン遺伝子による寿命延長効果は酵母、線虫、ショウジョウバエで報告されており、人間にもその存在は確認されておりますが、寿命延長効果を否定する報告もあり、まだ確定した効果とは言えません。
 ここでは、サーチュイン遺伝子による老化を予防するメカニズムが明らかにされた、比較的解りやすい実験論文がありましたので掲載いたします。タンパク質であるサーチュインが老化を抑制する機序は、上で挙げました「エラー説」で発生する現象を抑制しているようです。


◇ サーチュイン遺伝子の老化抑制のメカニズム

 ここでは、サーチュイン遺伝子の老化抑制のメカニズムについて解りやすい実験論文がありましたのでこれをご紹介いたします。

サーチュインについての論文題

 *****

サーチュイン遺伝子は、本当に長寿遺伝子だった
〜 ゲノムを安定化することで老化を防ぐ作用機序を解明 〜

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所

【本研究成果のポイント】
 ・酵母菌の寿命を自由に変化させることに成功した
 ・サーチュインが老化を防ぐ仕組みを解明した
 ・ヒトと類似した老化機構を持つ酵母の老化メカニズムが判明
  したことで、ヒトの老化機構解明へ一歩近づいた

【概要】
 寿命を延ばす働きをすると信じられているサーチュイン遺伝子(SIR2)。社会的な注目度も高く、関連した健 康補助食品が販売されているくらいです。サーチュイン遺伝子の作用を解き明かそうと世界中の研究者が挑戦 し、いろいろな仮説は得られてきましたが、詳しい作用メカニズムが明らかになっていませんでした。サーチュイ ンはどんな仕組みで働くのでしょうか。そもそも、サーチュインの長生き効果は本当なのでしょうか。
今回、国立遺伝学研究所の小林武彦教授らは、その質問に答える決定的な発見をしました。さまざまな仮 説を一掃する発見です。サーチュイン遺伝子の作用する反応経路を明らかにすることに成功したのです。それ によると、サーチュイン遺伝子には、ある遺伝子の数を一定に保つという作用があり、それがゲノムの安定性 (注 1)へ通じ、確かに寿命を延ばすことにつながっていたのでした。そしてこれこそが、長生き効果における唯一 の反応経路であることを実証しました。
 ある遺伝子とは、リボソーム RNA 遺伝子(注 2)です。この遺伝子は、ゲノム中にたくさんのコピーが含まれて いますが、そのコピー数が変動しやすい、つまり不安定な性質をもつ遺伝子なのです。小林教授は、ヒト老化研 究のモデル生物である酵母による研究を長年続け、データを積み上げてきました。そうした研究がジグソーパズ ルのピースの 1 片、1 片を明らかにすることとしたら、今回の小林教授の研究は、そのジグソーパズル全体を完 成させたようなものです。つまり、全体像が見えるようになり、そのことで、サーチュイン遺伝子が寿命を延長す る効果を発揮するには、何が真に必要なのかが見えるようになったのです。決定的に必要なのはリボソーム RNA 遺伝子のコピー数の維持であること。具体的には、E-pro(注 3)というプロモーターを制御することだというこ とです。実験では、サーチュイン遺伝子のノックアウト酵母株において、リボソーム RNA 遺伝子のコピー数を制 御することにより、酵母菌の寿命を自由に操作することさえ可能でした。今後、このリボソーム RNA 遺伝子のコ ピー数の維持、つまりゲノムの安定性の維持が、老化や寿命の制御にどのように具体的にかかわっているか、 さらに突き止めていくことが望まれています。それはヒトの老化機構の解明や、健康寿命の延長につながっていくでしょう。

【用語解説】
注1 ゲノムの安定性
 ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態。つまり、ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり、組 み換わり場所が変化たり、コピー数が変動したり、変異が入ったりしない状態。
注2 リボソームRNA遺伝子
 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の 1 つが RNA で、それをリボソーム RNA と呼ぶ。それを作 る遺伝子のこと。ヒトや酵母のゲノムでは、この遺伝子のコピーが 100 個以上並んでいる。
注3 E-pro
 リボソーム RNA 遺伝子間にある非コードプロモーター。タンパク質合成を行わず、RNA のみ合成するスイッチの 役目をする遺伝子配列。この転写がリボソーム RNA 遺伝子間の組換え(不安定性)を上昇させる働きがある。

【研究の詳細】
 我々の体を構成する細胞の多くは分裂を繰り返しやがて老化し死んでいきます。皮膚の細胞の「垢」は死んだ細胞に相当します。この当たり前のように起こっているできごとでも、実は「老化」メカニズムはほとんどわかっていません。老化研究で一番有名でよく研究されているのはサーチュインと呼ばれる遺伝子のグループです。 サーチュインは単細胞の酵母菌からヒトの細胞に至まで広く存在する遺伝子の総称で、いくつかの生物で化の抑制に関わっていると考えられています。例えばサーチュイン遺伝子の1つSIRT6(サートシックス)を大量に 発現させたマウスはふつうのマウスより長生きになります。またサーチュインの機能を高める化学物質としてポ リフェーノールの一種、リスベラトロールが発見され、健康補助食品として売られていることはご存知の方も多い ことでしょう。しかしサーチュインがどのように老化を抑制しているのかは、よく判っていませんでした。今回我々 のグループの研究によりそのメカニズムの一端が解明されました。

 サーチュインは元々酵母菌の老化抑制遺伝子(SIR2、サーツー)として発見されました。この遺伝子は脱アセ チル化作用をもち、染色体の構造変換や遺伝子の発現抑制等に働いています。面白いことに酵母菌でSIR2を破壊すると寿命が半分に短縮し、逆に発現量を増やすと寿命が顕著に延長します(図1)。また様々な生物で食べる量を減らす食餌制限(カロリー制限)をすると寿命を延長することが知られています。最近の研究では、サルで食餌制限をすると健康寿命が延長することが報告されています。食餌制限がSIR2の活性を高めることも知られています。

 一方老化の促進にはゲノムの不安定化が関わっていることが知られています。ヒトの遺伝病の1つ、ヒト早期老化症では寿命が約46才に短縮しますが、その原因となる遺伝子はゲノムの安定性維持に関わる作用を持っています。また酵母でもヒト早期老化症の遺伝子に相当する遺伝子を破壊すると寿命が短縮することが知られています。そのためゲノムの不安定化が引き起こす寿命の短縮は酵母もヒトも基本的に同じメカニズムによるもの考えられていますが、詳細は判っておりません。

 今回我々の研究室ではSIR2とゲノムの安定性と老化の3者の関係を解明しました。鍵となるのはリボソームRNA反復遺伝子群です。この遺伝子群は非常にユニークな構造をしており、同じ遺伝子が100回以上繰り返して存在します。細胞の老化が進むとその不安定化(コピー数の激しい変動)が観察されることから以前より両者の因果関係が指摘されていました。興味深いことにSIR2の機能が低下するとリボソームRNA反復遺伝子群で特に顕著な不安定化が観察されます。また私たちのこれまでの研究でSIR2はリボソームRNA遺伝子間にある非コードの転写プロモーター(E-pro)転写を抑制しており、その抑制が低下すると不安定化が促進することが判っております。今回、リボソームRNA反復遺伝子群の安定性と老化、そしてSIR2の関係を調べるため、E-proを人為的に誘導可能なプロモーターに置き換えた変異株を作成し、リボソームRNA反復遺伝子の安定性を変化させました。その結果大変興味深い結果が2つ得られました。1つ目は人為的にリボソームRNA反復遺伝子を不安定化すると寿命が短縮し、逆に安定化させると寿命は最大限まで延長しました。これはリボソームRNA反復遺伝子の安定性が老化速度に直接影響を与えていることを示すはじめての結果です。2つ目は、リボソームRNA反復遺伝子群を人為的に安定化すると、面白いことにSIR2をつぶしても寿命は長いまま変化しませんでした。このことは非常に重要な意味を含んでいます。つまりリボソームRNA反復遺伝子群が安定であるならば、 SIR2はあってもなくても寿命に影響を与えないということです。別の言い方をすればSIR2は E-proの発現抑制によってのみ寿命の維持に関わっており、他の経路(例えばテロメアや他の老化促進に関わる要因)とは全く関係しないか、あるいは非常に関係が薄いことを意味しています(図2)。

 私たちの今回の成果により、今まで謎だっSIRとゲノムの安定性と寿命との関係が一気に解明されました。 次の課題は、ではなぜリボソームRNA反復遺伝子群が不安定化すると老化が促進されるのか、つまりリボソー ムRNA反復遺伝子から発せられる老化シグナルの解明です。これが判ればヒトの老化機構の解明あるいは健 康寿命を延ばすような薬剤の開発に繋がる研究になります。乞うご期待下さい。

 本研究は小林教授が領域代表を務める文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ゲノムを支える非コードDNA領域の機能」の助成のもとに行われました。

Sir2ラットの実験図01
図1.サーチュイン(sir2)遺伝子をノックアウトした細胞であっても、E-pro を人工的に操作することにより、寿命が伸び たり、短縮したりする。(E-pro の発現が抑制されていれば、寿命は伸びる)。

Sir2で寿命が伸びる実験図02
図2.若い細胞では Sir2 タンパク質が非コードプロモーター(E-pro)の発現を抑えているが、細胞が分裂を繰り返すと その抑えが徐々に弱くなり、E-pro からの転写が起こり、リボソーム RNA 遺伝子の安定性が低下する。その結果何ら かの老化シグナルがリボソーム RNA 遺伝子から発せられ、細胞が老化する。今回 E-pro からの転写を人為的に ON、 OFF できるようにしたところ、SIR2 の有る無しに関わらず、ON 時は酵母が短寿命で、OFF では長寿命になることを見 つけた。


老化若い細胞の写真
図3.老化した細胞は大きくなり形がいびつ。分裂速度も遅くなる。表面にはスカーと呼ばれる娘細胞を生んだ痕が多数見られる(左)。生まれたばかりの娘細胞はサイズが小さく、形もきれいな卵形(右)。

 *****


 以上の論文を要約します。

1.リボソームRNA反復遺伝子群は同じ遺伝子が100回以上繰り返して存在
2.細胞の老化かでこの遺伝子群にコピー数の激しい変動、エラーが生じる
3.SIR2の機能低下でリボソームRNA反復遺伝子群で顕著な不安定化が生じる
4.SIR2はリボソームRNA遺伝子間にある非コードの転写プロモーター(E-pro)
  転写を抑制しており、その抑制が低下すると不安定化が促進される
5.リボソームRNA反復遺伝子の不安定化は寿命か短縮、安定化は寿命を延長した
   = 反復遺伝子の安定性が老化速度に直接影響を与えることを示唆
6.リボソームRNA反復遺伝子群を安定化するとSIR2をつぶしても寿命は長いまま
   = 反復遺伝子群が安定であるならば SIR2は寿命に影響をしない
     SIR2は E-proの発現抑制によってのみ寿命の維持に関わっている


◇ サーチュイン遺伝子のアンチエージング効果

 サーチュイン遺伝子の効果について、そのアンチエージング効果を、ここでは肯定派の立場からご紹介します。もちろん、誇張した表現もあろうかと存じます。

1.快眠と疲労回復

 ファスティングあるいはサプリメントによりサーチュイン遺伝子を活性化した人の体験談で最もよく聞かれるのは夜の快眠と疲労回復です。老化に伴う不眠症やスタミナ不足の改善によるものでしょうか?

2.肌が若返る

 サーチュイン遺伝子がオンになると、老化の原因に細胞レベルで働きかけます。皮膚細胞のターンオーバーを整えるため、しわ・たるみ・くすみ・しみなどすべての肌のトラブルに改善効果があると言われています。また、男女ともに脱毛、白髪が改善されます。

3.男性機能の改善

 男性特有の加齢に伴う疾患である勃起不全(ED)や薄毛などにおいても、サーチュイン遺伝子がオンになることで改善効果があることが米機関で発表されています。性機能の老化抑制は精子量を増加し、質も改善することも考えられ、男性不妊の治療にもなろうかと存じます。

4.消化管への効果

 サーチュイン遺伝子は消化管の粘膜細胞の老化も抑制するでしょうから、老化に伴う諸症状、慢性胃腸炎や消化不良、宿便の貯留、リーキー・ガット症候群にも改善効果が期待されますでしょうか?

5.中枢および末梢神経への効果

 老化に伴う身体変化で顕著に見られるのは記憶や情緒、思考低下、認知症など大脳中枢神経の機能低下、異常や、視力、聴覚、反射、運動など抹消神経(視神経、聴神経は中枢神経)であります。サーチュイン遺伝子が全身の神経細胞に対しても老化を抑制するのであれば、各種、老化に伴う神経疾患の予防、改善に繋がるものと思われます。

6.白内障や関節痛などの予防や改善

 白内障や関節痛などは眼球レンズや関節内の物質が老化に伴い変化する病態です。サーチュイン遺伝子による老化抑制効果は少なくともこうした病態の予防にはなると思われますし、局所の細胞が若返ることにより既に発生してしまった病態であっても改善が期待されるかも知れません。

7.免疫力の向上から感染症や癌の予防

 老化に伴い低下するものに免疫力があります。お年をめされた方が肺炎から命を落とされるのは、若い人なら乗り越えられるものでも、免疫力が低下しているからであります。サーチュイン遺伝子により免疫担当細胞の老化を抑制すれば免疫力の向上から感染症に対する防御力の増強につながると思われます。
 また、癌についても同様なことが考えられます。人間の身体には若いときから常に小さな癌細胞が発生していて、これが免疫力(ナチュラル・キラー [NK] 細胞)によって殲滅されており、身体の老化に伴い免疫力が低下したところで発病するとの説が有力視されております。サーチュイン遺伝子による免疫担当細胞の老化抑制は癌の発病も予防し得ると考えます。

8.平均寿命130歳?

 サーチュイン遺伝子を活性化させた生物や動物実験において、サーチュイン遺伝子を活性化させると1.4~2倍ほど寿命が延びることが確認されております。人間では寿命を延ばすという実験報告はありませんが、他の動物の効果を人間に換算すると平均寿命130歳となります。しかも、成人病や認知症なしの健康体での長生きですから夢のような話です。


◇ カロリー制限/ファスティングによるサーチュイン遺伝子活性化

 サーチュイン遺伝子を活性化させるスイッチとして、カロリー制限/ファスティングについてご説明します。

1.カロリー制限

 サーチュイン遺伝子を活性化にする代表的な方法は、「カロリー制限」であります。カロリー制限がなぜサーチュイン遺伝子の活性化を引き起こすのか、機序は明らかになっていませんが、軽い飢餓状態を作り出し、細胞にちょっとしたストレスを与えると、それまで眠っていたサーチュイン遺伝子が“目覚め”、老化に対抗する働きをすると考えられております。
 アカゲザルに、普段よりカロリーを30%カットしたエサを20年以上与え続けた実験で、カロリー制限をされたサルは他のサルより平均で数年長生きし、毛並みや肌つやもより若々しくなったとの実験報告があります。また、ラットの実験でも食事摂取を半分にした群は通常量の餌が与えられた群よりも2倍に長生きしたことが報告されております。いずれも、カロリー制限、すなわち先述のファスティングの効果に加えて、サーチュイン遺伝子を活性化が関与している可能性は高いです。
 動物実験でカロリー制限を30~60日続けるとサーチュイン遺伝子が活性化しますが、同遺伝子がオンになった後も、カロリー制限を続けることが重要です。やめてしまうと、再びオフになってしまうとされています。

2.ファスティング

 ファスティングの詳細については以前の記事(8月11日)を参考にしていただければ幸いですが、単純なカロリー制限、例えば菜食主義や食事摂取量の減少よりも優れた方法であることを改めてご説明します。それは、「半日断食」では朝食を抜くことを推奨しておりますし、「1日1食」なら朝昼の食事をなしにします。一度に食べられる量には限界がありますから、極端に反動のように摂取する食事をどか食いとしない限りは1日に摂取するカロリーは簡単に減少させられます。それに加えて以前の記事でも紹介しましたが、食事を摂らない時間を設けることにより、「内臓諸器官の休息」、「宿便の排泄と有害物質の解毒作用」と言う効果があります。
 同じカロリー制限でも、カロリー計算から3度3度の食事摂取かロリーを減らすよりも、ファスティングの方が簡便かつ、別の効果もあると考えます。


◇ レスベラトロールでサーチュインを活性化

1.レスベラトロールとは?
 
 レスベラトロールとは、強力な抗酸化力を持ち、サーチュイン遺伝子に直接作用し、活性化を促すポリフェノールの一種です。カロリー制限をしなくても、レスベラトロールをとるだけでサーチュイン遺伝子が活性化すると言われています。このレスベラトロールは、葡萄の皮・種・葉・茎、赤ワイン、ピーナッツの渋皮、ザクロ、イチゴ、りんごの皮などに含まれていますが、レスベラトロールの中でもサーチュイン遺伝子活性のデータが報告されているのは「トランスレスベラトロール」、「ビニフェリン」など特定の構造のものだけとのことです。

ぶどうの写真

 トランスレスベラトロールはブドウ由来のものに多く含まれるため、ワインなどから摂取するのが最も効果的と言えます。しかし、赤ワイン1本(700-750 ml)に含まれるレスベラトロールはわずか約1 mgなので、アルコールを過剰摂取することなくレスベラトロールを摂取するにはサプリメントの活用も有効な手段となります。

2.レスベラトロール・サプリメントの選択法

 サプリメントを選ぶときには、「有効成分をどれだけ含有しているか」と「安全性」という2つの視点があります。健康のためにお金を出して飲むわけですから、しっかりと理解して飲みたいものです。レスベラトロールのサプリメントについて、選択のポイントに以下の3点が説明されておりました。

1)トランスレスベラトロールの含有量
 レスベラトロールの中でも長寿遺伝子活性化の報告がされているものは「トランスレスベラトロール」だけになります。なので、「レスベラトロールを○○ g配合」という記述は疑ってかかってください。きちんとした実証された商品であれば「トランスレスベラトロール」と明記するのが通常です。

2)原材料
 トランスレスベラトロールを多く含むのはぶどう由来のものになります。イタドリなど日本では安全性から認可されていないものにもレスベラトロールは含まれており、しかも安価であるため特に海外商品を検討する場合には注意してください。

3)抽出方法
 抽出する際に、危険な有機溶媒(アセトン)を使用していないかが安全性において大切なチェックポイントになります。抽出方法を明記している企業は少ないので、どうやって判断するかというと原材料になります。ぶどう由来の中でも「赤ワイン」を原材料にしている場合は、効率よく抽出が可能で危険な有機溶媒使用の可能性がありません。一方、「赤ワイン用ぶどう」を原材料にしている場合は注意が必要です。食べられない部位や、危険な有機溶媒使用(アセトン)の可能性があります。

3.国内レスベラトロール・サプリメントの比較

 国内のレスベラトロール市場は、注目と相まって年々増えてきており2012年で50億規模と言われています。そのうち、「山田養蜂場」、「資生堂」が2社で市場のおよそ1/3を占めているとのことです。

レスベラトロールサプリ写真

 トランスレスベラトロールの含有量が圧倒的なのは「ハイブリッドレスベラT(日本レスベラトロール株式会社)」です。山田養蜂場と資生堂は、ワイン何杯分など大々的な広告を売ったりしていますが、これはレスベラトロール全体の話で、有効成分と言われるトランスレスベラトロールの含有量に関しては疑問が残ります。次に原材料ですが、3社ともぶどう由来であることで合格でしょう。ただし、3点目の抽出方法の話になりますが、山田養蜂場と資生堂は原材料だけ見ると、危険な有機溶媒使用(アセトン)の使用有無は完全に判断はできません。
 トータルで見ると、トランスレスベラトロールの確実な含有量、価格、安全性で「ハイブリッドレスベラT(日本レスベラトロール株式会社)」が最もおすすめできる商品とのことです。日本レスベラトロール株式会社は、レスベラトロールサプリの製造販売会社として日本で最も歴史のある会社だそうです。

ハイブリッドレスベラトールの宣伝

 もう一つ、シェアNo.1はこちらです!、と情報が寄せられましたので掲載します。

VIVIXのHP



http://ja.wikipedia.org/wiki/老化
http://ja.wikipedia.org/wiki/サーチュイン遺伝子
http://antiaging.akicomp.com/?p=873
http://special.shaklee.co.jp/vivix/

マグロ ユッケのアボガド和え、亜麻仁油、クルミ添え

 先日来、アボガドとクルミ、亜麻仁油を美味しく食べるレシピ、麻婆茄子、スモークサーモンをご紹介しましたが、そろそろ最後か?、自然食品の関係者より素晴らしいアボガドをいただきましたので、今度は「マグロ ユッケ」に挑戦してみました。手順から完成まで一気にご紹介します。

01.水菜(みずな)5束を長さ約4cmの長さにカット、皿に敷く
02.アボガド1個を1/4角、各厚さ3mmにカット、水菜の上に置く
03.マグロ ネギトロ200gにユッケ丼のたれ(下図)20g、2袋を添加

まぐろユッケどんのたれ写真

※必ずしも既製品を用いずとも、醤油、ごま油、砂糖、ガーリックパウダーの混合で代用できると思います

04.上記たれに付属の韓国コク辛調味料5g、2袋を添加
05.調味料を混ぜたネギトロをよくかき混ぜアボガドの上から広げる
06.ネギトロの中央にくぼみを作り亜麻仁油2gと卵黄を入れる
07.白ごまを添える
08.梨1/4個を千切りにして添える
09.クルミを約2個分添える
10.希望で小口ネギを添える

まぐろユッケ、アボガド和え、くるみ添え

 上記写真の如く完成です。よくかき混ぜて食べましょう! マグロ(tuna, fresh, bluefin, raw)はサバ科マグロ属(学名Thunnus)に分類される硬骨魚類の総称で、いわゆる青魚です。脂肪成分は以下の通りで、健康に良いとされるオレイン酸(ω9)とリノレン酸(ω3)を豊富に含みます。

【マグロ100gあたり(144kcal)】
 一価不飽和脂肪酸(オレイン酸、ω9) 1.60g
 多価不飽和脂肪酸           1.43g
  そのうちリノレン酸(ω3)     1.30g
 コレステロール            0.04g
 糖質                 0.00g

 これに加えて亜麻仁油でリノレン酸(ω3)をさらに補給、本来なら松の実ですがリノレン酸(ω3)が豊富なクルミを用いました。コレステロール豊富な卵黄は栄養学的にはあまり良いとは言えませんが、食感、風味としては不可欠であり、同様に季節の梨も少量を加えてアクセントとしました。アボガドは以前も申した通り、食物繊維、ビタミン、ミネラルがたいへん豊富です。総じて、簡単ですが、極めて健康的な食品ではないでしょうか?

増加する安楽死希望者の記事から

◇ ブラック・ジャック vs ドクター・キリコ

 子供の頃の愛読書、故 手塚 治虫 氏の「ブラック・ジャック」にしばしば現れた登場人物、ドクター・キリコ は苦痛を伴う不治の病の患者に対して安楽死を行う医者でありました。患者側の死にたいと言う強い希望があって、その疾病、激しい苦痛から逃れられないことが明白である時、ドクター・キリコの出番となるですが、主人公であるブラック・ジャックは彼に対して否定的な立場をとっておりました。しかしながら、故 手塚 治虫 氏はストーリーの展開の中で、ドクター・キリコとブラック・ジャックを対等に扱っており、どちらが正しいとの結論を出さない場合が多かったように思います。すなわち、自らも臨床医であった氏は安楽死について中立の立場であったように想い出されます。

ドクターキリコの会話


◇ 安楽死のためのスイス渡航者5年で611人

 さて先日、タイトルの如き記事を見つけました。スイスで認められている安楽死を希望して同国に訪れる旅行者が増加しているとのものです。全文を供覧いたします。

安楽死の記事見出し

 *****

 安楽死する目的でスイスを訪れた「自殺旅行者」が2008-2012年の5年間で611人に上ることが、スイス・チューリヒの法医学研究所がまとめた実態調査で明らかになった。それによると、旅行者611人は31カ国からスイスを訪問。特にドイツと英国からの旅行者が多かった。英国では死ぬ権利を訴える6団体が年間約600人の自殺を手助けしており、うち150-200人が自殺を目的に渡航しているという。
 611人のうち58%は女性で、年齢は23-97歳、平均年齢は69歳。半数近くが神経疾患を抱えていたほか、がん、リウマチ、心臓疾患など複数の疾患を持つ人も多かった。安楽死では4人を除く全員が鎮静麻酔薬のペントバルビタールナトリウムを投与され、大半にスイスの死ぬ権利を訴える団体がかかわっていた。

 自殺を目的とした旅行者の数は2008年の123人から09年には86人に減少した後、09-12年の間に172人へと倍増している。回復の見込みのない患者や多大な苦痛に見舞われている患者に対し、医師が安楽死を手助けすることを認めるかどうかを巡っては各国で論議が交わされてきた。
 スイスでは医師の間の倫理規定はあっても、幇助(ほうじょ)自殺の具体的な条件を定めた法律は存在しない。ドイツでは自殺幇助は倫理的に認められておらず、意識を失っていく患者に対して医師が何もしなければ、罪に問われる可能性もある。英国、アイルランド、フランスでは自殺幇助が違法とされているいるが、裁判に持ち込まれたケースもある。欧州12カ国で実施した意識調査では、幇助自殺の合法化に賛成する回答が過半数を占めた。

 *****


 以前、「抗精神病薬後遺症に関するYahoo知恵袋に異論」(本年2月27日)と題した記事の中で、オランダでは国籍を有する者に対して「安楽死法」が施行されることに触れましたが、オランダに同法律が制定されたのは2001年であるのに対しスイスは1942年から施行されていたようです。


◇ 安楽死 覚え書き

1.安楽死の概念

 安楽死(euthanasia)とは、患者本人の自発的意思に基づく要求に応じて、患者の自殺を故意に幇助してに死に至らせること(積極的安楽死)、および、患者本人の自発的意思に基づく要求に応じ、または、患者本人が意思表示不可能な場合は患者本人の親・子・配偶者などの自発的意思に基づく要求に応じ、治療を開始しない、または、治療を終了することにより、結果として死に至らせること(消極的安楽死)とされます。
 消極的安楽死は、後述いたしますが、多かれ少なかれ日本の医療でも行われており、私も経験があります。一方、我が国において、積極的安楽死は法的で明示的に認めておらず、刑法上殺人罪の対象となります。以下に、本邦における過去の判例を2件示します。

2.名古屋安楽死事件の判例

 1962年(昭和37年)の名古屋高裁の判例では、以下の6つの条件(違法性阻却条件)を満たさない場合は違法行為となると認定しています。

 1)回復の見込みがない病気の終末期で死期の直前
 2)患者の心身に著しい苦痛・耐えがたい苦痛
 3)患者の心身の苦痛からの解放が目的
 4)患者意識が明瞭、意思表示能力あり、自発的意思で安楽死を要求
 5)医師が施行
 6)倫理的に妥当な方法

3.東海大学病院安楽死事件の判例

 1995年(平成7年)の横浜地裁の判例では、下記の4つの条件(違法性阻却条件)を満たさない場合は違法行為となると認定しています。

 1)患者の耐えがたい激しい肉体的苦痛
 2)患者の病気は回復の見込みがなく、死期の直前
 3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために可能なあらゆる
   方法で取り組み、その他の代替手段がない
 4)患者の自発的意思表示で、寿命の短縮、今すぐの死を要求

4.積極的安楽死を認めている国

 スイス      1942年
 米国オレゴン州  1994年 「尊厳死法 (Death with Dignity Act)」
 オランダ     2001年 「安楽死法」
 ベルギー     2002年 「安楽死法」
 ルクセンブルグ  2008年 「安楽死法」
 米国ワシントン州 2009年

5.積極的安楽死を賛成する主張

 本邦において、積極的安楽死を法律で容認することに賛成する主張は以下の通りです。

・生に対する要求と死に対する要求、治療を受けるか受けないか、延命するかしないか、患者の自己決定権は最大限尊重されるべき
・キリスト教文化圏の国では個人尾自己決定権を尊重して、積極的安楽死が法律や判例で容認されている国があり、日本も見習うべき
・生命の継続・延命を強要し、心身の耐え難い苦痛を継続させることは虐待や拷問であり、死生観の強要である
・あらゆる形態・手段による延命治療は有害無益な医療であり、医療費の公費負担は回復する見込みがある医療に限定して使うべき

6.積極的安楽死に反対する主張

 本邦において、積極的安楽死を法律で容認することに反対する立場として、下記の主張をする集団からの圧力により、患者の自己決定権・生存権が侵害され、死を強要される可能性がある、とされます。

・日本は過剰な社会保障費・医療費を浪費しているので、社会保障費・医療費を削減すべき
・就業世代が高齢者のために、健常者が回復不可能な病人のために、過剰な医療費負担を強いられているので医療費を削減すべき
・あらゆる形態・手段の延命治療は無価値で無駄な医療であり、延命治療に対して医療費を公費負担は一切すべきではない


◇ 消極的安楽死を行った1例

 日本の法律において消極的安楽死は、刑法199条の殺人罪、刑法202条の殺人幇助罪・承諾殺人罪にはなりません。万国共通しているのは、終末期の患者には延命可能性が全くないかまたは長くても月単位なので、終末期の患者に対する延命治療は、皇族・王族・大統領・首相などの特別な社会的地位の人を例外として一般的ではなく、終末期の患者に対する消極的安楽死は広く普及しております。

 私の周囲でも、終末期の患者に対して延命治療を行わないかたちでの「消極的安楽死」は日常的でありますが、もう少し踏み込んだかたちの安楽死を経験しましたのでご報告します。いつもの通り時期、地方は明確にいたしません。

 50代前半の女性、進行胃癌で食事摂取が困難な状況であり、右の卵巣が大きく腫脹しておりました。タレントの榊原郁恵さんのような雰囲気で、とても明るく気丈な女性で、男女2人の子供とご主人がいましたが、家族の中では彼女が中心的な存在でした。
 本人に、元疾患診断と卵巣への転移(Krukenberg 腫瘍)の可能性を説明したうえで幽門側胃切除術、右付属器切除術を施行しました。病理診断で卵巣腫瘍はやはり胃癌からの転移でありました。
 術後経過は良好で10日前後で退院、外来化学療法を行いましたが、手術から半年ほど経ったところで、歩行困難を訴えるようになりました。痛みは無いのだけれど右下肢に力が入らず前に出せないと、、、。腰部Xp、MRIなどで腫瘍が腰椎に発生して神経を圧迫していることが判明、放射線治療を検討しましたが、病状の進行は早く、10日前後で両脚ともに動かなくなり完全に歩行は不可能、臥床状態となりました。いわゆる下半身不随です。その上、骨盤神経領域の感覚も麻痺しており、便意や尿意が感じられなくなっておりました。
 ご本人に病状の説明をして、設備が整った遠方の病院に通って放射線治療を行えば少しは改善する可能性があることをお話し、腰椎転移による痛みはなく、他に遠隔転移、局所再発がありませんので、生命予後としてはまだすぐにどうこう言う状態ではないことも説明しました。
 しかし、気丈な彼女は、家族に頼って遠方の病院に通うのはできないと言い、しかもオムツに排便してそれを替えてもらうのはとてもできないと言って、食事摂取を一切、拒否するようになりました。何度も説得しましたが、彼女は食事を摂りません。かろうじて末梢静脈からの点滴はさせてもらいましたが、どうしても食べないなら中心静脈栄養をしましょうと提案しましたが、それも拒否、ただただ終日、ベッドに横になるばかりで、殻に閉じこもるような、永眠までの1ヶ月でした。間違いなく死を選択した患者に対して、本人の同意が得られないと言う理由から治療を終了した1例でありました。


◇ おわりに

 上述の如く、積極的安楽死は国際的に合法化される方向にあります。そして、スイスでの安楽死を希望する渡航者が増えているとの記事、これは終末思想やニューエイジ思想との関連や、新しい死生観の始まりなのかも知れません。過去の事例のように、医師が手を下すかたちの積極的安楽死が行われたところで議論にするのではなく、多くの場合を想定した国民的な議論の場を設けて、問題に向き合う姿勢が求められる時期が来ているように思います。
 ただ、個人的には、もしも「安楽死法」が日本に制定されて、患者が希望すればそれを施行することができるようになったとしても、1つの命を絶つことに対して、医者の側にも選択権、はっきり言えば拒否権を与えて欲しいと考える次第です。

 医療系の話ではありますが、死生観にも関わる社会的事象ですのでスピリチュアルの周辺記事として登録いたします。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140821-35052666-cnn-int
http://ja.wikipedia.org/wiki/安楽死

科学?/非科学? ファスティング(断食)の美容・アンチエージング・疾病における有効性を検証

 今年になって、マクロビオティック(Macrobiotic、1月2日)、糖質制限食(1月23日)、パレオ食(パレオリシック Paleolithic食,旧石器時代食、7月4日)と言った食事法を勉強しました。通称「マクロビ」は科学的根拠には乏しいものの、風水の概念を含む人の気持ちを惹き付ける内容でありました。糖質制限食とパレオ食には高い類似性が感じられ、それはいずれも人類の遺伝子に基づいた、本来の動物としての食生活のあり方にヒントを得た発想であるところです。
 今回取り上げる、ファスティング(断食)も糖質制限食やパレオ食と同じく、人間の本来の食生活を追求する部分が多分にあり、また明らかな有効性が言われております。しかも歴史が古く、宗教的行為とされた時代が長くありました。モデル、アスリートをはじめ、今多くの方に注目されているファスティング(断食)について、科学的と非科学的な両面から検証いたします。

断食の本x2
「奇跡が起こる半日断食」(甲田光雄 著、左)と「3日食べなきゃ7割治る!」(船瀬俊介 著、右)


◇ 先祖の言い伝えや子供の頃からの教え

 ファスティングについて批判的な発想として、身近なところで、ご先祖様からの言い伝えや子供の頃からの教えが大きいと思います。恐らくは万国共通、朝昼晩の食事があることは当たり前のことで、日本には「3度3度の食事」、「日本人はごはんとみそ汁!」と言う言葉がよく聞かれ、朝食を抜くことは不健康と言われていました。脳の活動には糖分を必要とするとの理由で、学生時代の朝食は学校での勉強に重要な要素とされました。

しっかり食べよう朝ご飯

 例えば、中高生あたりで、しっかり朝食を摂っている子供と朝食を摂らない子供の成績を比較した研究があり、朝食を摂っている子供の方が成績優秀との結果が言われています。多くの子供をもつ親にとって我が意を得たりの報告かも知れません。
 しかし、「しっかり朝食を摂っている子供」と「朝食を摂らない子供」の違いは朝食を摂る摂らないだけではありません。別の要素として、生活習慣の良否、生活の規則正しさがあります。朝食を摂る摂らないの比較は、睡眠をしっかりとって、健全な生活を送る子供と、夜遊び、夜更かしをしている子供との比較でもあるわけです。朝食を摂らないせいで成績が悪いとは言えない別の要素が含まれていると言う事です。


◇ 現代の医療の現場では

 現在のブームとなっているところの食事スタイルであり健康法に対して「科学?/非科学?」と接頭語を付けたのには訳があります。それは一般的な医療の現場において認知されていないという事実です。ファスティングの有効性を唱える人々は臨床や動物実験の現場において証明されたエビデンスを添えておりますが、なかなか現代の医療においては反映されていないのが現状です。
 例えば、私は消化器外科の医者として、当然のごとく多くの癌の患者さんを外来および病棟で診ています。早期癌で再発の心配がない人から、進行癌に対して再発予防の化学(放射線)療法を行う人、残念ながら癌の再発を来たし、再手術や治療目的の化学(放射線)療法を計画したり、緩和ケアを導入したりと、対象となる患者さんは非常に幅があります。
 こうした患者さんたちに対して、世の中一般に、私のような立場の医者がかける言葉は、「栄養をつけましょう!」、「食事はちゃんと摂ってくださいね」が多いと思います。なぜならば、血漿タンパクや脂質、血算の値などの血液検査から、癌患者は多くの場合が栄養状態が不良で貧血であることが多く、これに対して手術や化学(放射線)療法によるダメージが加わります。少しでも栄養価の高いものを摂って、栄養状態や貧血を改善し、免疫力を上げて欲しいと思うものです。

 「栄養をつけましょう!」、「食事はちゃんと摂ってくださいね」

 別の話ですが、糖質制限食でご紹介した京都、高雄病院(江部 康二 医師)では糖尿病の治療のための教育入院で、糖質制限食のメニューを学びその習慣を身につけます。糖質を制限して血糖を上げない食事ではありますが、朝昼晩の3食はあります。
 一方、一般的な糖尿病治療教育入院では、カロリー制限を行った3度3度のご飯やパンの主食を食べながら、経口血糖降下剤の服用やインスリンの自己注射を指導します。

 糖尿病治療教育入院でも3食は常識

 糖尿病に限らず、あらゆる入院治療において、絶食でない患者には朝昼晩の3食は常識であり、これは留学した米国の病院でも同じでした。胃が小さくなる胃切除後の食事として5回食と言うのも本邦の医療の常識であります。

 医療における絶食は、腸閉塞や術後の腸麻痺、急性胃腸炎や胆嚢炎、膵炎など、食事を摂れない状態や食事を摂ることで病態が悪化する場合に行われますが、一般的には、ある一定期間のファスティング(断食)が体に良いとして医療に取り入れられてはおりません。
 自分が医者として実践している医療が科学で、それ以外は非科学とするほどおこがましい感情は持っておりませんが、科学的に証明されたことを医療の現場で指導し実践するのが医師、医療機関の勤めである、という原則があるにはあります。

 しかしながら、現代の肥満、糖尿病、高血圧、動脈硬化、メタボリックシンドローム、アレルギー性疾患、精神疾患、悪性腫瘍の増加を観るにつけ、現代の食事体系、栄養学の考え方に修正を加えても良い様に思います。なぜなら、列挙しました病態のうち、少なくとも肥満、糖尿病、高血圧、動脈硬化、メタボリックシンドロームは高カロリーの食生活に関与するものであります。これまでの常識を打ち破り、勇気と高い意識を持って医療も変わるべき時が来ているかも知れません。


◇ ファスティングの概念・歴史

 先祖の言い伝えや子供の頃からの教え、現代の医療の現場などと、前置きが長くなってしまいましたが、まずはファスティングの概念、歴史から入ります。ファスティング fasting とはfast「断食する」のing形、つまり名詞ですので「断食」です。医療の世界で食事を止めとすることを「絶食」と言いますが、この場合も英語にするとfastingであります。ここでは、歴史的事実としての言葉は「断食」を用い、現代の話では「ファスティング」の言葉を使用いたします。

 さて、「ファスティング = 断食」とは、ある一定期間、全てのあるいは特定の食べ物を断つことであり、多くは宗教的行為として扱われ、世界の諸宗教に広く見られます。

1.ユダヤ教

 ユダヤ教では食べ物と水などの飲み物を完全に断つ断食が行われ、食べ物の匂いをかいだり、薬を飲んだり、歯を磨くことさえも禁止されています。年に6回(ヨム・キプル、ティシュアー・ベ=アーブ、ゲダリヤの断食、テベトの10日、タンムズの17日、エステルの断食)の断食が行われます。

2.キリスト教

 聖書では、モーセの神の山にいる40日間の断食、イエスの荒野での40日間の断食が記載されております。それとは別に4, 5, 7, 10の各月が断食の月とされ、贖罪の断食などの儀式として行われました。断食は耐えるものではなく、自分の不節制を認識し、他人へ施すことで神により近づくための経験と考えられていたようです。

3.イスラム教

 イスラム教ではラマダーンの月の間、日の出から日没まで断食が行われます。断食中は食べること、飲むこと、喫煙、性交が禁止されます。ラマダーンはイスラム暦の月の1つで、断食はイスラム教の信仰で最も重要な活動の1つとされます。

4.仏教

 仏教では、断食を日常的行事とはしていず、煩悩を克服、滅却するための修行として行われ、時として死をも覚悟した苦行とされたものもありました。

5.バラモン教、ヒンドゥー教

 古代インドではバラモン教において修業法の一つとして断食が行われてきました。ブッダ(釈迦)が悟りを開く前にガヤの山林に6年間こもって、断食を行っていたとされます。また、ヒンドゥー教においても断食は欠くことのできない重要な要素であります。個人個人の考えと地方の慣習に基づき、異なる種類の断食があります。エカダシ(14日間周期の月相の11日目)またはプルニマ(満月の日)のような特定の日に断食を行う、個人の信念や信仰している神によって1週間の特定の日に断食を行う、などです。

【インドの伝承医学 アーユルヴェーダに示された効果】
 各地の各宗教で、主として精神修行目的に断食が行われて来ましたが、そのうち、いろいろな病気が治ってしまうことが経験的に解ってきたようです。インドの伝承医学であるアーユルヴェーダの古典「スシュルタ・サムヒタ」では、断食は自然治癒力を活性化させる術であり、それにより健康を実現し長生きできるとして、腹水には1週間の断食を、長寿法には3日間の断食を勧めています。


◇ ファスティングの実際

 過去の宗教における断食とは別に、現代の社会で行われているファスティングは、その期間によっていくつかに分けられます。

1.半日ファスティング

 主に朝食を抜き、昼食も軽め(100 kcal程度)とするファスティングで、プチファスティングなどとも言われます。夕食後から夜間の睡眠中、起床後の昼食までの16-18時間を水分だけ摂取する方法で、これは毎日の習慣として日々行うものです。もう少し進化すると「1日1食」となりますが、これも半日ファスティングの範疇に入れて良いかと存じます。

2.1日ファスティング

 1週間に1度、何曜日と決めて1日丸々食事を摂らない方法で、半日ファスティングと同じく習慣的、規則的に行えます。1日ファスティングは毎日の半日ファスティングと異なり、非日常的な1日を作り出すのですから、散歩をするとか瞑想するとか、長い風呂に入るとか、ふだんとは異なる時間を作ることにより、何か気づかなかったことに気づくような、貴重な時間を得ることができると言われます。もちろん、何日ファスティングの日常に、計画的に1日ファスティングを入れる方法はあろうかと存じます。ファスティング明けの食事再会を「復食」と言いますが、1日だけとは言え、ファスティング後の「復食」にはお粥など、胃腸に優しい食べ物が推奨されます。

3.本格ファスティング

 多くのサイトで3日間や1週間〜数週間のファスティングが紹介されておりますが、3日以上のファスティングを「本断食」、「本格ファスティング」と言い、家庭で行うのは危険であり、医療機関や断食道場などで行われております。半日ファスティングや1日ファスティングのように日常的、日課のように行うものではありませんので、よく計画を練って、体調を観ながら実行するものです。3日くらいのファスティングを年に3、4回行うことは推奨されております。ファスティング明けの「復食」にはお粥など、胃腸に優しい食べ物が必要なことは短期間のファスティングと同じです。リバウンドでの大食は極めて危険な行為です。


◇ 内臓諸器官の休息

 さてここからは、ファスティングの有効性、各種作用についてご紹介して参ります。まずは食事を摂らないことによる胃腸や肝臓、腎臓の休息です。

 食事摂取により慢性的に消化と吸収、代謝、排泄を行っている胃腸や肝臓、腎臓はともすると疲弊してしまい、その機能低下は様々な病態を引き起こします。胃腸の障害は、消化吸収障害のみならず、先日、ご紹介した「リーキー・ガット症候群 Leaky Gut Syndrome(LGS、腸管壁浸漏症候群)」(7月7日)や、次で述べます宿便の原因となります。肝臓、腎臓の疲弊は、当然の如く慢性肝障害→脂肪肝、慢性腎機能障害へと進行します。

 摂取カロリーを減らすことのみならず、ある一定時間、内臓に負荷をかけないことによる休息が、該当臓器の再生に繋がるとの言う発想です。


◇ 宿便の排泄と有害物質の解毒作用

 ファスティングは宿便を解消し、有害物質の解毒作用もあると言われます。まずは宿便の定義からご説明いたします。

1.宿便とファスティングによる排泄

 宿便とは、便秘により排泄されないで、腸内に長く滞留している糞便のことで、滞留便(たいりゅうべん)とも呼ばれます。ただ、この定義は国語辞典の範囲内であり、実は「宿便」は医学の専門用語ではありません。「奇跡が起こる半日断食」の著者である 甲田 光雄 医学博士は、一私案と断った上で、宿便の定義を「胃腸の処理能力を超えて、負担をかけ続けた場合、腸管内に渋滞する排泄内容物を総称したもの」であるとしています。宿便の色と硬さは普通の便とそう変わらないとし、また、便秘と宿便がよく似ていることに絡めて、宿便は毎日普通に排便があったとしても残留してしまう可能性があり、腹が張って排便が無いというような便秘とは違うと説明しています。

宿便の図

 老廃物が腸管内に長時間滞留すると、牛乳が腐敗菌で腐るように、老廃物が悪玉菌で腐敗し、毒素と悪臭(排ガス)を産生し、毒素は腸管壁から吸収されて血流に入り、身体の隅々まで送られます。老廃物が腸管内を短時間で通過すれば、牛乳が乳酸菌でヨーグルトになるように人体に必須の栄養素や無臭のガス(無臭排ガス)を産生すると言われます。

【宿便が原因となり得るとされる各種病態】
 肌荒れ、吹出物、ニキビ、胃腸障害、過敏性腸症候群、アレルギー性疾患、更年期障害、生理不順、頭痛、不眠、精神疾患、悪性腫瘍、など

 ファスティングにより腸管はある一定期間の休息をもらえます。活力を蓄えた腸管は、自ら排泄する能力を高め、その結果、溜まっていた宿便を排泄できると言われています。

2.環境ホルモン(毒素)の排泄

 現代は過食の時代であり、摂取カロリーを減らすファスティングは皮下脂肪、内臓脂肪を減らすことになります。この脂肪組織には頑固に昔からの環境ホルモン(毒素)が沈着していると言われます。例えば、高度経済成長時代に全国の田畑で大量の有機塩素農薬、ベンゼンヘキサクロリド(benzene hexachloride, BHC)という劇薬の殺虫剤が使用されました。このBHCは何年も脂肪組織に蓄積される性質を持ちますが、ファスティングによって尿中に排泄されることが実験的に証明されております。現代はダイオキシンやプラスチックに含まれるビスフェノールと言った環境ホルモンが問題となっております。これらの毒素もファスティングによる宿便の解消、脂肪組織の減少により排泄され得ると考えられます。


◇ 自己融解作用

 ファスティングにより栄養の供給が遮断あるいは減少すると体細胞は栄養分となるものを体内から探して、それを融解して栄養として利用すると言うものです。その最も顕著な組織として血管壁に沈着した脂肪分が指摘されています。血液中のコレステロールや中性脂肪は元より、動脈硬化の正体である血管壁に形成されたアテローム(コレステロールの塊)も自己融解を起こすとされます。もちろん「環境ホルモン(毒素)の排泄」の項で申した通り、脂肪組織の減少も自己融解作用の一環です。

 動脈硬化における血管壁アテロームの消滅

 がん細胞は糖質しか利用できないと言われており、ファスティングおよび糖質制限食により腫瘍自体も自己融解から縮小するとの意見も散見されます。これに関しては科学的には証明されておりません。

がん治療の虚実HP図


◇ 眠っている本来の力を蘇らせる

 過食の時代を生きる我々は体内に過剰なエネルギーを溜め込んでおります。ファスティングは体内の余分な栄養を取り除き、身体に対して飢餓状態と言うストレスをかけます。これはパレオ食(パレオリシック Paleolithic食,旧石器時代食)と相通ずる考え方でありあますが、本来の人間は農耕も家畜も行わない旧石器時代の人類と同じ遺伝子であると考えられております。体内に過剰なエネルギーを溜め込んでいることは本来の姿ではなく、ファスティングで飢餓状態のストレスをかけることで眠っている本来の力を蘇らせると主張するむきがあります。


◇ ファスティングで心も生まれ変わる

 ファスティングを実践している人の言葉です。「何より実感できるのは、まず味覚の変化でしょう。普段から外食が多い方は特に、濃い味付けや化学調味料などによって、味覚が麻痺しているもの。現代に多い糖尿病や高血圧、肥満なども味覚の狂いと深く関わっていることは自明の理です。たった数日であっても固形物を摂らない期間をつくることで、味覚はリセットされ、素材そのものの味を感じることができるようになっているのです。」
 また、今まで当たり前のように食べていた食事を、数日ぶりに口にする回復食のお粥のあまりの美味しさに中には涙を流す人もいると、、、。それは美味しさに対しての感動だけではなく、食べられる有難さや感謝の気持ちも合わさってのことかも知れません。ファスティング後は、体のリセット、デトックスは勿論のこと、心の変化を実感する人も少なくないと言われております。


◇ サーチュイン遺伝子活性化による老化抑制

 ファスティングによる飢餓状態、カロリー制限によってサーチュイン遺伝子が活性化し、これによる老化抑制効果が指摘されております。これについては後日、特集を組みますのでご期待ください。


◇ 酵素水について

 今世間で話題のファスティングには「酵素水」なるものが付き物となっております。それは、主に野菜や野草のエキスを糖質による発酵抽出で完成させた専用ドリンクのことです。通常の食事は一切しないで過ごすのですが、その間はドリンクから必要最低限のカロリーやミネラル、ビタミンを補給できるため、無理がなく、そして安全に行うことが出来るとされるものです。

 ダイエットや健康、アンチエージングのためのファスティングに役立つ「酵素水」なんて言うと、その手の通販が発生するのは世の常です。

デルタ酵素水


◇ おわりに

 今回の記事ではあえて解説いたしませんでしたが、栄養学の基本として、概ね現代人の必要摂取カロリーは男性2000-2500 kcal、女性1500-2000 kcal、あるいは体重あたり35-40 kcalと考えられており、糖質、タンパク質、資質をバランス良く摂取することが指導されてきました。ファスティングは食事を摂取しない期間を作るだけではなく、当然の如く、摂取する栄養分そのものを減少させるものであります。これは現代栄養学への挑戦であり、新しい発見、啓発となるものかも知れません。

 しかし、忘れてはならないことがあります。ファスティングによって食事の機会が減ることになりますが、それによって欠乏する可能性のある栄養素があります。それはビタミンとミネラルであります。

 ビタミン、ミネラルを無視したファスティングはただの飢餓

 総カロリー(熱量)としての栄養をファスティングで制限することは大いに検討して、実生活に導入して良いと思います。ただし、ビタミン、ミネラルの不足は避けなければなりません。そのために、「酵素水」もあるでしょうが、ちょっと前、伏線として「アボガド料理」を勉強させていただきました。


もっと健康なレシピ:スモーク・サーモンのアボガドとクルミ添え、亜麻仁油のドレッシング

 豊富なビタミン、ミネラル、食物繊維、そして優れた脂肪酸摂取の方法として、かなりの自信をもって考案、ご紹介した「アボガドとクルミ入り麻婆茄子」ですが、盲点を突かれました。ある、発酵食品の専門家より、食材を炒めるために用いた亜麻仁油は熱を加えると酸化してしまうとのご指摘、、、。確かによく調べると、ω3を多量に含む亜麻仁油、荏胡麻(エゴマ)油ともに常温でも酸化しやすく、炒め物としてではなく、ドレッシングなどとして使用することが推奨されておりました。そもそも、多価不飽和脂肪酸のリノレン酸 = ω3そのものが熱を加えると酸化してしまう、とのこと、、、。
 このままでは終われない!、とばかりに、もっと簡単に作れて、より健康的なレシピを提案いたします。

 スモーク・サーモンのアボガドとクルミ添え

 今更、作り方を説明するほどのものではありません。市販のスモークサーモンに切ったアボガドとクルミをのせて、ドレッシングをかけただけです。しかし、ドレッシングには少しだけ意地を見せました(大したものではありませんが、、、)。

【亜麻仁油で作ったドレッシング】

  亜麻仁油 1:水 1:穀物酢 1
  粗挽き塩胡椒
  ガーリック・パウダー 少々
  バジル 少々

以上を混ぜ合わせて冷蔵庫で冷やしたものを使いました。
スモークサーモンのみならず普通のサラダにも使えます。

アボガド添えスモークサーモン

 一連の、麻婆茄子と青椒肉絲、ご紹介はしていませんがエビチリも作ってみました。今回のスモーク・サーモンと併せて、アボガドを使った料理を立て続けに4品試作いたしました。麻婆茄子では豚肉、青椒肉絲は牛肉、エビチリはエビ、そしてスモーク・サーモンはもちろんサーモンと、それぞれの料理においてもっとも風味を決定する食材に対するアボガドの振る舞いを一言で申しますと、、、

 「己を殺してメインの食材に同化、延長線上の存在」

 と言う印象でした。こうした、どっしりとした調理の中においては、アボガドそのものの風味は消し去られ、むしろ豚肉、牛肉、エビ、サーモンと同化して、言うなれば延長線上の存在でありました。このことはアボガドの無限の可能性を語っていると思います。例えば、似たようなところで鶏肉とか、あるいはウナギやブリ、サバと言った油分の多い魚や、フカヒレ、北京ダッグのような中華の食材、カレーやビーフシチューなどの洋食において、同じようにその料理の風味に同化して、むしろ延長線上の味わいを提供するのではないか?、と言うものです。言うまでもなく、アボガドには豊富なビタミンとミネラル、食物繊維、そしてオレイン酸が含まれており、これを使ったあらゆる料理を健康食品とする可能性があります。
 今回、提案した「スモーク・サーモンのアボガドとクルミ添え」でも「多価不飽和脂肪酸のリノレン酸 = ω3」にこだわりました。こんどは亜麻仁油に熱を加えておりませんので、ω3は酸化していないはずです。クルミ加えて、忘れてはならないのは、メインの食材であるサーモンもω3を豊富に含有する魚であることです。

 アボガド = ビタミン、ミネラル、植物繊維、オレイン酸(ω9)
 クルミ、サーモン、亜麻仁油 = リノレン酸(ω3)


毎日食べても良い料理ではないでしょうか?

健康レシピ:アボガドとクルミ入り麻婆茄子(マーボナス)

 大凡(おおよそ)スピリチュアルとはかけ離れた内容ですが、ある自然食品の関係者より勧められたアボガドを用いてちょっと料理を試作しましたのでご報告します。新しく作った「医療と栄養」のカテゴリです。言うまでもなく料理人ではありませんので、Cook Doなんか使ったマニュアル通りの素人料理です。誰も手伝ってくれなかったので「私メ」が謹んで調理させていただきました。もちろん、ある種、訴えるものがあってのご投稿です。


◇ アボガドの概要

1.アボガドの木

 さて、まずは、日本人にはまだまだ馴染みが少ないアボガドについて勉強しました。アボカド(avocado、学名:Persea americana)は、クスノキ科ワニナシ属の常緑高木の果実のことも指し、日本では、ワニの背中の皮に似ることからワニナシ(鰐梨)とも呼ばれます。メキシコと中央アメリカが原産で、低温に弱く、主に熱帯、亜熱帯で生育し、樹高は自然では30メートルほどの高さになりますが、果樹園の栽培では接木法をとり、整枝もするのでそこまでは高くはならないがそれでも10メートルほどの高さになる事もあるとのことです。

アボガドの木

2.食用としてのアボガド

 世界一栄養価の高い果物としてギネスブックに記録されており、多量の脂肪成分から「森のバター」の異名を取り、実は「食べる美容液」とも呼ばれ美容効果に優れた成分も含まれています。

アボガド写真

 このアボカドが、いつ頃から食物として人類に利用されてきたのかは定かではありません。ペルーのチャン・チャン遺跡からは西暦900年頃のものと見られるアボカドの実をかたどった土器が出土しております。また、アステカ文明(1428〜1521年)では「生命の源」と呼ばれて珍重されたそうで、19世紀末にアメリカに持ちこまれ、栽培されるようになってから世界に知られるようになりました。
 当然のごとく、メキシコではアボカドは極めてよく使われる食材であり、アボカドのペーストにトマト、玉ねぎ、香味野菜、唐辛子、サルサソースなどを加えた「グワッカモレ(ワカモーレ)」は、一般的なディップでトルティーヤのチップスですくって食べたり、各種の料理のソースにしたりします。

Guacamole.jpg

 日本では、アボカドが醤油によく合うので、刺身のようにワサビ醤油で食べたり、巻寿司にされます。和風ドレッシングでサラダにもされます。ニュージーランドではサラダにすることが多く、バターの代わりにトーストに塗ったり、アイスクリームにもなるとのことです。生サーモンあるいはスモークサーモンにも合うと言われています。


◇ アボガドの栄養

 アボガドには五大栄養素(糖質、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラル)のうち、糖質は少なめでノンコレステロールの不乾和脂肪酸、さらにはビタミン、ミネラルが豊富に入っているため、極めて健康に良い食料であります。

1.アボガド100 gあたりの栄養価

 エネルギー                      160 kcal
 炭水化物                       8.5 g
  糖分                        0.66 g
  食物繊維                      6.7 g
 脂肪分                        14.7 g
  飽和脂肪酸                     2.1 g
  一価不飽和脂肪酸(オレイン酸ω9)         9.8 g
  多価不飽和脂肪酸(リノール酸ω6、リノレン酸ω3) 1.8 g
 蛋白質                        2.0 g
 水分                         73.2 g
 ビタミン類
  ビタミンA                     7.0μg
   βカロチン                    62.0μg
  ビタミンB1(チアミン)              0.07 mg
  ビタミンB2(リボフラビン)            0.13 mg
  ビタミンB3(ナイアシン)             1.74 mg
  ビタミンB5(パントテン酸)            1.39 mg
  ビタミンB6                    0.26 mg
  ビタミンB9(葉酸)                81.0μg
  ビタミンC                     10.0 mg
  ビタミンE                     2.07 mg
  ビタミンK                     21.0μg
 ミネラル類
  カルシウム                     12.0 mg
  鉄分                        0.55 mg
  マグネシウム                    29.0 mg
  マンガン                      0.14 mg
  セレン                       0.40μg
  リン                        52.0 mg
  カリウム                      485 mg
  亜鉛                        0.64 mg

【他の食品との比較(全て100 g換算)】

 ・ニンジン:エネルギー 41 kcal、線維 2.8 g、糖 4.7 g、脂肪 0.24 g、
   蛋白質 0.93 g、ビタミンA 835μg、βカロチン 8285μg、
   ビタミンB1 0.07 mg、ビタミンB2 0.06 mg、
   ビタミンC 5.90 mg、ビタミンE 0.66 mg、カルシウム 33.0 mg、
   マグネシウム 12.0 mg、セレン 0.10μg、カリウム 320 mg
   →ビタミンA、βカロチン以外はエネルギー特に脂肪成分、
    ビタミン、ミネラルにおいてアボガドの方が優位


 ・キウイ:エネルギー 61 kcal、線維 3.0 g、糖 9.0 g、脂肪 0.52 g、
   蛋白質 1.1 g、ビタミンA 4.0μg、βカロチン 52μg、
   ビタミンB1 0.03 mg、ビタミンB2 0.03 mg、
   ビタミンC 92.7 mg、ビタミンE 1.5 mg、カルシウム 34.0 mg、
   マグネシウム 17.0 mg、セレン 0.2μg、カリウム 312 mg
   →ビタミンCを多量に含有するものの、その他の栄養素について
    はアボガドの方が優位


 ・ほうれん草:エネルギー 23 kcal、線維 2.2 g、糖 0.4 g、脂肪 0.4 g、
   蛋白質 2.9 g、ビタミンA 469μg、βカロチン 5626μg、
   ビタミンB1 0.09 mg、ビタミンB2 0.19 mg、
   ビタミンC 28.1 mg、ビタミンE 2.03 mg、カルシウム 99.0 mg、
   マグネシウム 79.0 mg、セレン 1μg、カリウム 558 mg
   →各種ビタミン、ミネラルの含有はアボガドと同等かそれ以上、
    脂肪酸含有はニンジン、キウイと同じく低い


2.高脂血症改善/体脂肪減少

 果肉の2割を占める脂肪分はオレイン酸など、ノンコレステロールの不乾和脂肪酸なので、皮下脂肪にはならず、血液中の悪玉コレステロール(LDL)を減らす効果があります。又、βシステロールという脂質も含まれ、コレステロールの吸収そのものを抑える効果が確認されています。豊富に含まれるセレンは体脂肪を燃焼させます。

3.豊富なビタミン

 ビタミンA、C、Eが多量に含まれるため、血行促進、抗酸化作用が高く、発癌を抑制し、アンチエイジング効果も期待できます。また、ビタミンB群は疲労回復、動脈硬化予防、発癌抑制にも有効とされます。

4.豊富な食物繊維

 アボガド1個に含まれる食物繊維はごぼう1本、サツマイモ2個分に相当し、便秘を解消、整腸作用があります。

5.デトックス効果、肝庇護効果

 アボガドには、特に肝臓で働く抗酸化物質、グルタチオンが豊富に含まれ、飲酒・喫煙等によるアルコールやニコチンなど有害物質の解毒作用を促進します。さらには、肝臓を傷つける活性酸素を除去し、肝機能の低下を防止します。


◇ アボガドとクルミ入り麻婆茄子

1.準備

 下の写真に示す通り、豚ひき肉100 g、茄子3本、ピーマン2個、好みでタケノコ少々、アボガド1個、クルミ約3個分を用意し、炒める油には亜麻仁油、味付けには味の素のCookDo麻婆茄子用を用いました。

アボガド入り麻婆茄子材料

 下準備として茄子、ピーマン、タケノコ、アボガドを下図の如く切ります。

下準備 茄子、アボガド

2.調理

 至って簡単です。全部の食材を順次フライパンに入れて炒めても良いとは思います。まず、亜麻仁油で豚ひき肉を炒めつつ塩こしょうを少々加えて、火が通ったところで皿に取りました。次いで、空のフライパンに茄子、クルミ、ピーマン、タケノコの順で入れました。茄子、ピーマンがしんなりしたところで先ほどの豚ひき肉を加え、CookDo麻婆茄子用を振りかけて味付け、最後にアボガドを加えてかき混ぜて完了です。

3.完成

IMG_1611.jpg

 元々、油っこい料理ですので、アボガド自身の脂っこさが感じられず、見事に料理の中に溶け込んでおり、クルミの香ばしさがアクセントを与えて、たいへん美味しゅうございました。


◇ 本料理の意義;優れた脂肪酸の摂取方法

 なぜ麻婆茄子にアボガドを入れたかと言えば、もちろん上述の如き健康食品を楽しく摂取したいからでありますが、それに加えて脂肪酸の摂取方法に改良を加えたい意図があります。豚肉には当然のごとく飽和脂肪酸が豊富に含まれます(部位によりますが100 gあたり4.36 g)。これは血液中にコレステロールに繋がりますが、これに対してアボガドは不飽和脂肪酸が優位に含有されており、とりわけオレイン酸(ω9)の含有量が目立ちます。これは上述の如く、血液中の悪玉コレステロール(LDL)を減らす効果があります。今回、考案した「アボガドとクルミ入り麻婆茄子」はこの脂肪酸摂取について、さらに一工夫を行っておりますのでご注目下さい。

1.摂り過ぎの脂肪酸、不足する脂肪酸

 まずは、日本人が摂取している脂肪酸について、含まれる食品とその善し悪し、摂取の現状をまとめました。

【飽和脂肪酸】:バター、ラード、牛脂、乳製品、卵黄
 常温で塊となっていて、熱を加えても形が残りやすい、いわゆる「脂」であります。これは消化、吸収にエネルギーを要する栄養素で、また血液中ではコレステロールとして存在するため、動脈硬化や肥満の原因になります。しかし、肉食、ケーキ菓子など、日本人のみならず世界中で摂取される傾向にある脂肪酸です。

【トランス脂肪酸】:マーガリン、ショートニング、ファットスブレッド
 植物性脂に水素を添加することにより飽和脂肪酸に近いかたちにした、自然界には存在しない科学的な油です。体内消化が困難で、発がん性も危ぶまれており、摂取を避けるべき脂肪酸です。しかしながら、ちまたには普通に出回っております。

【一価不飽和脂肪酸 オレイン酸、ω9】:オリーブ油、キャノーラ油、ごま油、米油、アボガド
 今回の食材、アボガドに多く含まれるオレイン酸は融点が低いため消化吸収が容易であり、また体内では最も酸化されにくく、ヒト体内で活性酸素と結びついて過酸化脂質をつくりにくいため、動脈硬化・高血圧・心疾患などの生活習慣病を予防・改善するとして、リノール酸摂取過多の現代では見直されています。しかし、糖や蛋白質で体内合成できる脂肪酸でもあります。

【多価不飽和脂肪酸 リノール酸、ω6】:大豆油、なたね油、ひまわり油、グレープシード油、紅花油、コーン油
 かつてリノール酸は植物性油なので身体に良いという間違った広告が出されたため、料理に広く使われており、現代人が摂り過ぎている脂肪酸です。このω6は飽和脂肪酸と同様、血液をドロドロにし、体内の炎症を強くする作用があると言われています。生活習慣病の原因とされています。

【多価不飽和脂肪酸 リノレン酸、ω3】:亜麻仁油、エゴマ油、グリーンナッツ油、青魚、くるみ
 日本人に最も欠乏している脂肪酸であり、また体内で合成できないため必須脂肪酸とも言われます(これはω6も同じ)。抗炎症作用、血液サラサラ作用など、現代病の予防として積極的な摂取が求められる脂肪酸ですが、植物性の食品の含有が少ないため欠乏がちであります。

 以上から、脂肪酸にもいろいろありますが、摂取すべきものは、「多価不飽和脂肪酸 リノレン酸、ω3」>「一価不飽和脂肪酸 オレイン酸、ω9」の順であり、せめて1:3から1:5で摂取して欲しいとされますが、現代人の脂肪酸摂取の比率、ω3:ω9は1:50くらいになっており、それ以上に「飽和脂肪酸」、「多価不飽和脂肪酸 リノール酸、ω6」を摂取しており、好ましくない「トランス脂肪酸」も口にしている人が少なくありません。

2.クルミと亜麻仁油の意味

 もうここまで説明すればご理解いただけると思いますが、上でアボガドの栄養価について脂肪酸については、、、

  一価不飽和脂肪酸(オレイン酸ω9)         9.8 g
  多価不飽和脂肪酸(リノール酸ω6、リノレン酸ω3) 1.8 g

と記載しました。別の調べによりますと、、、

  一価不飽和脂肪酸(オレイン酸ω9)         10.2 g
  多価不飽和脂肪酸(リノール酸ω6)         1.6 g
  多価不飽和脂肪酸(リノレン酸ω3)         0.1 g

との表記を見つけました。確かに「一価不飽和脂肪酸 オレイン酸、ω9」を摂取するのにアボガドは有用でありますが、「多価不飽和脂肪酸 リノレン酸、ω3」の摂取にはほとんど無力であり、そこでこの「多価不飽和脂肪酸 リノレン酸、ω3」を多く含むクルミを食材に加え、さらに同様な亜麻仁油を用いて炒めたわけであります。


◇ 同じ発想で「アボガドとクルミ入り青椒肉絲」

 特に説明は必要ないと思いますが、同じくCook Doを用いた料理で、青椒肉絲(チンジャオロース、牛肉とピーマンの細切り炒め)にアボガドとクルミを入れました。もちろん、素晴らしいお味です!!

アボガド、クルミ入り青椒肉絲


◇ まとめ

 ビタミン、ミネラルが豊富な健康食品としてアボガドを勧められ、サラダや寿司よりも、メインディッシュとしての食べ方を模索し、さらに脂肪酸の摂取を改善する方法として、既存の中華料理に変化を加えてみました。Cook Doに頼った味はもちろんのこと、栄養学的にも優れた一品と考えます。

日本人の7割が罹患?、リーキー・ガット症候群 Leaky Gut Syndrome(LGS、腸管壁浸漏症候群)

 マクロビや糖質制限、パレオなどの食事法を調べていて、ある病態が散見されました。リーキー・ガット症候群 Leaky Gut Syndrome (LGS、腸管壁浸漏症候群) と言うあまり馴染みのない病気ですが、現代の日本人に増えているとのこと、、、。私は外科とは言え消化器を専門にしながらこの病気を詳しくは存じ上げていず、少しお勉強いたしました。


◇ 正常な小腸の機能

 小腸は長さ6 mをこえる筋肉(平滑筋)でできた管状の器官で、食道−胃に続いて、上から十二指腸、空腸、回腸に区分され、大腸に繋がり、消化管の約80%を占めています。
 小腸の機能は栄養分の消化と吸収、輸送です。胃である程度まで消化され粥状になった食物は、幽門(胃の出口)より少しずつ十二指腸に送り込まれます。十二指腸は太さ約5 cm、長さは約25-30 cmで、人の指を12本横に並べたくらいあります。この十二指腸に乳頭部と呼ばれる肝臓からの胆管と膵臓からの膵管が合流した開口部があり、胆汁と膵液が分泌されます。胃酸とは対照的に膵液は強アルカリ性であり、食物中の栄養素をさらに分解します。

 炭水化物 → ブドウ糖
 タンパク → アミノ酸
 脂  肪 → グリセリド、脂肪酸


 小腸粘膜からも消化酵素が分泌され、以上の如く、アミノ酸、ブドウ糖、グリセリド、脂肪酸などの最終的な分解物にまで消化します。そして、この食物と消化液のまざったものを、収縮と弛緩を繰り返し、移動させながら吸収していきます。この運動は消化液と食物を混合するのに役立つと共に、粘膜との接触を多くし、吸収をよくするのに役立っています。腸粘膜の表面には、絨毛(じゅうもう)とよばれるビロードのような無数のひだがあります。このひだを広げると小腸の表面積は600倍にもなり、吸収力を高めています。
 正常な小腸においては、分子量が小さい物質が粘膜の上皮組織から吸収されます。通常、腸粘膜の上皮組織から正常に吸収される物質の分子の大きさは500 Da(Dalton、ダルトン;炭素原子1個の質量が12 Da) で、この大きさを超える物質は小腸の絨毛ひだより吸収されません。

正常小腸の吸収


◇ リーキー・ガット症候群の病態

 リーキー・ガット症候群とは、腸管粘膜に穴が空いて透過性が亢進し、本来なら吸収されない、高分子化学化合物質、食物アレルゲン、バクテリア、毒素などが腸管粘膜を通過して吸収されてしまう病態です。本来なら吸収されない物質が腸管壁を通過して血液中に入って来るのですから、それらの物質による種々の症状が発言する一連の症候群とされております。上で正常な小腸粘膜が吸収できる物質の大きさは500 Daまでとしましたが、リーキー・ガット症候群によって小腸粘膜に穴があくと、正常の10倍、5000 Daもの大きさの食物や化学物質の塊が血液中に流れ込みます。

リーキーガット症候群の小腸吸収

 一方、リーキー・ガット症候群の原因は炎症とされますが(後述)、正常なら通過しない大きな物質が腸管壁内に入り込むことによりさらに炎症は助長されますので、本来、吸収されるべき栄養素とりわけ食物中に少ない物質、ビタミン、ミネラルの吸収が阻害されることが考えられます。こうした物質の欠乏も本病態の症状として発現するようです。

 ビタミン、ミネラルなどの吸収障害

 着実に現代の日本人に増えているとされ、「おそらく日本人の70%がリーキー・ガット症候群による何らかの障害を受けている」と米国のある医師が指摘しています。小腸の病変ですので、この疾患を診断するために検査はまだ稀であります。


◇ リーキー・ガット症候群の症状

 本来なら吸収されない物質が小腸粘膜を通過して血液中に入るのですから、それに伴う各種症状が発現するようです。以下にネットで検索し得る、症状を分類しました。ただ、これらは「原因としてあり得る」程度のレベルに過ぎません。原因不明の病気もリーキー・ガット症候群が「原因かも?」、「可能性あり」と言っている、そんな段階であります。

1.消化器症状

 バクテリアや毒素が腸管壁内に流入することによる局所症状として消化器症状は起こりうる病態です。ガスっ腹、便秘や下痢、腹痛などの不定愁訴や、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病もリーキー・ガット症候群が原因である可能性はあります。

2.アレルギー性疾患

 アレルゲンとなる大きな物質が腸管粘膜を通過してしまうので、喘息、花粉症、蕁麻疹ん、アトピー性皮膚炎、日光過敏症などの原因として有力だと思います。その他、原因不明の自己免疫疾患、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチもリーキー・ガット症候群が関与しているのでは?、とする向きはあります。

3.毒素の流入による症状

 食品添加物や重金属の流入は、肌荒れやシミ、ソバカスなどの皮膚疾患、神経疾患の原因となりますし、そうした毒素を解毒、排泄するために肝障害や腎障害も起こりうるものと思われます。また、体臭(加齢臭)の原因としても有力かと存じます。

4.ビタミン、ミネラルの不足

 リーキー・ガット症候群では腸管壁の炎症を伴いますから、不要な物質の透過は許しても、貴重なビタミン、ミネラルの吸収が阻害されることが考えられます。特に食品には微量にしか含有されない物質の欠乏症は起こりうることです。ビタミン、ミネラルの欠乏が原因で起こる病態として、倦怠感(慢性疲労)、ふらつき、慢性筋肉痛(肩こりなど)、糖尿病、肝障害、甲状腺機能障害、通風、腎障害、動脈硬化、高血圧、高脂血症、不眠症、骨粗しょう症、肥満、夜尿症、ドライアイ、冷え性などが挙げられます。

5.新生物

 有毒な物質、発ガン物質の血液中への流入は、癌、白血病、骨肉腫など、悪性(および良性)新生物の原因になり得ると思われます。

6.その他

 統合失調症、うつ病、過呼吸、パニック障害、チック症、過食症、てんかんを挙げているページもありました。


◇ 小腸粘膜に障害(炎症)が起こる原因

 ・抗生物質による菌交代減少
 ・アルコール類、カフェインなどの刺激物
 ・細菌によって腐敗、汚染された食物や地下水
 ・着色料、防腐剤、酸化防止剤など食品添加物(化学合成物)
 ・酵素欠乏
 ・非ステロイド系抗炎症薬
 ・プレドニゾンのような処方コルチコステロイド
 ・精製炭水化物食品(クッキー、ケーキ、清涼飲料、漂白パン )
 ・避妊用ホルモン(ピル)
 ・精製炭水化物食品に混入している真菌
 ・電子レンジで温められたコンビニ弁当の容器など環境ホルモン物質


◇ リーキー・ガット症候群を改善するポイント

 上記に列挙した原因物質からの暴露を止めることが最優先となりますが、積極的に小腸の状態を正常化する方法として以下が挙げられております。

 ・胃酸の分泌を補う
 ・精製漂白された白米、小麦、砂糖を避け、玄米、オリゴ糖に変える
 ・大豆加工食品(醤油、納豆)は毎日は食べない
 ・イースト菌を使用した食材は控えめにする
 ・必須脂肪酸オメガー3(フラックス)を積極的に摂る
 ・乳製品は避ける
 ・乳酸菌(Lactobacillus菌など)を積極的に摂る(但しヨーグルトは避ける)
 ・短期間のファスティング(断食)で小腸をリセット


http://www.nutweb.sakura.ne.jp/iframe/03_ippan/03lgs/lgs.html

パレオ(パレオリシック Paleolithic,旧石器時代)ダイエット

 今年になって、1月に食事について2件の記事を載せました。1つは風水学の扱いで「マクロビオティックのスピリッツ」(1月2日)、今1つは時事/歴史などへの雑感のカテゴリーで「科学?/非科学? 今、密かなブーム『糖質制限食』の是非」(1月23日)と題したものでした。この「糖質制限食」に極めて類似したものに「パレオ・ダイエット」と呼ばれるものがあり、もしかしたら「糖質制限食」の方が後から発生したものかも知れません。西洋で話題、日本にも普及し始めたパレオ(パレオリシック Paleolithic、旧石器時代)ダイエット=旧石器食事法について勉強しました。


◇ パレオ・ダイエットの起源と概念

 1975年、胃腸病専門医のウォルター・L・ヴォーグトリンによる最初の論文が掲載され、これには“The stone age diet”と命名されておりました。次いで1985年、ボイド・エアトンとメルビン・コナーの共著の論文では“Paleolithic nutrition”という呼び名がついております。
 発端となった概念は、人間の遺伝学は農業が始まった頃からほとんど変わっていないという考え方に基づいています。従って、現代人も旧石器時代の先祖の食生活を遺伝的に受け継いでいるされ、健康であるための理想的な食事法は、我々の旧石器時代の先祖と同じような食事をとることであると言う考え方であります。
 このダイエット法の提案者は以下のように主張しています。「旧石器時代と同様の食生活を送っている人が現代にもいます。その人たちの多くは、豊かさから生じると言われる『現代病』にかかりません。」複数の研究結果から、パレオ・ダイエットは他の様々なダイエット法より良い結果を示していると指摘します。さらに、農業が始まる以前の食生活には、健康維持に良い栄養上の特徴が多くあるとも指摘しています。


◇ 旧石器時代から農耕の始まりまで

 旧石器時代とは、ホモ・ハビリス(Homo habilis)などヒト科ヒト属(原人)により石器(打製石器)の使用が始まった時代(230万年前)から農耕が始まり(8000年前)までの時代をさします。以下に、以前の記事「人類の起源とその進化・分岐の過程」(昨年12月9日)で作ったものに旧石器時代と農耕の始まりを追加した図を供覧します。

人類の起源と農耕の始まり図2

 人類の始まりを旧石器時代とするならば230万年であり、そのうち農耕が行われたのは最近の8000年間、0.35%となります。現生人類(新人、クロマニヨン人)からと考えても20万年前〜現在ですので、農耕が行われたのは8000/20万年として4.0%にすぎません。

 人類における農耕の歴史:
  旧石器時代から現在までの0.35%
  現生人類(新人、クロマニヨン人)から現在まででも4.0%


 人類の歴史において、今となっては当たり前の文化である農耕は、実はつい最近のごく短い期間であることが解ります。こうした人類の歴史の中の農耕文化を考えると、遺伝子に変化を来すことなく、農耕で得た米や麦を主食とする食生活が、動脈硬化や肥満、糖尿病と言った現代病の原因となっている可能性はあります。


◇ パレオ・ダイエットのセオリー

 旧石器時代の人類、つまり原始人は、当時の人糞の化石から、ハーブなど植物に関する知識が豊富であったことが知られており、現代人が想像する以上に健康的な食事が実現され、身体が強かったとも推測されております。そして、その旧石器時代が終わりを告げる約8000年前より、人間の遺伝子はほとんど変化していないことも判明しています。
 以上から、現代人が旧石器時代の食生活を行っても全く健康に支障がないだけでなく、 何万年にも渡って原始人が行っていた食生活、すなわち工場で生産されたフード、ケミカルや遺伝子組み換え技術を用いたフード とは無縁の自然界から手に入るものだけを食べることが、人間の身体に望ましいというのがパレオ・ダイエットのセオリーであります。
 そして、旧石器時代の食生活を実践することによって、その時代の人々のような健康で強く、皮下脂肪の少ない体型を手に入れることができる、というのがパレオ・ダイエットです。


◇ パレオ・ダイエットの概要

 米、パスタ、パン、とうもろこし等の炭水化物は現代人にとって欠かせない食物ですが、パレオ・ダイエットでは、ほんの少量の芋類を除いて、炭水化物はほとんど摂取しないのが基本です。これには、一般に健康食品とされている全粒粉や玄米等も含まれます。
 炭水化物はエネルギー源なので、その摂取を絶つと体力がもたないのでは?、と疑問を抱いてしまいますが、 農耕が栄える前の旧石器時代には、これらの食物はもちろん存在せず、1日のカロリーの55%を肉から摂取していました。それで持久力と体力が要求される狩猟をこなしていた訳ですから、現代人の生活は問題なくこなせると考えられています。
 炭水化物はカロリーが高いわりにビタミンやミネラル等の栄養分に乏しく、さらに身体を酸性に導く要素もあるため、 パレオ・ダイエットでは炭水化物は避けるべきものだと考えられています。このあたりは江部先生の糖質制限食と非常に似た考え方であります。

 農耕が始まる以前の食生活
 炭水化物をほとんど摂取しない


 パレオ・ダイエットでは穀類の摂取を控える理由に、穀類中のレクチンの一種、グルテンの弊害を言っています。グルテンとは、小麦、大麦、ライ麦などの穀物の胚乳から生成されるタンパク質の一種で、パンの骨組みとなり、またうどんのコシもグルテンによるものです。また、グルテンは食品以外でも増粘剤として利用されることも多いのです。たとえば整髪ジェルや歯磨き粉などにも使われていたりします。

穀物の禁止

 ラクトース(乳糖)を受け付けなくて、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロして調子が悪くなる人がいるのと同様に、消化器系の問題で、グルテンに敏感に反応してしまう人もいます。このグルテン過敏症は増加しつつあるとされております。また、はっきり写真の如く小腸粘膜に異常を来すセリアック病と言う病気もあります。

セリアック病の小腸粘膜
セリアック病の小腸粘膜病変

 セリアック病は小麦、ライ麦、小麦などに含まれるグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる自己免疫疾患で、小腸の粘膜が炎症を起こしてしまい、栄養の吸収に障害が起こります。これが、下痢、腹部膨満感、過敏性腸症候群、潰瘍、腸癌、貧血、疲労感、骨や関節の痛みなどの症状を引き起こし、死亡例も報告されております。
 日本でのセリアック病罹患率は約0.7%ぐらいだそうですが、アメリカとイギリスでは約1%、これは20世紀中盤と比べると4〜5倍に増加しているとのことです。
 パレオ・ダイエットではグルテンの毒性を重視して、穀物の摂取を禁止しております。これは糖質制限食には観られない考え方のようです。

 パレオ・ダイエットではグルテンの毒性を重視

 ちなみに、欧米諸国で盛んに製造販売されているグルテンフリー食品について、Academy of Nutrition and Dieteticsが発行した記事では、「消費者がグルテンフリー食品を購入する一番の理由はグルテンフリーの方が健康的であるとされているからですが…、セリアック病ではない人々に対しても健康促進効果があるという検証を証明する研究発表は全くありません。むしろ、グルテン自体に含まれる成分には健康に有益な栄養もあるため、人によってはグルテン回避が正当だと認められない場合がある。」と報告しています。

 芋類を除く炭水化物の他にも、パレオ・ダイエットでは禁止している食べ物が多数あります。以下、列挙します。

【パレオ・ダイエットで禁止される食物】
 ・豆類、砂糖や塩を含む調味料、乳製品、添加物や加工品
 ・アルコールやコーヒー
 ・カノーラ油、コーン油、大豆油

 以上から、豆類を除く野菜全般、肉、魚、果物、ナッツ、卵が主な食物になります。人工的に手の加えられていない自然に近いものが好ましく、肉はグラス・フェッド(コーンではなく、牧草を餌に育った牛等)のものが適切とされます。飲料は基本的に水とお茶のみとなります。基本的な味付けは香辛料等のハーブを使用し、オリーブ・オイル、ピーナッツ・オイルやアーモンド・オイル等のナッツ・オイル、 もしくはグレープシード・オイルを使用します。パレオ・ダイエットというと、火を通さないロー(生)・フードを想像する人も多いようですが、 原始時代はすでに火を使った食生活が行われていたため、パレオ・ダイエットでは火を使った調理が可能です。こうして見ますと糖質制限食よりもかなり厳しい食生活のように思えます。


◇ パレオ・ダイエットにおける生活習慣

 食事制限だけでなく、コアなパレオ・ダイエットを実践している人の間では、生活習慣も石器時代を真似ているとされます。例えば 「寝たい時に寝る」、「お腹が空いたら我慢せず食べる」 というのが代表的なものです。 健康体を作るにはストレスは大敵であるため、「身体に我慢を強いない」というのも基本ルールのひとつして挙げられています。一方、原始人が走って狩猟をしたり、重い石を持ち上げていたように、ランニングとウェイト・リフティングはパレオ・ダイエットに相応しいエクササイズとされます。


◇パレオ・ダイエットの実際

 一般的に健康食品だとされている全粒粉や玄米も摂取を控えなければいけないことや、調味料が使えないこと等、きちんと実践した場合、現代人のものとはかなり異なる食生活となります。
 果たして本当に体調を崩さずにダイエット効果が得られるのか?と疑問に感じる人も少なくないようですが、 パレオ・ダイエットを実践した多くの人々が、たった1週間で2-3 kgの減量を実現しています。ナイス・ボディーで知られる女優のミーガン・フォックスもパレオ・ダイエットを行っており、 彼女がその引き締まったスリムなボディーを維持できているのはその食生活のおかげとのことです。

ミーガン・フォックス写真

 体重を落とすだけでなく、長期に渡って続けることでアレルギーが治った、健康診断で出る数値が正常になった、毎日快眠できる、 集中力が増した等、多数の実践者からポジティブな結果が報告されています。
 問題点としては、食べてよいものが限られていることから、始めのうちは食材を購入するのに手こずる場合があるのと、 オーガニック食品やグラス・フェッドの肉等、なるべく自然に近い状態の食材を選ぶ必要があるので、費用もそれなりにかかってしまうことです。 さらに前述のように調味料も使用できないので、一般に公開されているパレオ・ダイエットのレシピなしでは、独自に調理を行うことは少し難しいのが実情です。
 しかしながら、体質の改善と皮下脂肪を短時間で落とすのには、抜群の効果があるといわれ、また女々しさが感じられないダイエット・コンセプトで肉や魚が沢山食べられるとあって、 他のダイエットに比べて男性の実践者が非常に多いことでも知られています。


◇ パレオ・ダイエットの通販、レシピのサイト

 当然のごとく、ネットの世界では通販やレシピを扱うページがたくさんございます。以下、少しだけご紹介します。

グルテンフリーの通販

パレオレシピのページ


◇ 社団法人パレオ協会

 これは日本にあるパレオ食を推進する協会です。崎谷 博征 医師が代表理事をされております。

パレオHPと崎谷博征医師
パレオ協会と崎谷 博征 医師


http://ja.wikipedia.org/wiki/旧石器食事法
http://www.cubeny.com/diet_paleo.htm
http://paleo.or.jp/paleo_activities/

科学?/非科学? 今、密かなブーム「糖質制限食」の是非

 正月にマクロビオティックについてご紹介いたしました。科学的根拠は薄いものの「身土不二」、「一物全体」、「陰陽調和」の三大理念を掲げる、ある意味、スピリチュアルな食生活法でありました。今回は、もう少し科学的根拠があって、しかし今、現在、賛否両論別れるところの「糖質制限食」を取り上げます。


◇ 糖質制限食の概念

 京都、高雄病院理事長の江部 康二(えべ こうじ)医師が考案した、ご飯やパン、麺類、ジャガイモなど炭水化物(糖質)の多い食品を食べない、食事療法であります。元々、東洋医学(漢方、鍼灸)を中心に、西洋医学、絶食療法、食養生、心理療法を取り入れ、1984年頃から食事療法に積極的に取り組んで来た江部氏が2001年に自らが糖尿病であることを知り、糖尿病の研究に積極的に取り組み、これまでの糖尿病治療と全く異なる、新しい糖尿病治療食「糖質制限食」を提案、高雄病院での糖尿病医療に「糖質制限食」を取り入れております。

高雄病院

江部康二先生

 血糖値を上昇させる唯一の栄養素が糖質である、そこに着目して、できるだけ糖質の摂取を低く抑えて、食後高血糖を防ぐのが糖質制限食の考え方です。簡単に言えば、主食を抜いておかずばかり食べるというイメージで、抜く必要がある主食とは、米飯・めん類・パンなどの米・麦製品や芋類など糖質が主成分のものです。
 江部氏は、動脈硬化の原因は食後高血糖「グルコーススパイク」であるとして、糖質制限食は、糖尿病のみならず肥満・メタボリックシンドローム、動脈硬化などの現代病にベストの食事療法と推奨しています。

 動脈硬化の原因 = 食後高血糖「グルコーススパイク」

著書


◇ 糖質制限食の理論的根拠

1.血糖値を上昇させるのは糖質である。
2.糖質を摂取しなければ血糖値は上昇しない。
3.糖質制限食を実践すれば血糖値は上昇せず糖尿病は改善する。

白米、焼き肉摂取後の血糖値
白米と焼き肉摂取後の血糖値の変動


◇ 糖質制限食十箇条

01.魚貝・肉・豆腐・チーズなど蛋白質や脂質が主成分の食品を中心に食べる
02.パン・白米・麺類、菓子・白砂糖など糖質の摂取は極力控える
03.主食としては玄米、全粒粉のパンなど未精製の穀物が好ましい
04.牛乳・果汁は飲まず、成分未調整豆乳、番茶、麦茶、ほうじ茶はOK
05.糖質含有量の少ない野菜・海草・茸類は適量OK。果物は少量に留める
06.オリーブオイルや魚油(EPA、DHA)は積極的に摂り、リノール酸を減らす
07.マヨネーズ(砂糖無しのもの)やバターもOK
08.蒸留酒(焼酎、ウィスキーなど)は糖質は含まれないのでOK
09.醸造酒(ビール、日本酒、など)は糖質が豊富であり控える
10.間食やおつまみはチーズ類やナッツ類を中心に適量摂る
11.菓子類、ドライフルーツは不可
10.できる限り化学合成添加物の入っていない安全な食品を選ぶ


◇ スーパー糖質制限食のイヌイット

 古代から、生肉と生魚が主食という完全無欠の糖質制限食を4000年以上続けてきた民族がいます。イヌイット (Inuit) は、カナダ北部などの氷雪地帯に住む先住民族のエスキモー系諸民族の1つで、人種的には日本人と同じモンゴロイドで、エスキモー最大の民族とされます。以下、「ドクター江部の糖尿病徒然日記」からの引用です。

イヌイット

 *****

 ダイアベルグ博士の研究によると、同民族には心筋梗塞や脳梗塞が極めて少なかったことが報告されています。同時期、同じくらいの高脂肪食を食べていたデンマーク人においては、心筋梗塞や脳梗塞が多発していたので、その差が注目されました。このときダイアベルグ先生は、イヌイットの血液中にはデンマーク人に比べてはるかに多くのEPAが多く含まれていて、それがイヌイットに心筋梗塞や脳梗塞が少ない理由であると結論しました。そして極寒地に住む動物(アザラシ、北極イワナ、シロイルカなど)の脂肪には、EPAが沢山含まれているのです。これはこれで重要な発見であり、EPAはのちに薬(エパデールなど)となり、保険薬として日本でも販売されています。
 しかしながら、血中EPAが高値というだけで心筋梗塞や脳梗塞が予防できるなら、糖尿病の人も肥満の人も、何でも好き放題食べてエパデールさえ内服しておけば、それでOKということになりますが、さすがにそんな都合のいいことはありません。
 スーパー糖質制限食により、常に血流・代謝が常にスムースであり、血糖変動もほとんどなく酸化ストレスもないことの方が、大きな要因であったと思われます。

 *****



◇ 糖質制限食に対する学会の反論

 2013年3月、日本糖尿病学会が 江部 康二 医師の糖質制限食に反論する見解を出しました。糖質を制限すること自体よりも、脂質の摂り過ぎなど、間違った食事摂取に及ぶ危険性が主張されております。

 *****

糖質制限食に懸念

提唱者の医師「根拠ない」と反発

 日本糖尿病学会が先月、ご飯やパンなど炭水化物を控えて糖質を制限する「糖質制限食」について、「勧められない」とする提言を出した。糖尿病患者だけでなくダイエットしたい人にも人気のこの食事療法、何が問題なのか。(平沢裕子)

脂質は悪者?

 同学会が糖質制限食を勧められないとしたのは、糖質制限によってタンパク質と脂質の摂取量が増えることを問題としたためだ。提言では、タンパク質の取り過ぎが腎機能を悪化させたり、脂質の取り過ぎが動脈硬化を促進させて心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めたりする恐れがあると指摘している。
 これに対し、糖質制限食の提唱者である高雄病院(京都市右京区)の江部康二理事長は「脂質は長年悪者にされてきたが、最近は食事の脂質を減らした人とそうでない人で最終的な死亡率は変わらないという研究が、海外の一流医学誌に次々と発表されている。タンパク質の取り過ぎは腎障害のある患者には悪影響があり、私も糖質制限食は勧めていないが、腎障害がない場合に腎機能を悪化させるというエビデンス(科学的根拠)はない」と反論する。
 確かに提言でも腎障害がない場合、タンパク質の過剰摂取が腎症発症のリスクとなる「明確なエビデンスはない」としており、腎機能悪化の科学的根拠があるわけではない。

糖質50%未満も許容

 東京都内在住の男性会社員(45歳)は7年前、糖質制限ダイエットをした。開始前は身長175センチ、体重75キロ、BMI(体格指数=体重「キロ」を身長「メートル」の2乗で割った数値)は24.5で標準体重範囲内だったが、学生時代から約20キロ増えた体重が気になっていたという。普段の食事から主食を抜き、おかずはそれまでと同じ量を食べたところ、4日目ぐらいから体重が減り始め、8カ月後には62キロと13キロの減量に成功した。男性は「体重がどんどん減っていくのが楽しかった」と振り返るが、「やせたことでダイエットする意味がなくなった」とダイエットはやめ、現在はダイエット前と同じ体重に戻っている。
 この男性のように糖質制限食で減量効果を実感しても、ご飯はもちろん、ラーメン、パスタ、菓子が食べられない糖質制限食を1年以上続けるのは難しそうだ。提言では脱落者が多く、継続しないことも問題とした。しかし、「今はこんにゃくパスタやふすまパンなど低糖質でおいしい代替品がいろいろある。継続が難しいのはむしろカロリー計算が必要なカロリー制限食の方」と江部理事長。
 提言では「日本人の病態と嗜好(しこう)性にふさわしい食事療法について継続的な検討が必要」としている。同学会の門脇孝理事長は「提言は、食生活の好みによっては糖質50%未満も許容するという従来の食事療法の規制緩和の意味もあった。糖質を少なく取るときは、タンパク質が20%超なら腎機能が低下していないか注意し、脂質が25%超の場合は不飽和脂肪酸を多く取るように心掛けてほしい」と話している。

 *****



◇ 糖質制限食の通販サイト

低糖工房


◇ 糖質制限食に関する私見

 ご存知の人は多いと思いますが、動物には血糖値を上げるホルモンは複数存在し、人間も同じです。グルカゴン、アドレナリン、成長ホルモンなどですが、これらは、野生の動物が敵に襲われる、あるいは獲物を追う時など、咄嗟に血糖値を上げて行動することが求められる際に対応した機構だと考えられております。これに対して血糖値を下げるホルモンはインスリンしかありません。野生動物の食生活ではそれほどダイナミックに血糖が上がらないからであろうと考えられます。何故かと言うと野生動物には農耕文化が無く、主食と言う概念もないからです。
 さて、人間には血糖コントロールのメカニズムとして野生動物と同等なものしか備わっておりません。しかし、約15000年前に農耕が始まり、現代に至っては古今東西、ごはんにしろ、麺類、パンなどが主食として食卓に並ぶのが当たり前となっております。しかしながら、以前の記事「人類の起源とその進化・分岐の過程」(昨年12月9日)でご紹介しましたアルディピテクス属(猿人)が人類の始まりだとして、約580万年前ですので、人類の歴史で、農耕が始まってから現在までは0.25%に過ぎず、糖質を主食として食べるようになったのも、人類としてはごくごく最近のことと言えます。そして、糖尿病や動脈硬化の罹患が始まるのも、この農耕、糖質の主食とほぼ同じ歴史である可能性はあると思います。
 そうして考えた時、塩分や脂質を摂り過ぎないように注意して、「糖質制限食」私は一つの食事療法として支持する立場であります。


http://diamond.jp/articles/-/14958
http://www.canadainternational.gc.ca/japan-japon/about-a_propos/faq-inuit.aspx?lang=jpn
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-category-87.html
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130412/bdy13041207180001-n1.htm

マクロビオティックのスピリッツ

 新春の軽い話題として、以前から興味がありましたある種の食生活法、「マクロビオティック(Macrobiotic)」を取り上げます。通称「マクロビ」は、第二次世界大戦前後に考案された食生活法、食事療法、長寿法でありますが、現代においてもその食材を扱うウェブストア、レシピや概念を学ぶ各種講座などがあります。単純な「菜食主義」、「玄米食」ではなく、その概念にはある種のスピリッツが隠されており、そのあたりを中心にご紹介いたします。


◇ マクロビオティックの起源と海外展開

 マクロビオティックは、第二次世界大戦前後に食文化研究家の桜沢如一(1893-1966年)が考案した食生活法、食事療法、長寿法であります。桜沢氏は、明治時代の軍医、薬剤師で、医食同源としての食素を提唱した石塚左玄氏(1851-1909年)の「食物養生法」の考え方と、東洋思想のベースとなる中国の「易」の陰陽を組み合わせて、「玄米菜食」という自然に則した食事法を確立しました。

石塚、桜沢、マクロビ本
石塚左玄氏(左)、桜沢如一(中)とその著書

 その後、1950年以降、桜沢氏の弟子である久司道夫氏(1926年-)によりマクロビオティックは体系化され、欧米への普及が始まりました。しかし、1950年当初、久司氏の活動は栄養学から矛盾していることから大きな反発を受け、1967年、 JAMAは、抑圧的なマクロビオティック食養法に固執することによって引き起こされる壊血病と栄養失調に関する詳細な報告書を刊行、1971年にも、米国医師会の食品栄養委員会により、食養法の実践者、特に厳格な実践を行っている者は、栄養失調の重大な危機に直面しているとしているとの指摘も受けました。その後、久司氏により、風土を考慮して再構築したマクロビオティックを広めていったことで1970年代以降に政府や栄養学会に受け入れられるようになったとされます。

くじ氏とその記事
久司道夫氏(左)と氏を紹介する記事

 久司氏のマクロビオティックが大きく受け入れられた象徴的なイベントとして、ハーバード大学が主催しWHO(世界保健機関)がバックアップした国際栄養学会の晩餐に食事ををマクロビオティックを主体として作ることが要請されたとされます。また、1999年には久司道夫が日本人として初めてアメリカ国立歴史博物館であるスミソニアン博物館に殿堂入りを果たしました。一方、長年マクロビオティックを実践していた夫人は癌によって死亡しましたが、発見時は余命3か月と診断されたものの、久司氏のアドバイスにのっとった食事をはじめ、そのために8年を生き延びたとされます。


◇ マクロビオティックの語源

 「マクロビオティック」は、「マクロ = 大きな」、「ビオ = 生命」、「ティック = 術、学」の3つの言葉から成る合成語であります。語源は古代ギリシャ語「マクロビオス」であり、「健康による長寿」「偉大な生命」、「自然に即した命のあり方」などと言った意味があります。

 マクロビオティック
  :「マクロ = 大きな」
   「ビオ = 生命」
   「ティック = 術、学」


 マクロビオティックは、「玄米菜食」「穀物菜食」「自然食」「食養」「正食」「マクロビ」「マクロ」「マクロビオティックス」「マクロバイオティック」「マクロバイオティックス」とも呼ばれ、また、マクロビオティックを実践している人のことを、マクロビアン、「穀菜人(こくさいじん)」と呼ぶこともあります。


◇ マクロビオティックの特徴

 玄米を主食、野菜や漬物や乾物などを副食とすることを基本とし、独自の陰陽論を元に食材や調理法のバランスを考える食事法であります。但し、科学的な裏付けが明確でない、あるいは一切ないものや、ものによっては現在の医学、栄養学とは相反するものも含まれております。根拠に基づいた医療という概念が当てはまらない点には留意する必要があります。マクロビオティックに規定された食生活を以下に列挙いたします。

・玄米や雑穀、全粒粉の小麦製品などを主食とする
・野菜、穀物、豆類などの農産物、海草類を食べる
・有機農産物や自然農法による食品が望ましい
・なるべく近隣の地域で収穫された旬の食べ物を食べる
・砂糖を使用せず甘味は米飴・甘酒・甜菜糖・メープルシロップで代用
・鰹節や煮干しなど魚の出汁、うま味調味料は使用しない
・出汁としては、主に昆布や椎茸を用いる
・なるべく天然由来の食品添加物を用い塩はにがりを含む自然塩を使用
・肉類や卵、乳製品は用いないが、卵は病気回復に使用する場合もある
・白身の魚、人の手で捕れる程度の小魚は少量は食べてもよい
・皮や根も捨てずに用い、一つの食品は丸ごと摂取することが望ましい
・食品のアクも取り除かない
・コーヒーは身体を冷やすので避ける
・「身土不二」、「一物全体」、「陰陽調和」の三大理念(後述)


◇ 二大原則:身土不二・一物全体

 マクロビオティックでは、身土不二(しんどふじ):「暮らす土地の旬のものを食べること」と、一物全体(いちぶつぜんたい):「自然の恵を残さず丸ごといただくこと」という2つの原則があります。

1.身土不二(しんどふじ)

 アクロビオティックでは暮らす土地の旬のものを食べることを原則としています。これは人間も植物も生まれた環境と一体という意味です。例えば、熱帯地域でとれるフルーツには体内の熱を下げる働きがあるため、高い気温に対して身体を順応させる作用があります。同様に、寒い地域でとれる野菜には体内を温める働きがあるため、寒冷に対する食生活として有効であります。四季のある日本では、季節ごとの旬の食材を摂ることで、身体のバランスがとれるという考え方です。

 暮らしている土地の旬の食材を摂る


2.一物全体(いちぶつぜんたい)

 自然の恵を残さず丸ごといただくと言う原則で、一つの食材を丸ごと食べる、という意味です。食材そのものは、丸ごとでバランスが取れており、穀物なら精白していない玄米、野菜なら皮や葉にも栄養があり、全てを摂ることで身体のバランスが取れるという考え方です。

 一つの食材を丸ごと食べる

 「身土不二」も「一物全体」も、自然環境とのバランスを考慮した発想に基づいています。暮らす土地でとれた季節の野菜を積極的に摂取することは、その野菜が新鮮で身体に良いだけでなく、野菜の物流に伴い排出されるCO2の削減にもつながります。また、いままで捨てていた皮や葉などもおいしく食べられることは、キッチンからでるゴミの減少にもつながります。自然環境をそのまま食事として摂取し、自然環境を守る食生活に繋がると言う発想であります。


◇ 陰陽のバランス

 マクロビオティックでは、すべてのものに「陰」と「陽」がある、という考え方があります。陰性とは遠心力・静かなもの・冷たいもの・水分の多いものなどを指します。陽性とは求心力・動きのあるもの・熱いもの・水分の少ないものなどを指します。マクロビオティックではこの陰性と陽性のバランスがとれた状態(中庸)を大切としています。

1.食材の陰陽

 陰性の食材とは上に向かってのび、からだを冷やす作用があり、陽性の食材とは地中に向かってのび、からだを温める作用があると考えられています。旬の食材を例にすると、夏のキュウリ(陰性)は、ほてったからだから熱をとり、冬のゴボウ(陽性)は、冷えたからだを温め、わたしたちのからだのバランスをとる手助けをしてくれます。マクロビオティックでは陰陽どちらにも極端に傾きすぎないほうが良いとされているので、穀物や根菜、豆類などを食材の中心とします。

陽が強すぎる食品群
陽性が強すぎる食品群

陰が強すぎる食品群
陰性が強すぎる食品群

中庸の食品群
中庸の食品群


2.調理法における陰陽

 調理法も陰と陽に分けることができます。サラダなど冷たいもの火をあまり通さないものは陰性、それに対してシチューのように、温かいもの、じっくり煮込むものは陽性と考えられます。下表は調理法における陰陽であります。

調理法の陰陽
調理の陰陽

 *****

 日本で生まれ世界に認知された食生活法、食事療法、長寿法であるマクロビオティックをご紹介しました。今回は触れませんでしたが批判的な言葉があることは言うまでもなく、外科医として個人的意見もございますが、ここでは個人の判断に委ねることといたします。少なくとも、その土地の旬の食材を食べると言う発想には、自然界と共存するスピリチュアルを感じる次第です。


◇ ネットにおけるマクロビオティック

 健康法や食事に関わる概念ですので、当然の如く、レシピや食材の通販、講座などがネットに散見されます。ここにご紹介いたしますが、たまたま取り上げたホームページの経営者とは一切の関係がございませんことを申し上げます。


1.食材の通販サイト

マクロビ通販
マクロビオティック食材の通販サイト

 *****

2.レシピを紹介するサイト


マクロビレシピのページ
マクロビオティックのレシピを紹介するサイト

 *****


3.通信講座

マクロビ講座
マクロビオティックを教える講座


http://ja.wikipedia.org/wiki/マクロビオティック
http://www.m-biotics.com/macrobiotic-q/riron/2-2shokumotu.html
http://www.daichi.or.jp/ad/macrobiotic-t/index.html?xadid=lis_ys_0004786
https://ssl.gardening.or.jp/study/a/nf/d15/index.html?mame=r1054

米国における脳死全肝移植で見た生命の平等性

 猪瀬東京都知事が辞任しましたが、徳州会の献金や選挙違反については、まだまだいろんな話が出て来そうです。徳田虎雄氏の著書で「生命(いのち)だけは平等だ」と言うものがあり、全国の徳州会系の病院にはこの文を載せたポスターが貼られているようです。

徳田さん著書

 本当の意味での生命(いのち)の平等さが徳州会系の病院で実現されたのかどうかは知りませんが、先日の記事で米国生活の話に触れ、生命の平等性に関して一つ思い出したことがあります。肝移植の現場での話です。


◇ ドナーが誰か知らされない脳死者からの臓器移植

 脳死者より、身体の上の方から角膜、肺、心臓、肝臓、膵臓、小腸、腎臓を摘出して、それぞれの臓器を必要とする患者がいる病院に搬送して移植する、それが脳死ドナー(donor、臓器提供者)からの臓器移植であります。主に肝臓や腎臓で行われる生体移植が親子、兄弟、夫婦間のように、ドナーと、その臓器を受けるレシピエント(recipient)が協議の上、治療を希望されるのに対して、脳死ドナーからの臓器移植では、臓器を受けるレシピエントはドナーが誰であるかは知らされません。
 脳死者が出たところで、その家族より臓器提供に合意が得られればその患者をドナーとした移植医療が始まり、上で挙げた各臓器をどの病院のどの待機患者に移植するかの決定は、血液型やHLA(Human Leukocyte Antigen、ヒト白血球抗原)のタイプ、体型、ドナーの発生地、タイミングなどの要素に基づいて医療サイドに委ねられることになります。


◇ ある心停止後ドナーからの臓器摘出手術

 1997年5月のある夜、米国留学中の私は大学のER(Emergency Room、救急救命室)の入り口にいました。ポケベルで呼び出されたグァーバーと言う米国人フェローと待ち合わせです。夜の11時前、私が到着してほどなくグァーバーも現れ、既に停まっていたフォード社製のミニバンに乗り込みました。別の黒人の運転、夜中の2時間ほどのドライブで着いたところは隣の州のある病院でした。電話連絡を受けていた我々は車が停車するなり走って院内に駆け込みました。その先にはオペ室(手術室)、脳死ドナーがICU(Intensive Care Unit、集中治療部)より入室したものの、先ほど心停止を来したとのことでした。脳死ドナーからの臓器摘出手術です。
 患者は血液型A型、42歳と若い女性でしたが、身長165cm、90kgと肥満体で、頭部外傷で2日前に救急搬送され、脳死(蘇生不能)が確認されておりました。循環動態(血圧、脈拍など)が不安定で昇圧剤が多量に投与されておりました(ドーパミン量にして28γ)。我々が到着する30分ほど前に心停止を来たし、心臓マッサージをされながらオペ室に搬入、我々が到着、手洗いしている間も心臓マッサージは続いています。脳死者であっても人工呼吸器で血液の酸素化が行われていて、心臓が動いておれば身体中の臓器は生きており、摘出して臓器移植に利用できますが、心臓が停まってしまうと、臓器の細胞は酸素を与えられず急速に傷ついていきます。グァーバーと私は型の如く開腹、大動脈にチューブを挿入して保存液を注入、腹腔内に破砕した氷と冷水を入れて、腹部臓器を冷却および還流しました。
 手術そのものは問題なく、肝臓と腎臓が別々に摘出、保存液の入った洗面器に移されましたが、問題が2つありました。まず、循環動態が極めて不安定で、血圧低下が続いた後の、心停止から臓器への冷却還流までに34分が経過しておりました。こういうのを心停止後ドナーと言います。いま1つの問題は、患者は肥満体であり、肝臓は大きく、辺縁が丸まっており、脂肪肝であることは明白でありました。30分を超える心停止後で脂肪肝、年齢が若いと言う以外は、良いグラフト(移植片;移植する臓器のこと)とは言えない状況でありました。


◇ 肝移植を受けたのは29歳男性

 大学に戻る車内にて、ICUにいた劇症肝炎の患者が、確か血液型A型で同じなので、この摘出した肝臓はその患者に移植されるのだろう、とグァーバーと話しておりました。しかし、そうはなりませんでした。確かに劇症肝炎から肝不全に陥った血液型A型の患者はおり、肝移植の優先順位が上位にランキングされておりましたが、我々が摘出して持ち帰った肝臓は別の患者に移植されることとなりました。劇症肝炎の患者には、その後に発生したドナーからの肝臓が移植されました。
 グァーバーと私で持ち帰った肝臓を移植されることとなった患者は、29歳、男性、C型肝炎肝硬変で、下記の如く検査データ上は異常値が目立ちますが、全身状態は良く、肝移植の待機となっており、病院より連絡を受けて至急、入院して来ました。もちろん歩いての来院です。

【検査成績】
 Alb 2.2 T-Bil 5.2 AST 69 ALT 60 NH3 31 BUN 14 Cr 0.7 Plt 51000


◇ 血流再開に困難を極めた術中所見

 肝移植手術は我々が行ったドナー手術の翌日朝より開始され、まずは肝硬変に陥った肝臓を全摘し、昼過ぎに肝グラフト(移植片)が患者の術野に移動、血管吻合が行われて、13:33血流が再開されました。通常だと、速やかにグラフトに血液が行き渡り、あっという間に肝臓は赤褐色の本来の色調に戻るのですが、この日はそうは行きませんでした。血圧が低下して、出血が顕著となり、移植肝の色調にはムラがあって、いかにも血流の再開に障害を来した状態、紛れも無く心停止後ドナーで、脂肪肝であったことが、原因していると思われました。手術は13時間にも及び出血量は1万ccを越えました。

手術
臓器移植の手術が行われている手術室

 少し語弊の無いよう補足いたしますが、心停止後ドナーであったことも、肝移植片が脂肪肝気味であることも、肝移植手術を行うスタッフは全て知ったうえで了承したものでありました。つまり、肝移植片として使用可能と判断され、このグラフト(移植片)を受けた患者は手術に耐え得ると考えられたわけです。ただ、上述の如く、ドナーのことは患者に知らされないので、循環動態が不良で臓器摘出前に心停止を来したことや、脂肪肝の可能性は、医療スタッフのみが知るところでありました。


◇ 術後14日目で再移植

 術後経過は極めて不良でありました。下図の如く、黄疸の指標である血液中の総ビリルビン(T-Bil)濃度は増加の一途を辿り、下がることはなく、術後14日目で32.0 mg/dlを記録、同日、49歳男性の脳死ドナーからの肝移植片を受ける手術が行われ、グァーバーと私で摘出、持ち帰った肝臓は破棄されることとなりました。尚、本症例における移植肝不全は、移植直後より全く臓器が機能しないPrimary Graft Non-Function(PGNF)ではなく、Preservation Injury(PI、保存障害)と評価されました。

T-Bil.jpg
術後の総ビリルビン(T-Bil)値


◇ レシピエントが差し替えられた可能性

 私は、上述の如く米国で臨床に従事する前は実験室(ラボ)で動物実験をやっておりました。もちろん肝移植関連の研究ですが、そのラボのボスが日本のある大学の教授として招聘されて帰国したため、ラボは消滅してしまったのでありました。心停止後ドナーからの肝移植がなされ、術後の不良な経過から再移植となった翌月、何かの用事で日本からラボのボスが渡米して来ました。早速、ご挨拶に伺い、そのついでに心停止後ドナーからの肝移植の経験、残念な結果に終わったことを伝えたところ、それはドナーの状態が報告されたところで、ICUの劇症肝炎の患者から、C型肝炎肝硬変の若い男性、自宅待機の患者にレシピエント(移植臓器を受ける患者)が差し替えられたのだろうと言われました。
 そのラボのボスは動物実験をやっていましたが、臨床医としても実力者であり、その彼が言うのは以下の通りです。30分を超える心停止後のドナーから摘出された肝臓が移植後に障害を起こすことは想像に難くなく、そのように不良なグラフトを移植に使用するのであれば、全身状態が悪いICUにいる劇症肝炎の患者は避けて、自宅待機の若くて状態の良い患者に使用すべきであるとのことです。言い換えれば、状態の悪い患者に良いグラフトを移植してあげ、状態の良い患者は悪いグラフトを受けると言う操作が加わっているとのこと、、、。

 全身状態不良の患者 → より良い状態のグラフトを移植
 全身状態良好の患者 → 不良なグラフトを移植



◇ 移植医療で示された生命の平等性

 歩いて来院した患者に対して、ドナーに関する情報は告げずに、状態が不良と思われるグラフトを移植してしまう、その事に、どうにもやりきれない気持ちでおりましたところ、ボスは言いました、16年前のことですが、「それが移植医療における真の平等だよ」と、、、。

 移植医療における(生命の)真の平等

 患者のレシピエントとしての登録順序、全身状態の良し悪しのみならず、ドナーの状態、グラフトの良否が移植手術を受ける順番に考慮されるとのこと、すなわち、不足する脳死ドナーを有効利用してより多くの肝不全患者を救い、なによりも全ての肝不全患者に対して均等な術後成績を提供するために、移植センターとして、公共機関として、そして社会として、厳しい決断を下すことが実践されていたのです。これが米国の、ある移植センターで示す一つの「生命の平等性」なんだろうと思います。現状、日本の移植医療においてまだここまでの厳しい精神は伴っていないと思いますし、あるいは異なる考え方があって、日本では実現しないものかも知れません。

科学?/非科学? 『釈迦の霊泉』が進行癌に著効?

 「故人やガイドとの交信など」と、非科学的な出来事が続きましたが、一気に盛り上がってあっちの世界に行くことはなく、地に足をつけて「科学?/非科学?」の境界に位置するものについて更なる検討を加えて参ります。今回は癌に効く温泉の話です。
 難病や進行癌に効く温泉として、日本では秋田の玉川温泉、海外では南フランスのピレネー山中から湧き出る「ルルドの聖水」などが有名です。

秋田 玉川温泉

玉川温泉

フランス ルルドの聖水

ルルド聖水

 私は職業柄、高度進行癌の患者に接することが多く、しばしば治療に難渋することもあります故、藁(わら)をも縋る(すがる)思いで温泉水なんかも勉強して患者、家族に紹介することがあります。そこで見つけたのが群馬県の山奥にある奈女沢(なめさわ)温泉、別名「釈迦の霊泉」であります。関越自動車道を北上して取材に行って参りました。水上インターチェンジを出て、細い山道に車を進めますとそこに二階建ての建物が見えて来ました。

奈女沢温泉(釈迦の霊泉)

釈迦の霊泉

  〒379-1303 群馬県利根郡みなかみ町上牧3768
  TEL 0278-72-3173 FAX 0278-72-5041

◇ 成分と効用効果

 天然温泉ですのでその成分、効用効果を示す決まりがあるのでしょう。他の温泉同様に覚え書きがあり、但し、クラスター値(水分子の大きさ)が59.5 Hzと世界最小レベルだそうです。

  アルカリ性単純温泉、pH9.4、25℃ 
  ナトリウム、炭酸イオン、メタケイ酸、ゲルマニウム
  ※クラスター値(水分子の大きさ)が59.5Hzと世界最小レベル

 看板に掲げた効用効果には驚きました。堂々と「悪性難病」、「末期癌」、「いろいろな癌」、「白血病」ですから、大したものです。

釈迦の霊泉効果

◇ 全国から寄せられた感謝状(抜粋)

 建物に入りますと、温泉そのものは古くてサウナもないシンプルな造りで、温め(ぬるめ)でありましたが、特徴的だったのはコップが置いてあり、温泉水を飲んでくださいと勧めていました。店主に自己紹介をしましたところ、手紙の束、全国から寄せられた感謝状を見せていただきました。いくつか紹介いたします。

福井県在住の主婦
 実は、私の夫が肝臓癌で余命1年との宣告を受けました。霊泉を飲むようになってから腫瘍が小さくなる兆しを見せ始め、最初は直径9cmのものが今では1.5〜2cmとなりました。

新潟県の男性
 あと一週間の命だと宣告されて苦しみもがいているところへ釈迦の霊泉を紹介され、体中に癌が回った末期癌から御神水の浴用と飲用で今は完治。TBSテレビの「そこが知りたい」で取り上げられた。感謝の気持ちで一杯です。

東京都の男性
 末期癌手術後、余命6ヶ月と医師より申されて3年が経過しました。飲泉を継続しております。


◇ 新潟県の男性の場合

 上で紹介しました新潟県の男性は、実は有名で、胃癌の膵浸潤と肝転移を伴い、大腸にも腫瘍があった模様で、新潟大学医学部で精密検査を行った後に、釈迦の霊泉のみの治療で完治したことが証明されたそうです。以下、HPを見つけましたのでそのまま添付いたします。

 *****

【TVでも紹介された末期ガンからの生還】

 新潟県長岡市の荒木一栄さん(75歳)。毎月車を運転して「釈迦の霊泉」にやって来る。その元気な姿には、14年前に末期ガンで「あと一週間の命」と宣告されたという病人の面影はどこにもない。
 「ガンで胃はすべて切除しました。すい臓や肝臓にも転移していて、大腸には梅干し大のガンが三ヶ所ありました。口も聞けず、体もろくに動かない状態でした。そして抗がん剤をやめてここに来たのです。すると、水を飲み、入浴を繰り返しているうちに、血の混ざったどす黒い便が大量に出ることがあって、次第に苦しみが嘘のように消えていきました。それから半月程湯治をし、毎日三升(5・4リットル)の御神水を飲みました。そのあとは御神水を飲みながら自宅療養。驚いたことに三ヶ月ほどで大腸がんはきれいになくなったのです。それから4年間は月に二回入浴に訪れ、御神水を飲み続けました。おかげさまですっかり健康な体に戻りました。」
 奇跡的な荒木さんの回復は、学会でも大きな話題となった。新潟大学では月二回のCT検査があり、さらに平成3年に前橋で開催されたガン研究者の全国大会で六人の医師によって検診が行われた。結果は、異常なし。ガンが完治した健康な身体であることが確認された。さらに、この臨床例はマスコミでも取り上げられ、TBSテレビで紹介される。

 *****


◇ 林 秀光 博士の説明

 釈迦の霊泉の抗腫瘍効果の機序に、専門家は以下を挙げています。

  ・ゲルマニウムによる血液酸素濃度上昇と酸素の活性化
  ・インターフェロン誘発による抗癌作用
  ・微小水分子の細胞への浸透、酵素活性の亢進

 特に3つめの微小水分子については医学博士である 林 秀光 氏と言う方が絶賛しており、以下のように紹介されておりました。

 *****

 医学博士林秀光氏は、あらゆる病気を解決するのは水だと言い切る。林博士は、1991年度第十四回「ニューヨーク国際発明EXPO」の金賞受賞者。このとき賞の対象となったのが、自ら提唱する「水制御学説」である。
 林博士は、かつて釈迦の霊泉を訪れている。北は北海道から沖縄まで常時100人以上の人たちが湯治のために滞在していることに関心をもったのだ。博士は、そこで見た病気治療の感謝状の多さに驚く。さっそく水を持ち帰った上で分析したところ、釈迦の霊泉は、クラスター(水分子集団)の小さな水であることが判明された。

 健康と長寿の鍵「青い鳥」を見つけるに至った!

 林博士は、その著書でこう記している。「ホモ・サピエンスが地球上に登場して二万年。人間は常に青い鳥、すなわち健康と長寿の鍵を探してきた。私はついに青い鳥を見つけるに至った。それはクラスター(水分子集団)の小さな水であったと言わざるを得ない」

 *****


 少し前、胃癌の肝転移が消失した症例について、メンタルトレーニングとヤクルトの効果があったのでは?、という文章を掲載しましたが、それらと似たような存在が釈迦の霊泉であります。認可を受けた保険診療ではありませんので、単独の治療法として導入することは出来ませんし、エビデンスに基づかない治療法を病院で保険診療の範囲内で患者に勧めること自体が推奨されない行為であります。

 「何かある!?」と思わせる存在

現状では釈迦の霊泉の有効性を科学的に証明することは不可能であり、つまり「非科学」の範疇となってしまいますが、もしかしたら、「何かある!?」と思わせる存在であります。
 
http://ja.wikipedia.org/wiki/玉川温泉_(秋田県)
http://ja.wikipedia.org/wiki/ルルド
http://kolbe-museum.com/?pid=36760110
http://www.shakanoreisen.com/index.html
http://www.shakanoreisen.com/kiji/100626.html